そしてよみがえる夜の話
キャスターのギルガメッシュ×エミヤの話、キャスタークラスでも結局変わらなかった英雄界のジャ〇アンにお世話係が振り回される感じです/そしてこれは『いずれ消える夜の話(novel/7571186)』の続きになるのでよろしければそちらもご覧ください!読まなくても多分読めますが!/そして前回の話で続きを希望してくださりありがとうございました!!多くの方にセットまで…!と言われて嬉しかったです!!
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フェイカー
聞き覚えのある呼び名に、エミヤは弾かれたように振り返る。
そこはカルデアの廊下、誰もいない背後をじっと見つめた末にアーチャーは目頭を揉んで頭を降った。
この呼び名を使う唯一の男はまだ召喚されていない、霊基の波長を観測してからマスターは熱心に英雄王を召喚しようとしていたが、エミヤの願いが通じたのか失敗に終わっている。
サーヴァントの間で通称爆死と呼ばれている状態になり、召喚ルームを涙で濡らすマスターを慰めはしたが、それでも上がる口角を堪えることが出来なかった。だってそうだろう、今でも大なり小なりわがままを揃えているこのカルデアに、更なる別格の超級わがままをわざわざ呼ぶことはない。
英霊界のジャ〇アンと第五次聖杯戦争のメンバーには名高い英雄王にまた振り回されるのは御免蒙る、不思議な空耳にやれやれと肩をすくめたアーチャーが前を向いたその時、記憶に焼き付いた金髪とルビーのように赤い瞳が目に飛び込んだ。
「貴様、この我が呼んだというのに返事をしないとはいい度胸をしているではないか。まぁよい、今の我は機嫌がいいからな。ようやく貴様を捕まえることが出来たぞ、フェイカー?」
「はぁ、キャスターのギルガメッシュ…ねぇ?」
ラウンジでタバコを楽しんでいたランサーはアーチャーの説明を聞いてお隣の胸を張る英雄王もとい賢王様に渋い顔をした。
見覚えのない格好をしたギルガメッシュに引きずられる形で連れてこられたアーチャーは既に満身創痍で、その気持ちわからんでもないランサーは同情のこもった瞳を向ける。
とうとうアーチャーの恐れていたことが現実になってしまった。不幸中の幸いはギルガメッシュがこの世すべての我様を詰め込んだような暴君ではなく、キャスタークラスの丸くなった時であることか。
「クーフーリン…光の御子か、我と同じ半神の英霊だな。貴様も『記録』として知っているぞ、なかなか縁深いではないか」
「へぇ俺のことを知ってんのか。前の聖杯戦争じゃテメェにも散々苦労かけさせられたものだが、それをキャスターのお前さんに語るのも野暮だ。ここではそれも水に流して仲良くやろうや」
自分の知らない自分と縁を刻んだ相手に、ギルガメッシュの紅玉が興味深そうに細まる。特異点で見た理知的な様子を知っているランサーはそれについて噛み付こうとはせず、普段の粗暴な態度が嘘のようにかの王を見上げた。
神の血を受けた者同士が見合うだけで空気は変わり、まるで神殿のど真ん中に放り出されたような気分のアーチャーが所在なさげに隣のギルガメッシュへ視線を送る。すると視線に気づいたギルガメッシュはアーチャーの方を向き、満更でもない様子に片頬を上げた。
「どうしたフェイカー、そないにジロジロと見るでない」
「すまない、君が以前の姿とあまりにも違うから」
「フッ、普段と違う我の姿にドキドキしているのか?なるほどしょうがない奴め、今だけは許してやろう」
得意げに胸を張るギルガメッシュに対してアーチャーは思案顔で、真剣な顔で自分の胸にある感情を精査した結果こてんと首を傾けた。
「ドキドキ…というよりは、そうだな…受け持っていた非行少年が更生して真人間になったのを見る担任の気分だ」
「あー!!それすっげぇ近いわ!天才だなお前!」
同じくキャスターのギルガメッシュへ感じるものがあったランサーは、アーチャーの評価を聞いた途端勢いよく立ち上がり手を握る。
まるでマスター戦でも優勝したかのように興奮気味に握手を求められたアーチャーは照れくさそうに手を握り、更生した非行少年呼ばわりのギルガメッシュは赤面して唇をかんだ。
