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【6/17新刊サンプル】FGO・HA時空 槍弓小説/Novel by 皐

【6/17新刊サンプル】FGO・HA時空 槍弓小説

10,298 character(s)20 mins

6/17 東3 S02a『rom』新刊サンプルになります!

「ディアスポラ」P40/500円

カルデアとホロウ時空の冬木を舞台にした、原作ベース槍弓の小説です。珍しくパロじゃない本です。
本文とサンプル内にFGOの第一部とホロウのネタバレがあるので未プレイ・未クリアの方はご注意ください。
特にFGO第一部に関しては最終章の重大なネタバレを含んでいます。
また、匂わす程度ですがキャス影弓要素があります。
色々なサーヴァントが槍弓に絡む構図が好きなので、ダビデやロビンフッド、ダヴィンチちゃんの出番が多めです。
以上が大丈夫な方はぜひ手に取ってみてください!

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 アーチャーのエミヤが突如カルデアから姿を消したのは、人理修復からわずか数日後のことだった。


 その日の朝。カルデアの要石、数多のサーヴァントのマスターである少年は、寝癖を直す間もなく着の身着のまま管制室に駆けこんだ。
「ダ・ヴィンチちゃん! エミヤが消えたって、どういう──」
 これまで数えきれないほどの修羅場をくぐり抜け、同じくらい多くの珍事にも遭遇してきた少年がここまで焦りを顔に出しているのは珍しかった。
 通信を聞いて駆けつけて来た彼を出迎えたのは、今ではカルデアの実質的な司令官となったレオナルド・ダ・ヴィンチと、早朝シフトの数人のオペレーターたちだ。
 マシュはいない。冠位時間神殿での戦いの後、彼女は一日の大半を主のいなくなった医務室で過ごしており、完全な復調にはまだ日数を必要としていた。
「やあ、来たね」
 ダ・ヴィンチは振り返って少年を迎え入れる。その完璧な美貌が常にない表情を浮かべているのを見て、少年は汗ばんだ掌をぎゅっと握りしめた。
「通信で伝えた通りだよ。アーチャー・エミヤの霊基が、突如消滅した。つい十五分ほど前のことだ」
「消滅って──カルデアから退去したってこと?」
 サーヴァントがマスターである少年に断りなくカルデアから退去した、あるいはレイシフトを行ったというならこれまでにいくつもの例がある。特異点でのトラブルに巻き込まれたり、あるいはサーヴァントがトラブルそのものになったり──事情は様々だが、いずれも異変を解決した後に彼らはカルデアに戻って来てくれた。
 今回もそういった事件なのだろうか。いや、そうであってほしい──と儚い望みを抱いた少年に、ダ・ヴィンチは首を横に振った。
「どうやら違うようだ。目撃者の情報によると、エミヤは己の意思とは関係なく唐突に姿を消したらしい。今オペレーター諸氏に確認してもらっているが、少なくとも彼自身の意思による退去、あるいはレイシフトが行われた痕跡はなさそうだね」
「じゃあ、何かのトラブルに巻き込まれた?」
 突如、なんの痕跡もなくサーヴァントがカルデアから消滅する。それが例えば謎多いアヴェンジャーであったり、気ままなライダー、あるいは捉えどころのないアサシンによる行動であれば、そういうこともあるだろうと納得していたかもしれない。
 だが、消えたのは赤い外套のアーチャーだという。
 まだ少年が人理を取り戻す戦いを始めたばかりの頃に召喚に応じてくれた、カルデアでも古参の英霊の一人だ。いかつい外見に似合わず世話焼きな男で、台所の守護者などと揶揄されるほど、日々のこまごまとしたカルデアの運営にも尽力していた。
「……今日は、ハンバーグを作ってくれるって言ってたんだ」
 世界を救ったという安堵と共に大きな喪失を抱えたマスターを甘やかすように、エミヤはここ数日、彼の好物ばかりを食堂のメニューに選んでいた。カルデアが解体される時には自分もここを退去するのだから、それまでに備蓄用にしていた食材を使い切ってしまいたいのだと言っていたが、それがもっともらしい口実であると少年は知っていた。
 翌日のメニューを約束しておいて、その日の朝にあの律儀な英霊がなんの挨拶もなくカルデアを去る訳がない。何より『消滅』という表現は不吉すぎた。
