山本由伸の凄さを説明するにはそこそこの文章量が要る

日本時間で3月18日・19日に開催された東京でのMLB開幕シリーズは、主催のシカゴ・カブスに今永昇太と鈴木誠也、対するロサンゼルス・ドジャースからは大谷翔平・山本由伸・佐々木朗希と、計5人の日本人選手がロースターに名を連ねていました。
かくいうぼくも巨人・阪神とのプレシーズンマッチを含めて「メジャーリーグ」を堪能した1週間を過ごしたわけですが、まあそのMLB報道のほとんどは大谷翔平に割かれていました。この1週間に限ったことではないですが。

メディアと大谷の関係性というか、報道の在り方に関しては野球ファンですら一部は飽いて反発している印象を受けますが、「ゴリ押し」と言われて否定できないほどの量を供給しているのでそれ自体はさもありなんでしょう。
とは言え大谷があそこまでフィーチャーされるにはされるだけの理由が当然あるので、そこは僻んでも拗ねてもしょうがないだろうとも思います。だって世界最高峰のトップリーグで君臨し、1世紀前の伝説的な選手が比較対象になりルールまで変えた男を取り上げないわけにはいかないじゃない。

ただ今回は大谷について比較論の対象にはしますが、メインでは取り扱いません。
MLB関連での報道はほぼほぼ大谷で占められていて、「メディアの怠慢」と言える部分も少なからずあります。大谷がそれだけひとりで巨大なコンテンツになっているのはありますが、一般的なニュースでもスポーツメインの枠でも「野球を取り上げれば8~9割大谷翔平」なのはちょっと思うところがあるんですよね。さすがにそこまで大谷大谷されると食傷気味になる。
その上で他のMLB在籍選手を取り扱う量が相対的に減っていくことで生まれる不満というのがあって、その筆頭がタイトルにある山本由伸だとぼくは受け取っています。
以下はあくまでぼくの雑感です。話半分に聞いてもらえればそれが一番ありがたいですが、東京ヤクルトスワローズのファンとして2021年・2022年と日本シリーズで激戦を繰り広げたオリックス・バファローズの絶対的エースがこの先も報道から埋もれていくのはやはり惜しいので、いくらか援護射撃をしておきましょう。

山本由伸が「あまりフィーチャーされない理由」とはなんだろうか?

さすがにプロ野球のファンを自称していて山本由伸を知らないのなら、その人は間違いなくモグリと言っていいんです。日本では3年連続投手四冠を達成した選手を捕まえて「誰?」となったら「ふざけてんのか」と言い切っていいクラスの選手が山本ですから。
しかし対象を、例えば「国民全体」まで広げるとイマイチ知名度が高くないのも山本だと思います。これを「オリックス出身だから」という人もいますが、ぼくはそれには懐疑的です。NPB所属球団の人気度で言うなら、そこは言ってしまうと語弊があるけど佐々木朗希にもあてはまります。
確かに例えば巨人や阪神でキャリアをスタートさせていれば取り上げられ方も変わっていたかも知れませんが、そこは報道以前に野球に関するifの問題でしょう。山本由伸はオリックスに入団したからこそあそこまでの投手になったわけで、「他球団でも同じように育ったか」と言われればその保証はないし、検証のしようもないんですよね。
その上で、知名度や報道量で同じドジャースの選手でも大谷・佐々木と比較してフィーチャーされにくい理由を、ぼくが挙げるとすれば以下の3つになります。

  • 高校時代に誰もが知るスター選手ではなかった

  • 投手

  • 選手としての凄さを一言(一単語)で説明できない

一つ目に関しては、恐らく当時の山本に注目した人がいるとすれば、それはプロ野球と高校野球の両方に造詣や知識があった人。当然高卒でプロ入りするくらいなので現場からの評価は高かったですが、とは言え野球ファンに限っても知名度は「好投手のひとり」くらいに留まっていたはずです。

