白藍の羽を梳けたなら(全年齢版)   作:Senritsu

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第8話 夜空を駆けるものたち

 

「一応、同行調査の要件を満たしてはいるが……危なくなったらすぐに俺を置いて逃げるんだぞ」

「うん。それが約束だもんね。……付いてきてくれてありがとう」

「俺自身は今でも反対だけどな……そうでなきゃお前は一人で行こうとするだろ。まったく、強情なもんだよ」

 

 湿った空気に包まれた、深い森の中。私の前を歩くのは無骨な大剣を担いだ大柄なハンター、調査班リーダーだ。

 過去の私と面識のある人々の中では、最もよく顔を合わせる間柄かもしれない。私は一応調査班の所属だから、さもありなんと言ったところか。

 彼は私に何か事情があることは知っているし、今の私に思うところもあるみたいだった。でも、特に深い詮索はせずに、あくまで調査班の一人として扱ってくれる。

 それが私にとってはとてもありがたくて、おかげである程度気軽に話せる間柄を保てていた。こうやってあのトビカガチが絡む任務への同行をお願いできるのは、相応の信頼を寄せているからだ。

 そのことを正直に伝えると、今の森は危険だと反対していた彼もしぶしぶ頷かざるをえないようだった。彼が調査班の人々から好かれる理由が、垣間見えたような気がした。

 

 狩猟環境は不安定、天候の方は落ち着いている。

 ゾラ・マグダラオスの件が一段落を迎えた今であっても、この騒動の背後には古龍種かそれに相当する存在の関与が囁かれている。

 それに比べれば、大峡谷付近の森に住んでいた若いリオレウスの縄張りが突然奪われ、それが大怪我を負っていたという今回の出来事も、些事に過ぎないのかもしれない。

 でも、今までのような結果として起きている事象に比べれば、より根本の要因に近いことは間違いない。そのための、実力の高いハンターを招集しての調査だ。

 

「フー……何度か騎乗を挟むにしても、この距離を陸路で移動はきついな。お前や学者さん方の予想通りなら、メルノスを使えないのは仕方ないが」

「高いところからの視察ができないのも痛いね。知らず知らず、あの子たちにけっこう依存してたのかも。どこかで高台か木に登りたいな……」

 

 古代樹の森は、肝心の古代樹から離れていくと、景色や環境の変化が緩やかになる。おかげで、位置や方向の感覚が掴みづらい。

 ただ、植物たちの生命力は相変わらずで、木々の葉も密集している。場所によっては大峡谷や古代樹といった目印どころか、空さえも限られた部分しか見えない。

 いくら私や調査班リーダーが歩き慣れていると言っても、導蟲による支援がなければ迷子になっていたかもしれなかった。

 

 雑談はいろいろと焦りがちな私の気持ちを紛らわしてくれる。彼がときどき私に話しかけてくれるのも、そうした配慮があるからなのだろう。後でちゃんとお礼を言わないといけない。

 

 いつもよりも半日ほど時間をかけて、トビカガチの縄張り付近まで辿り着いた。

 ここのトビカガチについては、調査班リーダーにも事情を伝えている。彼を対象とした特殊な調査依頼についても。

 私が十年前に突然大怪我を負って現大陸に渡ってしまった、そのときの事実も、これで粗方察されてしまっただろうなと思う。

 今まで特に直接的なことは言われていないけれど、心配されているのは伝わってきた。それはこの状況で他人の力を借りてでもここに来ようとした、私の行動そのものを指している。

 

 調査班リーダーに警戒をお願いした上で、騎乗訓練が施されたモンスターを呼ぶ指笛を吹く。大きく、森の中でもよく伝わるように。

 いつもであれば数分もすれば姿を現すはずのトビカガチは。偶然遠くにいて聞こえていなかっただけだとしても、こちらが場所を移して合図を出し続ければ必ずと言っていいほど出会える彼は、日が暮れても応えてくれなかった。

 

「ひょっとすると縄張りを移したのかもしれないな……聞いた話だと、そのトビカガチは相当に賢いんだろう。どこか安全な場所に身を隠していてもおかしくない」

「うん……」

 