その後無礼者のランサーとアーチャーをお供に、カルデアを回ったキャスターのギルガメッシュは道中出会ったメデューサとメディアにも同様の反応をされて鋼のメンタルにダメージを受けていた。
『ギルガメッシュ…ですか。更生したのですね』
『ギルガメッシュ?…へぇ、やっとまともになったじゃない』
アーチャーの言う通り彼女らの瞳に映るのは王に対する敬いより、見知った者の良い変化を喜ぶ教員そのものだった。
記憶の中の玉座でふとした時シドゥリに向けられた優しい瞳が蘇るギルガメッシュはギリッと拳を握りしめ、とうとうテーブルへ振り下ろす。
「ここの連中は我を誰と心得るか!!」
「諦めろ、ここらの奴はお前に迷惑かけられたオールスターだからよ。会えばみんなこの反応してくるぞ」
「どれほど過去の我…いや未来の我は酷かったのだ!」
テーブルに突っ伏すキャスターのギルガメッシュはランサーにぽんぽんと肩を叩かれ、心当たりがあるところがさらに腹が立った。
その後マスターに呼ばれたランサーを見送り、人数の減った賢王御一行様の一員としてアーチャーはチラリと自分の後ろをついてくるギルガメッシュを窺う。
ギルガメッシュ曰く礼をわきまえたものを探すついでのカルデア見学も、そろそろスタート地点まで戻ってきた。
ギルガメッシュほど聡い人物なら、もうカルデアの地形は頭に入ったと思っていいだろう。まだブツブツと不満を口にしているギルガメッシュに肩をすくめ、振り向いたアーチャーはカルデアに来たものへのチュートリアルの最後、特に王や神性を持つものには欠かさない忠告がため眼光を強めた。
「挨拶が遅れたがこれからよろしく頼む、賢王ギルガメッシュ。さて不敬を承知で先に忠告しておくが、ここではいかなる王もいかなる神であろうと自身がサーヴァントであることは忘れてくれるな。マスターを困らせる真似は私としても看過できないのでね」
新たな仲間を歓迎する雰囲気を携えながらアーチャーの目は笑っていない、それは人理修復を始めた頃から未熟なマスターに仕えて彼の成長を見守った絆深きサーヴァントとしての威嚇が含まれている。
万が一の時には同じ釜の飯を食らう仲間相手でも主人のためなら剣を抜く、堂々たる1振りの剣に目を細めたギルガメッシュは、心地よい忠義心にクッと笑いつつ挑戦的な視線を送った。
「馬鹿げたことを言うな、フェイカー。あの小僧が我を使うのではない、我があの小僧を使うのだ。ゆめゆめそれを忘れるでない」
一部の迷いも無い圧倒的自信とこれが世界の道理だと言わんばかりの態度、腕を組み真っ直ぐに自分を見返してきた古代の王を前にアーチャーも表情を緩めて一瞬でも向けてしまった敵意を詫びた。
「君なら言うと思っていた、とりあえず釘はさしたからな。あとマスターからの伝言だ、まず君の部屋はここを曲がって右の所にある。食事は1日に3回、アナウンスなどはないから時間になったら来てくれ。朝は8時、昼は12時、夜は19時から大体食堂を解放している。営業時間は長くとっているから安心したまえ。あと間食も用意している時があるから小腹が空いたら寄るといい。またサーヴァントの洗濯物についてだが…」
「待て、貴様我を記録係と勘違いしているのか?せめて書面で寄越さぬか」
流れるようにつらつらと語られる連絡事項にギルガメッシュも堪らず静止した。
ここで暮らす上で欠かせない衣食住の引き継ぎをさえぎられたアーチャーは渋い顔をして腰に手を当てる。ギルガメッシュの立場から見れば不満を抱くのも仕方の無い事だろうが、ここでは純正の神であれ同様のルール説明を受けてもらっているのだ。
「そうではないが先程も言ったろう、いかなる位の人物でもカルデアで集団生活を送るひとりだ。ルールは守ってもらう。それにここはまだ資材不足が解消していなくてね、口頭で済むことに貴重な紙を使わないようにしているんだ」
「資材不足…なるほどな。つくづく礼を知らぬ所だ。それも見逃す我の寛大さに感謝するといい」
人類史有数の危機に立ち向かったキャスターのギルガメッシュは資材不足と聞いてあっさり矛を収める。彼ほど資材の重要性と活用方法に理解のある王はそうそういない、これまで華美に華美を重ねた輩からギャンギャン言われるワガママに慣れきっていたエミヤはほっとした。
