お話を伺ったみなさん
桜井政博さん (写真中央)
『カービィのエアライダー』ディレクター。「星のカービィ」シリーズ、「大乱闘スマッシュブラザーズ」シリーズ、『新・光神話 パルテナの鏡』などを手掛ける。
岩垂徳行さん (写真右)
作曲家。代表作は「グランディア」シリーズ、「LUNAR」シリーズ、「大乱闘スマッシュブラザーズ」シリーズなど。
担当曲:発表ムービー/流星の路/流星の路:蒼枯/流星の路:蒼/エアトピア/クリスタ/マシーンガスト/サイベリオ/スカイア/スカイア(裏)
酒井省吾さん (写真左)
作曲家。『カービィのエアライド』、『MOTHER3』、「大乱闘スマッシュブラザーズ」シリーズなど、多数のゲーム作品を手掛ける。
担当曲:フラリア/ダグウォータ/ケイビオン/フォーリス/ギャラクティック・ノヴァ
『カービィのエアライダー』の楽しさを引き立てる存在として欠かすことのできないのが、多彩な楽曲の数々です。それらは、いったいどのように作られたのでしょうか?
ディレクターの桜井政博さん、本作の顔とも言えるメインテーマ『流星の路』などを作曲した岩垂徳行さん、『フラリア』などおなじみの楽曲を作った酒井省吾さんに、制作当時のことを思い出してもらいながら、たっぷり語っていただきました。
前編では、みなさんの出会いから、今回『カービィのエアライダー』の制作に参加することになった経緯、実際の作曲がどのように行われていったか? といったテーマを中心にご紹介します。ぜひ最後までご覧ください。
CHAPTER 1ふたりの作曲家の共通点と“必殺のメロディー”
最初に、みなさんのご関係について教えてください。『カービィのエアライダー』の前にもいろいろな作品でいっしょにお仕事をされてきたのですよね?
桜井
酒井さんはハル研究所(※1、以下“ハル研”)に勤めていたときにいっしょに仕事をしましたね。最初に手掛けたのは『スマブラDX』(※2)だったと思います。前作『カービィのエアライド』も手がけられています。岩垂さんは『スマブラX』(※3)からで、『新・光神話 パルテナの鏡』(※4)では『星賊船』や『ハデスのテーマ』など、大事なところを担当してもらいました。そして、今回の『エアライダー』に至ります。……ちょっとはしょりすぎかな?
※1 「星のカービィ」シリーズなどを手掛けるゲーム開発会社。桜井氏、酒井氏ともに同社に所属していた。
※2 2001年11月発売のニンテンドー ゲームキューブ用ソフト。「大乱闘スマッシュブラザーズ」シリーズ第2作。
※3 2008年1月発売のWii用ソフト。「大乱闘スマッシュブラザーズ」シリーズ第3作。
※4 2012年3月発売のニンテンドー3DSソフト。3D立体視を導入したアクションシューティング。
酒井
じつを言うと、僕がハル研に入る前の1995年に、『オーケストラによるゲーム音楽コンサート5』の招待状を桜井さんに渡しているんですよ。
桜井
そんなご縁があったのですね。
酒井
そして桜井さんは、そのコンサートで『ドンキーコング』の曲をオーケストラの演奏で聴いたことが、後に『スマブラDX』でオーケストラをやりたいという話につながったのかな、と思っているんですけど。
桜井
確かに、一因ではありますね。
岩垂
僕のほうは、『スマブラ』や『カービィのエアライド』を子どもたちといっしょに遊んでいたら、なんと『スマブラX』の楽曲制作の話をいただいて。そこで初めて桜井さんと会いました。
仕事を進めていくうちに、「桜井さんってゲームに対してとても真摯な人だなぁ、そして音楽もすごく好きなんだなぁ」と思いまして、『新パルテナ』が終わった後に、『逆転裁判』(※5)のオーケストラコンサートに誘ったんですよ。
酒井さんとの出会いは『スマブラX』のときが最初ですが、しっかりとお話できたのは2008年の“PRESS START”(※6)ですね。そのときに酒井さんがスコアを見てくれたのですが、意図的になんだけれど、僕がヘンな譜面の書きかたをしていまして。それを見て、「これはダメだよ、譜面をパッと見て演奏できない」って言われたんです。
※5 2001年発売の法廷を舞台にしたバトルアドベンチャーシリーズ(発売:カプコン)。岩垂氏は、同シリーズの楽曲を手掛けている。
※6 2006年から2015年まで毎年開催されたゲーム音楽コンサート。
酒井
いえ、指摘というわけではなくて、あのときは「リハーサル時間が少ないので、初見で演奏できるのはこういう表記では?」と提案したつもりだったんですが(笑)。
岩垂
