ヴィルマフレアの英雄譚   作:Senritsu

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第11話 それは獣の王たらん

 

 

 それはまさに、暴力の申し子と言える獣だった。

 

「うわあぁぁっ!? ぁがッ」

 

 一般の、走竜の皮を編んだ防具を着こんだ兵士が、黒い獅子の手中に収まった。

 指を広げて兵士の胴を鷲掴みにし、さも小枝でも拾い上げたかのように軽々と持ち上げる。

 掴まった兵士は恐怖に慄きながら抜け出そうとするが、かの獣の指の一本すらぴくりとも動かせない。

 それどころか、兵士の喚き声が煩わしかったのか、黒い獅子はその握り拳に力を込めた。

 腕の筋肉が盛り上がり、みし、と軋むような音が鳴る。

 その兵士は声を失って、血を吐いて喘いだ。身を守るはずの防具が、硝子のように砕けて兵士の肉にねじ込まれる。

 

 このままでは兵士の口から内臓が吐き出されてしまう。

 その凄惨な光景を受け入れられなかった周辺の弓兵は、兵士に矢が当たる恐れを飲み込んででも次々と矢を放ち、黒い獅子の注意を逸らそうとする。

 その目論見は功を奏したが、代わりにかの獣の報復を招いた。

 今、かの獣の手には物言わぬ肉塊が握られている。指の隙間からは血が滲んでいた。

 弓矢という小さな棘は、やや遠方から放たれていた。近づけば逃げられてしまうだろう。であれば、やることは一つだ。

 今一度腕に力を込めて、振り被る。弓矢が放たれている場所めがけて、肉塊を投げた。

 

 兵士の体が目にも止まらない速さで空を飛んだ。放物線を描くことなく、一直線に弓兵たちのもとへと向かう。

 弓兵たちにそれを受け止めることはできなかった。自分たちも無事では済まないだろうことが見て取れたからだ。

 投げ捨てられた兵士は、木の板でできた壁にぶつかり、それをへし折って、立てかけられていた弓や矢筒をさんざんに散らかし、血反吐をぶちまけて、ようやく地面に転がった。

 もはや今、生きているかも怪しい、たとえ生きていたとして、遠からず命を落とすだろう。

 それでも弓兵たちは、彼を助け起こして塹壕の中に連れ込んだ。ただただ不運だった彼を見捨てることはできなかった。

 

 黒い獅子はここが縄張りだとか、この障害を突破して進みたいだとか、そういった目的は持ち合わせていないように感じられた。

 もしかしたら、今この場にいる人々を完膚なきまでに討ち倒すこと、あるいは戦いそのものを目的としているのか。

 そんな、ありえないはずの動機を見出してしまうくらい、かの獣の攻撃性は凄まじく、かつ徹底したものだった。

 

「っ、大楯構えぇっ! 突っ込んでくるぞ!」

 

 数々の竜との戦いで指揮を執り、生き残り続けてきたヴィルマですら、咄嗟の状況への対処で精一杯になっていた。

 何人もの盾兵が長年の訓練で反復を繰り返したことにより、身の丈を優に超える大きさの楯があっという間に地面に突き立つ。

 木組みの楯の表面には、赤と黄、黒を基調とした派手な塗装が施されている。

 鈍重で回り込まれると効力を失う弱点を、あえて挑発し、さらに複数枚展開することで防ごうというもの。

 その一枚一枚が、都市の主門扉に匹敵する程に分厚く、頑丈だ。竜の炎を真正面から何発も浴びたとしても耐え切ることができる。

 

 兵士たちの練度がなければ、その大楯を持ち上げるよりも先に黒の獅子が突っ込んできていただろう。

 けれどもかの獣には、目の前に壁が聳え立ったとして、その勢いを止める理由には全くならないようだった。

 戦いが始まる前の、気迫を内に宿して歩いていたときとはまるで異なる、闘気を全面に押し出しながらの突進。前腕が地を掴み、その身を一気に加速させる。

 走りながら、かの獣は拳を握った。腕を捩じる。かの獣は自らの拳で繰り出せる破壊の最高効率を知っている。

 突進の勢いのままに、隆々と膨れた筋肉を乗せて、捩じり込むようにして渾身の一撃を放つ。

 

