エミヤさんが幸せになるまでの話 その1
素直になれないエミヤさんと彼を取り巻く人々の話
個人的幸せにしてあげたいサーヴァント第2位のエミヤさんですが(1位はエミヤオルタ)彼が割と面倒な性格だし、もし彼らにもそれぞれに思うところがあって互いに複雑な感じで一歩を踏み出せずにいたらっていう妄想
亜種特異点攻略中っていう設定だけどエレシュキガルもシトナイもカーマもいる。
ぐだ子は変なところで敏感だったり鈍感だったりする。
とりあえずアルトリア、イシュタル、エレシュキガル、パールヴァティー、カーマ、シトナイ、ジャガーマン、イリヤ、美遊、クロエ、アサエミ辺りについて書きたい(全員書くとは言っていない)
オリ設定てんこ盛りなのでご注意を
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「おい」
正直、嫌と言うほど聞き慣れたその声が背後から掛けられ、できる限り不機嫌そうな顔をして振り返る。
「……何かね、ランサー」
「お前、何を迷ってる」
一瞬、動揺するもそれを決して顔には出さない。こういう時に奴に動揺など見せてしまえばロクなことにはならないと分かっているからだ。
「……何のことだか」
「ハッ、しらばっくれんなよ」
そう返されることは想定済みとでもいうようなランサーの態度。そこには僅かに怒りが込められていた。しかし私はその怒りに対して皮肉げに口元を歪めて答える
「……犬は盲目というがよもやそこまで目が悪いとはな。ランサー、君はメディカルルームにでも行ってきたらどうかね」
「ああいいぜ要は殺されたいんだなテメェ!!!」
向けられる殺意を軽く受け流し、道を塞ぐように立っていたランサーの横を抜ける。
「生憎と、暇な君とは違ってこれでも私は忙しいのでね。これで失礼させてもらうよ」
ランサーも無理矢理止めるつもりはないらしく、ただ此方の背中を睨みつけるだけだった。
「────迷っている、か……」
#
「最近エミヤ先輩の元気がない……ですか?」
「うん」
藤丸立香はマイルームで相棒であるマシュに向かってそう悩みをこぼし、手元のコーヒーをまた一口啜った。
人理修復を終えたカルデアは亜種特異点と対峙しながらも変わらずに日常を送っている。ロマニ・アーキマンが不在のカルデアは寂しいものだったが、それでも立香とマシュはあの出会いと別れを無駄にしない為にもまた立ち上がることを選んだ。
「私にはいつも通りのエミヤ先輩に見えましたけど……」
「私も最初はそう思ったんだよ。けどふとした時になんかこう……すごく悩み込んでいるし、溜息ついてるし。どうしたのって訊いてもはぐらかされちゃうし。なんだか覇気が無くなったみたいで……」
英霊エミヤは嘗てあらゆる面で人手も足りず、苦しんでいたカルデアに来てくれた。彼はある意味でまさしくカルデアの救世主だった。
まずは当然サーヴァントとして、見たことのある剣は神造兵器などを除けば宝具であろうとそのほとんどを複製出来るという便利かつ特殊な能力と、どんな状況にも冷静に対処できる判断力でまたたく間にカルデアの主力となった。
しかし彼の活躍はそれだけに留まらず、彼は未来の英霊だからか機械にも強く、機材の修理などの裏方業務を手伝うこともしばしば。さらに料理や掃除はもちろんのこと子供サーヴァント達の面倒見も良いときた。
カルデアの中で「エミヤ=オカン」という共通認識が生まれたのもまた必然であった。
「うーん……そういえば先輩、最近エミヤ先輩を戦線から遠ざけてませんか?
確かにカルデアにも十分戦力は揃いつつあるので初期から頑張って下さったエミヤ先輩達に休みを与えるというのも分からなくはないのですがそれにしても少々遠ざけ過ぎではないかと」
「だって……」
「?」
「だって、帰ってきたらオカンの料理が食べたいんだもん────!!!!!」
その余りの気迫に思わず呆気に取られるマシュ。
「……え?あ、いや、確かにエミヤ先輩の料理が美味しいことは認めますが……」
「甘いね、まだまだマシュは甘いよ!
