要介護廃人英霊
単発作品。エミヤの座が崩壊して大分経ったある日、ラストエピソードのあの草原にて休日を過ごすアルトリアの元に、どういう訳か消滅した筈のエミヤが落ちてきた。しかしどうにも様子がおかしい……。弓剣のような違うような。座とか色々な事が捏造。真名バレバレ。それでもよろしければどうぞ。
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《彼》の座が無くなったと知らせが来たのはいつだったか。
当時はソレに慟哭し、その落胆振りに周囲を騒がせたが、それすらもう時が経ち過ぎてわからない位に昔になってしまった。
今では落ち着きと理性を取り戻し、円卓に復帰はしたものの、やはり悔恨と苦痛だけは残りつづけた。
…あれから。
時折だが、円卓を離れて一人で草原に来るようになった。
円卓の座《アーサー王の座》ではなく、個人的な座《アルトリアの座》である草原には小川の横に、ぽつん、とログハウスが一軒だけ建っている。それ程大きい訳ではない家の隣には小さな畑があり、犬が一匹、山羊が二頭、鶏が数羽飼われている。そこで育てたモノで料理をするのが密かな楽しみになっていた。
円卓に居ては台所に近付く事さえ困難だし、料理をしていると《彼》が居る気がするから。
朝から《アルトリアの座》に来ていた私は一日の仕事を済ませ、草原に座りながら夜空を眺めていた。
座にしては珍しく朝晩と天候の概念がある此処の天気は毎日変わる。
今日は陽射しも穏やかで、時折頬を撫でる風も心地好い、よい天気だった。今宵は空も澄み渡り、青白い満月のみが漆黒に浮かんでいた。
夕食のあと何となく夜道を散歩する。敵も居ない此処では甲冑を脱ぎ、剣を置き、髪を解き、水色のワンピースを着て過ごす。
(…出来るなら、貴方と過ごしたかったのですが)
さわさわと草が揺れる音だけが響く世界は、より一層、孤独に感じる。
この座には野生の動物も居る。空を眺めていれば、当然、鳥が空を駆けていくのが見える。
だが、今は夜だ。なのに、明らかに鳥ではない何かが、飛んで…いや、落ちているのが見えた。
自分が居る場所からそれ程遠くはない位地に、あれだけの高さから落ちてきたと言うのに、思いの外軽い……ドサッ、と荷物が投げ出されたような音を立てて、ソレは着陸した。
この座自体、私の個人所有地のようなモノで、私が不在の間は時間が停止するし、私の許可なく立ち入る事は出来ない。干渉出来るとしたら、それはガイアだけだろうが………なら、今降ってきたモノは何なんだろう。
ガイアが物騒なモノを贈ってくる線は薄いと考え、私は興味に惹かれるまま、落ちてきた物体に近付き………驚愕した。
まさか、そんな、有り得ない――。
《彼》は消滅したのだ。確かに、自分でも確認しに行った。しに行って――…絶望した。
なのに、今、目の前で倒れている男は、間違えようもない。彼は、彼は…。
恐る恐る近付き、………触れる。
俯せだった体を転がし、………顔を見る。
「……シ、…ロウ………」
その…成れの果て。
擦り切れ、磨耗し、壊れ、消えてしまった…私の鞘。
もう二度と、どの世界に行っても逢う事は叶わないと思っていたのに。
絶望し、慟哭し、誰よりも悼んだというのに。
今、目の前に、この手に、触れている。
「本当に、貴方なのですか?」
軽く揺すってみるも瞼は開く事はなく、死んだように眠っていた。
触れる場所から伝わる仄かな熱と、小さく上下する胸を見て、涙が零れた。
………
(隠れて待機)