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【槍弓】其の手に剣を持った正義2/Novel by 331

【槍弓】其の手に剣を持った正義2

14,732 character(s)29 mins

けぇええええさんがぁ、ちがったぁああああぁぁあああ…!
前後編じゃなかったです。前中後編でしたわ。終わらねかった。なんでや。
アニキ、あちゃおをしこたま甘やかすの巻その2です。
<9168616>の続き。
あと、今更ですが実在の国や地域の名前が出てきますが、政治的な意図は無いです。あしからず。
あと、己の好きな作品を見つける→その作品をブクマしてる方のブクマをめぐる→更に別の良い作品に出会えるループに入れる、のですが、その中に、こう、稀に己の拙作が混じっていると、こう、こう、有り難みと同時になんかすんません感が半端ないです。ありがとうございますすんません。

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 南西へ降れば俺が描いた国境はあるが、未だに此処いらは色々ときな臭い。
 腹を割って話せば誰だって気の良い連中なんだが、譲れない一線があるからな。許せないと思ってしまうんだろう。其れが良い方へ廻れば幾らでも良い方向へ転がるが、悪い方へ廻ると幾らでも悪い方向へ転がってしまう。
 人の営みは何時だって紙一重だ。―――まぁ、其れは置いといて。
 一年程前、偶々知識のある魔術師が、偶々資質のある双子の幼児を手に入れた。自我が芽生え始めた位の、三つにも満たない双子だ。
 多分、本当に、何もかもが丁度良かったんだろう。
 魔術師は双子を聖杯に仕立て上げた。
 何でも極東のフユキって処の聖杯戦争を参考にしたとか言っててな。セイバー、アーチャー、ランサー、ライダー、キャスター、アサシン、バーサーカーの七騎を其々がマスターとなる魔術師に召喚させ、諸共を聖杯に焚べ、事を成そうとしている。
 正気の沙汰じゃない。
 でもまぁ、恐ろしい事に、彼の魔術師の目は、正気だったな。
 正気の上で、此の聖杯戦争をおっ始めやがった。

「魔術師は、始めに俺を召喚した。」
 縁に腰掛けて足をぶらつかせているアーラシュにランサーは其処で待ったを掛けた。
「―――おい、はっきりさせろ。魔術師は"何の"魔術師だ。」
 アーラシュが肩越しにランサーを振り仰ぐ。
「聖杯を作り出した魔術師か、胴元の魔術師か、其れとも、別の魔術師か。」
 笑みを湛えているアーラシュはぽんぽん、と己の隣を叩いて示した。
 ハァ、と息を吐いてランサーは其れに従う。腰を下ろして、左足をぶら下げた。右足は立てて肘を付き、顎を乗せる。
 満足げに頷いたアーラシュは視線を正面に放って口を開いた。
「聖杯を作り出した魔術師と今回の聖杯戦争の胴元の魔術師と俺のマスターだった魔術師は、同一だ。」
 ランサーが呻く。
「おいおい、胴元が賭けに乗っちゃ前提が崩れる。御法度だろ、」
 アーラシュは笑うばかりだ。
「大丈夫さ。抑も聖杯戦争自体が御法度なんだぜ。無理が通れば道理が引っ込む。」
 緩く組んだ両手、親指をぐるぐると廻しながらアーラシュが俯く。
「其れに、彼奴は少なくとも此の聖杯戦争中は目覚めない。」
 ランサーが其の横顔を伺う。しかし心の内の全ては計れない。
「如何いう事だ、」
「無理が祟った。俺ァ余り魔術の面にゃ明るくは無ェんだが、先ず間違いない、彼奴は無茶苦茶優秀な魔術師なんだ。―――が、其れでも聖杯を造る、ってのはとんでも無い事だったんだろうよ、おまけに立て続けで俺迄、召喚しちまったから、其の儘、ぶっ倒れた。今は、此処から遠く離れた場所で眠らせてる。」
「眠らせてる、」
 アーラシュは目を細めて遠くを見やっている。東の方向、此の方向。暁迄は未だ遠い。
「既に彼奴は此の聖杯戦争から降りたのさ。終われば目覚める、と俺が条件付けて眠らせた。」
 ランサーが鼻で笑う。
「場を作るだけ作って手前は尻尾巻いて安全圏か。」
 アーラシュが破顔する。
「―――嗚呼、確かにな。俺の今の言い方ならそうなるよな。」
 破顔して、其の儘、表情を緩やかに変える。
「でもなぁ、」
 悲しみに表情を歪めて。
「彼奴の真意は、其処じゃない。」
 組んでいた手を解いて縁に手をかける。ゆっくりと立ち上がり様に続ける。