でもそれらのことを経て、おふたりといっしょに遊んだりするようになりました。
長いお付き合いで、お互いのことは理解し合っているご関係なのですね。そんな中で、今回『カービィのエアライダー』を制作するにあたり、楽曲制作を酒井さんと岩垂さんに依頼した理由を教えてください。
桜井
ふたりには、共通点がいくつかあると思っています。まず、オーケストラに精通している。自分で譜面も書ける。指揮もできる。そして、明るく勢いのあるオーケストレーションが得意であること。
『エアライダー』は、言ってしまえばレースゲームとも言えるわけだから、音楽をユーロビート系、フュージョン系にすることもできました。だけどそうではなく、オーケストラで楽曲を聴かせることを大前提として、それを軸に音楽に振り幅を持たせることを考えたときに、ふたりが最適だろうと思ったんです。
依頼をするときに、おふたりにお伝えした本作の音楽のコンセプトを教えていただけますか。
桜井
全体に及ぶいちばん大切なコンセプトは、まず「子どもにも歌えるようにする」でした。『スマブラ』でも『カービィ』でも似たようなことをずっと話しているのですが、子どもが歌えるようにするというのは、【わかりやすい】、【メロディーが気持ちいい】、【簡単に歌える】など、いろいろな意味が含まれます。
そして、今回『エアライダー』で初めてお願いしたのは、【必殺のメロディー】を入れることでした。レースゲームは、コースをパーッと走って終わってしまうものなので、1回コースを走っただけでも二度と忘れられないぐらいのメロディーを必ず入れ込みたい、と。
最近は、ゲーム音楽が環境音に比較的近くなることで、風景になじんだ曲になっていく作品が多くなっています。でも『カービィのエアライダー』はそれとは違う方向性で、ちゃんと音楽を引き立てて、それがゲームも引き立てて、お互いの相乗効果でいい体験をしてもらうことを大切にしました。
酒井
最初にお話をいただいたときは、タイトルを伏せられた状態でしたね。
岩垂
ああ、僕もいっしょです。
酒井
だけども、ピンときました(笑)。当時、桜井さんは、ハル研時代の僕のメールアドレスに仕事の依頼を送ってくれたらしいのですが、僕はハル研をすでに辞めていて、アドレス不明でメールが戻って来たそうです。その後、別の方を経由して「桜井さんがコンタクトを取りたがっているから、こちらにメールしてください」と連絡が来て、その時点で「あ、『エアライド2』だな!」と(笑)。
というのは、いつもNintendo Directの配信が終わるたびに、あの盛り上がりを見ていたら、「つぎは『エアライド』の続編だろうな」と思っていまして。でも仕事の依頼が来たときには、桜井さんは一切タイトルを口にしませんでしたね。
岩垂
僕もタイトルを伏せられていたのですが、そこはあまり気にしていなくて、「何だろう?」という楽しみのほうが強かったです。その後『エアライダー』であることを教えてもらったときには、「おっと、前作を遊んでるぞ!」となって、うれしかったですね。
桜井
秘匿だから、話を持ちかける時点では言えないんですよね。
岩垂
すごい厳戒態勢でしたよね。
酒井
だから、タイトルはぼかされながら、打ち合わせ場所に向かいました(笑)。でもやっぱり、『カービィのエアライド』は桜井さんとハル研でいっしょにした最後の仕事ですから、僕の中ではすごく大きい作品ですね。
岩垂
最初に『エアライダー』が発表されたとき(※7)も、自分が作った曲が流れているのに、家族にも言えず、息子たちも知らず……。発表があったときは、ひとりでニヤッとしていました。
桜井
でも、ゲーム開発においては、それが普通ですよね。だいたいがそうです。
岩垂
知り合いの子からも、「『カービィのエアライダー』が出るんですよ!」と言われても、「そうだね」以外何も言わずにいたのですが、そうしたらその後、「大人は騙すんですね」と言われました(笑)。
桜井
こういうエピソードはスタッフからもいろいろ聞きました。やはり自分たちが思っているよりも『カービィのエアライダー』を知っている人が多いんだな、と。
岩垂
じつは、カービィの星形の小さなキーホルダーを鞄に付けていたのですが、この仕事が始まってから外したんですよ。
酒井
そこまで徹底していたんですね。
岩垂
もう付けてもいいかなとも思いますが、いまから付け直すのも恥ずかしいみたいな……。
桜井
確かに、自己アピールが強い人みたいになっちゃいますね。
岩垂
ですよね。だからやめておきます(笑)。
CHAPTER 2何度も修正して完成曲へ。ただし一発オーケーだった曲も?