これもアーチャーのギルガメッシュなら話は大きく違っていたが…つくづく今回召喚されたのがキャスタークラスの英雄王だったことに天へ感謝を捧げながら、エミヤは何気なくカルデアの先輩として助け舟を出す。
「ああ、有難いよ。まぁ知識の付与があっても君は古代の人物だからな。これも何かの縁だ、もしも困ったことがあればいつでも言ってくれ」
社交辞令混じりの優しさを聞いたギルガメッシュはピタリと止まり、エミヤが訝しんだ時には次第に肩を震わせる。
「っふふふ…そうか、では良いことを思いついたぞ。その身に余る栄誉に打ち震えよフェイカー、貴様を我が付き人に任命してやろう!」
「なっなんでさ!!!」
そして次の瞬間勢いよくエミヤの事を指さした。廊下に響き渡る高笑いへ自分が不注意にもギルガメッシュのスイッチを押してしまったことに気づいたエミヤは、後戻りの出来なさそうな雰囲気に頭を抱えた。
数日後、前と同じラウンジでランサーとアーチャーは顔を合わせた。
この所カルデアで見ない日はないアーチャーがギルガメッシュにお供として振り回されている図が浮かんだランサーは、沈んだ顔で疲れきったため息をついている隣のお人好しの肩を小突く。
「お前なーんでわざわざ面倒事に首突っ込むかね」
「私も望んでなった訳では無い!くっ…更生してもギルガメッシュはギルガメッシュか…!」
そう言って顔を覆うアーチャーに、ぶっちゃけ以前ラウンジに来た時の様子からこうなるような予想はしていたとはとても言えない。
元々ワガママに振り回される運命を背負った男だ。今回の役割も度を越した部分は無視すればいいものを、このお人好しは何だかんだ言いつつギルガメッシュの世話を焼いてしまっている。
やれあれはなんだこれはなんだと聖杯辞書がわりに聞きまくり、時には体験まで手伝わされて日頃からカルデアの家事も行っているアーチャーはへとへとだ。
さらに輪をかけたのが今の時代が現代であるという点、カルデアの暮らし方教室だけならとっくに解放されていたのに、人理修復が終わり外部との連絡も取れるようになった以上、好奇心旺盛なギルガメッシュに対して底のない宝箱を提供しているようなものだ。この組み合わせの悪さ、これぞまさに幸運Eのなせる技か。
もしかすると自分がその位置にいたかもしれないランサーは密かにアーチャーへ手を合わせて、その苦労をねぎらうばかりである。
今もギルガメッシュの目を盗んでこのラウンジまで逃げてきたアーチャーだったが、一時の休息も長くは続かない。
急速に近づいてくる覚えのある魔力反応にアーチャーが深いため息をついた時、ラウンジの扉が勢いよく開いた。
「フェイカー!!ここにいたか!迷子になるとは仕方の無い奴め。まぁよい、疾く腰を上げよ!今日こそ我のくっぱの前に跪かせてやろう!」
ウキウキが隠しきれない様子でギルガメッシュが差し出すのは、現代の流行を聞いて電撃コンビが最近作り出したN社のゲーム機の模倣品、通称カルデアスイッチ。
やはり天才というのは恐ろしい、どんな技術なのかソフトまで忠実に作ってくれたおかげでこの頃特にキャスターのギルガメッシュの心を掴んで離さないのだ。
著作権、権利、海賊版、マジコン…などなど元現代に生きたものとして過ぎる不穏なワードから目をそらし、億劫そうに立ち上がったアーチャーが額を押さえる。
「他にも現代に蔓延る『げーむ』とやらについてもっと我に教えよ!この前の説明では到底足りぬわ!」
元気に熱を上げているギルガメッシュへ頭を振ったアーチャーは、現代に普及するゲームに関してシェアや影響はたまた現代人におけるゲームの立ち位置まで、先日数時間も捕まった恨みを込めて皮肉を口にする。
「それらの知識はすべてカルデアが与えてくれただろうに、君がわざわざ私に聞かずとも…」
「ハッ、与えられるのは大雑把な知識のみ、これしき得たところで何の役にも立たぬわ。この我が知りえぬことがあるということ自体無礼千万、とても我慢出来ぬ」
しかし返ってきたのはあくまでも冷静な賢王の言葉。はっとしたエミヤがギルガメッシュを見返すと、全てを見透かすような紅玉が細められる。
