ヴィルマフレアの英雄譚   作:Senritsu

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第19話 千の言葉に千を返す

 

 

『果てなく広がりし大海原は、白霧を湛えて黙し、天下に日を呑み、天上の月を映す。

 

 君が以前の手紙に書き写していた一文の続きは、これなのではないかと思うんだが、どうだろうか。

 東シュレイドの書庫にも置いてある本だったはずだ。となると、どちらかが原本か、どちらも写本ということもあるかもしれないな。

 君は文章表現に着目したそうだが、実際、言葉というものは年を経るごとに移り変わっていくらしい。

 老人の話が聞きとりづらいときがあるように、文章も年を取るということだ。私も、古い文献を見ているときは、知らない言葉に対してよく頭を抱えている。

 

 それに、件の書き物はシュレイド地方を旅したという詩人によって綴られたものだったと思う。

 彼らは独特で豊かな表現を好む。比喩や遠回しな言い回しも多い。私からの手紙が主な学びの材料だとすれば、慣れない表現が多いかもしれない。

 私も、せっかく手紙を書くのだから、もう少し詩的なことを言えればいいんだが……どうにも気恥ずかしいんだ。この年にもなって融通の利かないものだな。

 

 図書館という施設に行ったとのことで、それは、東シュレイドでいうところの国営書庫に近いようなものだろうかと考えている。

 本や巻物、石板が各地から集められている点は同じだが、市民まで受け入れているというのは驚きだ。こちらの国営図書はそのような管理はされていない。

 あそこに入れるのは確か役人と学者だけだ。リーヴェルでない別の都市にあるから、私の立場でも入館は面倒だったと記憶している。

 

 実のところ、君に物語をおすすめしたことを少し後悔していたんだ。

 私はリーヴェルの城にも書物をいろいろと集めている。街の書士に収集を依頼したり、国営書庫から書き写したり、遠征先の集落で自ら手に入れたりしていた。

 だから物語や書き物に慣れ親しんでいるという具合なんだが、その環境で深く考えもせずに君に勧めてしまったものだから。

 だが、君が本を読むためにここまでの行動を起こすとは思ってもいなかった。

 

 詳しくは書かれていないし、君はそう思っていないかもしれないが、相当な努力があったのだと思う。

 君の文章力がその裏付けだ。一年前ですら驚かされたというのに、先の手紙はそれよりさらに上達しているし、それを使いこなすだけの知識まで身についてしまっている。

 もはや私と大差ないと世辞なしに思う。ただでさえ戦いの才がずば抜けているというのに、思わず嫉妬すら覚えるほどだ。

 

 君が手紙に書いていた通り、東シュレイドでも竜について正確に書かれた本はほとんどない。

 石板や壁画の方がまだ現実味があるという感想にも同感だ。当時の人々はまだ、外の世界に対して誠実に向き合っていたんだろう。

 こうなったら対竜兵団に画家でも招き入れようと思って、実際雇っているんだが、危なすぎるので遠征にはなかなか同行させられないというのが現状だ。

 

 どうやら君の話によれば、西シュレイドも東シュレイドも辿って来た道は同じらしい。

 東シュレイドも、初めはいくつかの街や集落のまとまりに過ぎず、長年の応酬や交渉を経て周りの小国を取り込んでいったという背景があるみたいだ。

 もっとも、今もその流れは変わらない。私が遠征に出ると、こんなところに人が住んでいたのかと驚かされるような独立した集落に出くわすことも珍しくない。君も一度か二度は覚えがあるのではないだろうか。

 

 西シュレイドも東シュレイドも、互いを誹って身内を立てるのは変わらないさ。

 こちらでも西シュレイドは圧政を敷いているだとか、貧しい民が多いだとか、いろいろと好き放題を言っている。

 もっとも、物的な豊かさでそちらが優れることは認めざるを得ないようで、その辺を避けた物言いになってしまっているが。

 ヒンメルン山脈を迂回して東西シュレイドが街道で繋がってしまった今、こういう牽制をしておかないと、民が移ってしまいかねない。それを心配しているんだと思う。

 