曲の発注は、実際どのように行われたのでしょうか。
桜井
エアライドモードのコースは、コースごとにそれぞれ特徴に合わせた曲が必要になりますが、そこで非常に迷ったのが、既存の音楽などのサンプル曲を目指す方向性の例として出すか出さないか、ということでした。
この件は自分のチャンネルの中(※8)でも説明をしているのですが、例として挙げた曲の偽物になってはダメだし、ディレクターと音楽家、もしくはその片方が、その音楽に支配されてもダメなんです。
※8 YouTubeの「桜井政博のゲーム作るには」で公開中の動画、「他の曲を例に挙げる場合 【サウンド】」。
ディレクターが「このイメージの音楽しかない」と思い込んでしまうと、それ以外はみんなダメということになりかねないですし、音楽家に「これみたいな曲を作ってくれない?」とお願いするのも失礼ですよね。でも、一方でものすごくストレートに方向性を示してくれるものでもあると思うんです。
ですので、最初にふたりに「サンプルの音楽は必要ですか?」と聞きました。結果的にふたりとも「必要」と言ってくれたので、わたしがそれぞれのコースに対し、曲の雰囲気が合うと思われる複数のサンプル曲を紹介しました。そして、コースの全容やコンセプト動画などを見せたうえで、「サンプル曲から共通点を見つけて、その共通点に近しいものを作ってください」というオーダーをしています。
となれば、ある程度イメージ通りのものが仕上がってくると思いますよね? ところが、それがまただいぶ違う形に……。
酒井
あ。『ダグウォータ』の話が出たらイヤだな……。
桜井
はい、『ダグウォータ』の話をします(笑)。
『ダグウォータ』
桜井
今回は最初に、ラテンっぽいトロピカルなムードな曲はやめよう、という話をしていたはずなのですが、上がってきたのはまさにラテンっぽい曲でしたよね。
一同
(笑)
桜井
ハードロック調のサンプルを紹介しているのに、明るい感じの、違うテイストの曲が上がってきたので、わたしとしてはとても困るわけです。とはいえ、いったん受け取った曲は、「これではダメなのか?」と審査はするんですよ。「『カービィ』の世界だから、明るい感じでもいいのかも?」などといろいろ考えたうえで、「やっぱりダメ」となりました。
酒井
じつは『ダグウォータ』の曲はサンプル曲を聴かずに作ったのですが、まんまとハマってしまいました。
実際に紹介されたサンプル曲は、どんな部分を参考にしているのでしょうか。
岩垂
僕らが参考にするのは、テンポ感と雰囲気ですね。
酒井
そうですね。あとは楽器。
岩垂
どんな楽器を使っているのか、というぐらいですよね。メロディーは似せちゃうとダメだから、逆に違うものを作ります。
酒井
あと、なるべく聴くのは1回きりにする。
岩垂
僕も1回ですね。作るときにはいったん忘れないとダメだから。
桜井
なるほど。やっぱりそこらへんは、デリケートな問題なんですね。
曲の担当はどのように決めたのでしょうか。
酒井
最初に8コースあって、桜井さんから「担当曲はどうしますか?」と聞かれました。そこで 僕から「決めていい?」と岩垂さんに伺ったあとで、『フォーリス』、『ダグウォータ』、『ケイビオン』、『フラリア』を選びました。
岩垂
僕は何でもよかったので(笑)。残った『エアトピア』、『クリスタ』、『マシーンガスト』、『サイベリオ』ですね。
酒井
スタッフからは、「酒井さんは自然系・生楽器系のものを、岩垂さんは、エレクトロ的な打ち込みのものを選んだんですね」とは言われました。ただ、岩垂さんが担当した『マシーンガスト』は、当初はエレクトロをイメージしたかもしれないけれど、結果的にはオーケストラサウンドになりましたね。
桜井
『スマブラ』を作るときもそうでしたが、基本的にやりたい人がやりたいものを選ぶ形にしています。
酒井
僕がその4つのコースを選んだのは、やはり前作の『カービィのエアライド』の雰囲気を持ち込みやすいと思ったからです。
桜井
確かに全体的にナチュラル系かもしれないですね。まぁ、『ダグウォータ』はコンセプト違いでしたが(笑)。