まず、美味さは言わずもがな。何だかんだ言っても日本の料理ってところがいいよね。え?和食なら清姫やキャットや頼光さんも作れる?ノンノン、日本の料理とはすなわち、日本人の舌に合う料理のことなのさ!流石に全員用に作っている時はそうはいかないが、私が直接オーダーした時にはどんな国の料理でも私の舌に合うように作ってくれている……!
そう!オカンの料理の真髄はその真心にあり!
オカンの料理はいつも誰かの為を思って作られている……あそこまで優しい料理を人々はお母さんの手作り料理という!つまりエミヤはオカン!そして私はレイシフト帰りにはオカンの手料理が恋しくなるという訳さ!」
「なるほど、料理の世界はまだまだ奥が深いということてすね……!」
立香の熱弁にマシュは何故か感嘆したらしく、『料理は真心』『エミヤ先輩はオカン』『先輩はお母さんの手作り料理が好き』などとメモを取り始める始末。
すると、立香の背後から溜息が聞こえてくる。
「はぁ……一体何を学んでいるというのかね、君達は」
「オ、オオオオオオオオカン!!!?!?!?い、いつからそこに!?」
後ろを慌てて振り返ると、そこには件の英霊が。彼は呆れたような顔をして此方を見てくる。
「私はオカンではない!君のお母さんになった覚えはないと何度言えばわかるんだ……ああ、私が来たのはついさっきだ。君達が私の料理について何やら話しているのが聞こえたのでな」
「そ、そっか~」
思わず内心でホッとする。あの様子では本当に料理の話しか聞こえなかったようだ。
「マスターはマシュ嬢に変なことを教えないで貰いたいものだ。……さて、私は食堂に行かねばな。これで失礼するよ」
「うん、オカンのご飯楽しみにしてるから!」
去っていく赤い背中に手を振り、彼が部屋を出るのを見届ける。そしてその足音が遠ざかった後、解放されたように大きく息を吐く
「はぁ~あぶなかったぁ……」
「そうですね、これが噂をすれば…というやつですか」
エミヤにさっきの話を聞かれなくて良かった。もし聞いてしまえば彼は自分のせいでマスターに無理をさせてしまったうんぬんと悩み、さらに状況が悪化するのは明白だった。
「うぅ~でもどうしよう……」
「……それなら、エミヤ先輩のことをよく知っていそうな人に話を訊いてみるっていうのはどうしよう?」
#
「……で、俺か?」
「うん!」
あの後マシュと別れて早速向かったのはランサー、クー・フーリンの部屋だった。いつもはフェルグスや血の気の多いサーヴァント達と素材集めに行くことが多いのでいないかも、とは思ったがノックをしてみればどうやら部屋にいたようだった。
早速部屋に入り、事情を話すと兄貴はものすごく微妙な顔をして此方を見てくる。
「はぁ────、なんでそこで俺の名前が出てくるんだか。確かに俺とヤツは腐れ縁だが、他にも……ってそっちがあれなんだったか。あーくそ……」
ほんとめんどくさい奴、と投げやりに呟き頭を掻く兄貴。
「それでどうかな?エミヤの元気がない理由、兄貴はわかる?」
「いや、全く。……そんな顔すんな、だったら俺が直接訊いてきてやるよ。マスターならまだしも俺ならそんな心配はねぇだろうし。あの野郎に言いたかった不満もあるしな」
#
「無理。マジ無理。アーチャーの野郎、俺が問い詰めてもいつもの嫌な顔で皮肉かましてきやがった」
その数十分後に戻って来た兄貴は怒りで顔を歪ませながら戻って来た。
「ははは、でもごめん。無理なお願いしちゃって。兄貴ならいけるかなって思ったんだけどね」
「マスターは気にすんな。俺も最近のアイツにはムカついてたからな」
