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第1回旧統一教会「ここからは戦争だ」 自民党との「蜜月」が終焉迎えた日

 東京都渋谷区の高級住宅街、松濤(しょうとう)地区。その一角にある世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の本部で2022年7月8日、教団友好団体「国際勝共連合」の幹部らが顔をそろえていた。

 参院選投開票の2日前。比例区候補で、教団が支援していた自民党の井上義行氏のラストスパートに向けた打ち合わせだったという。過去に安倍晋三元首相の秘書官も務めていた井上氏は、19年の参院選で落選。再起をかけていた。

 その部屋に、教団職員が飛び込んできた。「安倍元総理が撃たれた」。打ち合わせは止まり、参加者はテレビ画面を前に言葉を失った。

 この事件を機に教団が解散に至ることになるとは、幹部らは誰も予想できていなかった。

銃撃事件から解散決定まで

東京高裁が世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に解散を命じ、国内で60年あまり活動してきた教団の精算手続きが始まります。安倍晋三元首相への銃撃事件から1335日。教団関係者らへの取材で、教団内部の変転に迫ります。

奈良へ急行、幹部が見た光景は

 事件時、教団幹部の一人は近くの店で昼食中だった。テレビのニュース速報に手が止まった。「えっ」。カレーをかき込み、本部に駆け戻った。

 この幹部は、教団の田中富広会長の指示で即日、新幹線で事件現場の奈良に入った。この日の午前に教団の奈良教会では、参院選奈良選挙区の自民党公認候補、佐藤啓氏(現官房副長官)の応援集会が開かれ、佐藤氏の妻が出席していた。

 「あれ、徹也君じゃない?」。事件が報じられてしばらくすると、山上徹也被告(45)や母親を知る奈良の信者からは、そんな声が上がったという。母親は教団信者だ。

 警察やマスコミの対応に、この幹部は追われることになった。右翼団体の街宣車が教団の教会に来て、教会を一時閉鎖した。手配して山上被告の母親と同じホテルに泊まった。マスコミを避けるため、ホテルを移ることもあったという。

 事件直後から、山上被告の母親が教団に高額の献金をしていたことを指摘する報道が出始めた。

事件3日後の会見「これで落ち着くはず」

 田中会長はこの頃、教団本部で一部の幹部に伝えた。「記者会見を開く」。高額献金の情報の拡散を止め、信者の動揺を抑える狙いだった。

 会場には都内の高級ホテルを選んだ。教団が長年使い、合同結婚式を開催してきた会場。会見は事件3日後の午後4時になったが、それは最速でこの会場が予約できた時だった。

 会見で田中会長は、被告の母親が信者であると明言し、献金の事実も認めた。別の教団幹部は思ったという。「これでいったんは騒ぎは落ち着くはず」

 もくろみは外れた。事件と高額献金の関係を巡る報道は増え、各地の宗教2世が口を開き、被害を訴え始めた。

 事件から1週間ほど経つと、教団と政治との関係にも注目が集まった。

 自民党を中心とした政治家と教団との関係を示す過去の写真や、政治家が参加したイベントが次々に明るみに出た。高額献金問題を抱える教団に、政治がお墨付きを与えていたとの批判が高まっていった。

 「一時的に解散しましょうか」。教団友好団体の幹部は当時、自民党議員に提案をしたという。友好団体と自民党議員らでつくった議連「日本・世界平和議員連合懇談会」のことだった。解散を持ちかけた幹部に、この議員は言ったという。「そのうち静かになる。解散までしなくてもいい」

事件51日後の「関係断絶」宣言

 だが、事件から54日後の8月31日。当時の岸田文雄首相(自民党総裁)が記者会見で、党と教団との「関係断絶」を宣言した。勝共連合の事務所(東京・新宿)でそのニュースを目の当たりにした幹部らは、怒りに震えたという。

 「一方的すぎる」。勝共連合幹部は当時の心境を打ち明ける。「政策をごり押ししたこともない。自民党の政策と考えが近いから支援してきただけなのに」

 議連は結局、解散した。勝共連合幹部が自民議員に送ったLINEに、返信はなくなった。教団が長年支援してきた議員たちは「知らなかった」「関係を見直す」と公言した。

 別の見方をする教団幹部もいる。この時期、この幹部のもとには、「関係を絶つ」と公言していた複数の政治家から、水面下でメッセージが届いていたという。「今はそう言うしかない」

 ほとぼりが冷めれば、再び「蜜月」の関係に戻れるのでは。そんな教団内の淡い期待をかき消したのは、10月19日の岸田首相の国会答弁だった。宗教法人に解散を命じる要件として、「民法の不法行為も入りうる」との政府見解を示した。

 過去に解散命令を受けた宗教団体は、いずれも刑事罰を科されたオウム真理教と明覚寺のみ。民法の不法行為をもとに解散させられた前例はなかった。教団として刑事罰を受けたことがないことは、教団関係者の支えだった。

「首相はルビコン川を渡った」

 答弁直後、教団本部最上階の6階の一室に、田中会長や顧問弁護士、幹部ら十数人が集まった。

 「岸田首相はルビコン川を渡った」。幹部の一人が言った。引き返せない一線を越えたことを意味した。

 田中会長は覚悟を決めたように短く言った。

 「ここからは戦争です」

連載の2回目では、政治や司法の動きに揺れ動く教団の姿を描きます。

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