核ごみ調査に動いた国 「手挙げ」進まず申し入れ、実現にはハードル
原発から出る「核のごみ」の最終処分場選びに、国が本格的に乗り出す。太平洋に浮かぶ孤島・南鳥島を候補の一つと見定めたが、実現には地元の同意が不可欠で、技術的にも高いハードルが立ちふさがる。
原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場の選定をめぐり、第1段階にあたる文献調査の対象地区に日本最東端の南鳥島(東京都小笠原村)が浮上した。政府は、北海道や佐賀県の3町村での調査の進展が見通せないなか、人口密集地から離れた離島に活路を見いだした形だ。だが、処分場の建設に適した地層があるかは不透明で、長距離の輸送などの課題もある。
「地域任せにせず、国の責任で地域に協力をお願いしていく」
赤沢亮正経済産業相は3日朝の会見で、南鳥島がある東京都小笠原村に「文献調査」を申し入れることについて、こう語った。処分場の選定手続きで国が前面に出るとの姿勢を強調したものだ。
文献調査は三つある選定プロセスの第1段階にあたり、資料から火山や活断層の記録を調べる。これまでに北海道の寿都(すっつ)町と神恵内(かもえない)村、佐賀県玄海町の3町村が受け入れた。小笠原村も加われば、4例目となる。
民間人が住まない南鳥島 有望地としてピンポイント指定
調査の開始にあたっては、自治体が手を挙げるか、国からの申し入れを自治体が受諾する二つの方式がある。ただ、国の要請を受け入れた神恵内村と玄海町では、事前に町村議会が調査の受け入れを求める請願を採択していた。一方、小笠原村では議会での議決を待たず、国が申し入れに踏み切った。経産省の担当者は「国の責任で地域に協力をお願いする取り組みの一環だ」と説明する。首長らに負担を与えない狙いがあるとみられる。
南鳥島という具体的な地域を調査地区に指定したのも初めてだ。これまでの3町村では自治体全域を調査の対象としていた。経産省は、小笠原村のほかの島は火山島や世界遺産が含まれるため除外したと説明したが、全域が国有地で民間人が住んでいない南鳥島を有望地として国がピンポイントで指定した形だ。
背景には、処分場の選定プロセスの行き詰まりへの焦りがある。国は2000年に核のごみの「地層処分」を定めた最終処分法を制定し、02年から自治体の公募を始めた。だが、文献調査を実施できたのは3町村のみ。北海道の2町村では概要調査の候補地があるとの報告結果をまとめたが、北海道知事は核のごみを「受け入れがたい」とした条例を理由に概要調査への移行に反対。原発が立地する玄海町も、佐賀県知事が「新たな負担を受け入れる考えはない」と処分場の建設に反対の姿勢を示す。
政府は海外の事例をもとに、10カ所ほどの候補から1カ所に絞っていきたい考えだが、応募は一向に増えず、全国の原発立地自治体などから「手挙げを待っているだけでは限界がある」「国が適地を示すべきだ」などの声が上がっていた。
経産省はこうした声を受けて、今年1月、全国の都道府県知事に「国がさらに一歩前に出る」と文書で協力を求めた。だが、南鳥島も地質などの調査の結果、処分場を建設できると判定されるかはわからない。経産省幹部は「地下深部の地質情報はなかなか既存の文献ではわからない。調査地点を増やすことが必要だ。原発を利用する以上、最終処分の問題は必ず解決しなければならない」と語る。
寿都町の片岡春雄町長は3日、コメントを発表し、「調査地点の選定に向けた取り組みとして、国主導による初の試みであり、(核のごみの処分という)課題解決に向けた確かな一歩ととらえている」とした。片岡氏は調査地点が増え、核のごみの処分場の受け入れを全国的な議論にする必要があると訴えてきた。
佐賀県玄海町の脇山伸太郎町長も3日、朝日新聞の取材に対し「(処分場選定で)国が前面に出るべきだと言ってきたが、積極的に動いており評価できる」と述べた。脇山氏はこれまで、調査受け入れを決断する市町村長の負担が大きいことを問題視してきた。
南鳥島とは?地質学的に安定、以前から推す声も
南鳥島は、地震や火山活動が活発な日本のなかで、地質学的に安定している特異な島だ。太平洋プレートの上に載り、沈み込む場所から遠いためで、以前から適地として取りざたされてきた。
「南鳥島を含む海域全体が、地震や火山活動がない安定した場所。一般の住民がいないので社会的な問題が生じにくい」。南鳥島での処分を提唱してきた東海大海洋研究所の平朝彦所長(地質学)は、議論の俎上(そじょう)に載ったことを歓迎する。
南鳥島は、東京都心から約1950キロ離れ、小笠原村役場がある父島からも1200キロほどの距離がある。
古い時代の火山活動でできた島で、太平洋プレートとともに西に移動してきた。最新の活動は数千万年前とみられ、陸地部分はサンゴ礁が形作った平らな土地が広がる。
こうしたプレートの中間部分は、地震活動や火山活動が静かな場所だ。プレートが西へ進む速度は年間8センチほど。核のごみを閉じ込める必要がある10万年が過ぎても8キロしか進まず、プレートが沈み込んで活発な場所からは遠いままだ。
核のごみ処分をめぐっては、地球科学の専門家有志が2023年に「日本に適地はない」とする声明を発表するなど、地震や火山への懸念が長年論議になってきた。調査の受け入れをめぐり、住民の分断も生じてきた。
「南鳥島周辺なら純粋に科学技術の問題として処分法を考えられる」と平さんは言う。すぐに実現するのは難しくても、この場所に応じた技術を検討していくべきだという。
「好ましい」地域の一つ
一方、経済産業省は、安定した場所だから今回の申し入れをしたわけではないとの立場をとる。
経産省は、17年公表の「科学的特性マップ」で日本列島の広範囲を「好ましい特性」の可能性がある地域に塗り分け、調査で見極める方針を取ってきた。
南鳥島もあくまで「好ましい」地域の一つで、社会的な条件も整ったためと説明する。
課題もある。距離の遠さは輸送面で不利で、経路が長い分だけ事故やテロのリスクも高まる。
処分場の地上施設の目安は1~2平方キロ、地下施設は6~10平方キロとされるのに対し、島の面積は1.5平方キロほど。周辺は水深6千メートルほどの深海が広がる。掘削の技術や残土置き場、そのコストも懸念材料になる。
南鳥島を起点とする排他的経済水域(EEZ)は約43万平方キロメートルに及び、日本の国土面積を上回る。近年は周辺海域の海底でレアアース(希土類)を含む「レアアース泥」の存在が確認されたことでも注目を集めた。
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