 君の言う通り、君も私も、私の周りの仲間たちも、西シュレイドの人と変わらない生き物だ。

 人々の竜に対する認識と同じように、そもそも違う生き物だと思えば関心を持たずにいられるし、そこに行ってみたいとも思わなくなる。

 君のもやもやとした思いを少しでも払拭できればいいんだが、もしかするとそれは、すっきりと分けるべきではない概念なのかもしれないな。

 ただ、両国の竜に対する立場を少しでも変えることができれば、そこを共通点、起点にしていろいろと模索できるのでは、と考えている。

 少なくとも今は、西シュレイドでも、君という人が私のことを知ってくれているというだけでも十分だ。

 

 これまでも、これからも、こういう話をする以上は、私の手紙は燃やしておくに越したことはないな。

 こうやって手紙を送っている立場でどの口が、という話だが、君に余計な面倒事が付いてきかねないから。

 ただ、私の文章が君の本として、そして教材として扱われているということなら、身が引き締まる思いだ。

 

 私も昔、文字や言葉を学んでいた時期に、本や絵巻物語を頭を捻らせながら読んでいたものだ。

 一日の学びではそう変わらずとも、一月の学びではだいぶ違う。あのときの感触を思い出して懐かしくなった。

 こんなことを言うと爺臭いかもしれないが、あれはなかなか貴重な感動だったなと後になって思うので、時おり思い出しておくといいかもしれない。

 

 思えばもう、七年近く経つのか。君に手紙を送り始めてから。

 一つひとつの出来事は濃く感じられるのに、まとめて振り返ると短いように思えるのが不思議だ。

 このやり取りの中で最も私たちに貢献しているのはかの手紙の運び人、クラフタということになるかもしれないな。

 相変わらず国境付近は竜の出る危険地帯だというのに、ここまで失敗なく手紙を届けられるというのは凄いことだ。彼をもっと労わってやらないといけないな。

 

 本を読めるまでに成長した君へ、懲りずにひとつ、おすすめしたい物語があるんだ。とは言っても、もう読んでしまっているかもしれないが。

 君は、五匹の竜の話という絵巻を知っているだろうか。

 人に問われるがまま、島に姿を変えてしまった五匹の竜と、彼らがそうした理由を訊ねに海を渡った青年の話だ。

 竜に関する資料が見当たらない中で、この物語は未だ語り継がれ、本としても形を残している。

 あまりにも内容が抽象的なものだから、やはり現実でなく空想の竜として人々には思い描かれているのだとは思うが。

 

 私はこの話が妙に記憶に残り続けているんだ。

 何が私の琴線に触れたのかは言葉にするのが難しい。

 ただ、この五匹の竜の話は、そこで語られている世界という言葉の範囲は、私よりも広く捉えられている。そんな気がしてならないから、なのかもしれない。

 

 先にも語ったが、冒頭の一文を書いた詩人はシュレイドを旅して詩を作っている。

 だが、詩人の書いてあることとは違い、ヒンメルン山脈は本当に果てしなく続いているわけではない。

 山脈が東西シュレイドを縦断し、一方の国に留まっていては果てが見えないからそう表現されているだけだ。これは君も知るところだろう。

 東シュレイドからさらに北にあるフラヒヤ山脈まで含めると、本当に大地の端まで連なっているように思えてくるが、あれもいつかは途切れるはずだ。

 東の果てには何があるのだろう。もしかしたら、私たちとは違う別の文明が栄えているのかもしれない。

 私たちがときどき初探索の地で人の集落を見つけたり、竜人族と言葉を交わすたびにそう思うんだ。私たちは、とても小さな社会に属して生きているのかもしれない、と。

 

 西竜洋もそうだ。こればかりは確証を持って言えないが、恐らく私たちは、大海のごく始まりのところしか見えていないのだと思う。

 近海に立ち込める濃霧のおかげで、私たちは海を渡るという発想をほとんどしなくなった。

 ただ、あの広大な海の向こうには、もしかしたら陸地があるのかもしれない。五匹の竜の話に海を渡ったと書かれていたように。

 フラヒヤ山脈が東の果てなら、西竜洋は西の果て、ということだ。どちらも私の代では辿り着くどころか、探索すらしようとしないだろう。

 

