予測市場のオッズはニュースより速い?Polymarket CLIで変動監視を作った話
はじめに
こんにちは!ブロックチェーン×AI Agentで自律経済圏を創るKomlock labでエンジニアをしている小原です。
Polymarketは世界最大の分散型予測市場プラットフォームです。Polygon上に構築されていて、「BTCは今月$100Kを超えるか」「日銀は利上げするか」「次の米大統領は誰か」といったイベントの確率が、リアルタイムで取引されています。
2024年の米大統領選では累計取引量が$3.5Bを超え、従来の世論調査より正確な予測を出したことで注目を集めました。
このPolymarketのデータ、ブラウザからも見れますが、Rust製の公式CLIツールを使えばターミナルからサクッと取得できます。市場検索、オッズ確認、オーダーブック取得まで全部コマンド一発です。
今回はこのCLIを実際に触ってみたので、その記録を残します。
Polymarket CLIとは
Polymarket CLIは、Polymarketの予測市場にターミナルからアクセスできるRust製のツールです。
主な機能は大きく2つに分かれます。
データ取得(認証不要)
- 市場の検索・一覧表示
- オッズ(価格)のリアルタイム取得
- オーダーブック(板情報)の確認
- 価格履歴の取得
- イベント・タグ・シリーズの取得
- コメントの閲覧
- リーダーボードの確認
取引(ウォレット認証が必要)
- 指値注文・成行注文
- ポジション管理
- CTF操作(split, merge, redeem)
- ブリッジ
データ取得だけならウォレット不要で、インストールしてすぐ使えます。
インストール
方法1: Homebrew(macOS / Linux)
一番簡単な方法です。
brew tap Polymarket/polymarket-cli https://github.com/Polymarket/polymarket-cli
brew install polymarket
方法2: シェルスクリプト
Homebrewを使っていない環境向け。
curl -sSL https://raw.githubusercontent.com/Polymarket/polymarket-cli/main/install.sh | sh
方法3: ソースからビルド
上の方法でうまくいかない場合や、最新のmainブランチを使いたい場合はソースビルドします。
# Rustのインストール(未インストールの場合)
curl --proto '=https' --tlsv1.2 -sSf https://sh.rustup.rs | sh
source $HOME/.cargo/env
# ソースからビルド
git clone https://github.com/Polymarket/polymarket-cli.git
cd polymarket-cli
cargo install --path .
cargo install でパスが通ります。ビルドには数分かかります。
GLIBC問題(Linux VPS向けの注意)
pre-builtバイナリを直接ダウンロードした場合、比較的新しいGLIBC(2.38以上)を要求することがあります。Debian 12(GLIBC 2.36)などの安定版ディストリビューションでは以下のエラーが出ます。
./polymarket: /lib/x86_64-linux-gnu/libc.so.6: version `GLIBC_2.38' not found
macOSなら問題ありません。Linux VMで遭遇した場合は、Homebrewかソースビルドで回避できます。
動作確認
polymarket --version
polymarket 0.1.4
市場を検索する
テーブル表示
markets search で市場を検索できます。
polymarket markets search "Bitcoin" --limit 5
╭───────────────────────────────────────────────────┬─────────────┬─────────┬───────────┬────────╮
│ Question │ Price (Yes) │ Volume │ Liquidity │ Status │
├───────────────────────────────────────────────────┼─────────────┼─────────┼───────────┼────────┤
│ Will Bitcoin reach $150,000 in February? │ 0.05¢ │ $28.8M │ $3.2M │ Active │
│ Will Bitcoin reach $120,000 in February? │ 0.05¢ │ $3.3M │ $501.6K │ Active │
│ Will Bitcoin reach $125,000 in February? │ 0.05¢ │ $4.5M │ $530.6K │ Active │
│ Will Bitcoin reach $115,000 in February? │ 0.05¢ │ $3.5M │ $404.9K │ Active │
│ Will Bitcoin dip to $55,000 in February? │ 0.05¢ │ $7.3M │ $285.5K │ Active │
╰───────────────────────────────────────────────────┴─────────────┴─────────┴───────────┴────────╯
各カラムはこんな意味です。
- Price (Yes) - Yes側のオッズ。これがそのまま市場が予測する確率を表します。50¢ = 50%、99¢ = 99%。上の例では0.05¢(= 0.05%)なので、2月中にBTCが$150Kに到達する確率はほぼゼロと市場は見ています
- Volume - 累計取引量(USDC建て)。市場の注目度の指標
- Liquidity - 現在の流動性。高いほど大きなサイズの注文が通りやすい
- Status - Active(取引中)/ Closed(終了)
JSON出力
-o json をつけるとJSON形式で出力されます。プログラムから扱う場合に便利です。
polymarket markets search "Bank of Japan" --limit 1 -o json
[
{
"id": "1227992",
"question": "Nothing Ever Happens: Interest Rates",
"conditionId": "0xa1c7afb51e4a...",
"slug": "nothing-ever-happens-interest-rates",
"endDate": "2026-03-20T00:00:00Z",
"liquidity": "5864.88",
"outcomes": "[\"Yes\",\"No\"]",
"outcomePrices": "[\"0.925\",\"0.075\"]",
"volume": "42958.01",
"active": true
}
]
outcomePrices がオッズを表しています。[0.925, 0.075] なら Yes: 92.5%, No: 7.5% という意味です。
市場の一覧
検索以外に、条件を指定して市場を一覧取得することもできます。
# アクティブな市場を流動性順で取得
polymarket markets list --active --limit 10
オーダーブック(板情報)を見る
Polymarketの裏側にはCLOB(Central Limit Order Book)があります。株式市場の板情報と同じように、各価格帯の注文状況を確認できます。
polymarket clob book <TOKEN_ID>
TOKEN_IDは市場検索のJSON出力(-o json)に含まれる clobTokenIds フィールドから取得します。配列の1番目がYesトークン、2番目がNoトークンです。
# まずJSON出力でTOKEN_IDを確認
polymarket -o json markets search "Bitcoin" --limit 1 | jq '.[0].clobTokenIds'
# → ["12345...", "67890..."] (1番目=Yes, 2番目=No)
# YesトークンのオーダーブックI
polymarket clob book 12345...