「無茶が過ぎて、髪の色は抜けちまった。瞳の色も互い違い。肌は魔術焼けを起こして斑になって戻りゃしねェ。幼気な子供二人を犠牲にして聖杯を造り出した上に其の聖杯を競わせて更に犠牲を生む事を是とした己の行く末を―――彼奴は心得てる。」 腰を下ろしているランサーを見下ろして、アーラシュは続ける。悲痛に顔を歪めた儘。
「あんたが鍵だと彼奴は言う。でも、俺は未だあんたが信用出来ない。」
 赤い瞳をじっと見据えて、アーラシュは告げる。
「だから、そうだな―――。他が焚べられ、あんたと俺の二騎が残ったら、俺の知ってる全てを話そう。」
 そう言い残して、アーラシュは踵を返した。
 ランサーは横目で其の姿を追う。視界の端から消えた所で捨て台詞が寄越された。
「頼むぜ、ランサー、勝ち残ってくれ。」
 言われなくても。胸の内だけで返す。
 しかし、其の次に続いた台詞には目を剥いた。
「だからこそ態々、欧州の部隊迄、引っ張ってきたんだ。」
 慌てて振り返った処でアーラシュの姿はおろか気配すら追えない。
 追いかけようかと思わないでもなかったが、諦めた。
 己にとって事は始まったばかりだ。
 両手を後ろ手に付く。星空を仰いだ。
「彼の弓兵、結局、肝心な事ァ一切、言わなかったな。」
 嘗て培った星読の知識をもってしても先は識れない。
 退いた胴元、幼子を素材にした聖杯、態々真名を名乗った弓兵。
 そして、弓兵の言葉を信じるならば、己の為に設えられた場。
 此の聖杯戦争の狙いは、何だと言うのか。
 始まりを間違えると、終わりに辿り着けない。
 さぁ、己は誰の掌で如何踊ってやれば良いのやら。

 <X-6W>

 深い眠りより覚めた衛宮が一番最初に感じたのは珈琲の香りだった。
 胸と腹一杯に息を吸い込んで、満たす。
 ゆっくりと吐き出しながら首をゆるりと巡らせた。
 未だ霞む視線の先、ハンドドリップで珈琲を点てているのはランサーだった。
 昨夜の蒼い装束とは異なり、衛宮と同じ様な服を着込んでいる。
 ランサーは振り返らずに口を開いた。
「道具、勝手に借りてるぜ。」
「―――嗚呼。構わない。」
 身を起こしながら其の背をぼんやりと眺める。
 霞んでいた視界が徐々にクリアになっていく。其の背をじ、と見つめながら、衛宮は思い返す。
 嗚呼、怖いな、と。
 腕を這う令呪を押さえながら、此の男は、苦手だ、と思い出す。
 アイルランドの光の御子。クー・フーリン。
 一度、己を殺した男だ。
 心臓を貫かれた彼の衝撃と恐ろしさと絶望と寒さは未だ腹の底に巣食っている。
 其の後、己等の為に血路を開いてくれた背中を今でもまざまざと思い出せる。
 一時期、取り憑かれた様に其の逸話を調べた時期がある。
 と或る英雄が、如何に生を受け、如何に生き、如何に死んでいったか。
 分霊とは雖も本物を見た後に調べたので、余計に其れは生々しく感じられた。
 そして、改めて思ったのだ。
 恐ろしい、と。
 此の男は、人間ではない。
 衛宮の思い描く正義の味方でもない。
 衛宮の持つ尺度で計って良い相手では、無いのだ。
 人の形をした、文化圏の違う、全く別の何か、なのだ。
 但し、伝承に拠れば此の男は、戦いを厭いはしなかったが、自ら戦いを望む事もなかった。其の力を振るう時は、何時だって救いと守護の為だった。 
 何の伝承でも、何の写本でも、其処だけは、同一であった。
 時計塔の莫大な蔵書に囲まれながら其れに至った時、冬木の聖杯戦争で己を逃がすべくギルガメッシュに相対した蒼い影を忘れる事など出来はしないのだと思い知ったのだ。
 其処に、強烈に憧れた。
 憧れは、今も己の何処かで燻っている。畏怖と畏敬と嗟嘆が渦巻いている。
 其れを面の下一枚で飼い慣らして、衛宮は素知らぬ顔で続けた。
「豆、切らしてた気がするんだが。」
 当の英雄サマはフィルターから目を逸らさぬ儘に返す。
「キャンプからパチってきた。」
 軽い調子に衛宮は妙な表情を浮かべるしか無い。
「キャンプ、何処の、」
「UN。」
 此の男、神代の英霊様は言うに事欠いて国連軍のキャンプ地から珈琲豆を盗んできたのだという。額に手を押し当てて衛宮は深く息を吐いた。
「―――バレてないなら、良いか。」
 衛宮の低い呻き声が届いていないらしい。ランサーは嬉しそうに珈琲の香りを楽しんでいる。現代に馴染み過ぎだ。
 其の背を見つめながら、はた、と気付いた。
 たった今、額を押さえた右手。昨晩、治してもらったばかりだ。外見も、腱も異常が無い。違和感も無い。
 握って、開いて、を繰り返して、右手に視線を落とした儘、衛宮は口を開いた。
「…そうだ、ランサー。有難う。」
「あ、」