 俯いて不安を隠せない私の肩を、ぽんぽんと彼が叩く。子どもの頃に私が泣いていたときもしてくれた仕草だ。自分が情けないな、と思った。

 何者かに襲われて大怪我を負ったリオレウスの縄張りは、ここからそう遠くない。大蟻塚に現れたアンジャナフやプケプケの元の縄張りもこの辺だったという事実も、最近になって発覚している。

 

 大丈夫、大丈夫なはずだ。自分にそう言い聞かせる。

 調査班リーダーの言う通り、あのトビカガチは他の同種に比べてかなり賢い。あの大火傷を負っても今まで生き抜いてきた事実がそれを証明している。

 だから、事が起こる前に逃げてくれているはず。自分自身が強いからこそ、さらに強大な存在に対してどう対処するかも分かってくれているはず。

 どこかに避難したならそれでもいいから、この騒ぎが落ち着いたころになって、また元気な姿を見せてくれればそれでいい────。

 

 遠くで、空を響かせるような咆哮が聞こえた。

 

「──!」

「──この声は……ついてきてくれ!」

 

 一気に表情を険しくした調査班リーダーが、足早に移動を始める。僅かな沈黙に、どうせ何を言ってもお前は追ってくるだろ、という言外の意図が込められているような気がした。

 そして、それは違いない事実だ。足は震えている。でも行くしかない。しっかりとこの目で見ないと、後悔することになる。

 

 道なき道をずんずんと彼は進む。たまに聞こえてくる咆哮は次第に大きくなりつつあった。音なんて木々や地面でかなり紛れるだろうに、この辺りの方向感覚が正確なのは流石と言う他ない。

 私は、この新大陸に帰ってきてから初めてかの竜と再会した日のことを思い出していた。

 あの光景は今思い出してもどきどきする。本来は格上であるはずのアンジャナフを軽々と翻弄するトビカガチ。その撃退までの一部始終を見た日。

 アンジャナフの怒号を頼りに森を歩き回ったあの日に、今の状況はとても似ている。

 

 ただ、今回はあのときとは時間帯と、咆哮の質が違う。それは、調査班リーダーが珍しく顔を顰める程だ。

 私も、似たような咆哮を聞いたことがある。聞いたことがあるから、足の震えが止まらない。今この状況で、よくまともに歩けているものだと他人事のように思う。

 

 状況の把握のために、調査班リーダーは岩棚になっている地形を登り、木の幹に身を寄せながら周囲を眇める。

 彼の設置したロープを使って私も何とか崖を登り、彼の足元に肘を置いてよじ登ろうとした、そのとき。夕闇が迫る森の中でぱっと赤い光が弾けた。

 一拍遅れて、どごん、という炸裂音が耳に届く。残り火がその周辺を仄かに照らす。局地的に吹く風が、火の粉を巻き上げて空に散らしていく。

 それは火炎放射というより、火の玉のそれ。アンジャナフができる芸当ではない。リオレイアか、リオレウスか。あるいは──。

 

 ばっと、空に大翼が舞った。

 夕暮れの暗さだから、はっきりとした色は見えない。けれど、もしそれがリオレウスであれば、その姿は夕焼けに溶け込む。リオレイアであれば、森の暗緑色に沈む。

 その大翼の主は、彼らと同じ姿かたちでありながら、そのどちらでもなく。

 夜空の、暗い蒼に重なっていた。

 

「リオレウス、亜種……!」

「これがか。青いリオレウスとはな……」

 

 私も調査班リーダーも初遭遇になる。色合いを文献で知っていた私よりも、調査班リーダーの方が驚きは大きいだろう。

 私と学者さんの推測は当たった。これだけの竜が今まで見つかっていなかったのも不思議だけれど、あるいは調査団が未踏だった地域、龍結晶の地辺りから来たのかもしれない。

 

 調査班リーダーと共に木陰に隠れる。リオレウス亜種は低空を飛び回って、時折地上に向けてブレスを放っている。

 リオレウスは基本的に、狩りをするときには火を使わず、脚や爪を用いる。炎を吐くのは専ら外敵に対してだ。つまり、今地上には、リオレウスと敵対している存在がいて、縄張り争いへ発展しかかっているということになる。