 突然、夢物語のような話をしてしまってすまない。君には馴染みがなく、戸惑っただろうと思う。

 実のところ、こうして竜や開拓地について話し込める人が身内にすらほとんどいないものだから、つい筆が乗ってしまうんだ。

 五匹の竜の話ともなると、さらに前のめりになってしまう。君の国には無い物語かもしれないから、話半分くらいに読んでもらえると嬉しい。

 

 君は今日も今日とて、遠征で強大な竜と相対し、街では図書館に通っているのだろうか。

 もし君の傍にいることのできる立場だったなら、はらはらし、励まし、語り、鍛える、そんな飽きの来ない日々だっただろうなと思う。今の立場でも十分、退屈はしていないけれども。

 君は私への刺客であり続けているが、それでもぜひ、明日を生き残ってほしいと願わずにいられない。今から返事が楽しみだ。

 

 ちなみに、君が先の手紙の最後に指摘した私の文字の手癖についてだが、実際にその通りだ。

 言い訳のようだが、リーヴェルは東シュレイドでも田舎とされる地方だから、国の訛りがより強調されてしまっているのだと思う。

 西シュレイドの本が手元にあまりなく、比較して修正しようにもそれができないのが口惜しいところだ。

 君にその手癖が移っているとは思わず、やや肝が冷えた。可能なら、西シュレイドの書き方というものに手を慣らしてみてほしい』

 

 

 

『あなたがおすすめしていた五匹の竜の話について、あなたに手紙を送っている間に読んでいました。

 物語を読んでいるときに思ったことを書こうと思います。

 

 私は海に沈んで陸になった竜を知りません。でも、大きな竜は死ぬ前に空を見ることがあるので、空を見上げて山になった竜は知っているかもしれません。

 私はうずくまって湖になった竜を知りません。でも、大きな竜が死んだ後はたくさんの生き物が来て草木が生えるので、眠りについて森になった竜は知っているかもしれません。

 

 空にのぼって青い星になった竜について、ふしぎだなと思いました。

 五匹の竜の話とは別の石板に、空を駆ける真っ赤な箒星が描かれていたので、あれが青い箒星になって空を流れていく様を思い浮かべました。

 白いせかいというものについては分かりませんが、太陽のことは知っています。読んでいるときに、どうしてか炎の龍のことを思い出しました。

 

 白いせかいにいた人々は、私たちとは違うと思います。

 本当にたくさんの人が集まれば、物語に書かれていたように、陸や山、湖、森を作れてしまうかもしれません。

 でも、あの夜空に浮かんだ月まではどうやっても作れないように思います。ひとつの例えなのかもしれませんが。

 

 描かれていた絵も綺麗で、言葉の数は少ないのに、引き込まれる感じがしました。

 他の多くの物語がこの国やヒンメルン山脈をもとに描かれているのに、海や空のずっと向こうまで書かれていたので、空想でも凄いな、と思っていました。

 

 でも、あなたの手紙を読んで、見方が少し変わった気がします。

 あの物語が、あなたのいう世界の広さを正しく知った上で描かれていたのだとしたら、空想の中で生きているのは私たちかもしれない、という考えが浮かびました。

 

 私は遠征でもあまり海にはいかないので、思い出しながらですが。

 あの水平線の向こうに五匹の竜の話の島があるのかもしれないと思うと、ふしぎな気持ちになります。

 船ではとても行けなさそうだし、竜だって飛んでは行けないと思うのですが、前に戦った炎の龍と、あなたが戦ったという鋼の龍だけは辿り着けそうな気がしました。

 

 私は今、学徒としてヴェルドの街に入っています。でも、立て続けに命令が下されることの方が多いので、半年に二、三回行ければいい方です。

 私が物語の本や絵巻ばかり探すので、周りの人からは子どもを見ているような目で接されています。おかげで、正体がばれずに助かっています。

 

 今、私にはもうひとつ気になっていることがあります。

 気になることがあれば手紙にでも書いてくれとあなたは伝えてくれたので、書いてみようと思います。

 

