「休めばいいのか?任せろ」
カルデアサマーメモリーの1幕、マスターから休みを与えられた黒弓&弓&影弓の短編ギャグ、CPは風味です
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「マシュ」
「はい、先輩」
「これは由々しき問題だよ」
「由々しき問題ですね」
真剣なマスターの少年とマシュの前には無人島に流されたメンバーで作り上げた食料庫。
急ごしらえとはとても思えないほど立派なそれは、依然変わりなく持ち込まれる食料を溜め込んで満腹に笑っているようだ。が、しかし
「…増えてる、よね」
「増えて…ますね」
今朝出かける時に確認した量よりも明らかに増えているのだ。しかも増えたと思しき果物や魚類はご丁寧に加工され、保存食としてグレードアップしているオマケ付き。
わー干物だー俺これ大好きーなんて遠い目で現実逃避している場合ではない。問題なのはここが無人島で、主なサーヴァントとは行動を共にしていたという点だ。
「なんで?みんな開拓で一緒にいたよね?!」
無人島という閉鎖空間で謎の人物Xが浮上するなんとも言えない悪寒にぞぞぞっと背筋を震わせたマスターの少年は、頭を抱えながら頼れる後輩を振り返る。
「ええ先輩!主なサーヴァントの方々は私達と行動を共にしていました!そして他の方は先輩が指示した建築材集めをしているはずです!」
「…つまり、これはその誰でもない誰かがやったってことか…」
同じく顔を少し青ざめさせたマシュが元気づけるように声を上げてくれ、幾分か冷静さが戻ったマスターは顎に手を当て考える。
主力の水着を着たサーヴァントは自分たちと一緒にいて、他は建築材の収集という重労働を終えて先程帰ってきたばかり。
シンキングタイムに入ったマスターとマシュが唸っていると、その背後へ音もなく黒い影がゆらりと近づく。
無音の風にハッとした2人が振り向いた先には…
「戻ってきたのか、マスター。今日は良い成果を得られたか?」
そこには召喚されてから変わらない様子のエミヤオルタがいた。どこか皮肉気な笑みはこちらの値踏みするようで落ち着かない。無人島の青々とした森でも彼の表情を和らげることは出来ないようだ。
相手を確認してほっとしたのもつかの間、エミヤオルタの顔から視線を下げたマスターの視界に飛び込んだものは、食料を山盛りに積んだかご。
「…………確保!!!!」
「了解」
「何をするっ!くっこの獣が!!」
瞬間指示を聞いて降り立ったのはクーフーリンオルタ。突然の出現にツッコム間もなく、謎の人物X改め密かに食料を増やしていたエミヤオルタは、体に硬い尾を巻き付けられあえなく御用となった。
「エミヤオルタ、何をしてるの?」
「……」
クーフーリンオルタの尻尾を巻き付けられたまま砂浜に憮然と座るエミヤオルタに、マスターは腰に手を当て語りかける。しかし対するエミヤオルタはツンとそっぽを向いて黙秘権の行使をしている。
見た目はハリウッド映画の尋問シーンであるが、事情を知ってるマシュにとっては母親と拗ねた息子にしか見えない。
「エミヤオルタ、言ったよね?俺言ったよね?人手は足りてるからいつもカルデアで頑張ってもらってるブーディカやエミヤ達はのんびりバカンスを楽しんでって言ったよね?」
「……飯だけ食らう穀潰しを抱えることほど組織の無駄は無い。それに、そうはいうが俺はいつお前に休みたいと望んだことがあったか、マスター?普段仲良しごっこに興じるのは構わんが、それを俺に押し付けないでもらおう」
マスターの語りかけにようやく黙秘を解いたエミヤオルタは、冷たい眼光を光らせて睨んでくる。
その圧にぐっと詰まったマスターの少年は、自分の選択に誤りがあったのではないかと思い俯いた。マスターといえどたかが10代の小僧である、そんな青臭いガキがこの世の地獄を乗り越えたエミヤオルタに休んで欲しいと願うのは、やはり思い上がりだったのだろうか。
「こう言ってるが無視しろ。どうせ周りが働いてる中で休むのが落ち着かねぇだけだ」
「クーフーリン!!」
しかしその懸念も話を聞いていたクーフーリンオルタの一刀両断で塵と化す。
慌てて伏兵の口を塞ごうと暴れるエミヤオルタに、正解を察したマスターはにっこりとした笑顔になる。そしてマシュと一緒に、バタバタともみ合っている2人へ背を向けた。
「じゃあ、後はよろしくねオルタ。よかったら2人でロープウェイにでも乗ってゆっくりしてきてよ」
「ああ」
「クーフーリンと2人きりだと?!冗談じゃない!待てマスター!おい!クソッタレ!!」