 少年は顔を上げ、強い瞳でダ・ヴィンチを見つめた。
「シバを使ってエミヤを探せないかな? サーヴァントがいなくなるのは珍しい事じゃないけど、エミヤがいきなり消えるっていうのはやっぱりおかしい気がする。もしかしたら、どこかの特異点みたいなところでトラブルになっているかもしれない」
「特異点、か。人理修復以前だったら私もその可能性を真っ先に考慮したが──」
 冠位時間神殿の戦いでゲーティアの試みは潰(つい)え、すべての特異点は解消した。そのはずである。
 ダ・ヴィンチはオペレーターが出した計測結果を確かめ、コンソールを操作しながら「ううん」と唸って美しい眉を寄せた。
「弱ったな。ロマニがいたら、一緒に検証できたんだが──」
 思わずと言ったように呟いてから、ダ・ヴィンチはぺろりと舌を出した。
「いっけない。天才にあるまじき弱音を吐いてしまった」
「ダ・ヴィンチちゃん……」
「どうも、不測の事態が起こった際に真っ先に狼狽してくれる奴がいないと私も調子が出ないようだ。とは言え、このまま手をこまねいているつもりはない。ちょっと待ってね。今これをこうして──」
 ダ・ヴィンチの指先が、鍵盤を叩くピアニストよろしくコンソールの上を優雅に行き来する。少年が見守る中、しばらくすると見慣れたマップ上に複数の点滅する光が現れた。
「これは……」
 ダ・ヴィンチの声にはわずかな驚きと、それまで以上に深刻な響きがあった。
 どういうこと? と目線で問いかける少年に、カルデアの技術顧問は思案を巡らせながら説明した。
「君の言う通り、シバでエミヤを探してみたんだ。ロマニと一緒に作った、サーヴァント追跡用のシステムを使ってね」
「そんなシステム、いつの間に作ってたの?」
「あの妙ちきりんなマンションでの事件の後に設計書を作り始めた。勝手にカルデアからレイシフトするサーヴァントがあまりにも多かったからね。しかし──これは、思っていた以上に特殊な事態かもしれないな」
 ダ・ヴィンチは世界地図の上に散らばった十ほどの点を睨み、数値を確認して指の甲を口元に当てた。
「この点滅している個所の全てに、エミヤの霊基と一致するサーヴァント反応が見られる。だが、一つ一つが異様に弱い」
「それって……エミヤがたくさんいるってこと? アルトリアたちみたいに、違うクラスで一斉に召喚されたとか?」
「いや、それにしてはこの霊基は弱すぎる。出力で言ったらシャドウ・サーヴァントのさらに十分の一もないくらいだ。まともな現界ではないね。おまけに、時折ノイズのようなものが混じって存在が消えたり戻ったりしているんだ。ほら」
 ダ・ヴィンチが指さした点が弱々しく点滅し、光が強くなったと思ったらまた徐々に小さくなっていく。
 その頼りないきらめきは線香花火を連想させ、少年は背筋がぞくりと震えるのを感じた。
「ウルクの時みたいに、魔力が濃すぎるところにいるから観測が途切れがちなんじゃ……」
「それはないね。エミヤがいる場所も時期もまちまちだけど、いずれも西暦以降の時代に現れている。シバの観測を妨げるような要素はないはずだ」
「それじゃ──」
「理由はわからないけど、彼はひどく弱体化した状態で時と場所をまたいで現界し──そして、消滅しかけている」
 ダ・ヴィンチの言葉を聞いて、少年は意を決した様子できっぱりと言った。
「迎えに行こう」
「マスター」
「レイシフトの準備をお願い、ダ・ヴィンチちゃん。どういう事なのかまるでわからないけど、このまま放っておく訳にはいかない」
 ダ・ヴィンチは眉を下げ、困ったような笑顔になった。
 彼女はマスターの為人(ひととなり)を熟知している。人理修復の旅の最中で、彼のこういう顔を何度も見て来た。見ず知らずの相手を助けるために幾度も己の身を危険にさらして来た彼が、深く固い絆を育んだサーヴァントを見捨てられるはずがないだろう。
(サーヴァントのために命を懸けるマスターなんて本末転倒の極み、ってのが魔術師の常識なんだろうけどね)
 そんな常識が一切通用しないのが、この少年なのだ。だからこそ人理を修復するというとてつもない偉業を成し遂げられたのだろう、とダ・ヴィンチは思う。
 それでも、彼女は小さく首を横に振った。