確かにギルガメッシュの言うように、付与される知識とはまさに辞書で読むような無味無臭の物しか得られない。それに比べると経験した時のものはなんと色に溢れている事か。
「…やれやれ君にそう言われては応えずにはいられないな、では部屋を移そうかギルガメッシュ」
この時代に招待された英雄王のプライドと知識欲を、見誤った己を恥じつつエミヤはふっと笑いギルガメッシュの自室へ促した。
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ギルガメッシュの自室にて、コントローラーを握った2人は早速仮想空間で車を走らせていた。
時折ギルガメッシュの質問に答えながらコースも残すところあと一周まで進めたエミヤは、ふと聞きなれた自分の呼び名を舌の上で転がす。
贋作者…とある聖杯戦争でアーチャーのギルガメッシュと顔を合わせた時からずっと呼ばれ続けた名、嘲りを込めたものであろうとエミヤも納得の名称は今までもこれからもきっとこの金色のサーヴァントからしか呼ばれない。
「そういえば、君は分霊の記憶も得ていたのだな。カルデアで贋作者と呼ばれて驚いた」
初めてカルデアでキャスターのギルガメッシュと出会った時のことを思い出し、エミヤは苦笑する。
カルデアにギルガメッシュが来たという証もそうだが、何よりエミヤの心臓に悪かったのはキャスターのギルガメッシュと特異点で刻んだ縁の記憶だろう。
修復されてしまった歴史の中のある夜、賢王と自分は特異点を修復した後に枕を交わすと誓いを立てたのだ。いずれ消える夜だからと、その場の流れで首を縦に振ってしまったエミヤは落ち着いた後で自分の軽率さを恥じた。
結局のところ約束は果たされぬまま特異点は消え、理論上どの時代にも存在しなくなった時の記録はおそらく座の本体にも知られてない。
ほぼ言い逃げのような形でも、これはエミヤにとって嬉しい結末なのだ。
なにせあの時はギルガメッシュの前だからと虚勢を張って男色も嗜んでいましたが何か?の空気を出していたが、正直な話エミヤは男と寝たことは一度もない。
ぼんやり知識としてあるだけで変にプレイボーイを気取ってしまい、もしも何かの間違いで本当にギルガメッシュの寝所に招かれる事があればどうしようとのたうち回っていたのだ。
「ふん、フェイカーか…やはり我のセンスは並外れている。貴様を表すのにこれより適した言葉はない」
キャスターのギルガメッシュと接するうちに、万が一あの小っ恥ずかしい記憶が引き継がれていたら…という心配は杞憂だったこともわかり、エミヤはすっかり安心しきっていた。
安心していたからこそ油断していた。ギルガメッシュの性格なら、もし覚えていた場合には会ってすぐ約束を反故にした不敬について怒鳴られると思っていたのだ。
故に自分がうっかりライオンの尾を踏んでしまったと夢にも思っていない横顔を見つめ、おもむろにコントローラーを置いたギルガメッシュがまさに獲物へかぶりつかんと照準を合わせたことに気づかなかった。
「そうだろう?決して果たされぬことを知りながら平然と我に誓いを立てたのだ。それをフェイカー(嘘つき)と呼ばずして何と言う」
「なっ…!まさか特異点の記憶まで…!?」
素早く肩を抱かれ耳に注がれる熱い吐息に、エミヤは瞬間背を跳ねさせる。
思わず操作を誤り順調だったキャラクターの車がコースアウトし池に落ちるのを視界の端で見ながら、エミヤは今にも鼻先が触れそうな距離から見つめるギルガメッシュに息を飲んだ。
じわじわと熱が集中して体温の上がる頬を撫で、ゆっくりと唇の端を吊り上げたギルガメッシュはそのまま体重を掛ける。
「あの時はやむなしとこの我の慈悲深い心を持って見逃してやる。だが、それをおいても貴様が我を謀ったことに変わりはない。貴様の非礼、詫びる機会を与えてやろうではないか」
キャスタークラスにして筋力でも上回るギルガメッシュにマウントを取られ、エミヤはなす術なく英雄王の裁決を鼓膜へ流される。
低くひそめられた英雄王の慈悲、これをどう避けようか焦りにふやける頭でエミヤが必死に模索する様を、英雄王は滴るような赤き眼で堪能していた。
(意味)フェイカー
→贋作者、偽造者
→嘘つき