185cm限定英雄シェアハウス
赤騎弓&槍弓&エドエミの恋の鞘当てシェアハウス、心が海のように広い人向けです/3人の大英雄に求婚されたアーチャーがいつものように断っていたら情熱は場外乱闘に発展し、このままだと三英雄バトルロワイヤルが始まってしまう…!となった時、時代にとらわれない男( )アキレウスから口に馴染んだアイルランド料理も、ワイルドなギリシャ料理も、繊細なフランス料理も選べないなら日替わりで食えばいいじゃないかと提案されあれよあれよという間にシェアハウス…的な話です。考えるな!!感じるんだ!!/登場人物 クーフーリン→エミヤが好き、運命の人だと思ってる アキレウス→エミヤが好き、惚れたら娶るのは当たり前 エドモン→エミヤが好き、煉獄の炎から必ずや奪ってみせる エミヤ→3人の英雄が自分のことを本当に好きだなんて信じられないし信じたくない、最近の趣味は燻製
- 629
- 565
- 13,209
ジュウと油の跳ねる音、ベーコンの塩気が混じった香りが鼻をくすぐる。窓からはカーテンに遮られて柔らかさのみを残した陽光が差し込み、リビングの温度をゆっくり上げていく。
そんな世の幸せを詰め込んだような空間で堪らず息をついたアキレウスは、腕の中に閉じ込めた男の肩に額をつけて手元のフライパンの中身を覗き込んだ。
褐色の手が扱う木ベラはまるで手の延長のように動いている。厚めに切られたベーコンを焦がさぬように、されど一緒に入れた卵は絶妙な加減のスクランブル。今日の朝食も美味そうだと口の中に溜まった唾液を飲んだアキレウスはべったりとくっついた相手、アーチャーエミヤを横目で伺った。
「美味そうな匂いだな」
「ダメだぞ」
「まだ何も言ってないだろ!…いい匂いだな〜」
アキレウスが何を言うか予想していたエミヤは、彼が口を開くや否や取り付く島もなく首を振った。早々に鼻面を打たれたアキレウスは苦しい言い訳を口にするが、エミヤの涼しい横顔に旗色の悪さを感じて唇を尖らせる。
それでも未練がましくフライパンに視線を注ぐ大英雄に思わず吹き出したエミヤは、背中に引っ付いたアキレウスを肘で押して少し離れさせた。そして器用に木ベラでベーコンを切り、一口分の肉を完成が待ちきれないアキレウスに差し出す。
「仕方の無い男だな、君は。少しだけだぞ」
「おう!んんっめぇ〜!」
木ベラに乗せられたベーコンを見て、瞬間パァッと顔を輝かせたアキレウスは大きく口を開いてそれにかぶりつく。
肉厚に切られたベーコンはそれだけでもジューシーであるのに、さらに鼻を燻製の香ばしい匂いがくすぐると来た。市販のものとは一線を画する旨みの複合さはすぐに飲み込んでしまうのが惜しくて、アキレウスは一口分の肉を小さくなるまで咀嚼した。
輝くアキレウスの笑顔から放たれる不可視の星にぱたぱちと頬を打たれたアーチャーは苦笑し、コンロの火を弱めるとキッチンペーパーに手を伸ばす。
「今日出来上がった自家製ベーコンだ、口に合ってよかった。唇が汚れているぞ、アキレウス。こちらに…」
ベーコンの油でテカテカとした唇を綺麗にしようと、キッチンペーパーで拭おうとしたアーチャーの手は武器を握りなれた手で絡み取られる。無骨な手は硬くてたくましく、目を瞬かせたアーチャーをその隙に抱き寄せたアキレウスは、今度こそ正面から腕に閉じ込めた愛しい者を見つめた。
琥珀色の瞳に射抜かれ、つい呼吸も止まるチョコレート色の唇へアキレウスはふっと微笑みを浮かべる。そして自分よりも上背のある憎らしいアーチャーに小首をかしげると、幾万の花の蜜も叶わないほどの誘いを口にする。
「拭くのはそいつじゃなくて別のものがいいんだが、アーチャー」
「っ、アキレ…ッ」
爽やかな朝だろうが、星々の幕が降りた夜だろうが関係ない。自分が愛でたいと思った瞬間こそ閨の時であると言わんばかりの堂々としたアキレウスに腰を抱かれ、近づく唇に瞳を閉じたその時。
「おーう、帰ったぜ」
「ランサー!」
リビングの扉が開く音と同時に入ってきたランサーを見て、アーチャーは慌ててアキレウスから離れた。蜜月を邪魔されたアキレウスはあからさまに眉間にシワを刻んでいるが、ランニングでかいた汗を拭うクーフーリンは素知らぬ顔だ。
気の弱いものなら動けなくなるような敵意もさらりと受け流したランサーは、解かれたエプロンのヒモをわたわたと結び直すアーチャーへビニール袋を差し出した。
「いい匂いだな、アーチャー。頼まれた物はこいつで良かったか?」
「あ、ああ、ありがとうランサー。おつかいを頼んで悪かったな」
受け取った袋の中身を見ればそこにはクーフーリンがランニングに出る際、頼んだ品物が入っていた。さらに銘柄までもが普段使っているアーチャーお気に入りのもの、ただおつかいを頼んだだけでは他の住人にはできない絆の深さを感じたアーチャーは見慣れた太陽のような笑顔にはにかむ。