 突然の礼に、ランサーが首を傾げる。
 衛宮は顔を上げた。特に愛想笑いをするでもなかったが、其の表情は昨晩の様な下手糞さはない。
「右手。昨日、礼を、言いそびれたから。」
 ランサーはぱちり、と瞬いて、ぱたぱたと左手を振った。
「良い、気にすんな。」
 そして手早くフィルターを片付けるとステンレスのマグ二つをを大事そうに抱えて衛宮の傍らに寄せてきた。
「ほれ。」
 馴染み深い己が愛用していたマグを手渡され、両手で包み込む。
 液面は暗い。
 衛宮の隣に腰を下ろし、先にマグを傾けていたランサーは満足げに笑みを零している。
「此奴ァ、ブラックでいける、つぅ話だったんだが、確かに此れなら良いな。」
 アメリカンとも異なり、深い香りと心地良い苦味に衛宮は、ほぅ、と息を一つ零した。
 珍しく、気が緩んでしまったのだろう、其の儘、思うに任せてぽつりと零す。
「あんた、俺の事、知ってるのか、」
 ランサーが傍らの衛宮を伺えば、衛宮は片膝を立てて其の上に腕を乗せ、口元を埋めていた。中身がほんの少し減ったマグは大事そうにもう片方の膝の上に乗せている。
「其れとも、憶えてるのか、」
 其の横顔をひたりと見つめてランサーは問い返す。
「何故。」
 掠れた色のある其の声に衛宮は一つ瞬いた。
「あんた、俺の事、坊主、って。」
 ランサーは未だ、答えない。
「俺は確か、二回目だ、って言ったけど、あんたは其れには何も言わなくて。でも、俺の事、坊主、って。」
 衛宮の口調にランサーは漸く表情を緩めた。
「俺は本体じゃねェから今此処に在る俺自身が憶えてる訳じゃねェんだが、御前の事は知ってるぜ。」
 赤い片目が眇められる。
「まぁ、其れにしちゃ大分見てくれが変わっちまったみてェだが。御前、赤毛だったろ、」
「あ、此れ、」
 きょとりと目を丸くして衛宮は丸めていた躰を伸ばした。空いている左手で己の髪に触れる。
「魔術、使い過ぎて。色が抜けてしまったんだ。肌も、焼けて。」
 わしわしと掻き混ぜる衛宮の手と別の側頭へ、不意にランサーの手が伸びてきた。
「―――そうか。頑張ったんだな。」
 髪を梳かれて頭を撫でられ、余りの出来事に衛宮は固まってしまった。
「あ、否や、別に。頑張った、と言うか。あの。」
 此れだけを返すので精一杯だ。
 取り合わずにランサーは衛宮の頭を撫でている。
 最後に衛宮の頬を指の背でくいくいと押して、ランサーの手は漸く離れていった。
「で、だ。
 積もる話もあるだろうが、此度の聖杯戦争の事が俺にゃさっぱり分からん。
 御前の知ってる範囲で良い。話せ。」
 柔らかい空気を纏った儘、ランサーが促す。
 衛宮は未だ余韻に引き擦られながら口を開いた。
「此処から一番近い都市はナルンと言う。北西に進めば辿り着く。」
 言いながら昨日、仕舞えず終いだった地図を今一度、手繰り寄せて広げた。
「ナルンを更に北西に進めばキルギスの首都、ビシュケクだ。」
 衛宮の指先が地図上をするすると滑る。
「南に下ると、新疆ウィグル自治区に至る。テンリ・タグの山越えが必要になるが。」
 越えた先、タリム盆地のカシュガル市を示した。
「此の地域は長年火種を抱えていたんだが、一年半程前、遂に其れが爆発した。当局が躍起になって突っぱねているから国連軍こそ介入出来ていないが、完全に内戦状態だ。
 今でも拮抗状態が続いていて予断を許さない。何とか此れを崩そうと独立派が彼の手此の手で国連を巻き込もうとしているが、既の所で当局が防いでいる、と言うのが此処最近だ。
 でも中央の潤沢な支援を受ける当局と違って独立派は徐々に追い詰められつつある。其処で一年程前に遂に周辺地域を巻き込んで無理矢理、国連軍を呼び込もうと舵を切った。
 其の第一弾がトルガルト峠を越えた先、キルギスのナルイン州一帯だった、と言う訳さ。」
 指はナルイン州一帯をくるりと囲んだ。
「此のナルイン州の州都、ナルンに大学が在る。其処でテロが起こった。其れが十ヶ月前。
 此れが情勢を一気に拗れさせた。亡くなった被害者の中にロシアの高官の子息が含まれていたんだ。」
 衛宮の指先は更に大きく北へ飛ぶ。地図の枠外を示した。ロシア。北の大国。聖杯から落とした記憶を一気になぞってランサーは眉を顰めた。
「でも、多分、其の子息だけだったら、未だ事態は収まったんだろうな。ロシアは予てから概ね当局寄りの立場を取っていたから。抑も独立派に米国からの援助があると噂が流れ始めた頃だったし。"やらかした"独立派を叩きのめして終わりだ。
