プライベートクレジットが銀行システミックリスクに波及する経路。UKのMFSの破綻|DailyProp #30
イラン戦争ですっかりみんな忘れてるけど、プライベートクレジット周りの話も考えておかないとね。結論としては、
1.MFSの破綻は不動産市況の不調ではなく、担保の二重差し入れ疑惑で機関投資家が資金を引き揚げた事による。
2.プライベートクレジット問題が銀行のシステミックリスクに波及する経路は限定的ではあるが二つ存在する。銀行の直接投資とバックストップの存在。
3.プライベートクレジット市場をモニターするのは非常に困難。代替手段としてハイイールドスプレッド、レバレッジドローン ETF、CLO ETFをtradingviewで日次週次モニターすることを提案した。
Market Financial Solutions社(MFS)の倒産
MFS社とは
土日のイラン情勢ですっかり影が薄くなったが、2026年2月27日、Market Financial Solutionsが倒産手続き入りしてマーケットを騒がせている。シャドーバンクなだけに。MFSは不動産向けに貸し出しノンバンク系の不動産クレジットだ。ただしMFSは「プライベートクレジットファンド」ではなく、UKの「不動産向け住宅専門金融」というカテゴリーに入るようだ。ただ構造がプライベートクレジットと似ているので、今回連想売りが出たようだ。
このMFSは、不動産担保の短期と高金利ローン。具体的には、ブリッジローン、いわゆるつなぎ融資を業務として挙げている。高金利で短期の不動産担保融資をやっていた。
MFSのビジネスは投資家や銀行から短期資金を借りる。その時、貸手はMFSが持っている不動産ローン債権を担保として受け取る。その受け取った資金をMFSはさらに不動産ローンに貸し出して利ザヤを稼いでいた。レバレッジを賭け不動産担保ローンを積み上げるビジネスをしていた。
MFS倒産の原因
MFSの倒産手続きの開始は不動産不況で焦げ付きが主な原因ではない。クレジットが悪化したというより、担保の二重差し入れ疑惑が発端だ。前段でも書いたが、MFSは保有する不動産ローン債権を投資家に担保として差し出して資金調達していた。この担保を別々の資金提供者に同時に差し出していた可能性があると報道されてる。
これは不況で担保価値が下がたという事ではなく、貸し手にとって「そもそも担保が誰の物かわからない」「優先順位がわからない」「法的に確保されてるか分からない」という事になる。こうなると資金提供者は即座に回収に動くことになる。担保システムの破綻といえる。
報道によると12億ポンドにたいして、真の担保は2.3億ポンド。不動産価格下落による担保価値割れではなく、担保の「改ざん」よる資金提供側が一斉に資金回収に動いた。不動産ローンはすぐに現金化できない。また流動性もない。しかも融資条件がまちまちだと価格が分からない。資金提供者に担保割れで資金を回収を要求されると、手元の現金が尽きて、倒産手続きに追い込まれる。
このMFSの倒産劇は不動産市況が悪い。というより、担保管理、法的権利、ガバナンス、といったアセット担保型ビジネスが信用ならん。という懸念が発端ともいえる。一方で、仮に健全な経営をしていても、担保や法的疑義で、資金が一斉に引き上げられる。資金引き上げに対して構造的に返金に応じられないという懸念が出て来た。次のMFS探しに市場が躍起になる怖さ、さらに、銀行とちがって行政の監督が緩そうなプライベートクレジット業界。実際にちょろまかしてる奴が出てくるのは時間の問題であろう。
プライベートクレジットと銀行システムリスク
ノンバンクが燃えても、それは資金の出し手、投資家が損をするだけで、銀行システムには波及しないという見方はある。機関投資家中心でクローズドエンドで即時解約はない。ここまでは正しい面もある。ただし、2007年の類似する点は一定量ある。システミックリスク経路は限定的だが存在する。
シャドーバンクとは
シャドーバンクとは、信用仲介(資産保有、貸出、レバレッジ)を担いながら、銀行のような、資本、流動性、監督等の規制の外に置かれてる主体を指す。典型的なのがプライベートクレジットファンド、不動産ファンド、CLOなどの私募ファンドだ。
プライベートクレジットとは
プライベートクレジットとは、銀行融資や社債市場を通さずに、ファンドなどが企業等に直接貸し付ける、非公開の信用供与という事になる。日本だと、直接貸出、私募ローンというところか。
借り手、契約条件、価格が市場では公開されない。社債のようにマーケットがたってるわけではない。典型的には「クローズドエンド」が多く、投資家は年金や保険などの機関投資家だ。
銀行融資や社債と比べて、柔軟性やスピードが速い。銀行団から融資を引き出したり、社債を発行するには相応の時間がかかる。しかし直接に投資家が企業等に貸し出すのであれば、契約がまとまれば銀行より迅速にできる可能性がある。
銀行規制の強化で銀行が取りにくいリスクや満期の貸し出しが増えた。さらに社債は規模、格付けなどが必要だが私募ローンという形なら組みやすい。追加利回りが欲しい投資家と思惑が一致した。
ノンバンクからシステミックリスクに至る経路
ノンバンク、プライベートクレジットから銀行のシステミックリスクに至る経路はかなり限定されているという話もある。それはなぜかというと、投資家が機関投資家中心である事。つまり損失が投資家が被る事によって、止まるからだ。また銀行よりレバレッジは低いという主張もある。
