『星霜の心理士』原作者マツキタツヤ (八ツ波樹) の復帰を犯罪心理学者が非難する理由
オタク的には今週はかなり激動だったと言っていいかもしれない。まず、小学館の運営するアプリ「マンガワン」で連載されていた『常人仮面』の作者・一路一が、以前性暴力加害によって有罪となった『堕天作戦』の作者・山本章一であることが明らかになった。
小学館が運営する漫画アプリ「マンガワン」編集部は27日、原作者の起用に問題があったとして、連載漫画「常人仮面」の配信と、単行本の出荷を停止したと公式サイトで発表した。
発表によると、原作者は2020年に逮捕、略式起訴され罰金刑を受けたことから、当時連載していた「堕天作戦」を中止した。しかし、編集部は22年に別名義で「常人仮面」の連載を始めたという。
これだけでも十分に問題だが、個人的に衝撃だったのは第二報の方だった。同じアプリで連載されていた『星霜の心理士』の原作者・マツキタツヤが、かつて少年ジャンプで連載されていた『アクタージュ』で原作を務めながら性加害によって有罪となり、作品も打ち切りに追い込んだ八ツ波樹であることが明らかになったのだ。
小学館が漫画アプリ「マンガワン」で連載「常人仮面」の配信を停止した問題で、10代女性への性加害で罰金刑を受けた原作者のペンネームを一路一に変えて起用していたことが、2日までに分かった。小学館は同日、「星霜の心理士」の原作者も強制わいせつ事件で有罪判決を受けていたと公式サイトで発表。第三者委員会を設置して調査を始めるという。
一路氏は10代女性への性加害により先月20日、札幌地裁で1100万円の賠償を命じられた。判決によると、一路氏は北海道の私立高校教員だった2020年、教え子だった女性への児童買春・児童ポルノ禁止法違反罪で略式起訴され、罰金刑を受けた。
小学館は別の名前で当時連載していた「堕天作戦」を中止したが、22年にペンネームを一路一に変えて「常人仮面」の連載を始めた。担当編集者は21年の和解協議にも関与し、事件の口外禁止などを盛り込んだ公正証書の作成を女性側に提案していた。
小学館などによると、マンガワンで連載中の「星霜の心理士」原作者の八ツ波樹氏は、路上で女子中学生の胸を触り20年に有罪判決を受け、当時週刊少年ジャンプで連載していた作品が打ち切りになった。マンガワン編集部は24年、その事実を把握した上で八ツ波樹にペンネームを変えて起用することを決めた。別の名前とした理由について、同社は「被害に遭われた方への配慮が最大の理由だった」としている。
『星霜の心理士』はつい先日、偶然書店で見かけて気になっていた作品だった。何なら買おうか迷っていたところだったのでこの衝撃はなおのこと大きい。心理学を題材とした作品は多くの場合その正確性にケチがつくが、今回は全く違う切り口からケチがついた格好だった。
本件についてはSNSで様々な主張が百出している。私の結論だけを先に述べれば、マツキタツヤの漫画原作者としての復帰は全く支持できない。カウンセリングという題材を選んだことが支持できない最たる理由である。
一路一 (山本章一) 事件の問題点
一路一 (山本章一) は何をしたのか?
本題に入る前に、大元の問題であった一路一 (山本章一) の行為について整理しておく。本件についても様々な意見が出ており、(主に自由戦士とアンフェの手によるものだが) 中には二次加害としか言いようのない駄文もまかり通っているためだ。
なお、今回の一連の事件、すなわち一路一 (山本章一) による性加害から名前を変更しての復帰までを仮称して一路一 (山本章一) 事件と呼ぶことにする。名前を隠してしれっと復帰しようした加害者サイドの思惑をくじき、その構造の問題を言い表すには彼の名前を誤魔化しなく表記すべきだと考えるためだ。
先に引用した報道によれば、一路一 (山本章一) は2020年、未成年の女性への性加害で児童買春・児童ポルノ禁止法違反罪で起訴・有罪判決を受けている。
原告は学校法人恭敬学園(北海道仁木町)が運営する通信制の「北海道芸術高校札幌サテライトキャンパス」の生徒だった女性で、2022年に提訴した。
判決によると、女性は男性の授業を受け、1年時に自動車内で体を触られ、卒業までにホテルなどで度々性的行為をさせられ、卒業後にPTSDを発症した。
本件において、この性加害の中身は極めて重要である。なぜなら、一路一 (山本章一) は当時私立高校の教員を務めており、被害者はその学校の女子生徒だった。教員という立場と権力に乗じ、弱い立場の生徒を搾取する行為だ。SNSでは同意があったという眉唾物の与太も流布されているが、仮に同意があったとして未成年かつ仕事の関係がある相手と性的な行為に及ぶことはまともな大人なら断じてあり得ない。
そして、その高校こそ北海道芸術高校札幌サテライトキャンパスである。詳細は報じられていないが、一路一 (山本章一) のキャリアを考えればイラストや漫画関係の授業を受け持っていたと考えられる。つまり、加害者は漫画家という自身のもうひとつの職務も利用して性加害を行っていた。
彼の逮捕と起訴を受け、マンガワンは『堕天作戦』の連載を中止する。だが、その理由は明確にされなかった。そして、ほとぼり冷め止まぬなか、ペンネームを変更するかたちで『常人仮面』の連載を始めた。
論点は社会復帰ではない
本件について、SNSでは「前科者の社会復帰を否定するのか」という主張もみられる。だが、そうした主張は全て論点を違えている。問題の構造を理解できない人間か性暴力を批判する者を叩きたいアンフェによるものなので、社会復帰を言い出した時点で無視してかまわない。
本件の論点は社会復帰ではない。誰も性犯罪者を含む有前科者の社会復帰は否定していない。問題は、二重の意味でその職務を性加害に利用した人間を、そのことを隠し、全く同じ職務に復帰させたことだ。
先に述べたように、一路一 (山本章一) は漫画家であるという立場を利用して性加害に及んだ。そう解釈して余りある状況だ。このような人物を再び漫画家として起用することは、児童への性加害に及んだ人間を再び小学校の教員として雇うに等しい。
これがおかしな話であることは誰の目にも明らかである。仮に小児性暴力の加害者が反省したので再び教員になりたいと主張しても、その反省を信じる者はあるまい。だが、特定の職業になるとこの常識が理解できなくなる人々がいる。表現の自由無罪とでもいうべきだろうか。
教師であることを利用した加害者が教師に復帰できなくても、漫画家であることを利用した加害者が漫画家に復帰できなくても、それは人権侵害ではない。いや、厳密には確かに彼らの人権を制約してはいるのだが、それは合理的かつ最低限度の制約というほかない。彼らは自身の行為によってその職業に就くことを危険視されたにすぎない。他の職業での社会復帰は全く妨げられていないのだから、有前科者の社会復帰の否定には当たらない。その社会復帰は彼らの思い描くものではないかもしれないが、それは本当の意味での自業自得なので受け入れるほかない。
マツキタツヤ (八ツ波樹) の何が問題か?
裁判ですら真剣な交際だったと主張した一路一 (山本章一) に比べると、一方でマツキタツヤ (八ツ波樹) の事例はある程度「マシ」に見えるかもしれない。彼の加害は路上で女子中学生の胸を触ったというものだが、少なくとも漫画家や教員であることに乗じたわけではない。また、出版は執行猶予があけてからであり、作品は自身がカウンセリングを受けたことがきっかけで執筆されたようだ。
こうみると、一路一 (山本章一) に比べればはるかに「マシ」かもしれない。
だが、ダメだ。
その理由を一言で言い表すなら以下のようになる。
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