 だが、残念ながら被害者はロシアの関係者だけじゃなかった。米国の留学生もまた、犠牲になってしまったのさ。其れも、誤解を恐れずに言えば、間の悪い事に、世論を大きく動かせるだけの力を持ったハイ・ソサエティのね。
 犠牲者の大半を占めたキルギスを置いてけ堀にして今や此処等一帯は大国の代理戦争状態だ。
 大々的な直接戦闘こそ無いが、散発的な小競り合いとターゲットをソフトに絞ったテロは続いている。
 キルギスの元首が嘆いていたよ。此んな事で世界の注目を浴びたくは無かった、と。」
 湯気は失せたが未だ温かい珈琲を含んだ衛宮にランサーが問いかける。
「其れで、此処等一帯の政治的な立ち位置は分かったが、」
 衛宮は其れに頷いた。
「其のテロが、半年程前から様子が変わったんだ。其の頃、俺が居たのは隣国タジキスタンのドゥシャベだったんだが。
 其の上、周りの魔術師、だけじゃなくて呪術師達迄が、キルギスから異様な気配がする、と。
 中東から中央亜細亜にかけての霊脈は細くとも其々が繋がっているから其れを感じ取っていたんだと思う。
 其の内、魔術師達の噂の中に、"白髪に互い違いの瞳、斑の肌をした魔術師が何かを喚び出した"って言うのが混じってきて。」
 大きく息を吸って、吐き出す。衛宮は本の少し眉を顰めて続けた。
「魔術行使が過ぎるとそうなるんだ。行き着けば俺みたいに全て変わるが、多分、其の魔術師は途中だったんだと思う。」
 鋼色の瞳が密やかに細められる。
「―――別に、会って何をする、って訳でも無いんだが、様子を見た方が、良い気がして。
 其の頃、抱えていた案件を片付けて、此の町に入ったのが二週間位前、かな。
 其の魔術師には会えてない。代わりに会ったのが―――、」
「アーチャー、アーラシュ・カマンガー。」
 一人と一騎が思い浮かべるのは優しげで、其れでいて喰えない笑みを浮かべた彼の、弓兵。
「会ったのか、」
「昨晩な。」
 ランサーは厳しい顔を崩さない。
「彼の野郎、ジモティじゃねェがイスラム圏って事で相当、補正掛かってやがった。」
 衛宮も眉間に皺を寄せているが、其の目は記憶の中のアーラシュを測っている。
「…でも、多分、彼のサーヴァントには戦闘の意思が無い。」
 ランサーは頷く代わりに「嗚呼。」と零してマグを傾けた。
「態々、真名迄、明かしてきやがったからな。」
「―――アーラシュ、が其の気になれば此処一帯を消し飛ばすのも容易だ。流星一条を放てば良い。高台に登らずとも其の辺で地面に向かって撃つだけで州どころか国ごと吹き飛ぶだろうな。でも其れと同時にアーラシュも座に帰る。其の一方でイスラム圏の補正が掛かっているから余程のサーヴァントでも力負けしない。アーチャーのクラススキル、単独行動があるからマスター不在でも活動出来る。
 誰も、アーラシュに手を出せない。
 ―――監督役代行、としては最適だ。」
「其の代行に唆されて俺を召喚したって、」
 茶化すランサーに衛宮は顔を顰めた。
「唆されたならもっと丁寧に喚び出すさ。
 ―――初めは断ったんだ。外側から事を抑えるつもりだった。俺は、魔術師としては二流処か三流だから、巻き込まれたら振り廻されてしまうのが目に見えてたから。
 でも、昨晩はキャスターとアサシンの戦闘に巻き込まれて。」
「止むに止まれず、ってか。」
 衛宮は渋々頷く。
「残りは二騎、セイバーかランサーが来る筈だから、と。」
「其れで喚び出せたのが俺ねェ。」
 ぼやきを零してマグを干すとランサーは立ち上がった。其の手から離れて床に置かれたマグは既に穢れを失っている。
「まぁ、良いさ。今日は此処に籠ってろ。外には出るな。」
 衛宮は顎を上げて其の姿を追う。
「あんたは、」
「現偵。」
 言い残して其の姿は掻き消えた。
 一人取り残された衛宮は途方に暮れている。
 意識を研ぎ澄まして場を探るが、矢張り、駄目だ。
 出られない。
 此の空き家の中では自由だが、衛宮は外に出られない。ルーンが施されている。
 ランサーを真似てマグの残りを一気に煽った。
 生憎と、マグの穢は祓われない。
 ぽつりと床に残された美しいマグを見つめ、矢張り苦手だ、と衛宮は思った。

 <X-6W>

 現偵。即ち、現地偵察。
 大まかには石を走らせて、細かい処は足を使って。
 ランサーは街を歩き廻った。勿論、目立たぬ様に一般人へは己の姿を擬態しながら。彼等には彼等が最も見慣れている異邦人の姿に見えている筈だ。
 露店で求めた羊肉のシャシリクを喰らいながら半日掛けて集めた情報を精査する。