つぎに『ケイビオン』ですが、この曲はオーダー時には「民族音楽で行こう」という話をしていて、サンプルには原始的なドラムのループみたいな曲などを紹介しました。部族を感じさせるような野性味のある雰囲気をイメージしていたのですが、酒井さんが作った曲は、わりと整ったものになって。
それはそれでよいところなので残しておきつつ、曲の後半に、笛で民族楽器らしさを表しました。この笛は、収録のときにアドリブで3回吹いてもらって、いちばん“きちんとしていない”、アドリブ感あるものを選んでいます。
『ケイビオン』
酒井
僕としては、笛は別のテイクのほうがいいと思ったのですが、桜井さんはぜんぜん違うのを選びましたね(笑)。
桜井
酒井さんが選んだものが、曲的に正しい、節として合っているというのは非常によくわかります。それもそれで価値のひとつではあるのだけど、このコースには先住民族みたいな人がいて、なんとなく出鱈目に音を鳴らしている印象が、もっと強くほしかったんです。
岩垂
この笛はもちろん即興で、そして笛自体も演奏家の方が作ったものだそうです。竹を育てて、大きくなるのを待って、切ってからもずっとゴロゴロと転がしながら竹が落ち着くのを待っていたそうです。
桜井
続いて『エアトピア』。これは、候補を3曲用意してくれたんですよね。どれも非常にいい曲だったのだけれど、採用しなかった曲は爽やかな感じで、ステージのイメージには合わないものでした。
エアトピアは“もともと空に住んでいた王族がいて、驕りによって廃墟になった”という背景を持たせているので、観光地ではないし、爽やかなイメージの場所ではないんですよね。だから、中世オーケストラ調をもとに、もっと退廃した感じを出したかった。ですので完成版の『エアトピア』は、どちらかというと空寂しい雰囲気に寄せています。
『エアトピア』
それぞれのボツテイクに対しては、とても申しわけないとは思っているんですよ。だけどステージ制作というのは、そのひとつひとつが、何十人ものスタッフがコンセプトアートからモデル、配置、コースの妥当な長さなどを決めたり、仕掛けを作ったりして、1年から2年もかけて作っているとても大きなプロジェクトなんです。それに比べると、楽曲はまだ、やり直しがしやすいものではあるので。
岩垂
まだひとりの修正で済みますからね。
桜井
曲を発注する段階までにしっかりとしたものを作っておいて、それを見てもらっておくことで、グラフィックとサウンドが両輪になり、気持ちのいい雰囲気を体験してもらえるものができるのだろうと。そのために、上がってきた楽曲に対しては、毎回「これでいけるだろうか?」と自問自答しながら、泣く泣くNGを出しているわけです。
そのほか、楽曲制作時に桜井さんから言われたことはありますか?
酒井
手帳にメモしてありますが、桜井さんは最初に「1分15秒程度の曲を作ってもらえればコースとして最適だろう」と言っていましたね。
桜井
1周が前作よりもちょっと短いぐらいが、ちょうどいいと思って作り始めたはずなのだけれど、じつはコースを作っているときにスタッフが張り切ってしまって、むしろ長くなってしまいました(笑)。そのぶん、コースが多彩でおもしろくなりましたが。
オーダー時点で、桜井さんの中に、楽曲に対してかなりしっかりしたイメージがあるのですね。
桜井
念のため言いますと、そのイメージから外れるとダメという話ではないんです。曲とステージが合わさったときにユーザーが気持ちよく感じられるかが大切なので。
岩垂
桜井さん、固まっているようで、意外と固まってないですよね(笑)。
酒井
そうそう。イメージと違う曲を出しても、ちゃんとそれを考えてくれるから。
岩垂
だから、あえて狙って違うイメージを提案することもありますね。
桜井
とにかく岩垂さんは手数が多いというか、先ほどエアトピアの曲を3つ上げてきたと言いましたが、メインテーマも3つ上げてきてくれました。
指定したコンセプトとは違うけれど「これはいいな」と思ったものは、具体的にはどの曲でしょうか?
