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楽園と猫だまりと飲み会と/Novel by MISAKO

楽園と猫だまりと飲み会と

3,418 character(s)6 mins

「Fate/hollow ataraxia」の世界。アーチャー中心。サーヴァントがただ遊んでるだけ。短いです。 ※たぶんここでは士剣前提。

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 晴れ渡る青い空、日差しの強さは、今がもう10月だということを忘れさせる。海風が優しくあたりを撫でていく。
 季節外れの派手なアロハシャツの若い男が漁港での静かな海釣りを楽しんでいたところに、いかにも「釣りキチです」といった赤いベストと帽子を身に着けた白髪の男が、最新式のリール装備の釣竿(ただし投影品)を手に「フィイイイイシュ!」と奇声をあげて乱入、さらに高級そうな白いコートを着た金髪の男が、自分のイメージカラーと同じ色味の金ぴかな高級竿(ロッド)を大漁旗のごとく複数携えてやってきて、お互いの装備品を賭けて騒々しく釣り勝負を始めた。近所の子供たちは赤金二人のアーチャーズ改めアングラーズになついてまとわりつく。ランサーには優しい女の子が声をかけてきてくれたが……。むなしく、ウミネコの声が響き渡る。
 楽園を奪われ嘆き悲しみ項垂れるランサーの姿に、こっそり見物していた正義の味方志望の赤毛の少年も慰める言葉を見つけられなかったらしく、やがてこっそりと立ち去って行った。

 あまりに大人げない釣り勝負も、やがて幕を閉じて。
「やれやれ。英雄王には負けたが、結構楽しめたかもしれんな」
「……意外に素直に負けを認めたな。贋作者、取り決め通りこのリールは貰っていくぞ」
 弓兵二人は日ごろの相性の悪さをどこかに放り投げ、和気あいあいと話が弾んでいる。やがてランサーの同僚のほうが子供たちを引き連れて立ち去ると、港はサーヴァント二名だけになった。釣果の入ったバケツを手に提げた釣りキチがアロハシャツの男のすぐそばまで歩み寄り、声をかける。
「ランサー。釣れたかね」
「嫌味か!」
振り返ってどなるランサーに、アーチャーはにっこりと笑って、バケツごと本日の収穫を差し出した。
「……何の真似だ、テメエ」
「騒がせて悪かった。これは謝罪のしるしと思って受け取ってほしい」
ごとん。重そうなバケツをランサーのわきに置くと、
「要らなければ、ひとにやるなり、リリースするなりしてくれたまえ」
「おい!」
 アーチャーは持っていたものをすべて「消して」、服装もいつの間にか黒の長袖のシャツとスラックスに変え、足早に立ち去った。
「……あの野郎、あの装備品どころか服も全部、投影品だったのか」
 アーチャーの投影能力のでたらめさに少々あきれ果てたランサーだったが、気を取り直して再び釣竿を構える。やがてすっかり静かになったこの港にいつもの「虎の姉ちゃん」がひょこひょことやってきて声をかけてきたので、アーチャーから受け取ったうちの半分は彼女に分け与えることになった。残りはありがたく夕飯のおかずにしてしまおう。

 アーチャーは漁港を出ると、深山町に向かってぶらぶらとあてのない散歩をしていた。
(楽しかったが、疲れた……)
 この疲労は、つい、興が乗ってコンピュータ制御のリール装備などをがんがん投影してしまったせいで、魔力にあまり余裕がないためだろう。でも、本当に久しぶりに楽しかった。英雄などではない、ただの釣り好きにすぎない男たちによるじゃれあい。全く覚えていないが、まだ生きていたころ、遠い昔に、こんな感じの馬鹿騒ぎをやらかしたことがあるような気がする。

 商店街の中の何の変哲のない、それでいてとても懐かしい小さな公園につくと、アーチャーはベンチに腰を下ろした。なんだか歩くのも億劫になってきたのだ。
(まいった。まずいな)
魔力不足で疲れているせいか、ひどく眠い。すでに陽が傾き始めているはずなのに、まだぽかぽかと温かい。ベンチに腰を下ろしたままうとうととし始めたとたん、膝の上に何か柔らかく温かなものがのったのを感じた。目を開けて確認する。
「?ああ、猫さんか」
いわゆる「茶虎」といわれる、ありふれた柄の猫で、首輪もついているから近所の飼い猫だろう。あまりの可愛さに負けてついつい顎を撫でてやると、ごろごろとのどを鳴らし、目を細める。
(ああ、なんて可愛いんだ、くっ……)
 今のアーチャーは、本来猫などににかまっている場合ではない。魔力がなくまともに動けないのだから、夜になる前にどこか屋内に入るべきなのに、この小さな癒しの存在に注意を奪われ、ベンチに座ったまま、動けないでいる。―――この世界は、誰かの願いで作られた、箱庭、偽りの理想郷。この手の中の小さな命も、勿論ただの幻のはずなのだけれど、可愛いものは可愛いのだ。