 一つ、此の地は治安が悪い。繰り返される襲撃に人々の心は荒み、大気中の希薄なマナですら澱んでいる。
 一つ、此度の聖杯戦争が始まって久しいらしい。七騎揃う前に既に始まりの鐘が鳴らされた様だ。其処彼処にサーヴァントが争った気配が残っている。恐らく、既に何騎かは敗退しているだろう。
 一つ、此の町には、魔術や呪術が色濃く根付いている。日常に、根深く。何の疑いもなく。神秘と胡散臭さとが同居してしまっている。だから誰もがすんなりと受け入れてしまっていた。望まぬ奇跡が此の地にやって来てしまった事を。
 其れ故に、町外れにやって来た、髪の色が抜け、肌の焼けた魔術師崩れの傭兵、は忌避の対象だった。
 事の発端と成った魔術師は瞳の色が互い違いで肌は斑だった筈なのだが、其処は小さな差異とされたのだろう。
「拙いなァ。」
 ぽつりと漏らした声を拾ったのは背後からだった。
「だろ、中々、切羽詰まった状況だろ、」
 声の主は勿論、昨夜と同じサーヴァント。
「手前ェか。」
 アーラシュ・カマンガー。
「矢っ張な。手前ェ、千里眼持ちだろ、」
 アーラシュは目を細めて笑んでいる。応えは無いが、其れが答えだ。
 はぁ、と息を吐いてランサーは呻く。
「元々霊脈だったんだろ、此処。しかも呪詛に向いてると来た。此の地の呪詛が彼奴に向かっちまってる。オマケに聖杯の所為で威力が倍率ドンだ。人一人なら容易く屠れる強さだぞ。」
 ランサーの隣に腰掛けてアーラシュも何処から出したやらシャシリクをぱくつき始めた。
「だから、早くサーヴァントを召喚しろ、と俺は言ったんだ。処が奴さん、中々に頑固でね。サーヴァントも、聖杯の力も借りずに終わらせたいとか言い出した。―――まぁ、聖杯戦争を一度経験した身だ。願望器の悍ましさと願いを彼れに託す無意味さを重々承知してるんだろうよ。」
 其の横顔をランサーは苦々しく見遣る。
「…手前ェ、昨晩去り際に、欧州の部隊を引っ張ってきた、と言ったな、」
「あ、」
 齧りつこうと口を半開きにした儘、アーラシュが首を巡らせればランサーがじっと己を見据えている。
「何処から何処迄が手前ェの御膳立てだ、」
 しかしアーラシュは笑みを絶やさない。
 「んー、そうさなァ、」と言いながら羊肉を頬張った。
「国連軍を彼処に駐屯させる様に仕向けたのと、アイルランドの部隊を一番南に配置させたのは確かに俺だぜ、でも東トルキスタンが独立しようとしたのは埒外だ。一年半前だろ、俺は未だ召喚されてない。」
「御前のマスターは如何だ、」
 もごもごと肉を咀嚼しながら、しかしアーラシュの笑みは変わらない。
 飲み下すと、口を開いた。
「元、な。」
「元マスターは如何だ、」
「―――彼奴が双子を手に入れたのは一年前。聖杯を造り出したのは更に其の後だ。独立騒ぎの発端には間に合って無ェな。」
 ランサーの視線は厳しい。
「発端には、な。」
 アーラシュは軽く頷く。
「ま、利用はしたな。」
 ランサーは鼻で嗤った。
「―――戦争を終らせる英雄サマだろ、御前。良いのかよ、そう言うマスターに召喚されちまって。」
 んー、と考える素振りを見せて、アーラシュは肉に齧り付いた。「そうさなァ、」と零しながら。
「綺麗事だけじゃ終わらないからなァ、戦争は。」
 ランサーは絶句した。
「御前…、」
 呆れるしか無い。
「御前が其れ言っちゃ御終いだろうよ。」
「はは、確かに。」
 対してアーラシュは軽い調子で笑いを零している。
「今回は結構、汚い事遣ってるからなァ、下手すっと宝具、撃てないかもしれねェなァ。何が聖なる献身か感があるな!」
 自分で言って如何する。
「―――御前、其れ、俺に言って良いのかよ。」
 ランサーはじっとりとした視線で胡散臭いアーラシュを見遣る。
 アーラシュはけらけら笑っている。
「あ、良い良い。昨日の今日だが、あんたは信用出来そうだ。」
 食べ終わった串をボッと燃してニィと笑みを深める。一方でランサーは変わらず胡散臭いものを見る目を変えていない。
「信用序でに幾つか話をしておこう。」
「見返りは、要求は何だ、」
 唸るランサーにアーラシュは逸らかす。
「無いさ、今は未だ。其処迄は信用してない。見込みの有りそうな光の御子殿に一寸したサービス、って処さ。
 ―――さて、俺の元マスターが独立戦争を利用した、って話だったか。」
 強引に話を戻した。
「あんたの読み通り、此処は霊脈だ。しかも、ドンピシャで呪詛に特化してる。だから此の町は発展出来ない。此れ以上大きくなれない。吹き寄せる場所なんだ、そう云う物が。