Market: 0xbb57ccf5...
Last Trade: 0.515
Bids:
╭───────┬───────────╮
│ Price │ Size │
├───────┼───────────┤
│ 0.001 │ 373060.37 │
│ 0.01 │ 1036542 │
│ 0.02 │ 105157 │
│ 0.1 │ 128.84 │
│ 0.15 │ 905 │
╰───────┴───────────╯
Sizeの単位はシェア数です。Bids(買い注文)とAsks(売り注文)がそれぞれ表示されます。
板が厚い(Sizeが大きい)価格帯は、多くのトレーダーがその価格が妥当だと考えていることを示します。逆に板が薄い価格帯をまたぐような動きがあれば、市場の見方が大きく変わったサインです。
その他のデータ取得コマンド
価格関連
# 現在の価格(ミッドポイント)
polymarket clob midpoint <TOKEN_ID>
# Bid-Askスプレッド
polymarket clob spread <TOKEN_ID>
# 直近の取引価格
polymarket clob last-trade <TOKEN_ID>
# 価格履歴(期間: 1m, 1h, 6h, 1d, 1w, max)
polymarket clob price-history <TOKEN_ID> --interval 1d --fidelity 7
イベント・タグ
# イベント単位で取得(1つのイベントに複数市場が紐づく)
polymarket events list --limit 5
# タグ一覧
polymarket tags list
リーダーボード
# トップトレーダーのランキング
polymarket data leaderboard
ユースケース
CLIでデータを取得できると、様々な活用ができます。
1. オッズ変動の監視
定期的にオッズを取得して、前回との差分が閾値を超えたらアラートを出す仕組みが作れます。予測市場のオッズが急変動する時は、何か大きなニュースが出たサインです。ニュースサイトより先にシグナルを掴める可能性があります。
2. 投資判断の補助データ
「トランプ関税発動確率が急上昇」→ 関連銘柄のポジション調整、「Fed利下げ確率が上昇」→ テック株への影響を検討、といった使い方ができます。予測市場のオッズは多くのトレーダーの合意価格なので、単一のアナリストの予測より信頼性が高いケースもあります。
3. AIエージェントとの連携
CLIはAIエージェントと非常に相性が良いです。ブラウザ操作やAPI認証の設定が不要で、コマンド1つでデータが取れるため、エージェントのツールとして簡単に組み込めます。
例えば「日銀の利上げ確率が5%以上変動したら通知」「BTCの予測市場と実際の価格の乖離を検知」といった自律的な監視をエージェントに任せることができます。
4. データ分析・可視化
JSON出力をNode.jsのスクリプトに渡して、オッズの推移グラフを作ったり、複数市場の相関分析を行ったりできます。学術研究やレポート作成にも使えます。
ハマりどころ
市場のslugとconditionIdとtokenId
Polymarketには市場を識別するIDが複数あります。
-
slug - URLに使われる人間が読める識別子(例:
nothing-ever-happens-interest-rates) - conditionId - 市場のコントラクト上の識別子(0xから始まるハッシュ)
- tokenId - Yes/Noそれぞれのトークンの識別子(長い数値文字列)
CLIのコマンドによって必要なIDが異なります。markets 系コマンドはslugやconditionIdを使い、clob 系コマンドはtokenIdを使います。JSON出力で各IDを確認できるので、最初にJSON形式で市場情報を取得しておくとスムーズです。
レート制限
Polymarket APIには明示的なレート制限は公開されていませんが、短時間に大量のリクエストを送ると429エラーが返ることがあります。スクリプトで定期実行する場合は適度な間隔(数秒〜数分)を空けるようにしましょう。
実践: CLIとNode.jsでオッズ変動を監視する
CLIのJSON出力をNode.jsで処理すれば、オッズの変動監視ができます。
以下は、定期的に市場を検索して前回からのオッズ変動を検知するスクリプトの簡易版です。
const { execSync } = require("child_process");
const fs = require("fs");
const HISTORY_FILE = "odds_history.json";
const THRESHOLD = 5.0; // 5%以上の変動でアラート
const WATCH_QUERIES = ["Bitcoin", "Ethereum", "Fed rate", "OpenAI", "AI"];
function searchMarkets(query, limit = 3) {
const stdout = execSync(
`polymarket markets search "${query}" --limit ${limit} -o json`,
{ timeout: 15000, encoding: "utf-8" }
