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【倉本聰 ここだけの話 23】「一種のパクリはいっぱいありますよ」松本清張の小説がヒントだったり

メディア文化評論家
冬の富良野(筆者撮影)

脚本家・倉本聰さんと交わしてきた「ドラマをめぐる対話」を、取材ノートから再構成しています。


碓井 『優しい時間』(フジテレビ系)と同じ2005年、スペシャルとして放送されたのが『祇園囃子』(テレビ朝日系)です。京都の研究所に所属する主人公(舘ひろし)が、ミサイル防衛計画の中心にいた謎の男(渡哲也)の正体を探っていく物語でした。『北の国から』が好きな視聴者は、「これも倉本作品?」と驚いたかもしれません。
倉本 ヒントはね、松本清張の『球形の荒野』なんですよ。
碓井 あの小説は、戦争末期に祖国を破滅から救おうとする外交官の話でしたが。
倉本 ええ。僕は日活にいる時に脚色(原作小説の脚本化)っていう仕事をずいぶんやったでしょう? 原作をそれと分からないように換骨奪胎して、いろんなものを書いた。
碓井 先生の言い方で「脚本の技術者」になる修業をしていた時代ですね。

倉本 だから、元ネタが『球形の荒野』だって言っても分かんないと思う。
碓井 僕もあの小説は読んでいたのですが、まったく分かりませんでした。
倉本 そういう一種のパクリはいっぱいありますよ。『冬の華』(脚本・倉本聰、監督・降旗康男、1978年)っていう映画では、コッポラの『ゴッドファーザー』(72年)のセリフをいくつか、そのまま使ってます。
碓井 え!?、『ゴッドファーザー』ですか?
倉本 『冬の華』で、身内だったのに裏切った男が「長い付き合いじゃねぇか、見逃してくれねぇか」と懇願する。でも、ズドン!ってやられる場面があったでしょう?
碓井 あ、そうでした。
倉本 あそこはまったく『ゴッドファーザー』のセリフ。だから盗作なんです(笑)。
碓井 見た時にはそんなこと感じないですよ、すごいな。一度は先生の中を通過した言葉だからでしょうか。

倉本 でも、気づかずに引用してることもあってね。水木洋子さんが書いた『また逢う日まで』(今井正監督、50年)。僕はこれを16回見ていて、セリフはほとんど暗記してるんですよ。だから何かのはずみにそれがひゅっと出てきたりする。
碓井 でも、そういうものを“地下”に埋蔵してるのは脚本家にとって財産ですよね。
倉本 まさに財産ですね。若い頃、構成力が弱いって言われたんで、橋本忍さんや菊島隆三さんの台本を書き写す作業をずいぶんしたんですが、それが大きいかもしれません。
碓井 真面目に独習してらしたんですね。
倉本 ええ。他にも、こんなことをやったなあ。たとえば、4人でする会話。リズムだけで書いてると全部自分のセリフになっちゃうんですよ。
碓井 4つの別人格であるはずなのに。

倉本 それで字を変えてみようと思って。
碓井 書く時の字ですか?
倉本 ひとりは右肩上がりの字、2人目は右肩下がりの字、そして細長い字や丸い字も使って4人の会話を書いてみる。
碓井 人格の違いを字で出すんだ。
倉本 色鉛筆で分けてみたりもしました。そういう独学をやったのが30代ですね。
碓井 それは効きそうです。確かにひとりの脚本家が書くわけだけど、物語の中では別々の人間ですもんね。
倉本 かなり勉強になりましたよ。

(次回に続く)

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ありがとうございます。
メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術選奨」選考審査員(2025年度、18年度~20年度)、「芸術祭賞」審査委員(22年度)。

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