「いいってことよ!ここら辺をただ走るだけじゃ味気ないからな、いつでも頼んでくれ。ま、どっかのお荷物にしかならんガキはおつかいも出来んだろうがな」
見え見えの挑発を含んで牽制したランサーがお手つきをしたアキレウスへチラッと視線を向けた。
何気なくともそこは天下に名を轟かせる英雄、一瞬血管が冷えるような殺気に肩をすくめたアキレウスは盛り上がった気分を宥める。
「ったく、鼻のきく野郎だ」
まだまだ親密さでは叶わないランサーにむっと膨れたアキレウスは、カウンターに置かれたサラダを持って先にテーブルについた。
「朝食もすぐに出来上がる、君は手を洗ってきたまえ。他に降りてきていないのは…彼か」
こんがり焼けたトーストとカリカリのベーコンを皿にのせ、出来上がった朝食プレートをダイニングテーブルに置いたアーチャーは唯一空っぽの席を見た。
モーニング用にブレンドしたコーヒーが冷めないうちに彼も起こさないといけない。エミヤはエプロンを自分の椅子にかけると2階の生活エリアに向かう。
「失礼するぞ、エドモン」
コンコンとノックをしてからドアを開けると案の定部屋の中は暗く、部屋の主はベッドにこんもりと山を作っている。
普段ならアラーム通りに起きてくれるのだが、部屋に散乱する本を見るに昨夜は遅くまで読書に興じたのだろう。
部屋に入ったエミヤがまずは閉じたカーテンを開け放ち、真白い程の光を部屋に注ぎ込む。明かりを感じてぎゅうと瞳を閉じたエドモンが布団へ籠城を決める前に、さっさと近づいたエミヤは肩を掴んで揺すった。
「起きたまえ!とっくに起床時間は過ぎているぞ」
「…ッ、エミヤ…か。モーニングコールならもっと優しくやるべきだろう」
「これ以上どう優しくしろというのかね?」
ぐいぐいと布団を引っ張る容赦ない力に唸ったエドモンは朝日を背にするエミヤに眩しく目を細める。対してこの家の生活リズムを管理するものとしてオカンモードを発揮するアーチャーは、腰に手を当てて眉を上げた険しい顔だ。
だからこそ、エドモンの手の不穏な動きに不覚にも気づかなかった。
「そうだな、例えば…」
もぞりと動く手に起きる気になったかとほっと息をついたその時、気が抜けた一瞬を狙ってエドモンはアーチャーの手首を掴んだ。
そして腕の細さからは想像もつかない力でエミヤをベッドの中に素早く引きずり込む。
「うおっ!?」
ぐるりと変わる世界にハッとした時にはアーチャーはベッドの中におり、さらに唇をニヤニヤとさせたエドモンにのしかかられた。
間近で見る赤い瞳は美しく余すことなく注がれるとろけるような視線につい見惚れてしまう。愛しき者が呆けている間に、エドモンの幽鬼のように白い指先がアーチャーの唇をつつく。
「お前の体が冷えないようベッドに入り、その雄駒鳥のような口で愛しい者に囁くような…」
「エドモ…っ」
「ああ、その囁きは既にしていたな。お前の愛を疑うような事を口にするとは、俺も陽光の魔物に当てられたということか」
唇をノックされながらくすくすと笑う声に、みるみる顔の熱が上がってしまう。戯れを口にしているようで絶対の愛情を裏付けるような甘い声、さらにベッドの温もりは毒のようにアーチャーの体を侵食していった。
朝の光をその体で影に変えていくエドモンが、皿に乗せられた寵姫をいただこうと口をつけようとする。
「おら!そこまでだ!」
「朝のモーションは程々にするって約束だろうが!」
が、その瞬間シーツが剥ぎ取られいよいよ遮るもののなくなった光が目を焼く。
忌々しげに見上げれば、そこにはアーチャーの遅い帰りに危険を察して乗り込んできたクーフーリンとアキレウスが声を上げた。
「朝から喚くな、貴様らの声で安寧の帳から叩き起されるのは御免だ。その下らぬ誓いは覚えている。しかし何の問題があろうか?これは俺にとって程々の域を出ないのでな」
「屁理屈こねやがってこの野郎…!ベッドのツーショットタイムはアウトだろうが!」
「つーかそれを言うならテメェだって大概だろ!俺が来なけりゃどこまでやってたんだたわけ!」
元々反りが合わないばかりか今は嫁を取り合う者同士、不満なら無限の泉よりもさらに多く湧き上がってくる。
頭上でかわされる男達のギャーギャーと言い争う声に目をぱちくりとさせたアーチャーは、長いため息をつくとおもむろに手をパンパンと叩いた。
「そこまでにしておけ、せっかくの朝食が冷めてしまっていいと言うなら話は別だが」
エミヤの声で休戦を余儀なくされた男達はなおも言い足りない罵声をぐっと喉奥へ押し込め、代わりにうまい朝食で蓋をするため下のリビングに降りていく。
ここはとある場所のシェアハウス。
ここではアイルランドの大英雄クーフーリン、ギリシャ神話に名高い俊足の英雄アキレウス、現代において知らぬ者はいない復讐鬼エドモン・ダンデスが抑止力の守護者エミヤを巡り恋の鞘当てに励んでいるのだ。