 そして、この辺りは誰の縄張りか。もう言うまでもないことだ。けれど、信じたくない気持ちが強くあった。

 

 もう、あの惨劇は見たくない。あの美しい毛皮が炎に焼き尽くされるのは、もうたくさんだ。

 そう願っていた。願っていたのに。

 炎の赤と、煤煙。そこにもうひとつ、地上から剣を薙ぎ払うように、青白い光が閃いた。

 

「──トビカガチ!」

「待てっ! 今は動くな……!」

「……っ!」

 

 咄嗟に身を起こしかけた私の肩を、調査班リーダーが強く押さえつけた。

 ぐっと歯噛みする。拳に力が入る。

 彼の言う事は正論だ。私が出たところで何ができる。護身用の閃光玉と煙玉であの蒼火竜を撒けるのか。否だ。それができるのは熟練のハンターくらい、ただでさえ混乱している現場に素人が飛び込んで、なんとかできるほど甘くはない。

 けれど、と心が叫ぶ。あれはだめだ。リオレウスに襲われてしまうことだけはだめだ。なぜ、トビカガチは立ち向かうことを選んだんだ。なんで────。

 

 トビカガチの尻尾の一撃を上空へ飛び上がって避けた蒼火竜は、その降下の勢いを活かすかのように地上へ急降下した。一息にトビカガチを掴み取りにかかる。

 その急襲をするりと避けて、トビカガチは蒼火竜の太い脚に噛みつく。小さく怯んだ蒼火竜はしかし、反撃でトビカガチの尻尾に噛みついた。

 その口からは炎が漏れ出ている。中の肉まで焼かれて噛み千切られてもおかしくない。トビカガチの身体が跳ねて、白い羽毛がぱっと舞った。

 舞い散る羽毛に雷が伝い、眩い光が奔る。蒼火竜が驚いて口を開けた隙に、トビカガチはその拘束から抜け出した。森の木々へと登り、その姿をくらませる。

 

 トビカガチが見えなくなっても、アンジャナフのように慌てたりはしない。蒼火竜は再び空へと飛び上がり、少しでも怪しい影を捉えると即座にブレスを放つ。かなり戦い慣れた個体のように思えた。

 対して、トビカガチも地上から迎撃する。木々の合間からきらりと光るものが飛んだかと思えば、蒼火竜の翼の根元へ突き刺さる。トビカガチの羽針だ。

 あの針はかなり鋭い痛みを発するらしく、リオレウスの羽ばたきが乱れる。その隙を狙い、トビカガチは再び木の上から跳び上がって尻尾を振るった。

 

 今度は高さ的にも十分に間合いに入っている。ここから飛んで避けることはできないだろう。

 甲殻で覆われていない、腹の辺りを切り裂かんと振るわれた一撃は、確実に入ったように思われた。

 

 しかし、その次の瞬間、地上に叩き落されたのはトビカガチの方だった。

 蒼火竜の長い尻尾が、鞭のようにしなってトビカガチを強かに打ち据えたのだ。地上ならともかく、空中でもあそこまでしなやかに動かせるとは思ってもいなかった。

 いくらトビカガチが皮膜を使って空中でもある程度動けるとは言っても、飛竜種が相手では機動力が桁違いだ。

 翼を持たず、空中では単調な動きしかできない者を打ち落とすなど、彼らにとっては造作もないことなのだろう。

 

 無茶だ。私はトビカガチにそう伝えたかった。

 いくらあなたが並の竜種より強いとは言っても、空の王者が相手では分が悪すぎる。

 いや、ひょっとすると、通常種とのリオレウスとは渡り合えてしまうのかもしれない。ただ、この亜種は強すぎる。ハンターでない私ですら肌でそれを感じ取れてしまう。

 未だ致命傷には至っていない、それだけでも十分にすごいことだ。

 ただ、この調子では重傷を負うのも時間の問題だろう。そして弱った敵を見逃すほど、この蒼火竜が甘いとは思えない。

 トビカガチは決して愚かではない。力の差は今までの攻防で十分に理解しているだろう。だからこそ、こうまでして固執する理由が分からなくて、私はただ焦る。

 