 鈍く、何よりも重い響き。大楯が跳ね上げられる様をヴィルマは初めて目撃した。

 まるで薄紙を指ではじいたかのように。杭の原理で地面に縫い留められていた大楯が浮き上がる。そのまま、地響きと共に地面に倒れた。

 人の手で組み立てられる以上、大楯の守りは人の手も借りている。あの盾であれば、一枚当たり三人から四人。いずれも力自慢の兵士たちだ。

 それがたったの一撃。一瞬の出来事だ。下敷きになっている者がいるだろうことは間違いなく、それよりも、あの拳の一撃は当然のように大楯を構成する全てに伝播している。

 ヴィルマの口から、歯ぎしりの音が漏れた。

 

 状況は刻々と進む。黒い獅子は次の標的に目を付けた。

 一度展開された大楯はすぐには撤収できない。それに、ここで退けば部隊の壊滅がより早まることを盾兵たちは理解していた。

 いずれの大楯も屹立したまま、黒の獅子は手当たり次第に向かっていく。

 次は大楯の正面に立つ。それ自体はかの獣の背丈を上回っている。

 こうして見れば黒の獅子の図体は他の竜に比べても小さいことが分かるが、もはやそれは何の慰めにもならない。

 

 両の拳を握る。殴る。

 殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る────。

 

 間もなく、二つめの大楯が打ち破られた。

 決壊した堤のように、折れて、拉げ、割れ、砕け、まだかろうじて立ち続けていたが、もはや壁としての役割は果たせなくなった。

 血飛沫が舞う、それはかの獣の拳から滲み出ていた。強靭な壁を何度も殴り続けたことによって、手の甲の皮が破けているのだ。

 しかし、黒の獅子はその程度の傷など気にも留めない。実際、彼らの驚異的なまでの傷の修復力ならば、何の懸念にもなりはしないのだろう。

 

 飽きもせずに次の標的を探す黒い獅子は、そこでようやく肩や後ろ脚からの痛みに気が付いたようだった。

 細く、いくつかは折れている木の矢に加えて、人の腕ほどの太さの鉄製の矢が各所に突き刺さっている。

 既に塞ぎかかっている傷跡もあるが、矢が深く食い込んでいる傷は激しく動いたことによりむしろ広がり、少なくない量の血を地面に零していた。

 

 黒の獅子が大楯の破壊を始める前から、その後方で弓兵と大弩を牽く砲兵たちが盛んに矢を射続けていた。

 兵士たちの心の支えとなったのは、彼らの放つ矢がかの獣に確実に傷を与えていることが目に見えていたことだ。

 かつての鋼の龍との戦いでは、風の鎧を傷つけることすら途方もなく困難なことだった。今回、流血が確認できるのは大きい。

 

 突き刺さった矢の何本かを引き抜き、黒の獅子は咆哮する。

 大楯から標的を切り替えた。黒の獅子を取り囲むようにして配置された砲台のひとつへ向けて地を蹴る。

 

 近付けたくない弓兵や砲兵たちが迎撃するが、射撃の瞬間をその目でしかと見ている黒の獅子にはもはや意味をなさなかった。

 左右にステップを踏みながらじぐざぐに跳ぶ様は、まるで竜のブレスを掻い潜る戦士のようだ。狙いが定まらず、的中数が大幅に下がる。

 それでも何本かは当たっているのだが、かの獣は怯む素振りを全く見せなかった。むしろ、牙を剥き出しにして迫る強烈な殺意にあてられて、弓や矢を取り零す兵士もいた。

 大楯の破壊に集中していたときも然り、痛みの忌避という生物の本能を取捨選択し、あるいは投げ捨てているかのような行動に、ヴィルマを含めた人々は動揺を隠せなかった。

 