 みゃー。みーみー。ふみー。気のせいか、鳴き声がダブっているような。足元をみると、柔らかそうなふわふわしたものが、いつの間にかたくさん寄ってきている。これは。
「なん、だと……?」
 新たな猫さんたちが、いつの間にか増えている!?
「ええと、三毛、黒、白、ぶち……なんでこんなに猫さんがいるんだ」
頭の上にのってくるもの、胸元にすり寄ってくるもの、やはり膝にのってくるもの、どれもこれもアーチャーになついてきている。下手に餌をやるのも猫のためにはならないと思い、撫でたり抱いたりして愛でる以外に、猫たちに何もしてあげた覚えはないのだが。
(こ、これでは、動けんではないか……!)
 乱暴に扱ったら壊れてしまいそうな、いたいけな猫さんたち。なつかれるのは嬉しいが、限度というものがあるのではないか。そう思いながらも、猫たちのぽかぽかとした体温に気が緩んでくる。いつの間にか瞼が下りて―――。

 妙な息苦しさを感じた。口が柔らかな何かに塞がれている。目を開けると、それはするりと外されて。
「ああ、気が付いたのですね」
 耳にした澄んだ声が、まだぼんやりしていた頭を急速にはっきりさせた。どうも、いつの間にか眠っていたらしい。いや、ちょっと待て。自分の顔を両手で挟んで見つめてくる、この金髪の少女は、もしかしなくても。
「……セイバー」
「はい」
「君は今、まさか」
セイバーは少しだけ頬を染めると、アーチャーの顔から手を外し、背筋を伸ばして腰に手を当て、
「ただの魔力供給です!」
と、大声で答えた。
(いや、そんなに大声を出さなくてもいいだろうに)
言葉にはしないが、ひそかにちょっぴり傷つくアーチャー。
「だいたい、なんでそんなに魔力を失くしているんですか!」
「いや、あのな」
「全く、貴方はまともに供給を受けていないのに、消えたらどうするんです。―――一緒にシロウの家に帰りませんか?いまは凛もいるし、そもそもあそこは、貴方の家でもあるのだから」
セイバーは声を荒げるのをやめると、穏やかにそう提案した。無論、アーチャーはその提案を受ける気はない。
(あ、そういえば)
いつの間にか、あんなにたくさん自分にまとわりついていた猫たちはすっかりいなくなっている。
「ここにいた猫さんたちを知らないか?」
「驚きましたよ。ここで大判焼きを食べようかと思っていたら、ベンチの先客が、猫まみれの貴方だったのだから」
セイバーはくすくすと愉快そうに笑いだした。
「私が近寄ったら、猫たちは逃げてしまいました。まだ近くにいるかもしれませんね。それより」
「いや、いい。―――手数をかけたな。すまなかった。ありがとう、セイバー」
 アーチャーは、セイバーの衛宮邸への誘いを断り、礼を言うと足早に公園から出ていった。セイバーはアーチャーの背をじっと見送ると、空いたベンチに腰を下ろし、大判焼きにかぶりついた。

 この後、アーチャーは、スーパートヨエツでビールやつまみを買い込んでいたランサーとばったり出会ってうっかりつかまってしまい、その晩はランサーのテントで、買ったつまみ以外に昼間釣った魚を焼いたり煮たりしたものをサカナに、一緒に飲むことになった。ちなみにアーチャーはあまり酒に強くないので、わりとあっさりランサーより先に寝落ちした。
「確かに、この顔は坊主だわ」
とランサーは、日ごろの皮肉はどこへやら、というアーチャーの無防備な幼い寝顔をちょんちょん、とつつき、酒のサカナにしながらさらに一人で飲んでいた。

 翌朝、ランサーのテントで目覚めたアーチャーは、サーヴァントのくせに二日酔いで頭痛を起こしていたりする。



(おしまい)

Comments

  • Yellink
    September 14, 2025
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