南海トラフに備える「通信の自衛」子どもたちが工場で体験する無線機かくれんぼ
南海トラフ巨大地震への備えが急務とされる和歌山県。もし、大規模災害でモバイルネットワークがダウンし、スマートフォンが「ただの板」と化してしまったら――そんな「通信の空白」に備えるユニークな試みが、有田川町で企画されています。子ども食堂の子どもたちが挑戦するのは、無線機(トランシーバー)を使った「かくれんぼ」。一見、単なる遊びに見えるこのレクリエーションには、実は防災士も注目する「有事のスキル」が凝縮されています。
「通信途絶」を想定したリアルな防災教育
防災の現場において、最も懸念されることの一つが「情報の分断」です。近年の災害でも、基地局の被災や通信集中による回線の混雑によって、SNSや通話が数日間にわたり制限されるケースが繰り返されてきました。
今回、和歌山県有田振興局と地元の製造工場が連携して企画した「トランシーバーかくれんぼ」は、まさにその課題に正面から向き合ったものです。「子どもたちが楽しみながら、いざという時の連絡手段としての無線機の特性に触れてほしい」という思いが背景にあります。
子どもたちは2チームに分かれ、広大な工場の事務棟を舞台に、鬼と隠れる側に分かれて競います。そこで必須となるのが、無線機を使った仲間との情報共有です。
概要
- 名称 工場でかくれんぼ in 和歌山アイコム有田工場
- 日時 2026 年 3 月 14 日(土) 10:00~12:00 (※報道受付は 9:30~)
- 場所 和歌山アイコム株式会社本社(有田工場)
- 〒643-0801 和歌山県有田郡有田川町大字徳田 1866-1
「見えない相手に伝える」難しさと重要性
防災士の視点から見ると、この試みには3つの重要な学習要素が含まれています。
- 交互通信のルールを学ぶ : スマートフォンのように双方向で同時に話せる「フルデュプレックス」とは異なり、多くのトランシーバーは、一人が話している間は相手の声が聞こえない「プレストーク」方式です。相手の話を最後まで聞き、簡潔に伝える。これは災害現場での無線運用における基本中の基本です。
- 現在地の「言語化」能力:「あっちにいた!」「こっちに来て!」では相手に伝わりません。「2階の会議室前に1人移動した」といった、具体的で客観的な状況説明が求められます。これは、避難時や救助要請時に自分の状況を正確に伝えるトレーニングに直結します。
- 不感地帯(電波の届かない場所)の把握: 建物の中や遮蔽物によって、声が届きにくくなる場所があることを体感できます。「少し場所を移動すればつながる」という経験は、実地でしか得られない感覚です。
子ども食堂支援から広がる「地域の防災力」
今回の取り組みは、単なる1日限りのイベントではありません。背景には「有田地域こども食堂支援ネットワーク」への寄付や継続的な支援があり、地域の居場所である「子ども食堂」を軸に、防災の輪を広げようとする意図が見えます。
「工場見学や寄付を通じて地域に貢献しつつ、まずは若い世代に無線機という選択肢があることを知ってほしい」と、主催者は語ります。和歌山県のような津波浸水想定区域を抱える自治体にとって、高台へ避難した後のコミュニティ維持や安否確認において、インフラに依存しない自前での通信手段を持つことは、地域全体の「生存率」を高めることにつながります。
まとめ:遊びが「生きる力」に変わる
「防災訓練」と聞くと、どうしても堅苦しく、子どもたちにとっては退屈なものになりがちです。しかし、今回のような「かくれんぼ」という遊びの延長線上にある体験は、子どもたちの記憶に強く残ります。
災害はいつ、どのような形でやってくるか分かりません。しかし、「あの日、トランシーバーで仲間と連絡を取り合った」という経験があれば、パニックに陥りそうな現場でも「代替手段がある」という心の余裕が生まれるはずです。
地域の企業が持つ専門知識を、子どもたちの「生きる力」に変えていく。こうした産官連携のモデルが、全国の被災想定地域に広がっていくことを期待してやみません。
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