弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

不更新条項付きの労働契約更新の提案は、労働者からの更新申込みの拒絶ではないとの主張が排斥された例

1.雇止め法理

 労働契約法19条柱書は、

「有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。」

と規定しています。

 「次の各号」としては、

1号で期間の定めのない契約と社会通念上同視できる場合が、

2号で契約の更新に合理的期待がある場合が

掲げていますが、いずれにせよ、雇止めの効力を争うにあたっては、使用者が契約更新の申込みを拒絶することが必要になります。

 それでは、この「契約申込みの更新の拒絶」には、どこまでの対応が含まれるのでしょうか? 例えば、使用者側から不更新条項付きの労働契約の更新が提案された場合、それは「契約申込みの更新の拒絶」ということができるのでしょうか?

 この問題を考えるうえで参考になる裁判例が、近時公刊された判例集に掲載されていました。東京高判令7.10.22労働判例ジャーナル166-1 千葉工業大学事件です。

2.千葉工業大学事件

 本件で原告になったのは、被告が設置する国際金融研究センター(本件研究センター)の上席研究員として勤務していた方です。当初からの3年間に特別の事情が生じない限り4年目以降無期労働契約として更新されるとの合意(本件合意)のもと、令和2年4月1日から期間1年の有期労働契約を締結して働いていました。

 しかし、契約更新時、本件研究センターを廃止するとして、被告から、令和4年3月31日を終期とする不更新条項付きの雇用契約書の取り交わしが打診されました。

 これに対し、雇止め法理による契約の更新や未払賃金の支払等を求めて被告を訴えました。原審は原告の請求の一部を認めましたが、これに対して双方控訴したのが本件です。

 本件の被告は、原被告間の紛争に労働契約法19条の雇止め法理は適用されないと主張しました。具体的には、

「労働契約法19条は、有期労働契約の期間満了時に、労働者が更新を求め、使用者がこれを拒絶した場合の規定であるところ、本件では、一審被告は、一審原告に対し、期間満了後は更新しない旨の条項(以下『不更新条項」という。』を付して、従前を上回る労働条件を内容とする労働契約の更新の提案をしたのに、一審原告が不更新条項の存在を理由に更新を拒絶したものであり、一審被告が、一審原告による労働契約の更新の申込みを拒絶した事実はなく、労働契約法19条は適用されない。

「この不更新条項は、雇用期間満了後に関するものであるから、期間中の労働条件ではなく、期間満了後の更新を希望するのであれば、異議を留めて更新に応じればよいのであって、更新に応じない場合には、期間満了により労働契約は終了することになる。」

と主張しました。

 しかし、裁判所は、次のとおり述べて、雇止め法理の適用を認めました。

(裁判所の判断)

「一審原告と一審被告との間で令和2年4月1日に締結された労働契約は、前記・・・で引用した原判決の『事実及び理由』中の・・・前提事実(以下、単に『前提事実』という。)のとおり、期間が満了した場合、一審被告において必要があると認めるときは更に1年間契約を更新する旨が記載された雇用契約書を取り交わして行われたものであり、期間1年の有期の労働契約であったといえるところ、令和3年4月1日には、従前と同一の条件で本件雇用契約〔1〕として更新されたものである。」

(中略)

「前提事実・・・のとおり、本件雇用契約〔1〕の期間満了前に、基本給月額を増額するが、雇用期間が満了した場合に契約更新をしない旨の不更新条項を付し、契約期間の終期を異にする二通りの雇用契約書を示した上での一審被告の本件提案に対し、一審原告は、本件雇用契約〔1〕の期間満了前に不更新条項は受け入れられないので、これを踏まえた雇用契約書の提示を求める旨を回答し、一審被告は、これに応じず、一審原告に対し、終期の異なるいずれの雇用契約書も提出しないのであれば、令和4年3月31日をもって任期が満了したこととする旨を通知したというのであるから、一審被告の本件提案は更新の申出ではなく新たな契約の提案であり、一審原告は、上記回答をもって、一審被告に対し、労働契約の更新を申込み、一審被告は、これを拒絶したものということができ、労働契約法19条柱書の適用場面に該当する。

「これに対し、一審被告は、不更新条項については契約期間中の労働条件ではく、契約が更新されるかは期間満了の時点で問題となるだけであるから、一審被告による本件提案は新たな契約の提案ではなく、更新の申出であって、ましてや更新を拒絶したわけではなく、一審原告が更新を拒絶したといえるのであって、労働契約法19条柱書の適用場面ではない旨を主張する。」

「しかしながら、前記・・・で検討したとおり、一審原告において本件雇用契約〔1〕が更新されると期待することについて合理的理由が認められる状況であったのであるから、その状況における不更新条項を示した労働契約の提示は、新たな労働契約の申込みといわざるを得ない。そうすると、一審原告による上記回答は、新たな労働契約の申込みには応じられないとしつつ、それを踏まえた雇用契約書の提示を求めるもので、雇用継続の意思を表明しているものといえるから、更新の申込みであるということができる。」

3.不更新条項付きの労働契約更新の提案は申込みの拒絶

 紛争には「熟度」があります。被告の言うとおり、不更新条項付きの労働契約更新の提案がなされた場合、異議を留保して契約を更新し、その後、不更新条項に基づいて更新を拒絶された段階で雇止めの効力を争えば足りるという考え方も成り立たないではありません。

 しかし、裁判所は、そうした考え方は採用しませんでした。不更新条項付きの労働契約更新の提案は、更新申込みの拒絶だと判示しました。

 不更新条項付きの契約書を取り交わすことで、使用者から契約更新に向けた期待を奪いに来られることは珍しくありません。こうした場合、どのように契約更新に向けた合理的期待を守って行くのかが課題になります。裁判所の判断は、不更新条項付きの契約書を示された場合の対応を考えるにあたり、実務上参考になります。