「ダメだ。君の気持はわかるが、カルデアの司令官代理として許可できない。少なくともあと数日の間はね」
「……それは、ドクターがいないから?」
「それもある。今のカルデアのバックアップ体制で、レイシフト中の君の安全を確保できる保証ができない。ロマニが抜けた穴をカバーするのに時間と人員が必要だ。加えて、人理焼却と同レベルの人類の危機が認められない事態において君が国連の許可なくレイシフトを行うことは、別の意味での危険も呼び寄せてしまうだろう。──あえてこう言わせてもらうよ。サーヴァント一騎のために、その犠牲は払えない」
 少年は唇を噛み、ダ・ヴィンチの顔から目を逸らした。
 彼女の判断はおそらく正しい。そして、他でもないマスターである少年とカルデアを守るための苦渋の選択であり、ダ・ヴィンチ自身もこの決断を心から良しとしてはいないと理解できるだけに、反論できる材料も理屈も出てこなかった。
 あるとしたら、たった一つだけだ。
「……それでも。誰かが、行かないと──」
 誰かがやらなければならないなら、そして自分にしかそれができないのなら、やるしかない。
 その思考、その思いを基幹として、彼はここまで歩いて来れた。数多の英霊たちや、カルデアのスタッフと共にだ。
「──君のそういうところ、同じサーヴァントとしては胸に迫るものがあるけどね」
 マスターを止めなくてはならない立場のダ・ヴィンチが、溜め息とともに代替案を口にしようとした時、管制室のドアが開いて耳に親しんだ声が響いた。
「そいつは、俺が請け負ってやるよ」
 振り返った少年が、驚きに目を見開く。
「兄貴……!」
 青い礼装に身を包んだクー・フーリンが、どこか彼らしくない渋面をこちらに向けていた。日頃、アーチャーのエミヤとは不仲で通っている彼の申し出に少年は目を瞬かせる。
「えっと……どうして兄貴が?」
 エミヤを助けるためにサーヴァントが協力してくれるのは正直ありがたい。しかも、ランサーのクー・フーリンはこれまで数々の苦しい戦いで殿(しんがり)を務め、起死回生の立役者になってくれた英霊だ。彼の助力は願ってもなかったが、エミヤのために自発的に名乗り出たのは意外だった。
 マスターの質問に、クー・フーリンは面白くもなさそうに肩をすくめて言った。
「野郎が、俺の目の前で消えやがったからだ」
「え──」
「エミヤの異変を知らせに来てくれたのは彼なんだ」
 ダ・ヴィンチが横から言葉を添える。
 クー・フーリンは高い位置にある腰に手を当て、複数の光が弱々しく点滅するマップを睨んだ。
「これが、奴の居場所か?」
「ああ。だいたいの話は、その便利なルーン魔術で聞いていたんだろう? 見ての通り、世界各地に散らばっていると言っていいだろう。おまけに時間軸もバラバラだ。これを一つ一つ探査するのは、かなり骨が折れると思うよ」
「一人でやったらな。他の連中にも協力してもらおう」
「他の、って?」
 少年の問いに、クー・フーリンはにやりと笑って答える。
「キャスターの俺と、ロビンフッド。それにアサシンのエミヤも引っ張り出してみるか。単独行動に長けていて奴と縁が深い英霊となると、まあこの辺りだろ」
「……アサシンのエミヤも?」
「ダメ元でな。まだカルデアに残っているくらいだ、奴(やつこ)さんもお前の頼みなら無下にはしないだろう」
「だといいけど」
 アサシンのエミヤとアーチャーのエミヤの間には踏み込んではいけない因縁があるような気がして、これまで深入りをしてこなかった少年はクー・フーリンの言動に再び驚いていた。彼は、こんなにエミヤについて詳しく知っていたのか。仲が悪いと互いに公言するわりに、一緒にいるところをよく見かけるとは思っていたが──
「アサシン・エミヤが引き受けてくれるかはわからないけど、頼むだけ頼んでみるよ。……でも、皆が手分けして単独でエミヤを探しに行くってことだよね? 俺も一緒に行かなくて魔力がもつかな?」
「その辺はうまくやるさ」
 あっさりと言い放つクー・フーリンに、ダ・ヴィンチが慌てた様子で口を挟む。 
「ちょっと、簡単に言ってくれるなあ。一応、サーヴァント単独のレイシフトも十分に異常事態、かつ禁止事項だということをお忘れなく」