 私は、私自身のことが気になって、図書館で手掛かりを探しています。

 でも、知りたいことを教えてくれる本はなかなか見つからなくて、私自身、詳しく何を知りたいのかが分かっていないこともあって、うまくいっていません。

 私は昔のことを覚えていないので、そのことを知れたらと思っています。

 けれど、いくつか本を手に取ってみても、私に知らない何かを教えてくれるばかりで、繋がってはくれないという感じです。

 

 たとえその本が外れでも、知らないことを知れるので受け入れることはできます。

 あなたが教えてくれたように、こうやっていろいろなことを知れば、いつかは網のようになって昔の私に辿り着けるのかもしれません。

 でも、どうしてももどかしい気持ちになってしまいます。だから、こうして文章にして書き出してみました。

 

 もし、またあなたと向き合うことになったとき、それがあなたを殺すためか、別の理由かは別として。

 もう少し、自分のことを知った上で。ただ任務をこなすだけ、と考えることを止めてしまわないようにしたいと思っています。

 

 西シュレイドの私の身の周りのことなんて、あなたは知る由もないかもしれませんが。

 私の名前、顔、髪色、剣捌き、あなたが暗殺される、あなたなりの心当たり。

 なんでもいいので、何か知っていることがあれば、教えてほしいです。

 

 もし何も思い浮かばなくても、大丈夫です。手紙には、またおすすめの物語を教えてください。

 昔の手紙のように、あなたの身の回りであった出来事を書くだけでもいいです。物語と一緒に、それを読むのが楽しみです。

 私がそれを楽しみにしていたということに、最近になって気が付きました』

 

 

 

「君がその手がかりを得られないのも道理だ。……東西シュレイドは過去の詮索そのものを禁じているからな」

 

 半年に一度、そしてまた、半年に一度。

 まるで季節の便りのように交わされてきた手紙の、最も新しい一枚を手に取って、ヴィルマは呟いた。

 その口角はやや上がっている。いつにも増して考えていることの読めない顔だと、彼の傍に立つ従者のアズバーは思った。

 

「シュレイドは決して歴史を語らない。かつて起こった出来事を見ない。何のためにそうしたかすら、誰にも分からなくなっている」

「何よりも、忘れ去られること、それ自体を重要視したからだ。……以前はそう話されていましたね」

「よく覚えてたな。お前には何度か話してたか。何年も調べていたが、推測の中身は変わらないままだったな」

 

 ヴィルマは便箋を指で捲りながら、アズバーの声に答えた。

 紙の質は昔と変わらず、こちらの方で何らかの修繕を行わなければ、ひとりでにぼろぼろになってしまいそうなほどにくたびれている。

 手紙の差出人の経済状況は差し置いて、上質な皮紙が手に入りづらい環境なのだろう。書きづらさもあるだろうに、根気よく向き合うものだ。

 

 初めて彼女からの手紙が来たときには、一枚の皮紙に何度も打ち消し線を引いた文字を並べながら、一言二言の文言が綴られていただけだった。

 今は、文字は小さくまとめられ、何十と行を重ねても文字列が曲がっていくことなく、誤字や脱字もそうそう見られない。ぱっと見では役人が書いたと偽ってもばれないだろう。

 それが数枚に渡って続いている。一通目から五年以上が経っていることを考慮しても、戦士である彼女がここまでの上達を見せるなんて、誰も想像できなかった。

 

 西シュレイドにいる彼の文通相手は、今までに実情を感じさせるような相談をしてきたことはなかった。

 そういった思いをそもそも抱かない人のように前は感じられたが、前の手紙辺りから、言葉を選ばずにいれば、彼女は次第に人らしくなっているように思える。

 であれば尚のこと、彼女の相談事に応えてやりたいのがヴィルマの心境だろう。

 

「アズバー、代々の従者であるお前の一族に、何か口伝のようなものはあるか?」

「あるにはありますが、大したものでは。従者としての心構えと主への恩、程度のものです」

「そうか、まあ現行の戒めでは物語の形にでもしていなければ、言い伝えることすら難しいからな。

 もしかしたら、かつて父や祖父の代にも西シュレイドからの刺客が現れていたのかもしれないが、今やそれを知る術はない」

 