そう言ってくしゃっと頭を撫でてくれる兄貴。自分を気遣い、励ましてくれる兄貴に立香は礼を言う。
「うん、ありがとう。……でもそっかぁ、やっぱり答えてくれないかぁ」
「なぁ、マスターはアーチャーの元気がない理由を何だと思ってるんだ?」
「それが分からないから訊いたんだけどね……うーん、やっぱり戦線から遠ざけ過ぎちゃったことかなぁ?」
立香がそう言うと兄貴もどこか思い当たる節があったのか頷いて言う
「?あー……それもあるかもしれんな。アイツの場合」
「うぐっ…………」
「マスターは何でアイツを戦線から遠ざけたんだ?」
「それはオカンの料理が……」
「マスター」
遮るようにして兄貴は此方を真っ直ぐに見つめてくる。その目はそれだけじゃないだろ、と確信をもって訴えかけてくる。
「………………それも、あるけど……」
その視線に負けた立香はやや口ごもりながらも打ち明ける。
「────夢を、見たんだ」
「夢?」
「そう。エミヤが、ずっと戦ってる夢」
サーヴァントとマスターは時折そのレイラインを通して互いの過去を見るという。実際に立香はそれを何度も経験しているし、夢の中で敵と戦ったこともある。英霊である以上、その多くが戦いの記憶であるのは当然であり、立香もエミヤの過去が戦いに溢れていることを受け入れていた。
そう、他の英霊と変わらない筈、だったのに……
「……泣いていた。何度も何度も、数えきれない程に人を殺して、その一人一人に、心から涙を流していたんだ」
実際に彼が泣いていた訳ではない。ただ、彼が丘に剣を突き立てる度に、彼の心が軋みをあげ泣いていたのだ。
それは特に何の才もなく、しかし優れた観察眼を持ち、心の機微に聡い彼女だからこそわかったこと。
確かに人を殺すということは、その命の重さを背負うことだ。だが果たしてここまで一人一人の犠牲を悲しむ英雄はいただろうか。
一人殺せば人殺しだが、それを百人や千人、万人をも殺してしまえばそれは英雄である。
そう言われる程に英雄という存在は死に近い存在だ。しかし、多くの英雄は己が殺したことを悔やむこと無く、悲しむこと無く、ただ誇るのだろう。それも当然だ。彼らのような英雄は多くが死など当たり前の世界で生まれた。最初こそ悲しみ、恐怖するかもしれないが繰り返す戦いの日々の中でそんなことをいってはいられなくなる。友人や家族や主人の死には悲しみ怒り、涙するかもしれないが赤の他人にはそんな感情を向けることは無いだろう。
だが、エミヤは赤の他人の死ですら心から悲しんでいた。そんなものはキリがないだろうに、ひたすら。それが己の罪であるとでも言うように。
故に立香はその無限に突き立てられた剣の意味を知り、胸が締め付けられる思いだった。
────もう、見たくないと思った。
立香はサーヴァント達に笑顔でいて欲しかった。頼りない自分の元に来てくれた彼らに辛い思いをさせたり悲しませたりはさせるまいと誓ったのだ。
だから、これ以上彼を戦わせたくなかった。彼はきっとレイシフトした先で、救えなかった人々を目にする度にその罪を一人で背負い込もうとする。
立香自身も彼らの死をしっかりと目に焼き付け、悲しみ、彼らの犠牲を無意味なものにはするまいと奮闘するが、その悲しみをマシュやドクターやダヴィンチちゃんやたくさんのサーヴァントに打ち明けることで彼らに支えてもらいながらなんとかやっている。
しかし彼は違う。彼はきっと全て背負い込んであの剣の丘を歩み続けるのだ。いままでも、そしてこれからも。
ならば、せめて今くらいは────カルデアも戦力が揃いつつあり、彼が戦う必要の無い今くらいは彼に幸せな時を与えたいと思うのは間違っているのだろうか?
