マンガワン『厭談夜話』読者の皆さま
私が怪談原作をつとめる漫画『厭談夜話』の連載について、この度の一連の出来事を受けマンガワンでの掲載中止を申し入れました。
サンデーうぇぶりでの本作の連載はいましばらく継続いたしますので、当面はそちらをご覧いただければ幸いです。
そして被害に遭われた方々には、どのような言葉を申し上げればよいのかもわかりません。少しでも事件で受けた傷が癒えていくことを祈るばかりです。
性犯罪は、被害者にとって「魂の殺人」と言うべき下劣で残酷な犯罪です。加害者は償ったつもりでいても、たとえ法律上は終わったことだとしても、被害者の心には生涯癒えない傷が残ります。
今回のことで苦しみが再燃しているであろう被害者やご家族の気持ちを考えると、マンガワンに少しでも関わりのある作家としては非常に胸の痛む思いです。
先日、山本章一氏が別名義の一路一氏としてマンガワンで原作をつとめていた件が発覚した時は、まだ掲載を取り止めようと思っていませんでした。
山本氏の行為や別名義の連載に嫌悪感は抱きましたが、あくまでも一人の作者と一人の編集者が引き起こした「個人的な行い」だと感じていたので、そうした個人の愚行のせいで、多くの作家や読者が巻き添えになるのはおかしいと感じて、掲載取り止めは考えませんでした。
ただ昨日、もう一件同じような出来事が発覚しました。過去に性犯罪をおかしたマツキタツヤ氏が、別名義の八ツ波樹氏として原作者となり、新たに漫画連載をしていたのです。
本件は編集部から氏に声をかけ、作画担当の先生にも事情を説明して了承をとっていた経緯から、編集部主導で行われていたとしか思えません。こうなると個人の範疇を超えて、「組織としての行い」だったと考えざるをえなくなりました。
こうした経緯から、私は現状、マンガワン編集部に不信感を抱いてしまっております。大変悲しいことですが、このような心情で作品掲載をお願いすることは不可能だと思うに至り、漫画を担当する外本ケンセイ先生の了承も得て、この度、『厭談夜話』のマンガワン掲載取り止めを小学館に申し入れさせていただきました。
本件について、ネットでは様々な意見が飛び交っておりますが、そうした中に「犯罪者の社会復帰は許されないのか」というものがあります。
当然、犯罪者の社会復帰はあってしかるべきですが、その際に最も配慮するべきなのは、「被害者の感情」だと思っています。
加害者にとっては終わったことでも、被害者にとっては一生終わらないことはたくさんあります。
これは深く心を傷つける性犯罪であればなおさらですし、その被害者感情をないがしろにして行われる社会復帰など、本来あってはならないことです。
ですから性犯罪をおかした人間が、表現者として堂々と人前に出たり、何事もなかったかのように作品を世に出すことは、単なる社会復帰では片付けられない、本来は控えるべき行いです。何より本当に罪を悔いているなら、そのような堂々と被害者感情を踏みにじる行為はしないはずです。
今回のことについて言えば、まずは被害者側の許しと了承を得たうえで、元の名前のままで連載を開始し、読者の意見を仰ぎながら掲載を進めるのが唯一の方法だったように思います。
でも編集部は、被害者には了承を得ず、名前を変えて何事もなかったかのように復帰させるという、被害者感情をないがしろにする行為を二度も選択してしまいました。
もし被害者が知らずのうちに作品を読んで楽しんでいたら、そして後に加害者の作品だと気づいたとしたら、それはあまりに残酷です。編集部はそういう可能性を少しでも考えたのかと、疑問に思わざるをえません。
多くの場合、社会復帰をめざす元犯罪者は、本名のまま、常につきまとう過去の犯歴を背負いながら生きていきます。背負う罪の重さによって生きる辛さも増していきますが、それもまた、社会復帰において果たす責務ではないでしょうか。
犯罪や過去をなかったことにして、被害者感情を軽視して、別名義で作品を世に出すことを「良し」とした作家と編集部の判断は、私には受け入れられるものではありません。
これは被害者だけではなく、自身の罪を悔いて、真剣に社会復帰をしようとしている多くの方々にも失礼な行為です。
以上、私の考えを書かせていただきました。
マンガワンで『厭談夜話』をご愛読くださっていた皆さま、これまで誠にありがとうございました。掲載中止を申し入れたことをどうかお許しください。本当に申し訳ございません。
そして最後に、ひとつ。
多くの漫画家の皆さんには生活がありますし、すべての作品は作家の命です。今後も掲載を続ける作者や作品を責めるようなことは決してなさらないようお願い申し上げます。
夜馬裕