桜井
たとえば、『サイベリオ』ですね。最初からテクノ調で行くことではまとまっていたのですが、最初に上がってきた曲には【子どもが歌えるメロディー】や【必殺のメロディー】と言えるようなフレーズがなかった。ずっとくり返しになるだけだったので、メロディーを付け足してもらいました。
ここなんですけど……。
『サイベリオ』
岩垂
じつはここ、「エアライダー! エアライダー!」って、曲に歌詞を付けて歌っていたんですよね。
桜井
「“エアライダー”と歌詞を入れるのはどうか?」と提案されましたね。結果的には『カービィ』の世界に具体的な英語が入るとおかしい、ということでやめたのですが。
歌は強すぎるから問題で。単体で聴くといいけれど、たとえばシティトライアルなどではとくに、いろいろなことが同時に起こるゲームなので、その歌がノイズになってしまうことが多い。『サンドーラ』のコーラスとか、そういうのはいいんだけれど、歌そのものをBGMにするのはきびしいな、と。
「ありかもしれない」と迷いましたが、メロディーがいいというだけですぐ飛びついてしまうと、後々ほかのコースとの兼ね合いも考えないといけないので。頭で何度も何度も反芻して……やはり誰も介在しない謎の空間であるはずなのに、DJがいるかのような、誰かが制御しているものになってしまうのは違うなと、諦めました。
酒井
桜井さんが、“曲の最終形がかなり見えているけど柔軟性がある”というのは、確かにそうだな、と曲を作っていて思いました。
桜井さんのディレクションで特徴的なのは、すごく端的な言葉で、短くリテイクなどの指示を出せるんです。それはもう本当に迷いがなく、早い。ディレクターとしてたくさんの監修が溜まっているはずなのに、順番通りにすぐ戻ってくるんですよ。
1日4回ぐらいリテイクをしたことがありますが、曲作りの最終盤のタイミングで4回リテイクを回せるのは、すごいですよね。曲作りに頭が集中しているときにリテイクの指示をもらえたら、「あ、あそこを直せばいいんだな」とすぐにわかって直せますから、本当に助かります。
桜井
酒井さんのお返事は、ものすごく朝早いときがありますよね。朝5時とか(笑)。
酒井
午前2時から6時までが僕のゴールデンタイムなので、朝のほうが集中できるんです。
桜井
それで自分も、通常業務の始業前に返しています。
酒井
僕は桜井さんの生活を知らなかったのですが、始業前にメールをチェックして、返せるものを返しているんですか?
桜井
時間って大事ですからね。その人たちを待たせている時間で、それだけでもうプロジェクトがロスしていると思っているので、なるべく急いで対応しています。
酒井
ありがたいです。ディレクターの中でもとくに、端的にわかりやすく、はっきりと短い言葉で決めて出してくれるのが、桜井さんの特徴だと思います。
桜井
「どっちがいいか迷っているんです」なんて返事が来たら、「それを決めるのはディレクターの仕事では?」ってなりますよね(笑)。
酒井
いや、でもそういうふうにして進める仕事も多いんですよ(笑)。
岩垂
僕らは、いろいろな人と仕事をしていますけど、桜井さんは、指示がとにかく早いですし、的確で、すぐ来る。で、ブレない。
酒井
もうひとつの特徴として、今回のサウンドの監修は、僕たちふたりを含めたメーリングリストで行っています。ですから、岩垂さんの作った曲の何がよくて、どこがダメだったのか。曲作りでどんな相談をしているかを、僕も知ることができるんです。
ですので、「岩垂さんの曲のあの部分が突っつかれたから、じゃあ僕は気をつけよう」みたいなのも学べるんです(笑)。
桜井
『スマブラ』を作ったときは、非常に多くの人が楽曲制作に関わっていたので、いったんサウンドディレクターを通して自分のところに曲が来ていました。だけど今回は、直接的にやり取りをしています。そのぶんけっこうたいへんでしたが、お互いに見通しをよくしたほうが、絶対にうまくいくし、早いんですよ。
酒井
楽曲も聴ける状態だったし、岩垂さんの手の内もスピードも、全部見えていました(笑)。
岩垂
でも僕、じつは酒井さんの曲をあえて聴かないようにしていたんです。
酒井
あ、そうなんですか?