 だから、まぁ―――聖杯を造って世界に穴を開け、サーヴァントを喚び出し、一騎ずつを聖杯に焚べ、最後に残った一騎で何かを捻じ曲げるっつー"聖杯戦争"には正に御誂え向きだったんだろうよ。東じゃ"蠱毒"っつーんだっけか、此。」
「―――。」
「彼奴が遣ったのは手に入れた双子で聖杯を造る事、俺を喚び出した事、俺を使って独立派の魔術師を此処へ誘き寄せた事。
 此の三つだ。此の三つしか、出来なかった。
 後はぶっ倒れた彼奴に変わって俺が動かしてる。」
 アーラシュは指を折りだした。
「バーサーカーとライダーとキャスターが殆ど同時に出た。東トルキスタンの魔術師と此処いらの魔術師と偶々居合わせた魔術師が三つ巴になってね。全騎揃ってねェのにおっ始めやがった。往生したぜ、彼奴等、形振り構ってる余裕ねェから余波が凄ェのなんの。他所に漏れねェ様に結界張ってんの俺だぜ、」
 苦労を思い出したかうんざり顔だ。
「おまけにバーサーカーは遠征して大学潰しに行っちまうし。其んな遠く迄、行っちまったら聖杯から離れ過ぎて聖杯の補正をマスターが受けられなくなる。当然、制御失って大暴発だよ。ま、マスターがガス欠起こしてたから其処迄酷くは無かったが。 否やァ、彼れは参ったわ。」
 ランサーは其のうんざり顔に同情せず、片目を眇めた。
「そうでも無ェだろ、御陰で国連が介入する取っ掛かりになった。」
「ま、怪我の功名って処かな。もう少し堅実に遣る筈だったんだ。」
「如何だか。千里眼持ちだろうが。」
「千里眼ねェ…。―――良いさ、俺の信用とあんたの信用が噛み合って釣り合ってる必要は無いんだ。俺が勝手にあんたを値踏みするだけだから。」
 鼻を鳴らしてランサーは正面に向き直る。
「後、何騎残ってる、」
「四騎。ライダーはキャスターとアサシンに潰された。」
 答えながらアーラシュは立ち上がった。
「ま、精々、気張ってくれや、英雄殿。」
 其れを最後に姿が掻き消える。
 見送らずにランサーはすっかり冷え切ったシャシリクに齧り付いた。

 <X-6W>

 己のマスターが復調する迄に、結局の処、五日掛かった。
 長くもなければ短くもない、と言うのが妥当な評価だろうか。ランサーが魔力を無理矢理流し込んだのは初日だけであったし、抑も其の魔力は彼の様な召喚さえしなければ、そう、無理のある召喚さえしなけば失う事の無かった分だ。
 だから、長くもなければ短くもない。
 丁度良かったとも言える。
 消耗から中々回復せず身動きが取れぬ間、ランサーは噛んで含める様に空き家から出るなと己のマスターに厳命し、己は町中を歩き廻って情報を集めた。
 其の間に分かった事も、また、幾つかあった。
 先ず、キャスターは既に焚べられた。アサシンが潰したのだ。
 町中を覆っていたキャスターの気配が昨日失せた。キャスターの結界の余波なのか黒板を爪で引っ掻いた様なキィキィと甲高い音が町中を占めていたから辟易していたのだが、此れで少しは気が楽になる。尤も、初日から日を置いて今一度、此方の様子を探りに来ようとした矢先だった様だ。一言位、文句を言ってやりたかった。煩い、とただ一言で良かったのだが。
 次に、アーラシュの気配が全く追えない。
 気配遮断はアサシンの専売特許だった筈なのだが、如何も勝手が違うらしい。彼方に此方への害意は感じられなかったが、常に動向を知っておきたい相手だ。何せ、最も何を仕出かすか解らない。監督役と言うのは鬼札を超える存在だ。土壇場で卓袱台を返される可能性は十二分にある。
 最後に、此の地について。
 此の地は、本当に、危ない。
 ランサーの予想以上に危ない場所であった。初日に歩き廻った時点で薄々勘付いては居たのだが、日を追う毎に其の認識は改められた。良くもまぁ此の様な場所で聖杯を造り出し其れを競わせようとしたものである。
 此処は只の呪詛が吹き寄せる場所ではない。
 抑止力が干渉してくる程の呪詛が渦巻く場所だ。
 此の地が元々持っていた呪詛を寄せ付ける特性と聖杯に引き寄せられた連中と聖杯の増幅によって最早、手の打ちようが無い。
 此処一帯が更地に変わる程度なら未だ良い方、下手をすれば此の世界線が崩壊する。
 抑止力の干渉は不可避だ。其れも、一等、容赦の無い干渉が。
 己の勘が告げている。
 早く座へ帰った方が良い。座にある本体にすら影響を及ぼされる可能性を否定出来なくなった。
 其れでもランサーが未だ此の地に残っているのは、
「此、キャスターの結界の残骸か―――、でも今、流れてるのは別の存在の魔力だ。耳鳴りの音域が、違う…。」
