「超新星爆発に失敗してブラックホールになった恒星」の最有力候補を観測
太陽より重い恒星は、寿命の最後に「超新星爆発(※1)」という激しい現象を起こし、その中心部に中性子星かブラックホールを残します。このうちブラックホールは、太陽の20~30倍以上というかなり重い恒星の超新星爆発で作られると考えられています。 超新星爆発を通じて可視光線でもブラックホール誕生の瞬間を観測できる可能性 しかし半世紀ほど前から、超新星爆発がうまく進まないことをきっかけに、本来ならブラックホールを作れないはずの恒星からブラックホールができる可能性が指摘されていました。この現象は「失敗した超新星(Failed Supernova)」(※2)と呼ばれていたものの、これまで有力候補は見つかっていませんでした。 コロンビア大学のKishalay De氏などの研究チームは、地球から約250万光年離れた「アンドロメダ銀河」の観測データを分析し、数年かけて増光と減光をした後に消滅した恒星「M31-2014-DS1」を発見しました。この明るさの変化は、失敗した超新星で予測されるものと一致しており、M31-2014-DS1は現状における失敗した超新星の最有力候補となっています。 ※1…正確には、超新星は現象によって2つに大別されており、重い恒星の寿命末期の現象は「II型超新星」に分類されます。本記事における超新星はII型超新星を指します。 ※2…このような現象について「完全崩壊(Complete Collapse)」「直接崩壊(Direct Collapse)」の語を当てる場合もあります。ただし、これらの用語は違う現象を意味する場合もあるため、文脈に注意が必要です。
恒星は超新星爆発に “失敗” することがある?
太陽のような恒星は、中心部で起こる核融合反応で発生する圧力による膨張と、自分自身の重力による収縮が釣り合うことで現在の形を保っています。しかし、核融合反応を起こす燃料には限りがあり、いつかは燃料が尽きて寿命を迎えることになります。寿命を迎えた時の運命は、核融合反応がどの段階まで進んだか、もっと簡単に言えば恒星の重さによって変化します。 質量が太陽の8倍以上という重い恒星では、核融合が停止すると、重力によって中心核が潰れます。この時に激しい核反応が発生し、ニュートリノという素粒子が大量に発生し、衝撃波として飛び出します。ニュートリノ衝撃波の大半は、中心核のすぐ外側を覆う恒星の外層をすり抜けますが、ごく一部は外層に吸収されます。外層は吸収したニュートリノからエネルギーを受け取り、重力を振り切るほどの勢いで急速に膨張します。これが「超新星爆発」と呼ばれる現象です。 恒星の外層が吹き飛ばされる一方で、中心部は重力によって収縮します。この収縮が止まるかどうかは、中心核の質量によって変わると予想されています。そしてこの中心核の質量は、恒星全体の質量に比例します。正確な境目は現在でも議論されていますが、元の恒星の質量が太陽の20~30倍であるのを境に、それより軽いと中性子星(※3)が、それより重いとブラックホールになると予想されています。 ※3…ほとんどが中性子星の塊であると予想されている天体。一部の異説を除けば、何かしらの物質でできている天体としては最も高密度です。中性子星の質量には限界があり、それ以上では重力崩壊が止まらずにブラックホールになってしまうと考えられています。 ただし、この一連のプロセスには未解明な部分もあります。この未解明の部分に関連し、超新星爆発が不発に終わることもあるのではないかという予想もありました。これは「失敗した超新星」と呼ばれており、既に1970年代には、そのような現象が起こることが理論的に予想されていました。 もし、恒星の外層が吹き飛ぶ速度が遅ければ、中心核の残骸の重力を振り切ることができず、やがて落下します。中心核の残骸が最初は中性子星になる程度の質量だったとしても、落下してきた外層が降り積もることで、ブラックホールになる質量条件を満たすことも考えられます。言い換えると、本来ならブラックホールになるはずのない恒星が、ブラックホールになったように見えるわけです。 失敗した超新星は、文字通り超新星爆発に “失敗” しているため、ほとんど明るさが変わりません。変化が少ないということは見逃しやすいということです。つまり、失敗した超新星があったとしても、これを遠い地球から見ると、「重い恒星が前触れもなく “突然” 消えた」ように見えるでしょう。ただし注意しないといけないのは、天文学的時間スケールでは “突然” ではあるものの、一般的な時間スケールでは “突然” とは言い難い長さで変化するということです。恒星がだんだんと暗くなり、望遠鏡で見えなくなるまで、最短でも数年かかると予想されているためです。 このように、普通の超新星爆発のように目立つ現象が起きず、人間のスケールではゆっくりとしか変化しないことから、失敗した超新星の実例の観測は困難でした。これ以前の研究では、「NGC 6946-BH1」という失敗した超新星の候補天体は見つかっていましたが、観測データの質の問題から、有力候補と言えるほどの確実性はありませんでした。