「サーヴァントがカルデアから退去したって体(てい)にすりゃ、対外的にはなんとか誤魔化せるだろう。マスターを連れて行くより危険度も低い。魔力不足を補うために聖杯を一つ二つもらう事になるかもしれんが、あんだけ溜め込んでるんだから問題ねえだろ?」
 特異点を解消するたびに回収したいくつもの聖杯は、ほとんど手つかずの状態でカルデアに保管されている。
 少年は頷き、信頼を込めた眼差しでケルトの大英雄を見上げた。
「それでエミヤが助かるなら。──頼んでいい? クー・フーリン」
「おう。頼まれたぜ」
 これまで幾度も繰り返してきたやり取りだった。難敵と対戦した時、終わりの見えない連戦に心が折れそうになった時、いつも最後まで戦場に立って少年を守り抜いてくれたのはこの頼もしい英霊だったのだから。
 ダ・ヴィンチも二人のやり取りを見てここが落としどころだと判断したのか、仕方なさそうに溜め息をついた。
「まったく、私が天才だからって簡単に言ってくれる。……まあ、すでに君たちをこの座標に送り込む試算は始めているんだけどね。おそらく、なんとかなりそうだ」
「そうこなくちゃ」
 小さく口笛を吹くクー・フーリンの横で、少年はこれが何度目になるかわからない言葉を繰り返した。
「ありがとう。ごめんね、ダ・ヴィンチちゃん」
「いいよ、これが私の仕事だ。それに──きっとロマニがここにいたら、渋りながら同じ判断をしただろうしね」
 私は彼の代理だから、と笑う人類最高峰の天才に、少年は「うん」とだけ答えてコンソールの前の空いた椅子を見つめた。







「で? アサシンにはフラれたか」
「ああ。マスターが口説いたが、ダメだった。協力したいのは山々だが、今回は自分は役に立てないってな」
 レイシフトの準備が整うまでの間、クー・フーリンはキャスターの己と連れだってカルデアスの近くに位置に待機していた。
 キャスターはフードの下で「ふむ」と両目を眇めた。
「俺たちが思っている以上に、不自由なもんなのかもな。守護者って奴は」
「……お前、どう思う?」
 同じクー・フーリンという英霊の本体から分かたれた者同士、言葉にせずとも通じるものが多いのだろう。彼らの会話は端的で、傍で聞いていると他の人間にはわかりにくい場合も少なくない。
 キャスターはカルデアスの灯りを眺めながら、少し離れた場所で忙(せわ)しなくレイシフトの準備をしているスタッフたちやマスターに聞こえないよう声をやや落とした。
「お前の話を整理すると、こうだ。弓兵といつものようによろしくやっていた時に──」
「よろしくなんぞしてねえ」
 ランサーが間髪入れず否定すると、キャスターのクー・フーリンは雄弁な表情を浮かべた。が、声に出しては何も言及せず続ける。
「お前の目の前で、奴さんが消えた。霊体化の気配もなく唐突に」
「──そうだ」
「その直前の様子はどうだった? 何かおかしい点はなかったか」
「おかしいって言や、あいつはここに召喚されてからずっとおかしかっただろ」
「それ以外でだ。わかるだろうよ」
 ランサーはその時のことを思い出してぐっと眉根を寄せ、舌打ちせんばかりの顔で言った。
「あいつ、今朝に限ってやたら俺に優しくてな。それで、こっちもつい気が緩んじまって──お前とこんな風に過ごすのも残りわずかと思うと名残り惜しい、なんて事を口にしたんだが」
「素直じゃねえか、珍しく」
「俺はいつも素直だろ」
「で、向こうの反応は?」
「……ガキみてえに目を丸くしてから、俺に礼なんて言いやがった。調子が狂うからよせ、と言ってあいつに触れようとした時に、妙に慌てた風に俺の手を避けて──その次の瞬間にはもう、姿を消してたぜ」
 思い返すと、あの瞬間にエミヤは己の消滅──あるいは、強制的な転移の気配を悟っていたのかもしれない。いつになく慌てた様子でクー・フーリンを避けたのは、相手を巻き込まないための咄嗟の行動だったのでないだろうか。
 ランサーのクー・フーリンは横目でマスターを見やり、上体を寄せてキャスターの耳元に囁いた。
「マスターの性分をよく知ってるあいつが、こんな終わり方をテメェで選ぶはずがない。十中八九、アラヤの干渉ってやつだろう」
「同感だ。が、それにしたってこの散らばりようは異常だぜ。仮にサーヴァントでなく守護者として複数の時代に同時に召喚されたんだとしても、霊基がここまで弱まっていたら存続すら危ういだろうに」
