うんこたろう   作:三流FLASH職人

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第一話 ウンめいの出会い 

 2024年12月。東京にて。

 

 クリスマスセールで賑わう街並みの中。私は一人、肩を落としながら、とぼとぼと歩いている。

 

「はぁ……これからどうしょう」

 

 門田 菊(かどた きく)、二十歳。

 私は四国の片田舎の貧しい家に生まれ、幼い頃に両親が離婚。以来父親のDVに悩まされ続け、高校卒業と同時に逃げるようにこの東京に出て来た。

 

 だが、世間知らずの少女(わたし)にとって、都会の風は冷たかった。

 就職先も決まらず、安アパートでバイトをしながら日々を凌ぐ毎日。それすらも長くは続かずにクビを宣告され、家賃滞納の果てにとうとうこの寒空の中、住み家まで追い出されてしまったのだ。

 

 頼る者もいない、帰る家もない、田舎に帰る旅費も無い。例え帰れたとしても、またあの父親の暴力が待っているだけだ。

 まさにどん詰まりの絶望の中、私は当てもなくさまようしか無かった。

 

「うう……せめてもうちょっと美人だったら、風俗とかでも働けたのになぁ」

 

 ぼさぼさの髪、頬に浮かぶソバカス、度の強いメガネ、低い身長に平らな胸。人生によって培われた不幸体質に相応しい貧相なその体では、そんな仕事すらおぼつかない。

 女性的魅力の皆無の私な上に、貧乏で服すらロクに買えないようでは、男を引っ掛けてすがる事すら叶わなかった。

 

「世間はみんな、幸せそうじゃのにねぇ……」

 

 クリスマスで浮かれる街並みを見て思わずそんな事を嘆く。すれ違う人はみんなそこそこ幸せそうで、私にとってはそれが寒風以上に身に堪えた。

 

 冴えない見た目、恵まれない人生。名前まで『(きく)』なんていう古臭さ。

 今も偏頭痛が意識をさいなみ、将来に対する絶望からか全身がだるい。おまけにもうずっと、便秘や貧血に悩まされている。

 

 最悪だ。私の人生も、そして現状も。

 まるで私の人生のレールそのものが、真っ直ぐに『絶望』という駅に伸びているかのように。

 

 ドブ川の橋のたもとまで歩いた時だった。私の向こうから、いかにもきらびやかな一団がこっちに向かって歩いて来る。

 

 ――その中心にいた男性を見た時、私はその見目麗しさに、心をえぐられるような苦しみと諦めに苛まれた。

 

「うわぁ……なんで、そんな……」

 不公平じゃわ、という言葉をかろうじて飲み込んだ。

 

 その色男は歩く姿からして絵画のように決まっており、瞳はまるで少年のように澄み、その笑顔は春の陽気のように暖かな光を発していた。

 逞しい体は190cmにも達するだろう、立派なジャケットに包まれたその体は鍛え込まれた男性のそれを容易に連想させた。

 まるで映画や小説の中にいる主人公のような見姿、トキメく事すらためらわれるような次元の違う超絶イケメン。何もかもが私とは違い過ぎる、純然とした『成せる者』の姿。

 

 私は心の中で、どうして自分がこんなに不幸なのかを、その時悟った。

(そうやね……ああいう人が、成功する人なんやな)

 

 そしてその彼の脇を固める大勢の美女たちもまた、私とは次元の違う生き物だった。薄い化粧でもつややかに煌めく肌、血色のいい唇にしなやかで健康的な髪。そんな彼女たちにコーディネイトされた服装はあくまでシンプルで、宝石や装飾品に頼らないのがさらに彼女たちの素の美しさを際立たせている。

 自分とは全く別次元の存在たち。その姿は鋭気にあふれ、その人生の先には栄光と成功が両手を広げて待ち構えているかに思えた。

 

 奈落へと落ちる一方の自分とは、まさに対極の存在だった。

 

(ああ。もう、いいかな)

 全てに納得がいった。ワタシは所詮こうなる人間でしか無かったんだ。あの人のように人生の成功が約束された人とは違う……だったら、もう。

 

 いいかな。

 

 

 橋の欄干に手をかける、下を見れば真っ黒なドブ川が、ここが私の居場所だと言わんばかりに手招きしているように見えた。

 輝くネオンの反対側。人生の失敗者にふさわしいその場所に、私は一歩を踏み出し――

 

 ぽんっ、と私の肩に、誰かの手が置かれた。

 

「もし、あなた……」

 

 そのイケボイスに思わず現実に引き戻される。柔らかくも力強いその声に反応して振り向くと、目の前にはさっき見かけた超絶イケメンの男性が、息のかかる距離で澄んだ瞳を私に向けていた。

 

「お嬢さん。あなた、もしかして……」

 

 どきん! と心臓が跳ねる音がした。私の人生で見た事もないような美男子が、真っ直ぐに自分の目を除き込んで、真剣な表情で言葉を紡ぐ。

 

 こんなイケメンに、至近距離で、まるで囁くように言葉を紡がれる。

 

 顔に赤みが増したのが分かる。心臓がドッドッドッとリズムを刻む、全身が熱くなる。まるで王子様に見初められたシンデレラのようなシチュエーションに、私は人生最後の夢を見る。

 

 ああ、神様。これは私に対する人生で最初で最後のご褒美、なのでしょうか。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

「 便() () で、お悩みでは、ないですか?」

 

「……は??」

 

 一言で、一発で、現実に引き戻されてしまった。

 

  ◇        ◇        ◇

 

 その男、白雲 虎太郎(はくうん こたろう)。人呼んで『うんこたろう』。

 

 彼との運命の、いや()()命の出会いが――

 

 ――私の人生を、全く逆の方向へと()()()()()()()ことになる――

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