発言の主、偏に腐れ縁が過ぎる此の危ういマスターの為だ。
 初日の様に全身を外套で覆った男が首を傾げている。
 ランサーは隙き無く周囲を見廻した。白い雲がそこかしこに散らばり快晴とは行かないが、青く透き通った空。一見すると長閑な農村風景が広がっている。
「恐らくアサシンだろう。嗚呼、でも使ってるのはサーヴァントじゃない、アサシンのマスターだ。」
 外套の覆いの下で鋼色が瞬いている。マスターが呟いた。
「其のアサシンを倒したら、残りは二騎、か。」
「倒す、御前達が、私を、」
 不意に飛んできた可憐な声に躰をびくりと震わせて衛宮が振り返る。ランサーも眉間に皺を寄せて首を巡らせた。
 振り返った先、黒いローブの美しい女。
 物静かで、儚げで、美しい女。ゆったりと瞬いて、小首を傾げる。ゆるりと動いた視線が捉えた先には、衛宮。
「御前が、此の聖杯戦争を此処へ連れてきたのに、」
「え、」
 衛宮の唇から溢れた声に、女が激高する。怒りに震え美しかった顔を凄惨に歪めた。
「御前が此処に争いを連れてきた!」
 叫ぶが早いか一歩を踏み込み其の蹴り出しだけで衛宮の懐に飛び込んでくる。
 しかし反応は遅れたが身を滑り込ませたランサーが間に合った。振り下ろされたナイフは耳朶を叩く懐かしい共鳴と共に現れた槍で受け止めている。衛宮にとって、懐かしく、忌まわしく、恐ろしく、そして焦がれた朱い呪槍が。
「…おい、割って入って悪ぃが順番が逆だろ、此奴が此処に来たのは聖杯が造り出された後だろ。何なら手前が召喚されるよりも後だ。」
 女は、アサシンは怒りに表情を染めた儘、笑みをを其の上っ面に貼り付けてけたけたと声を上げる。
「否や、此奴だ。」
 そしてサーヴァントらしく、とても女の細腕とは思えぬ膂力で押し進めようとする。
 ランサーは鼻を鳴らすと呻いた。
「手前の様な思い込みの激しい女は、苦手だ。」
 態と重心をずらしてアサシンの軸をぶれさせると一息に踏み込んでアサシンの軽い躰を吹き飛ばした。
 吹き飛ばされたアサシンは器用に空中で体勢を整えて着地する。
 顔を上げた時、既に表情は失せていた。
 違う声かと耳を疑う程に低く嗄れた声で告げる。
「余りに違う、相容れぬ。交わす言葉は最早無いわ。」
 そして姿が掻き消えた。其の、瞬間、衛宮は死角から襲い掛かってきたアサシンの刃を複製した二振りの剣で受け止めていた。体を捌いて力を逃し、アサシンを躱しきる。
 マスターの両手に握られた覚えの有る刀に、嗚呼、御前は既に其れを使っていたのだな、と目を細めたのも一瞬、ランサーは明るい声で茶化した。
「優秀!」
 其の儘、アサシンを追う。体勢を崩されているアサシンはしかし小器用に数本の短刀を投げ付けてきた。其れ等全てはランサーに突き刺さる寸前で力を失い地に落ちる。
 表情を変えぬ儘、首を傾げてアサシンは今一度、短刀を投げ付けた。其の数、数十。此の場を選んだ際に仕込んだトラップを発動させ、後方から、側面から、頭上から、何もない筈の空間から短刀がランサーに襲い掛かる。
 そして、マスターである衛宮にも。
 捌ききれぬと判断した衛宮は如何にして急所を外すかに切り替え、剣を握りかえる。
 しかし矢張り短刀は全て地に落ちた。
 ランサーの神速の突きを薄皮一枚で躱したアサシンは首を撚るばかりだ。
 愛用の槍を構え直し、ランサーが笑う。
「飛び道具は当たらねェんだ、生まれつき。パスで繋がったマスターにも当たらねェぜ。」
 アサシンは首を捻った儘、中空に視線を彷徨わせて、徐に己のローブをばさばさと叩き出した。其れに合わせてばらばらと暗器が落ちる。
 サーヴァントだ。其れ等は全て魔力で編んだ物。
 態々、落とす必要は、無いのだ。只、魔力に返せば良い。
 しかし、地に落ちていた短刀が溶ける様に失せていくのを認めるや否や、衛宮が吠えた。
「ランサー!」
 衛宮と同時に気付いてたランサーは、構えから一つの無駄もない滑らかな挙動で槍を突き出し、アサシンの心臓を穿った。
 気管を逆流した血液をがぼり、と吐き出してアサシンは今一度、にたり、と笑む。
 ゆるり、と右手を持ち上げて衛宮を指で示す。
「御前が、此の聖杯戦争を此処へ連れてきたのに。」
 そう言い残して、消え失せた。―――と、同時に牧歌的な風景を横断する農道に隠されていた呪詛が浮かび上がった。
 衛宮は剣を魔力へ還して、膝を付く。片手で浮かび上がった呪詛に触れた。衛宮の知らない呪詛であるし、力を失っているが、其れでも分かる。此れは中々に難儀な物だ。