 ダ・ヴィンチが映し出した、カルデアスをさらに手軽に投影した即席のマップ上では、十を超える光が今にも消えそうな弱々しさで点滅を繰り返している。
 ランサーはその中で唯一、他と比べてしっかりとした輝きを保っている光があることに気付いていた。
 場所は極東。2000年代初頭の、人理が修復されたことで復活した冬木市──クー・フーリンがキャスターではなくランサーとして召喚された、正規の第五次聖杯戦争の舞台となった街だ。
「こうして地図で見るのは初めてだが──やはり、ここが奴にとって最も因縁のある土地ってことか」
「そっちはお前に任せるさ。俺は、炎上した方の冬木に行ってみる」
 キャスターの言葉に、ランサーは訝しげに眉を寄せた。
「特異点の残滓がまだ残ってるんだったか。けど、あいつはそっちの冬木には現れてないだろ」
「本人はいないが、影がまだ残ってる。今回の件、真実に肉薄するより鏡映しで俯瞰した方が、より正確な像が見えてくるような気がしていてな」
「──戦士の俺には見えないものが、ドルイドを演じる俺には見えることもあるか」
 元は同一人物であり、当然ながら性格や嗜好、根本的な魂の在り方に差異はないが、ランサーとキャスターというクラスに当てはめられる事で同じクー・フーリンでも行動パターンや思考回路が異なっていることは自覚している。
 ランサーはキャスターの主張をこだわりなく受け入れて頷いた。
「それじゃ、回り道の方はお前に任せるぜ。俺は正面から行く」
「気を付けろよ。そっちの冬木は、お前にとっても因縁のある土地だ。余計なもんを拾わないようにな」
「おうよ」
 小声での会話がひと段落したところでタイミングよく管制室の扉が開き、新たに二騎のサーヴァントが姿を現した。
「おっと、旦那方。待たせちまったか?」
 クー・フーリンたちが揃っているのを見て、緑衣のアーチャー──ロビンフッドが飄々と声をかけて来た。
 彼はマスターから今回の件に協力を求められると、「あのナルシスト野郎を助けてやる義理はないんですがねえ」とぼやきながらもほとんど二つ返事で助力を承知してくれた。いわく、「またぞろどこかで再会した時のために貸しを作っておくのも悪くねえ」とのことだが、彼の面倒見の良さはすでにカルデアでは周知の事実だ。マスターたちの耳に、その台詞がいささか偽悪的に聞こえてしまったのはやむを得ないだろう。
 単独行動と隠密行動に長け、器用でよく気が回るロビンフッドは今回のミッションにはうってつけだ。
 しかし、彼の背後に続いて管制室を訪れた人物を目にして、クー・フーリンたちは揃って意外そうな表情を浮かべた。
「あんた……」
「やあ。事情は聞いたよ」
 柔らかくどこか軽薄な響きをまといながらも明晰な声音は、弓兵のサーヴァントとして人理修復の戦いに加わっていた古代イスラエルの王、ダビデのものだった。
 予想も期待もしていなかったサーヴァントの登場に顔を合わせるクー・フーリンたちに、ロビンフッドが説明する。
「アサシンの旦那には断られちまったんだろ? かわりと言っちゃなんだが、ダビデのおっさんが助っ人を申し出てくれてな。正直、この任務に適任かどうかはコメントを避けたいところだが──」
「心外な言われようだなあ。これでも弓兵クラスだからね、単独行動は得意な方だよ」
 ダビデの登場に気付いたマスターが驚きの声とともにこちらに歩み寄った。
「ダビデ? どうしてここに」
「無銘のアーチャーくんの捜索隊が組まれているんだろう?僕は志願兵さ。彼にはたびたび世話になっている身だし、同じ弓兵というよしみもあるしね」
「あんた、そんなふわっとした理由で自分から面倒ごとに首を突っ込むようなタマだったか?」
 キャスターのクー・フーリンが疑わしげに訊ねると、ランサーのクー・フーリンも鼻の頭にしわを寄せながら言った。
「地味な上に、危険な捜索任務だぜ。王様の期待に沿うような金目のもんは出てこないと思うが、いいのか?」
「美女との出会いもなしだ」
 同じ顔の二人に口々に確認され、ダビデはやれやれと大げさに落胆してみせた。
「君たち。さては僕のこと、儲け話と美女にしか興味を示さない業突く張りの王様だと思っているね。まあ、あながち間違ってもいないんだが──本来の僕は平和と協調を好む素朴な羊飼いだ。加えて今はちょっとばかりセンチメンタルな気分になっている。ここを退去する前に、困っている仲間を助けるくらいのささやかな善行を積みたいのさ」