 砲台に黒の獅子が迫る。身の危険が迫った弓兵や砲兵たちは、上官の指示に従って次々と砲台から飛び降りる。

 ぎりぎりまで粘っていた彼らに襲いかかることもできたが、そうはせずに、黒の獅子は大弩の銃身を鷲掴みにした。

 みしみし、めきめきと金属の悲鳴のような音が響く。接合部が外れ、機構がねじ切れて、あっという間に大弩はその機能を失った。

 

 それだけに留まらず、いや、元より大弩の破壊は二の次だったのだろう。

 先に身の丈を優に超える大岩を地面から引き抜いたときと同じく、いや、それよりは軽い挙動で、車輪付きの大弩の本体を両手で持ち上げた。

 大弩が宙を舞う。落下点にいた兵士たちは間一髪でその場から飛び退いた。

 ずん、と、半ば地面にめり込むようにして大弩だった残骸が四散する。修復など望むべくもない。

 厚い金属であるはずの銃身がねじ曲がっている。いったいどれだけの力が加わればそうなるのか、一部始終を見ていた兵士は思わず身震いした

 

 次は、と黒の獅子は辺りを見渡す。矢を射たなら、その場から殺す、と宣言するかのように。

 数秒後、野太い笛の音が人々を、そして黒の獅子を振り向かせた。

 

 大楯が立ち並んでいた方角からだ。

 倒壊した大楯の下敷きになっていた兵士の救出を終えたらしく、最後に残った二人組が肩を貸し合いながら塹壕へと逃げ込んでいく様が見えた。

 彼らから注意を逸らすようにして掲げられているのは二枚の大楯だ。健在なまま残されている最後の二枚だった。

 先ほどと配置を変えて、崖を背にして二枚を並べている。大楯は複数枚を重ねつつ繋げられるような構造となっているため、さながら二枚扉のようだ。

 

 その正面で、一人の兵士が角笛を吹き鳴らしていた。

 毛象の角を削り出して作られたそれは、人にとってはただの大きく良く響く音のようにしか聞こえない。

 しかし、竜や獣はかなり不快に感じるようで、彼らの動きを制御できる数少ない道具としてよく用いられてきた。

 黒の獅子もその例に漏れなかったらしい。他の砲台を破壊すべく動こうとしていたが、それを中断して大楯の方を向き、唸り声を上げている。

 

 誘い込もうとしている。黒の獅子もそれには気が付いただろうか。

 かつて、似たような誘導を仕掛けようとした際には、警戒して踏み止まる仕草を見せる竜もいた。

 このような駆け引きは、竜同士の争いの中でも繰り広げられているのだろう。彼らは人が思う以上に賢い。

 しかし、これまでの黒の獅子は、駆け引きなどという技を全て力でねじ伏せる戦い方をしていた。

 初めに様子見をしていた人々の不意を突いたり、自らを狙う矢を外させる立ち回りをしたりなど、戦いの勘は間違いなく鋭い。けれども、結局最後には自らの力に頼っている。

 故に、かの獣はここでも真正面から飛びかかることを選んだ。

 

 再び戦場を駆け抜けて、大楯の元へと舞い戻る。背後からの弓矢による追撃は無かった。

 二枚の大楯を互い違いに重ね、固く閉ざされた門。殴って倒すことも、壊して崩すこともできるだろうが、二枚が組み合わさっている以上、先ほどよりも時間と労力がかかるだろう。

 故に、かの獣は扉と扉の間にできた僅かな隙間に、指の爪を滑り込ませた。

 

 ぎっ、と力の加わる音が響いた。

 かの獣の爪が大楯に食い込む。鋭く尖った爪に全ての負荷がかかっているため、数秒も経つと指先が裂けて血が流れ出し始める。

 しかし、やがて大楯を構築する木材がその爪で削り取られ、指が入る隙間ができ、指先を充血させながらさらに隙間をこじ開けて、手の甲まで滑り込むようになった。

 

