部下代行業としてのコンサルビジネス

AIによってコンサルの業務は消滅するといった説が真面目に取り上げられるようになってきた。そこでコンサルビジネスの真の付加価値はなにか考察し、ありきたりなテーマだがAIによってどのような影響があるのか書いてみよう。

総合コンサルは身も蓋もない言い方をすると、①1年以上の中長期で ②現場社員と同じように働き(社員代替・客先常駐) ③高単価(150万円〜300万円/月)をチャージする というモデルになっている。
かなりの高額ではあるが、これに見合った付加価値を生み出すコンサルは10人に1人いるかいないかだろう。ファームのボリュームゾーンであり利益の源泉となるのは「実行支援」とか「PMO」の名の下にクライアント企業の組織図に忠実に組み込まれるコンサルたちだ。彼らは大企業の部課長層の部下のように振る舞うことで、部下であることそれ自体を提供価値にしている

部下代行が必要となる背景

部下機能を社外に求めるのは第一にJTC企業の人材調達力が近年弱まっているためだ。前回の記事で書いたようにJTC企業では20~30代人材に対する構造的なミスプライスが発生しており、報酬面でボトルネックが存在する。

もう一つの理由にJTC企業の管理職にとって部下は扱いにくい存在と化していることがある。コンプライアンスとか人的資本経営のようなテーマが重視されたことで、部下は命令して評価する対象から、話を聞いてやる必要があって(360度評価によって)評価を下される可能性がある対象に変わっている。
だからリモートなのにチャットの返信が遅いとか、「犬の世話があるので会議抜けます」みたいなことを言う人を注意しづらい空気感がある。

その点、コンサルは使いやすい。多少雑に指示出ししたところで全く問題はないし、労務トラブルに巻き込まれて監督責任を問われるリスクもほぼない。酒を飲みたいときは一緒に飲みに行ってくれる。上司として奢るどころか、割り勘か運が良ければコンサル側の接待費になったりもする・・・。

本来、大企業の課長が持つ権力はかなり大きい。名目上の決裁権は小さくとも、10人くらいの業務委託を使ってるなら年間3億円ぐらいの影響力を持っている。課長はその影響力を人の交代とか単価の増減という形でコンサルに行使することで、上司としてのアイデンティティーを回復している。

職場環境で珍しくなった、「機敏で気が利き、仕事に一生懸命な部下」として振る舞うことで、部下を代行すると同時に上司を接待するのがこの手の総合コンサルの提供価値だ。

ある新興の上場コンサルはファームの強みを「お客様から好かれること」「スキルはいらない」「愛嬌、素直さ、しつこさが大事」と言い切っているが、なんら飾り立てることなく部下代行業をやり切っていると感心するしかない。

プロフェッショナルファームのジレンマ

こういう話をするとプロ意識を持って働くコンサルから「こんなものは邪道だ」と反応される。邪道か王道かは置いておくがプロフェッショナルファームは特有のジレンマが存在する。
部下代行業を邪道だと考えるプロフェッショナルファームは課題解決型のプロジェクト推進を志向し、プロジェクトの課題と解決方法を示したうえでマイルストーンで仕事を進めようとする(本来あるべき仕事の姿だと私も思う)。
しかしこのやり方は急激に経営難易度が上がる。

まず、実際に課題を解決する必要が出てくる。そう言って参画するから当然なのだが、そのためにはそれなりの能力を持った人間を用意する必要がある。したがって部下を代行する以上に必要人材のコストがかかる。
次に課題がなくなったら退場しなければならない。これも極めて健全なことなのだが、経営的に言うと新たな営業コストが発生してしまう。
最後に、最も致命的なのは課題を解決するのにいくらかかったのか、コストパフォーマンスで測られてしまう点だ。部下代行と違って提供価値は課題解決に基づく経済価値になる。

したがってプロフェッショナルファームを志向するとコンサルビジネスの難易度は途端に増加してしまうのだ。

AIによる影響の進展

冒頭に触れたAIによる影響に話を進めると、AIによる影響が直撃するのは皮肉なことにプロフェッショナルファームのほうではないかと考えている。

コスト削減とか業法対応、セキュリティ、海外支援みたいな専門性に基づいて課題を解決するタイプのコンサルは、AIが課題を解決できるようになった瞬間に代替されうる。

一方で部下代行業という業務は課長がいなくならない限り、絶対になくならない。なぜなら最大の提供価値は上司と精神的につながっていることでありAIの生産性がいくら高かろうが関係ない。
「AIってすごいですね」と一緒に感動してAIを褒めるのが次の仕事になるだろう。

ただ、業務がなくならないことと総合コンサル市況に影響がないことは少し異なる。
部下代行業と化したコンサル(それがボリュームゾーンを占めている)がAIで代替されるという予測は全く的外れだというのは述べた。しかし世の中全体として「コンサル業界はAIで打撃を食らう」という認識が浸透し始めていることは別の形で実影響をもたらすかもしれない。

まずコンサル業界の中で危機意識を持った層から事業会社に回帰する動きが広がっていく。私の周囲でも目端の利く人間からポストコンサルのキャリアを考え始めている。
これだけAI脅威論が取り沙汰されると「労働力しか持たないコンサルより、生産設備を持った大企業のほうが安泰では?」と考える人々も増える(実際に正しいと思う)。したがってJTC→コンサルへの移動も以前よりは減る。
これは短期的にはコンサル業界のコンサルたちにはプラスになるかもしれない。先ほどいった理由で需要への影響が直ちにないのに供給へのマイナス影響が出るからだ。コンサルの賃金相場は引き続き上がっていく可能性がある

しかし中期以降は話が変わってくる。コンサル業界の人材は割高になっていくのに対し、これまでコンサルに流出していた層がJTC企業に留まったり、戻ったりすることでJTC企業が部下代行に頼らず本当の部下を手にする可能性が増えるからだ。

加えるとAI以外にも部下代行業の需要減退となりうるイベントはいくつかある。労働規制緩和とか、大企業の賃上げ圧力とかだが、長くなるのでこれはまた別の機会にしよう。

AIが部下代行業であるコンサルが担う業務自体を代替することはあり得ず、大企業側の意思決定が変わったり人材動向が変わることで需要が変化するのがありうるところだろう。


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部下代行業としてのコンサルビジネス|琴畑尚哉
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