岩垂
絶対影響を受けるので、レコーディングまでは聴かずに進めました。
桜井
わかるなー。
酒井
なるほど! なんか反応薄いなー、と思っていたんですよ(笑)。
岩垂
すみません。
ちなみにリテイクの回数は、最多でどれくらいありましたか?
酒井
僕は11回が最多だったと思います。曲は『ギャラクティック・ノヴァ』ですね。
桜井
『ギャラクティック・ノヴァ』は、2パートありますもんね。実質2曲分で。
酒井
桜井さんは『星のカービィ スーパーデラックス』(※9)の曲をアレンジするとなると、こだわりがあるのか、リテイクが多くなるんですよ(笑)。ノヴァの体内に入ってからのところで、『星のカービィ スーパーデラックス』と同じ曲の『VS. マルク』を使っているのですが、そこにけっこう時間がかかりました。
※9 1996年3月スーパーファミコンで発売。桜井氏がディレクターを務める
『ギャラクティック・ノヴァ』
桜井
こだわるというか、自分が言わなくても、原作ファンのユーザーが怒りますからね。
酒井
ユーザーの気持ちを思ってのことなんですね。
桜井
そうです。未発表の曲だったら、いくらでも変えていいですけれど。もうすでにあるものは「それしかない、もうほかのテイクは知らない」ことを前提に作らなければならないので。
酒井
寄りすぎたら逆に原曲と近すぎる、というご指摘もいただいて(笑)。
桜井
原曲と近いというよりは、原曲のままだとその状況に合わない場面だということですね。原曲そのまま流せばいいのだったらそのまま使いますが、やっぱり目的があるので。
酒井
それと、じつは曲を作るときに、「『VS. マルク』のメロディーのかけらを入れてください」という形で発注を受けたのですが、僕はオリジナルの曲を作るつもりで、ひとまず仮当てとして原曲フル尺耳コピしたものを入れたんですよ。そうしたら桜井さんが「意外と合っている」と言ってくれて(笑)。そのまま作ることになりました。
桜井
ただ、そこで11回リテイクが起こったかというと、そうではなく、『ギャラクティック・ノヴァ』の曲は前半と後半が大きく分かれているんです。それで、その前半と後半も合わせて11回。ボリュームが大きいから、そのぶんリテイクも多かった。
酒井
そうですね。ボリューム自体が大きくて。それと“グラインドレール”をどう処理するかについて、僕のほうからいろいろアイデアを提案して、バンダイナムコスタジオのスタッフさんが試しに作ったものを作り直したり。もともと手数として多くなりがちなところだとは思います。
桜井
じつはだいたいのコース曲は、何となく【1周=曲の長さ】になっています。でも『ギャラクティック・ノヴァ』は前半と後半に分かれるので、その常識もまた異なるし、前半のループと後半のループのあいだをつなぐ必要があるという特殊性もありましたね。
岩垂さんは、桜井さんの監修の中で印象深かったことはありますか?
岩垂
僕も、一発でオーケーだったのはテーマ曲くらいで、それ以外はあまりなかったと思います。
桜井
二発でオーケーはぜんぜんありましたよ。
岩垂
『マシーンガスト』も最初はぜんぜん違うのを作って、その後、思いっ切り「えーい!」と方向転換して作ったら……。
桜井
それがよかった。
『マシーンガスト』
岩垂
僕の中で、「オーケストラでやっていこう」というのが見えてきて。あとはもう、ガシャ、ガシャ……と、蒸気の音などをいっぱい入れて、楽しい曲になればいいかなと。
桜井
最初に鉄を叩くような音などが入ったサンプル曲を紹介したのですけど、最初に上がってきた曲には一切入っていませんでしたよね。
岩垂
SE(効果音)として入れるのかなと思ったんですよ。音楽の中にSEを入れると、効果的でないところでも鳴ってしまうのはいけないんじゃないかと思って、あえて入れなかったんです。
桜井
そうでもないんです。
岩垂
そうでもなかったですね(笑)。意外と入れたほうがよさそうだな、と入れさせていただきました。
(後編は後日公開予定です)
『Nintendo Music』に『カービィのエアライダー』の楽曲が追加
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