 二枚の大楯と大地とを繋ぎ止める杭が僅かずつ浮き上がり始める。さらに、幾重にも繋がれた閂状の留め具が限界まで張り詰める。

 大楯と獣の攻防ではあるものの、外観は閉ざされた門をこじ開けようとする大男のそれだ。

 組み合わされた大楯は、ヴィルマたちの率いる部隊で最も強固と言えるものだった。

 これ以上の防御を構築したいならば、大楯自体でなく、基礎の強化や支えの追加が必要になってくる。

 実際、今この時が黒の獅子を最も長く拘束できていた。大楯を殴り飛ばし、打ち壊し、砲台に飛び掛かって大弩を投げ捨てた、その各々の過程よりも長い時間をかけている。

 

 それでも、時間を稼ぐことができたとしても、竜や獣との争いにおいて、大楯が何かを最後まで護り切るということは難しいことだった。それはこの場においても例外ではなかった。

 牢の檻を力でこじ開けるかのようにして、楯と楯との間に隙間が広げられていく。

 留め具は一本、また一本と弾け飛び、その分だけ残された留め具への負担が増していくため、連鎖的な瓦解に至りつつあった。

 そして、愚直なまでの力押しで、肩から湯気が出るほどに力を込めていた黒の獅子が、気合を入れて一際強く息を吐いたとき、とうとうそのときが訪れた。

 

 大楯を支えていた杭がその効力を失った。全ての留め具が千切れ、黒の獅子を食い止める力は大楯の自重だけとなり、それはかの獣にとって片手で扱えるほどに軽い。

 二枚扉を開け放つ。地面には壮絶な力比べの痕が残され、かの獣の両手の爪先から流れ出ていた血は既に固まりつつあった。

 

 この先に必死の守りを続ける兵士がいて、ここからが殺しの始まりだ。

 大楯の守りの内へと入り込むとき、かの獣はそんなことを思ったのかもしれない。

 退けられた大楯には、誘い込みのための塗装とはまた別で、強い臭気を伴う果実の汁が塗布されていた。

 その臭気は、竜や獣の敏感な嗅覚による探りを阻害する。大楯の壁をこじ開けて踏み入った先で黒い獅子が嗅ぎつけたのは、大量の火薬の匂いだ。

 

 かの獣はその正体に覚えがあるような反応を示した。人のみならず幾多の竜を屠ってきただろう獣だ。火に塗れた経験があってもおかしくはない。

 反射的に飛び退こうとした、その瞬間。

 爆炎が、大楯を宙に浮かせるほどの炎が、黒の獅子を飲み込んだ。

 

 かの獣が吼えて、しかしそれも爆発音にかき消されて。

 人々たちに本能的な怖れを抱かせていた大角の片方が、爆風と共に宙を舞った。

 

「よし……!」

 

 ヴィルマの隣で観測をしていた工作部隊の隊長が身を乗り出して歓声をあげた。

 不用意に扱えば暴発しかねない爆弾を突貫で運び出し、火薬の匂いで警戒することのないように偽装し、ここぞという瞬間で爆破させてみせた。

 盾兵、弓兵、砲兵と様々な役職がある中で、工作兵もまた自分たちの役割を果たした。まさしく組織の戦い方だ。

 黒の獅子の行動が読みやすかったというのもあるが、相手が一体のみでこちらは複数人が並行して動けるという、数の利を最大限に活かしていた。

 

「崖、崩れます!」

 

 立て続けに報告が上がる。大楯の背後にある崖が、爆発によって崩れようとしていた。

 地響きはやがて轟音へと移ろっていく。堆く積み上げた積み木の基礎の一部を抜き取ったかのように、崩落は連鎖的に広がって土砂と岩が爆心地を飲み込んだ。

 濛々と土煙が上がる中、黒の獅子が飛び出してくる気配はない。

 それでも兵士たちが安堵の声を上げないのは、あの獣はこの程度では力尽きないだろうという共通認識があったからだ。

 ヴィルマたちの部隊は、土砂崩れや洪水といった地形を利用した罠を他の竜や獣にも仕掛けている。流石に仕留めただろうと油断して、痛い目を見るという経験は何度もあった。

 ただ、倒すことまではできずとも、戦いの趨勢を決することはできたのではないかと、そういう希望を抱く者はいる。

 