しかしながら銀行へ波及する経路は存在する。それは「銀行自身が投資家となって出資している場合」と「銀行のバックストップが用意されている場合」だ。銀行のPLにヒットしたり、流動性を提供する義務を負うと、一気にシステミックリスクまで懸念される事態となる。
第一に銀行の出資から派生する経路について。米銀行持ち株会社が保有してるシャドーバンク関連のエクスポージャーは、不動産関連に500億ドル、その他で800億ドル。CLOなどに600億ドル。という調査もある。調査によって数字はまちまちであるが、この全体像がつかめないのが気持ち悪さを増幅させている。
このエクスポージャーが銀行経営にヒットする理由として、1.不動産クレジット価格の下落 2.デフォルトの増加 3.リファイナンスの停止の発生が上げられる。これらは銀行が貸してなくても、株主としているので効く。さて、MFS騒動は、担保を多重に差し出してた「虚偽」の報告でリファイナンスが停止した事に当たる。つまり、このリファイナンスの停止が次から次に起こるとシステミックリスクまで波及する経路は存在し得る。今回はそれが発生した。
第二に流動性のバックストップから派生する経路について。預金取扱金融機関がノンバンクに対して5000億ドル超のクレジットラインのようなものを設定しているという調査推定もある。これも調査によって推定はまちまちではある。私募ファンド等の資金繰りが大量に詰まると、ファンドは契約済みの信用枠を引き出すことになる。銀行側が巨額の流動性に応じられるかは不明で、中央銀行にまで流動性供給を依存する事態も考えられる。
2007年の危機はじめに、ローン債権等を裏付けにSPVが社債(CP)を発行していたが、このSPV、法律と会計上は銀行のバランスシートの外にあった。しかしながらその中身は銀行の流動性保証がついていた。もし社債の借り換えが出来なかったら銀行が資金を出すという契約をしていたわけだ。要するに銀行とは別もんという看板なのに、中身は銀行そのものが信用を供与していた。
オフバランス、銀行のバックストップ、金融ストレスイベントの発生。これはプライベートクレジット等の構造に非常に似ているという連想はあってもおかしくない。
危機の可能性
私募ファンドはクローズドエンド型がおおく、即時解約の心配はないので取り付け騒ぎみたいな事は起きにくい。しかし、銀行がエクイティ投資、バックストップを供与して、私募ファンドが不透明な運営をしていると、何かのきっかけで金融市場のストレスが高まると、リスク資産の投げ売りリスクは出てくる。
プライベートクレジット危機の監視方法
プライベートクレジット、その不透明さはすでに書いた。直接価格が見えない以上、危機の具合をどうやって日次的にモニターするのがいいのかを考える。
HYスプレッド
まずはHYスプレッド。信用サイクル全般の包括的な指標として見れる。「ICE BofA US High Yield Index Option-Adjusted Spread」という名前でtradingviewでも見れる。これは米国ハイイールド債の平均利回りが、米国債に対してどれだけ上乗せされてるかをハイイールド債についてるオプションの影響を調整して測ったスプレッド。市場が信用リスクをどれだけ警戒しているかを測る代表的な指標。上に上がるほど信用リスクが警戒されている。リーマンショックのあたりでスパイクがあるのがわかる。
現状は歴史的にはかなり低い所を推移。一年窓では少し上がり始めているか。
InvescoSeniorLoanETF(BKLN)
これはシニアセキュアードローン、いわゆるレバレッジドローンに投資できるETF。私募ローンなどを直接モニターできるわけではないが、同じ様な借り手、信用サイクルに乗っているので、リスクセンチメントとしては使えそうではある。
現状では市況が悪化してそうではある。
Janus Henderson AAA CLO ETF(JAAA)
これもTradingViewでみれる。AAA格のCLO(ローン証券)の最上位トランシェにに投資できるETF。これは歴史的には安定しやすい領域だが、ここの値崩れがあるなら、担保金融全体が非常によろしくない事がわかる。現状は、高位安定してるが直近では下がり始めているようにも見える。
直近のプライベートクレジット周りの解釈
HYスプレッドは拡大してないので、全体的なクレジットリスクは上がってない。しかし、BKLNが歴史的にもさがっているので、レバレッジドローン周りの需給は悪化している。私募の借換などが悪化しやすい状況にも見える。またCLOの市況も悪化方向には向かっていそうではある。HYスプレッドがスパイクしながらBKLNやJAAAがさらに掘っていくと、本格的に危機ストーリーが話される可能性はある。
まとめ
今回のMFS騒動、不動産市況が悪化してローンが焦げ付いた。というリスク資産の話というより「担保、法的、ガバナンス」リスクへの信認が崩れた事による破綻劇だった。
プライベートクレジットはこのMFSと似たような構造を持っている。銀行システムは機関投資家をクッションとすることで銀行システムに波及する経路は限定的とは言われている。しかしながら経路は二つ存在した。銀行のエクイティ投資とバックストップだ。これは2007年のオフバランスSPVと似た構造がある。
プライベートクレジット市場の監視は直接見えない私募市場を追うより、公開マーケットを参考にするのが良い。それはHYスプレッド、レバレッジドローン、CLO等の公開情報やETFであった。
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