 立てかけた槍に凭れ掛かってランサーが其の様を見下ろす。
「ぶっ千切れねェ程じゃねェが、発動されたら厄介な呪詛だったな。キャスターと遣り合って回復する前に此方に仕掛けてきたが彼方さんのミスだったか。」
「此れで残りはあんたとアーチャーだけか。」
 衛宮が漏らした呟きに、しかし返答は無かった。
 訝しげに思って衛宮は顔を上げる。
「―――残り四騎、だろ、キャスターが倒れてアサシンも倒した。残りは、あんたと、アーチャー。」
 鋼の瞳が捉えた先、赤い瞳の主は表情を浮かべぬ儘、口を開いた。
「本当にそうか、」
「え、」
「本当に、」
 ランサーが重ねる。
「本当に、そうか、」
「―――。」
 意図を解せず言い淀んだ衛宮にランサーが続ける。
「アーラシュは、嘘は吐かない。だが、全てを言いもしない。四騎、ってのは何奴を指してる、」
「―――。」
 風が吹いた。蒼い髪が靡く。
「御前、アーラシュに何て言われたんだ、」
「何、って色々、」
 遙か上空では更に強く風が流れている。辺りの匂いが湿気を帯びている。何時の間にか雲の色が変わった。重たく暗い、灰色へと。
「初めて遭った時、何て言われた、」
「聖杯戦争に、加われと。望むにしろ望まざるにしろ、選ばれた、と。」
 雨が、やって来る。
「其の次は、」
「サーヴァント、を…、」
 其処で衛宮も気付いた。鋼色の瞳を見開いて、表情を強張らせる。
 ぽつり、と雨粒が其の肩に落ちる。
「召喚しろ―――セイバーかランサーが来る筈だから、と。」
 ぽつり、ぽつり。噎せ返る土と草木の匂い。
「セイバーは何処だ。
 バーサーカーはナルンで自爆した。ライダーはキャスターとアサシンに、キャスターはアサシンに潰されて、其のアサシンは今、俺達が叩き潰した。
 ―――じゃあ、セイバーは、」
 ランサーの視線の其の先で、ぐ、と奥歯を噛み締めている。
「アーラシュの言った四騎には彼奴自身が入ってない。抑も彼奴は彼奴を勘定に入れてないんだ。」
 ぱたぱたぱたぱた。髪が濡れるのを感じながら、ランサーは漸っと、嗤った。
「―――さぁ、四騎目がくるぞ。」
 其の、肩越し。丘の向こうへ続く農道を見詰めて、衛宮が表情を強張らせた。
 鋼色の瞳が真ん丸に見開かれている。
 ランサーが肩越しに振り返る。白い頬に雨粒が落ちて、流れ落ちる。
 赤い瞳が捉えたのは、ぽつり、と人影が一つ。
 其の人影が、そろり、と動いた。
 ぎょっと顔を引き攣らせてランサーが吠え立てる。
「出会い頭に宝具撃ってくる莫迦が居るかよ!」
 全力で結界を展開し、己の躰でマスターを庇う。
 しかし圧倒的な暴風の奔流に一人と一騎は容易く吹き飛ばされた。中空を軽々と舞った躰が煽られて、地面に叩き付けられる。
「がはっ!」
 呻くランサーの耳にゴッと鈍い音が届く。慌てて跳ね起きれば、庇い切れなかったマスターが頭部を強打し気を失っていた。余りの強風と、ランサーによって庇われたのが災いして上手く受け身を取れなかったらしい。
「おい!」
 らしくない悲鳴の様な声を上げてランサーがマスターに飛びつく。敵に背を向けるのも構わず、槍を放り出し両手でマスターの頬を覆う。白髪に指を差し込んで傷を探す。
 血は、果たして、流れていなかった。
「はぁあああああぁ…、」
と息を安堵の息を吐き出してマスターの肩口に顔を埋める。
 良かった、脳震盪で済んでいる。否、良くは無いが。良くは無いが、ランサーでも如何にか出来る程度だ。
 顔を上げて躰を起こす。胸板にマスターの頭を抱え込む。鋭い眼差しで睨め付けるは背後の人影。
 其の視線の鋭さとは裏腹に、甘く静かで蕩ける様な声で告げた。
「待ってろ、終わらせてくるから。」
 そっとマスターを己の外套で包み、横たえた。ゆらりと立上り様に戦装束へと姿を変える。
 一歩、前へ出る。同時に背後へ不退転が刻まれた。
 其の背に絶対を負って、ランサーは、不敵に笑んだ。
「久しぶりだな、セイバー。」
 ランサーの視線の遙か先、人影は静かに外套を脱ぎ捨てた。魔力で編んだ外套が風に靡いて消え失せる。
 編み上げた金糸の髪、可憐な細面。雨の滴で重たげに傾ぐ睫毛、其の下でひたりと見据える蒼い瞳。
 細い手には、隠しもしない神造兵器。
「――――。」
 正に、ランサーが彼の冬木で出会った騎士王であった。

<X-5W>


[出会い頭エクスカリバーからの→つづきます]

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