「……あー、なんだその……そいつはちょいと違うな」
話を聞いた後、兄貴は少し言いづらそうに口を開いた。
「え?」
「いや、確かにマスターの言ってることは正しいし、そう思えるってのもマスターの良いところだ。けどな、マスターはアイツの拗らせぶりってのを分かってない」
「それってどういう……」
「……まぁ要はアイツは『誰かを救いたい』んだよ。どれだけ自分が悲しもうと、擦りきれようと。それはマスターだってわかってるだろ?戦線から遠ざけるってことは奴に誰かを救わせないってことだ。そりゃ、アイツの元気も無くなるさ」
「でも、だからって戦線に出したら彼が傷つくし……あーもうどうすればいいんだ……」
────誰かを救うために戦うってことは同時に誰かを傷つけるってことなんだ。
いつだったか、ドクターはそんなことを言っていた。エミヤはきっと誰かを救った分だけ自分自身を傷つけている。彼のマスターとしてそれは看過出来ないし、でも彼自身はそれを望んでいる。
これではいつまで経っても話が堂々巡りするだけだ。立香は思わず頭を抱える。
「な?アーチャーの野郎、すげぇめんどくさいだろ?まぁ、アイツの元気を取り戻したいってんなら他に手がない訳じゃあない。……というか最近の元気の無さはそっちよりもこっちの方が原因だと思うぜ?」
突然の衝撃事実が明かされ、立香は目を丸くする。
「なにそれ!?今まですごい悩んでたのに!……あ、でもこっちも原因の一端なんだから反省はしないとな。っていうか兄貴、さっき理由知らないかって訊いたら『わからない』って言ってなかった!?」
「おう。『アイツの元気がない原因』は知ってたが、『何でアイツが元気が無いのか』は全くわからねぇ。俺はアイツのことを知ってはいるが、アイツのことを理解出来た試しは一度もないからな。まぁどうせ拗らせてるだけだろうが」
何度も顔を合わせ、互いのことを一番知っているにも関わらず、互いを理解出来ず相容れず、その度に槍と剣を交わらせる。まさに腐れ縁、犬猿の仲というやつを具現化したような関係性。カルデアで割と初期から繰り広げられる二人の喧嘩を見ていた立香は
あー、兄貴とエミヤはそんな感じだよなぁ、と兄貴の言葉に納得する。
「じゃあその『原因』を解決出来れば、エミヤは元気になるってこと?」
立香の問いに兄貴は少し考える素振りを見せた後、
「そうだな……マスターがアイツを幸せにしたいってんならそっちをどうにかする方が手っ取り早いんじゃねぇか?」
「で、その『原因』っていうのは……」
「アイツの様子が可笑しくなったのはいつ頃か覚えてるか?」
これまた随分と遠回しな質問をしてくる兄貴に首をかしげながらも立香はそれに答える。
「ええっと……明らかに可笑しいなって感じたのは平行世界の第4次聖杯戦争と……あとバビロニアから戻ってきた時かな?」
「……まぁそうだな。セイバーだけならまだ割り切れていただろうが……」
「?」
言っている言葉の意味が分からずまたも首をかしげていると、兄貴は口を開く
「────女神共……あぁ、ルチャリブレとかアヴェンジャーとかの方じゃなくて擬似サーヴァントの方な。それと騎士王。あとはアイツと同じ名前の暗殺者に魔法少女?だったか。恐らくそいつらが『原因』だ」
兄貴の言うサーヴァント達の顔を思い浮かべて、ふと浮かんだ疑問を口にする。
「え?でもジャガーマンとシトナイ以外────"エミヤが彼らと話してる姿なんてほとんど見たこと無いよ"?」
「…………それが問題なんだがなぁ……」
凄く難儀で、でも優しいからこそ哀しいが美しいお話でした。続きあれば是非読みたいです。