聴覚障害者の困りごとって? 「悔しかった」当事者が作るアニメ教材

甲斐江里子

 体育のプールの時間。先生の指示やスタートの笛の音が聞こえず、友達の動きをまねるしかなかった。動きを間違えると笑われた。「耳が聞こえへんだけでなんでこんな恥ずかしい気持ちにならなあかんのか。とにかく悔しくて」。学校や社会での聴覚障害者の困りごとについて考え、理解してもらおうと、当事者らがアニメ教材を作り、無料で公開している。3月3日は「耳の日」。

 一般社団法人「手話エンターテイメント発信団oioi(オイオイ)」の代表理事・岡崎伸彦さん(43)は生まれつき耳がほとんど聞こえない。口の動きで会話を理解し、子どもの頃は普通学級に通っていた。友達との会話についていけない、黒板を書きながら話す先生の話がわからない、など周りから取り残される場面が何度もあった。「聞こえない、わからないから不安になって、さみしくなって、楽しくないと感じることが何度もあった」と語る。

 岡崎さんらoioiのメンバーは、聞こえる人と聞こえない人の壁を壊そうと、全国の小学校などで手話を教えるなどの活動に取り組んできた。

 学校現場での福祉教育を見学すると、障害について正しく理解されていなかったり、教員に教育のノウハウがなかったり、問題点が目に付いた。「聴覚障害について楽しみながら学べる教材があったらいいのではないか」と約2年前、教材作りを始めた。当事者に聞き取りやアンケートを行い、「あるある」の困りごとを集めた。

 7本のアニメ動画を完成させた。授業中や登下校中、会社などの場面を描き、聴覚障害者がどんなことに困っているのか、クイズ形式で探してもらおうというものだ。

 2月中旬、大阪市内で教員や聴覚障害者らを対象にワークショップを開いた。教材を使った模擬授業では、生徒役になった参加者たちが「先生の口元が見えないと何を話しているかわからない」「後ろから話しかけられても気づけない」など、映像を見て気づいた困りごとやその解決法について話し合った。

 大阪府茨木市内の小学校で教員をする上田里奈さん(25)は、周囲に障害者がいた経験がほとんどなく、どう福祉教育を進めたらいいか悩んでいたという。「教材があれば授業を一から作る大変さも減るし、困りごとを想像するという方法は聴覚に限らず視覚、身体障害の理解にも応用できそう」と話す。

 「子どもの頃にこの教材があったら人生が変わっていたかも」と話すのは、聴覚に障害がある大同大輔さん(42)。子どもの頃は、聞こえにくさや困っていることがたくさんあっても、どう伝えたらいいのかわからず、理解してもらうことを諦めるようになっていた。「映像教材は、こんなことに困っている、と当事者が周囲に伝える道具としても使える」と評価した。

 岡崎さんは、「どんなことに困っているか知らないからこそバリアーが生まれる。聴覚障害者だけでなく相手のことを想像し、考えられるよう、多くの学校や家庭で教材を使ってほしい」と願っている。

 映像教材はoioiのホームページ(https://www.oioi-sign.com/別ウインドウで開きます)から無料で見ることができる。申請すれば授業マニュアルもダウンロードできる。

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