 調査班リーダーは別のことを考えているかもしれない。いくら特別な調査対象とは言っても、彼にとってトビカガチはこの騒ぎのひとつの要因、程度の存在に過ぎないだろうから。

 どちらにせよ、編纂者である私は、この突発的な状況を引っ張るだけの力も工夫も持ち合わせていない。

 明らかに震えている声を必死になだめながら、調査班リーダーに指示を仰ごうとした、そのときだった。

 

「───口を閉じろっ!」

「……!」

 

 鋭い警告。ぐいっと身体を引っ張られる。直後、私たちが身を隠していた木の近くの地面が急に爆発した。細かな火種が周辺に飛び散る。

 見つかった、いや、流れ弾か。

 竜同士の戦いはとても広い範囲に余波が渡る。リオレウスのブレスなどはその典型だろう。今、私たちは彼らにとても近い位置にいるのだ、と再認識させられる。

 

 少し空気が熱かったけれど、どちらも怪我はなかった。ただ、状況は予断を許さない。

 リオレウス亜種が羽ばたく風で、私たちが隠れていた木の枝葉までも揺れている。相当な距離があるはずなのに、これでも深追いしすぎなのか。

 調査班リーダーが私の肩を掴んだ。声に出さずとも、私を後方へ下げようとしていることが分かった。

 本当は踏み止まりたい。この足を彼らから遠ざかる方へ向けたくない。けれど、ハンターでない私は彼らにとってどうしようもなく足手まといなのだ。

 

 少し身を晒すことになるが、リオレウス亜種の注目がトビカガチへと向けられている隙に。

 できるだけ息を潜めながら、二人揃って駆けだした。途端に、周辺がやたらと明るいことに気付く。

 リオレウスが吐いた炎によるものだ。森林火災には至らないにしても、火の粉や残り火が夕闇の中で仄かな光源となる。

 

 私自身、さっきの流れ弾で草木に点いた火によって、揺らめく影が見えるほどに照らされていて────。

 

 ふと、トビカガチの視線を受けたような気がした。

 

 私は彼らから背を向けているのに、まるで、視線が交錯したかのような。

 そして、その直感はある意味で正しかった。走っている最中に後ろを振り向いた調査班リーダーが、「なっ……!?」と声に驚愕を滲ませたのだ。

 背中から突き飛ばされる。危うく転びそうになって、何とか踏ん張った。彼は前置きもなくそのようなことをする人ではない。なにか、よほどの想定外でも起こっていない限りは。

 いったい何があったのか、それを知りたくてちらりと後ろを見た私は、私もまた、その場に足を縫い留められてしまった。

 

 リオレウス亜種に追い立てられながらも、猛然とこちらへと向かって突進してくる、青白い電光。

 トビカガチだ。

 その瞳は、まっすぐにこちらへ向けられていた。

 

 もはや何が何だか分からない。調査班リーダーは身を翻して彼らに正面から向き合っている。咄嗟の判断で、私をどかして迎え撃つつもりのようだ。

 リオレウス亜種も私たちを視認したらしい。それだけで身体が数段重くなったような感覚があった。強者の重圧というものを、これでもかというほどに叩きつけられる。

 ただ、それでも調査団の若きリーダーは怯まない。大剣の柄に手をかける様子が、やけに生々しく見えた。

 

 まさか。それは私が想像していた最悪をも上回る。

 まさか、調査班リーダーはトビカガチを斬るつもりか。

 いや、彼はきっと迷わない。彼は調査団こそを家族だと常々言っていたから。私が幼馴染だからというよりも、私が五期団員だから。そこにどんな経緯があれど、彼は決して容赦はしない。

 

「────」

 

 止めて、と叫びたかった。けれど、声が上手く出せなかった。

 ここで不自然に調査班リーダーを止めたら、彼の命が危うい。びりびりと肌で感じる重圧が、それを何よりも雄弁に語っている。

 それに、もはやそこは狩人と竜だけが付いていける場だった。私がひとつひとつのことを考えている間に、目まぐるしく状況は動く。つまり、トビカガチと彼はもう、目と鼻の先ほどにまで近づいていた。