);
return JSON.parse(stdout);
}
function loadHistory() {
try {
return JSON.parse(fs.readFileSync(HISTORY_FILE, "utf-8"));
} catch {
return {};
}
}
// メイン処理
const history = loadHistory();
const alerts = [];
for (const query of WATCH_QUERIES) {
for (const m of searchMarkets(query)) {
const mid = m.conditionId || "";
const question = m.question || "";
const prices = JSON.parse(m.outcomePrices || "[]");
if (!prices.length) continue;
const yesPct = parseFloat(prices[0]) * 100;
// 前回との比較
if (history[mid]) {
const delta = yesPct - history[mid].yes_pct;
if (Math.abs(delta) >= THRESHOLD) {
const dir = delta > 0 ? "📈" : "📉";
alerts.push(
`${dir} ${question}\n` +
` ${history[mid].yes_pct.toFixed(1)}% → ${yesPct.toFixed(1)}% ` +
`(${delta > 0 ? "+" : ""}${delta.toFixed(1)}%)`
);
}
}
history[mid] = { question, yes_pct: Math.round(yesPct * 10) / 10 };
}
}
fs.writeFileSync(HISTORY_FILE, JSON.stringify(history, null, 2));
if (alerts.length) {
console.log("🚨 オッズ急変動検知!\n");
console.log(alerts.join("\n\n"));
} else {
console.log("変動なし");
}
このスクリプトをcronやAIエージェントのスケジューラに登録すれば、1時間ごとにオッズをチェックして急変動があれば通知する仕組みが作れます。
実際に運用してみると、こんな感じでアラートが出ます。
AIエージェントが自動で検知・分析した結果をDiscordに通知している例
オッズが急変動している = 何か大きなニュースや材料が出たサイン。ニュースサイトをチェックするより先に、市場の変化に気づけることがあります。
もともとWebアプリを作っていた
実はこの記事を書く前に、Polymarketの市場分析用にNext.jsでWebアプリを作っていました。
市場の検索、人気マーケットの表示、コメントの取得、Gemini APIを使った分析...。ひと通り実装したのですが、CLIを触ってみたらデータ取得の部分は全部コマンド一発でできてしまいました。
さらに言えば、CLIをAIエージェントに組み込むと自然言語で分析できるようになります。
実際に僕がAIエージェントに「イラン・アメリカ戦争がいつ終わるか教えて」と聞いたところ、エージェントが裏で polymarket markets search "Iran ceasefire" を実行して、こんな分析を返してくれました。
2026年3月時点でのPolymarketの見立て:
停戦期限 確率 3/6まで 11.5% 3/15まで 32.0% 3/31まで 57.5% 4/30まで 71.5%
Webアプリを作らなくても、CLIがあればAIエージェントが予測市場のアナリストになってくれます。
しかもJSON出力でスクリプトに渡せるので、Node.jsと組み合わせれば監視も自動化できる。ブラウザを開いてポチポチ操作する必要がなくなりました。
UIが必要な場面もありますが、データ取得と分析が目的ならCLIの方が圧倒的に効率がいい。特にAIエージェントに組み込む場合、CLIは最も扱いやすいインターフェースです。
まとめ
Polymarket CLIを使えば、予測市場のデータをターミナルからサクッと取得できます。
インストールはRustソースビルドが確実で、GLIBC問題にだけ注意が必要です。市場検索、オッズ、オーダーブック、価格履歴といったデータがコマンド一発で取得できて、テーブルとJSON形式を切り替えられるのでスクリプトとの連携も容易です。データ取得だけならウォレット認証は不要で、Node.jsと組み合わせればオッズ変動の監視も簡単に実装できます。
予測市場のオッズは「世界中のトレーダーによるリアルタイムの確率予測」です。賭けなくても、データソースとして十分な価値があります。
個人的には、このオッズ変動データが実際に株価やクリプト価格の先行指標になるのかを検証してみたいと思っています。引き続きキャッチアップしていきます。
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