翻って、大谷と佐々木はその怪物的なスペックで高校時代からスポーツニュースの枠に留まらない報道と注目を集めていた選手。日本の高校野球は言ってしまえばアマチュアスポーツ・部活動ですが、その注目度は下手すると他のプロスポーツよりも高く、そこで例えば高校生史上初の最速160キロをマークした大谷、165キロをマークした佐々木はそれだけでセンセーショナルに報道され、注目を集めていました
これを一言で表すのなら、「甲子園のスター」。古くは三沢・太田幸司や早実・荒木大輔、PL学園の桑田真澄・清原和博に星稜・松井秀喜、横浜・松坂大輔に早実・斎藤佑樹や駒大苫小牧・田中将大などと連なる系譜です。ここで挙げた選手たちは周知の通り全員プロ入りしていますが、プロでの実績となると出色の成績を残せなかった選手もいます。斎藤に関しては2010年代の選手なので特に記憶を辿りやすいと思いますが、成績に関わらず何かしら注目されていたくらいの感覚は持っておられた方も多いのではないでしょうか。
佐々木は甲子園出場経験がないので厳密に「甲子園のスター」とは言えないでしょうが、出場していないのにそのスペックと「甲子園がかかった県大会決勝戦を将来のために登板回避した」ことに対する反応など、これまた大きな注目を集めた選手なのも記憶されている方は多いでしょう。これらの肩書きが、残念ながら山本にはありません。

二つ目に関してはある種理不尽なんですが、しかし特に野球ファンでない人が報道などで触れる量としては無視できない問題です。
現代野球において、投手は1シーズン全ての試合に出ることはありません。これが「報道」において何を意味するかというと、「野手は出場してくれれば毎日報道できる」のに対し、「投手はよくて1週間に1、2回」だということ。
とは言えドジャースに関して言えば大谷も佐々木も投手なので、山本と条件は一致します。しかし大谷は説明不要の「二刀流」でプレーしているので、投手として登板機会が無くても打者として出場し、その結果を報道することは出来る。その差はかなり大きいのです。

野球は案外「映像を見せれば凄さを説明しやすい」スポーツだが…………。

そして三つ目。これが個人的に一番キモとなる部分です。

大谷は「二刀流」。佐々木は「165km」。この一単語で、野球を全く知らない人でもなければそのふたりの「凄さ」は多少なりとも理解してもらえるんです。二刀流に関してはこれまでの報道や注目度の結果もあるとは思いますが。
しかし山本にはそれがない。山本を一単語で表すなら「エース」「本格派」など、当然形容できるだけの単語そのものはあります。だけどそれを、例えば野球を知らない人に向かって説明できるかと言えば、大谷・佐々木より説明する量はどうしても増えるはずです。

野球というスポーツはルールこそ複雑で煩雑ですが、ワンプレーを切り取れば「凄さ」というのは案外理解されやすいと思っています。
時速165kmという速さ。ベースの幅いっぱいに曲がる変化球。飛距離150mの放物線を描くホームラン。技術云々を語る前にこれらはインパクトが絶大なんです。あともうひとつ言うと、守備のファインプレーもダイナミックな動きでやっていることの凄さと難しさはわりかし理解してもらえるでしょう。走塁を取り上げるなら、足の速さはスポーツの枠ですらなく理解しやすい範疇にあるはずです。

とは言え、山本に関してもホームランこそ打てないにしても映像を見せれば凄さはある程度理解してもらえる。ストレートの最速は160キロ近くあるし、変化球のキレも抜群。それはそれでいいんです。
ただ山本の凄さを説明するなら当然「技術」にも触れる必要があって(投手の技術に関しては大谷より巧緻さの度合いが多いと思うし、佐々木とは比べるまでもない)、この「技術」を説明するにはする側の技量も相応に要求されます。これが難しい。
例えばコントロールを説明するのに、現代野球では単にストライクゾーンに放るだけではなく「狙ったコースに投げ込む能力=コマンド」が重視されます。コマンドまで含めて例えば目の前の野球をよく知らない人に説明してくださいと言われて、理解してもらえるように上手く説明できる自信がありますか? という話です。ぼくにはない。