「ダビデ……」
「無名くん──ロビンフッドと偶然そこで行き会ったのも、きっと天の主の御心だろう」
 マスターの視線を受けたロビンが、肩をすくめて答える。
「いいんじゃねえの。このおっさんは弁が立つが嘘は言わねえ。俺や、あの赤いのと違ってな」
「言えてる」
 訳知り顔で同意するランサーのクー・フーリンと、その隣で無言で片眉を上げてみせるキャスターの顔を見て、マスターの少年は心を決めたようだった。
「わかった。ダビデ、俺からも頼む。協力してほしい」
「ああ、任せてくれマスター。大船に乗ったつもりでね。それで──これが問題の霊基反応か」
 ダビデは目ざとくエミヤの霊基の在所を示すマップを注視し、点滅している光の一つを指さした。
「ここは、エルサレムの近くだね。こっちはベツレヘムかな。僕の生きた時代からは遠くかけ離れているけど、サーヴァントには地元補正のようなものが効くんだろう?」
「そりゃ、ダビデ王の知名度から言うと現在のイスラエルを中心とした中東ではまず敵なしだろうね」
 レイシフト準備の指揮を執っていたダ・ヴィンチが、マスターの背後からそう声をかけた。
「こちらの準備はほぼ完了だ。ダビデ王もメンバーに加わってくれるなら、一人あたり二か所から三か所を受け持つ計算になるね」
「なら、この二か所は僕が受け持とう」
 中東の二ポイントを指すダビデに次いで、ロビンフッドも声を上げる。
「なら、俺はここから始めようかね。王様や大英雄様と違って地元補正もクソもねえが、ヨーロッパの山奥なら動き方は心得てる」
 二人に続いてクー・フーリンたちも己の行先を口にした。キャスターの行先については、マスターは心配そうな顔をしたが何も言わなかった。彼が炎上した冬木に定期的に足を運んでいることは、カルデアでは公然の秘密なのだ。
「さて、では準備はいいかな?」
 ダ・ヴィンチの合図で、四騎のサーヴァントがそれぞれ位置についた。
「みんな、気を付けて」
 いつもは管制室で旅立ちを見送られる側のマスターが、初めて見送る側に立っている。信頼とわずかな不安とを込めてサーヴァントたちを見守る少年に、ロビンフッドは無言のまま飄々と、ダビデは悠然と頷いてみせた。
「待ってろよ、マスター」
「あいつを連れ帰ったら、マスターからも説教してやりな」
 ランサーとキャスターのクー・フーリンが言い置いた言葉を胸の中で転がしながら、少年は四騎のサーヴァントがカルデアから旅立っていくのを固唾を飲んで見守った。
『転送開始。サーヴァント諸君は、レイシフトが完了したらまずマスターとのパスを確認してくれ』
 ダ・ヴィンチの指示と合図に応じて、カルデア前代未聞のレイシフトが始まる。これまで、英霊が聖杯の力によってカルデアに侵入したり、あるいはカルデアから特異点にレイシフトしたりといった事件には事欠かなかったものだが、管制室の管理下でマスターなしのレイシフトが行われるのは初めてだ。
 ダ・ヴィンチが設計したシークエンスは滞りなく進められ、数十秒後にはすべてのサーヴァントがカルデアから姿を消していた。
「……いつも、こんな風だった?」
 緊張のせいかガチガチに固くなっていた肩の力を抜き、誰もいなくなったレイシフト後の空間を見つめて、少年がぽつりと呟く。
 カルデアの司令官代理は、何がと問い返すこともなく、微笑みと共に答えた。
「ああ、内心はね。無事にレイシフトが終わっても、その先で君の存在証明をしなくちゃいけないし、召喚サークルを設置する前にワイバーンだのなんだのが次々に襲いかかって来るし──あの小心者はいつだって心臓をバクバクさせながら、一瞬も気を抜くことなく勇敢に立ち向かっていたよ」
「そっか……」
 マスターは頷いて、頭上に映し出されたモニターを見つめた。
 エミヤの霊基を示す光のほかに、たった今レイシフトしたサーヴァントたちをモニターするマークが反映されている。ドクターが自分にしてくれていたのと同じようにできる自信はなかったが、それでも、今ここでできる限りのサポートをしようと心に決めた。


Comments

  • そー
    June 15, 2018
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