 その頃となるとまだリーヴェルも街と呼べるほど人がいたわけでなく、隣接する西シュレイドに対しての人の軍の駐屯基地という面が強かった。

 さらにその前となると、東シュレイドの建国、発展の時代になってくるため、いよいよ誰も知らなくなってくる。

 存命の者が居らず、存命の間に語ることもせず、竜人族ともほとんど関わりを持たなかったために、伝承、継承という人ならではの技術はほとんど途絶えてしまった。

 この家系は何年続いているらしいとか、この城は何年前のものだとか、そういった大枠だけで中身のない逸話だけが虚しく残り続けている。

 この徹底した戒めによって、小国を取り込んだ後でも反発や反乱が起こりにくくなっているという利点もあるようだが、ヴィルマは損失の方が大きいと考えているようだった。

 

「それにしても、彼女の方から聞いてくるとは……話を切り出すとしたらどうするべきか悩んでいたが、手間が省けたな」

「これまでの話とはまるで風向きの違う話と顔色をされていますが」

「そうだな、その通りだ。推測を重ねたところで視野が狭くなるから話さないでいたが、事情が変わったな。

 あの燃えるような赤髪と碧眼は、ひとつの証拠足りうる。

 どちらの性質も国にはそれなりにいるから確証は持てないが、提示するくらいはしてもいいだろう」

 

 ヴィルマはそう言って手紙を置き、皮紙と筆を手に取った。返事の手紙を書く前に、どのように話をまとめるのか下書きをするつもりなのだろう。

 今回は珍しく、ヴィルマがリーヴェルの城にいる間に手紙が届いている。この機を逃す手はないとやる気を出してのことだったのだろうが。

 そこで、ほんの僅かにだけ、周囲の空気が揺れた。

 

「……?」

「お、気付いたか? 勘は鋭いんだな」

「歩いていたら気付きませんでした。ここのところ毎日なので、気になってしまっているところもありますが」

 

 地鳴りというには静かすぎる、風というには一瞬すぎる、まるで遥か遠くで轟いた雷の余韻が響いているような、そんな感覚だった。

 本当に小さな振動のため、気付いていなかったり気にしていない人の方が多い。

 これで空の向こうに雷雲でもあれば話は単純なのだが、快晴で辺りに雲のない日にも感じたことがあったので、アズバーは少しの気がかりを感じていた。

 

「一応調査は出してはいるが、あまり期待しない方がいい。出所が分からないから聞き込みをしているような段階だ」

「地揺れや山崩れの前触れでなければよいのですが」

「そうだな……その通りだ」

 

 アズバーの言葉に、ヴィルマは口数少なく答えた。何かしら考えていることはあるのだろうが、まだ話すべきではないと判断したのだろう。

 アズバーはそのことよりも、彼女の手紙を読んだヴィルマが終始、口元に小さな笑みを浮かべていることの方が気になった。

 ヴィルマは面白さを念頭に動きたがる人物だが、何を面白いと思うかはアズバーにも与り知らないところがある。

 

 今、微笑んでいるということは、彼にとっては面白いと思える状況だということだ。

 普段はヴィルマから話しかけられない限り口を開かないアズバーだが、今はもうひとつだけ問いたいことを優先した。

 

「以前、彼女は可能性の塊だと仰っていましたね」

「ああ」

「彼女が知りたがっていることの提示というのは、その可能性と繋がるものなのですか?」

 

 アズバーの問いに、ヴィルマはその表情を少しだけ深めて答えた。

 

「もし繋がってしまったら、それは彼女の運命と言う他ないな」

 






作中設定解説

【五匹の竜の話】
後世では新大陸発見の大本となる伝承。
伝承の全文については『五匹の竜の話』で検索のこと。
新大陸古龍調査団のエンブレムに用いられるなど、重用されている。
新大陸の調査拠点『アステラ』の星の船に、この伝承を模った『五匹の竜の間』が存在する。
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