あと山本の場合、変化球のウイニングショットは縦方向の変化となるスプリットです。
投じられたボールの軌道は重力の関係で直線を描くわけではない、というのを説明するのにも難儀する人は多いでしょう(ここは野球と言うより物理学の範疇だが)。スプリット、もう少し言えばフォークボールまで含めて「落ちる球」を映像で見たとして、マンガのように真っすぐの軌道からストーン! と角度をつけて落ちる軌道は物理的にはあり得ず、垂直方向から見れば軌道は間違いなく曲線です。打者が面白いように空振りしてしまう様子まで見せれば威力は伝わるにしても、投球本位だとそこは例えば横方向へ分かりやすく動くスイーパーに比べると、インパクトに欠ける部分は否めないと思っています。

ちょっと否定的な言及が多くなりましたが、ただ山本は映像を見さえすればその凄さがすぐ伝わるレベルの投手なのは疑いようのない事実です。もし野球に興味を持って山本のピッチングを見て、その凄さを理屈づけて理解できていれば「初心者マーク」は取れているはずです。

大勢を動かすのなら、結局メディアに頑張ってもらわないといけないので。

ちなみに投手としての力量だけで「大谷は投手四冠取ったことないだろ」と言われたら、ぼくは「じゃあ山本も50-50やれ、やったら注目される」と返します。先述したけど大谷が嫌というほど報道されるには相応の理由があるので(忘れがちだけど大谷に注目しているのはMLB本丸がそう)、そこは僻んでも拗ねてもしょうがないんです。

とは言えネット・SNSで個人の範疇で取り上げるには限度があるので、そこはどうしてもオールド・ネット問わずメディアに頑張ってもらう必要はある。
確かに大谷に触れれば視聴率やアクセス数は稼げるのでしょうが(実際18日・19日の試合で視聴率はかなり稼いだらしいが)、例えばNPBを向いている野球ファンが特に「大谷だけじゃなくNPBも扱え」というのにも相応の理由と正当性があります。身も蓋もないことを言ってしまえば、大谷の主戦場は日本国内ではないからです。日本のメディアが何も考えずにアメリカの大谷にしっぽを振っていていいのかと。
ただそうだとしても、今現在MLBに在籍している日本人選手は総じて活躍しています。「打者・大谷翔平」の煽りを食っていると言えば鈴木誠也がまさにそうで、鈴木とて残した実績は既にイチロー・松井の次くらいには来ています。鈴木のいるカブスであれば今永昇太も1年目から大活躍したし、大谷の母校・花巻東の先輩であれば今季エンゼルスに移籍した菊池雄星も先発として確かな実績を残しています。2023年のWBCで投手陣をまとめ上げ世界一奪還に貢献したパドレス・ダルビッシュ有も語るには欠かせないですし、取り上げる材料はいくらでもあると思うんです。

スポーツ全体で言えば恐らく野球が一番取り上げられていると思うので、そこは野球ファンとしては安泰ではないけどもありがたい部分ではある。他スポーツのファンに贔屓の引き倒しと攻撃されることもありますが、実際それについては言葉さえ選んでくれればぼくは肯定的です。
現状のマスメディアを見て感じ取れるのは、「とりあえず野球『というより』大谷を取り上げておけばいいや」みたいなやる気のない姿勢なんですよね。スポーツに限った話ではないですけど、ネットメディアの台頭を受けてどうこう思うなら、まず自分たちが襟を正して芯を一本通しましょうよと。

山本に話を戻すなら、確かにドジャースと言う枠組みなら大谷がいるし、MVPトリオのムーキー・ベッツやフレディ・フリーマンにも注目が吸い寄せられる。あと山本は昨季フルシーズン投げられてはいないので、今季はまず1年を通して投げることが大事です。
その上でぶっちゃけて言うなら山本に限らないけど、MLBを取り上げるのであれば大谷一辺倒ではなく、活躍した日本人選手がいれば都度フィーチャーして欲しいなとは思います。マスメディアが野球とズブズブで既得権益やそれに似たようなものがあって、その構図を維持したい・育てたいと思うならそれはそれであまり何も言う気はないので(野球好きとしては言うて悪い話ではないから)、だったら大谷だけでなく他の選手も、もうちょっと言えば国内のNPBにも目を向けて取り上げて欲しいですね。

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山本由伸の凄さを説明するにはそこそこの文章量が要る|野村中務少輔(のむらなかつかさのしょう)
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