エミヤオルタの絶叫を無視して浜辺を後にし、拠点近くの炊事場に戻ってきた。
するとそこには普段の武装を解いて、シャツを羽織っただけのラフなエミヤが出迎えてくれる。ぴったりとした黒の礼装からすっかり変身を遂げ、下も腰がゴムになっているステテコととても涼しそうだ。
「オルタの私が迷惑をかけたようだな、仕事人間の奴にも困ったものだ。マスターの指示を無視してまで働こうとするとは、我ながら呆れる」
苦笑しつつ冷えた水を差し出してくるエミヤもマスターから休暇を与えられた1人、こっちは大人しく休んでくれているようだとほっとする。
染み付いた気性から炊事場で軽くみんなの補助をするくらいは許してくれと先に申告されていたマスターは、エミヤオルタに対して肩をすくめるエミヤに苦笑しつつ空にしたコップを戻そうとした、その時。
「…うん、そうだね。ちなみにこのピッカピカな炊事場は何?」
「手持ち無沙汰だったからな、少しばかり掃除をしていたんだよ」
「少しばかり?これが?主な材料が石なのにステンレスシンクみたいに輝いてるこれが?どんだけ磨いたの?!だから休んでって言ったよね?!」
コトリとコップが置かれた炊事場は太陽の熱を反射してピカピカと輝いている。比喩ではない、本当にピカピカと輝いているのだ。
今朝見た時は手作り感溢れるただの石造りだったというのに、一体何をどうしてどう磨いたら材質変化に至る域まで輝かせられるというのか。
どうやらまったく休んでいなかったエミヤに頭を抱えるマスターへ炊事場の番人は僅かに頬を染める。
「…手遊びのようなものだ」
「やかましいわ」
某最強の母が言いそうな事をぬかすエミヤに、ちょうど通りかかり一目で現状を把握したランサーのクーフーリンがツッコミを入れた。
「ははははまったく黒化した私と元の私は困ったものだな、そんなに人助けがしたいか?馬鹿馬鹿しい」
「…くっ」
炊事場から引き剥がされたエミヤは、自分の周りをはやし立てるようにくるくる回る影の自分に唇を噛み締めた。マスターの願いから真に望むことを察知しながら、これは趣味だと言い訳を並べて働いてしまった落ち度を理解しているエミヤは何も言えない。
やはり自分が願いを伝えるよりもよっぽど効果を上げるシャドウアーチャーの煽りに今回ばかりはマスターも手を合わせる。
エミヤの分霊として休みを得ていたアーチャーはこれまでの経緯にケラケラと笑い、マスターの方を振り向くと胸を張った。
「その点私はちゃんと遊んでいたぞ!」
「ちゃんと休んでもらってるのがこんなに嬉しい事ってあるんだね、偉いよアーチャー」
ドヤ顔で怠けていたことに胸を張り、褒めて!と言わんばかりのアーチャーがこんなに有難かったことはない。
少しはエミヤもシャドウアーチャーを見習ってくれれば…とマスターが思った時、ガサガサと草をかき分けて辺りを散策していたキャスターのクーフーリンが顔を出す。
そして目当ての人物、アーチャーに目を止めると呆れた顔で指を指した。
「おいそこな弓兵、俺らがまだ手をつけてねぇ山の麓の辺りに罠を仕掛けまくってるのはお前か?」
「そうだぞ、良い具合に肥えた獣がいたんでな、縄を作り散歩ついでに張り巡らせてみた」
「…罠ってどんな感じになってるの?」
「おう、ありゃあ見事だぜ。群れが通る箇所を完璧に計算して張り巡らされてやがる。タイミングが上手く合えば一網打尽も出来なくはない」
森の賢者として散策していた時、キャスターは罠の痕跡を見つけたようだった。
緻密な計算で張り巡らされたお手製の縄が収束した結果は、理解した瞬間キャスターでも舌を巻くほどだった。
マヌケな獲物がポイントまでのこのこ来たところを仕留めるのはたまらない!と元気に語るアーチャーに、彼と出会った時の苦い思い出が擡げる。
だがそれより、ここにも隠れていたワーカホリックにとうとうマスターは崩れ落ちた。
「休んでって!!言ったよね!!??」
「なに、私にとってはパズルのようなものだ」
まったく悪びれていない上に開き直っている分タチが悪い。
また種類の違う相手に応戦する元気もなく地面を叩くマスターに、苦笑したキャスターが代わりにアーチャーへ首を傾げる。
「楽しかったか?」
「それはもう!」
「ならいい」
「キャスター、甘やかさないで」
注意してくれると思えば罠の出来を褒め始めたキャスターに、マスターは呻くことしか出来なかった。
マスターに胃薬至急www 開き直って「楽しかった」っていってるぶんアーチャーが可愛いなぁ(ほかの二人も素直に認めれ)