 

 そこに、人を背中に乗せていたときの理性はあるのか。

 全く速度を緩めずに飛び込んでくるトビカガチと、その後を追うリオレウス亜種に対して、調査班リーダーの大剣が抜き放たれ、振り下ろされる────。

 

 ひらり、と。宙を舞う羽が、それを掴もうとする手から逃げるように。

 トビカガチは、調査班リーダーの一撃を躱していた。

 

 いや、調査班リーダーの狙いがそこまで杜撰なわけがない。動きは単調に見えて、一瞬の駆け引きにおいては、大剣の溜め斬りはそう簡単に避けられるような技ではないはずだ。

 つまり、トビカガチはそもそも大剣の間合いに入ってこようとしなかった。それが自身に危害を与えることをしっかり把握していて、掠りもしないように、かなり大振りに避けたのだ。

 調査班リーダーとの駆け引きは一秒にも満たない時間。トビカガチはただ走り続ける────私を、見ている。

 

 どくん、と心臓が大きく脈打った。

 その一拍の間に、トビカガチは私に向けて飛びかかった。

 

「う、あぁぁあっ!?」

 

 次の瞬間、私の身に襲いかかったのは、激突の衝撃でも爪や牙に切り裂かれる痛みでもない。

 一瞬の浮遊感と、その直後に。

 電撃。

 革製の防具など容易に貫通する雷が私を焼いている。

 体のどの部位が感電したのか、分からない。というより、全身だ。両手も両脚も、胴体まで全て電気が伝っていく。体中の筋肉が悲鳴を上げている。

 

「ゔ、ぐぁ……かは……!」

 

 しかも────途絶えない。

 電撃は瞬きの中に突き抜けていくもののはずなのに、数秒、十数秒、体感の時間なんてあてにならないけど、とにかく途切れずにずっと私の身体を伝っている。

 

 いったい、なにが? 

 尋常でない苦痛。でも、電撃と浮遊感だけを味わうこの状況が分からない。何とかして現状を把握しないと。

 痙攣する瞼をどうにかこじ開けて、焦点の合わない視界を得る。めまぐるしく動く色彩が私の幻覚ではなく実際に見ている景色だと気付くまでに、いくらかの時間を要した。

 地面に触れてしまいそうなほど低い位置で、草木や岩がどんどん過ぎ去っていく。私がどんなに頑張って走っても、これほどの速度は出ない。なにかに乗せられている、のか。

 

 加えて、電撃から抜け出せないでいる。まるで全身を拘束されている、というより、全身を包まれているような。

 ちかちかと明滅する視界の中で、ひらひらと。この森には場違いな牡丹雪のような白い綿が舞っている。

 それが、彼の羽毛だということに気付いて。私はようやく、自分の置かれている状況を把握した。

 

 私は今、トビカガチの尻尾に巻かれて連れ去られようとしている……! 

 

「まって!! わた、わたしのことはっ、気にしないで!!」

 

 それは、何度か喉をひくつかせて、やっとまともに発することのできた言葉だった。

 調査団リーダーへ向けて。私が追跡できなくなる前に、スリンガー閃光弾か爆発弾でトビカガチの足を止めようとしているだろう彼に向けて、声を張り上げる。

 

「わたしはだい、じょうぶ!! あなたはリオレゥッ、リオレウスあしゅを! どうか、ぶじで……!!」

 

 それより先の言葉は、届かなかっただろう。そして、調査班リーダーの方からも何も手出しはなかった。ただ、「ネウ……!」という声と、リオレウス亜種の咆哮だけが遠く聞こえてきた。

 ネウ。私の本名だ。彼にその名前を呼ばれるのは、かなり久しぶりだったような気がする。普段は、役職で互いを呼び合っているものだから。

 そんな、あまりに場違いなことを頭の片隅で考えながら、私は成す術もなく、トビカガチの尻尾に包まれて、夜の森の中へと連れ込まれていった。

 

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