「鋼の龍は角を折った直後に飛び去りました。この獣も古の龍ならば……」

「楽観視はするな。こちらはほとんど全ての手札を切った。これで相手が退かなかったときの采配を今のうちに考えておくんだ」

 

 興奮気味の工作部隊長に対してヴィルマは冷静に諭す。

 彼らの心情も分かる。今の時点で戦況は相当に厳しいのだ。だからこそ、早く終わってくれ、さっさと決着がついてくれという焦りが言動に現れる。

 あれは古の龍だとする見方も同様だ。黒の獅子の剛力は常軌を逸していた。大型の竜すら余裕で投げ飛ばしかねないあの膂力は、鋼の龍が放つ風と似た理を感じる。

 もしこの後も戦いが続くなら、既に死人が出ていて後に引けない状況だとしても、撤退を視野に入れざるを得ないな、と。あえて口には出さないものの、ヴィルマはそのように考えていた。

 

 爆弾の炸裂に崖崩れが重なったことにより、土埃はしばらく収まる気配を見せなかった。

 余韻が先に過ぎ去り、夜が明けてから今に至るまで訪れることのなかった静寂に急造の戦場が包まれる。

 塹壕を伝って持ち場についている、兵士の誰もが固唾を飲んで事の成り行きを見守っていた。

 

「では、一度資材小屋へ戻ります。御用があれば伝令を走らせてください」

「分かった。もし可能なら、救護班に援護を寄越してやってくれ」

「了解です。こちらから何人か────」

 

 その声が、途中で途切れた。

 

「──は?」

 

 見たままを伝えるなら、掻き消えたと言う方が正しいか。

 今まさに塹壕へと戻っていこうとした。その地面ごと抉り取るように。

 目の前のヴィルマの視界を埋め尽くすほどに眩く、肌や防具を焼き焦がす熱量を持った光の奔流──恐らくは雷──が、そこにいた一人の人間を飲み込んだ。

 数秒間がひどく長く引き延ばされたように感じる、その雷の束がやがて細い光となって消えゆくときには。

 焼け焦げて火山のように赤く染まった地表と、ひらひらと舞い落ちる布の切れ端だけを残して。

 その場には焼け焦げた人の姿どころか、灰すらも残っていなかった。

 

 ヴィルマが振り返る。視界は暗く、耳鳴りが酷い。

 壁も、地面も、煙すらもぶち抜かれ、その一本の道筋は、光線を放った者の姿を遠くに示す。ヴィルマは、その姿を覗き見た。

 

 金色がそこにいた。

 夜闇よりも黒く艶があるようにすら見えた体毛は、今や逆立ち、雷を纏っているかのような放電を起こしていた。

 片角が折れてはいるものの、それが戦意を大きく削ぐようなことはなく、むしろ元からあった殺意と怒りが際限なく膨れ上がっていた。

 

 遠くに竜を見るとき、竜は近くにお前を見ている。ヴィルマの部隊の中での戒めとしてよく言われていたものだが。

 獅子と一対一で視線を交わし、心臓を直接握り潰されているかのような底知れない恐怖をヴィルマは感じ取った。

 

 黒の獅子、いや、金色の獅子が立ち上がる。天を仰ぎ、腕を振り上げて咆哮した。

 本物の蹂躙が、始まった。

 






作中設定解説

【黒の獅子/金色の獅子】
後世ではラージャンと呼ばれる牙獣種。
一般的な飛竜種よりも小さな体躯に比類なき膂力を秘める、超攻撃的生物。
作中の時代から遠い未来に至るまで古龍種と同列の扱いを受けていた。古龍の枠組みから外れ、牙獣種に分類されたのは現代でもつい最近のことである。
自然現象や生態系の崩壊を伴わずに単身で移動するため、古龍占い師(古龍観測隊)の予報が実質不可能であり、神出鬼没の要因になっている。
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