担当スカウトが語る山本由伸◆「芯の強さ」「謙虚な姿勢」に感服

2025年12月09日10時00分

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 米大リーグのワールドシリーズで日本人2人目の最優秀選手(MVP)に輝いたドジャースの山本由伸投手(27)。その右腕に早くから着目し、プロの世界に縁をつくったのが、当時オリックスの担当スカウトだった山口和男さん(51)=現編成部アマチュアスカウトグループ長=だ。今秋、日本中の野球ファンをくぎ付けにした山本の雄姿に「彼の今までやってきたことや日頃の成果が、そこに集約されたんだなと思う」としみじみと語る。山本との出会い、獲得までの経緯、プロ入り後に感じた強さ...。山口さんの視点で成長の過程を振り返ってもらった。(時事通信大阪支社編集部 堀川祐)

初見で感じた意識の高さ

 元投手の山口さんは広島県出身で、広島電機大から三菱自動車岡崎を経てドラフト1位で2000年にオリックス入団。剛腕投手として鳴らし、02年7月にはロッテ時代の伊良部秀輝投手に並ぶプロ野球最速記録(当時)の158キロをマークした。通算173試合に登板して、09年限りで現役を引退。10年から編成部のスカウトに転身した。科学やトレーニングの進化が著しい現代野球。「自分が現役の時と今とは野球そのものが全く別物だと考えている。しっかり勉強しないといけない」と誠実に仕事に向き合い、球団の発展に尽くしている。

 初めて山本の姿を見たのは16年2月。都城高(宮崎)2年生のブルペン投球に目を奪われた。「すごく意識が高いと感じた。何を意図して投げているか。全ての球で、その意図が見る側にも伝わってくるような練習をしていた」。並大抵の高校生投手でないことは一目瞭然だった。さらに3カ月後。山口さんに鮮烈な印象を残した試合があった。山本は宮崎日大との試合に先発し、わずか3安打、14奪三振で完封勝利を挙げた。マウンドでの立ち振る舞いから投げる球まで「心技体全てがそろっている」という評価を確固たるものにし、球団に対して強く獲得を推薦するようになった。

「ずばぬけていた」自己分析能力

  山口さんがスカウティングを行う上で重視する要素の一つが、選手の自己分析能力だ。例えば球団とプロ志望届を提出したドラフト候補選手との面談では、選手に自らの強みや課題を述べてもらう。そうすることで選手の思考力が浮かび上がる。「こちらの考え方と選手の自己分析能力が一致する場合は、成長の速度も速いと感じる」

 高校時代の山本は「過去の例を見ても、ずばぬけていた」と言い切る。当時は肘や下半身の張りなどの影響で、登板回避や予定より短いイニングで降板することが何度かあった。山口さんは体力面に課題を感じたものの、能力の高さに疑いの余地はなかった。推薦が実り、16年秋のドラフト会議で4位指名に成功。即戦力が優先だったチーム事情があった中、今となっては会心の指名だったと言える。

信念を貫き通す強さ

 驚くほどの速さで成長を遂げていったのは、ぶれない信念があったからだろう。オリックス1年目のシーズン終了後、大きな転換点を迎えた。オフの自主トレーニング期間でやり投げの練習法を取り入れ、大胆な腕の使い方をした投球フォームに変更した。今の山本をつくり上げた土台。当時、球団を含めた周囲は故障のリスクが高いとされる「アーム型」の投げ方だと指摘し、反対する声が大きかったという。逆風に折れてしまってもおかしくはないが、山本の決意が揺らぐことはなかった。山口さんは「本人もすごく頑固というか。自分が自信を持ってやろうとしていることに対して、その考えを貫き通せる強さは、今でもすごいと思う」と感服する。

 迎えた2年目のシーズン、18年は中継ぎで54試合に登板し、4勝2敗32ホールド、防御率2.89の活躍。先発に再転向した翌19年は最優秀防御率のタイトルを獲得した。21年からは無双状態だった。3年連続投手4冠(勝利、防御率、奪三振、勝率)、これも3年連続のMVPとベストナイン、さらに3年連続の沢村賞とゴールデングラブ賞。加えてノーヒットノーランが2度(22年6月、23年9月)―。一人だけ別次元にいたような、数々の金字塔を打ち立てた。高校3年時、入団仮契約の席で描いたという将来のビジョンは、山口さんの想像をはるかに超えるスピードで達成していった。

さらなるスケールに期待

 「感謝と謙虚さを必ず持ち続けること」。毎年入団してくる新人たちに、山口さんが伝えている言葉だ。結果を出せば、裏方など支えてくれた周りの人々への態度がおざなりになってしまう選手もいる。山本が日本球界のエースに登り詰め、大リーグで偉業を残せたのも、野球以外にも通じる人間性が大きかったと考えている。「今の由伸の対応力や、表に出る姿を見てもらうとそれは伝わると思う。あれだけ世界を代表する投手になっても、おごるところもない。謙虚な姿勢で野球に取り組んでるところは彼の最大の魅力だと思う」

 オリックス時代はもちろん、ドジャース移籍後も山本の投球を欠かさずチェックしている山口さん。先発陣に故障者が多かった中、一年間ローテーションを守り抜いたことには、特にすごみを感じているという。どれほど実績を重ねても、進化のためなら改良をいとわない姿を何度も見てきた。だからこそ、「まだ彼は変化するんだなとも思う。彼の中では(ワールドシリーズMVPなどが)ゴールだと思っていないだろうし、まだまだスケールの大きな投手になってくれる」と強く信じている。

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