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すくうひと/Novel by ありのつめ

すくうひと

2,866 character(s)5 mins

加筆してまとめてからと思っていたのだけども、中々めどがつかないので最初のお話を上げます。
ナイエミで一緒に盛り上がってくれた方への贈り物。
ナイエミはもっと増えてもいいのでは…などと…

追記:天使と呼ぶな、は俗説のひとつから。エミヤさんへ己は祈りの先の偶像ではないぞ、という宣戦布告。

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はじまり


「やあ、ようこそカルデアへ!」
これで医療班の負担も減る、とかつて通信越しでしか知らなかった声が弾んだ。
魔力さえあれば人間よりもはるかに無理の利くサーヴァントだ、さもありなん。こちらとしても病や怪我を思う存分に滅菌消毒撲滅まで行えるのならば願ったりである。
フローレンス・ナイチンゲールは魔力の残滓の舞う召喚サークルの上で思った。
随分と進んだ世界である。医療分野もさぞかし発展しているだろうと彼女の期待は膨らんでいた。
特異点のアメリカではどうも、と此度のマスターが進み出る。
「ここの医療設備の案内を求めます」
フローレンスは挨拶もそこそこに、身の内から溢れる衝動に言葉を乗せた。それはもう、バーサーカーであるが故に。

英霊の身体は素晴らしい。一日中、最新医療のデータや資料を読み漁っても生前のように床に臥すこともなく、機器の扱いすらカルデアのシステムが知識を与えてくれる。治療行為に対する焦燥だけは募るが、そうあるのだからそれでいい。
最初に医務室に訪れた際には腰の引けていた職員や英霊のサンソンも、彼女が狂戦士であっても医療への熱意、理解は通ずるものと知れば積極的に歓迎した。
フローレンスが召喚されて医務室の住人になってからから二日目。大きなレイシフトも戦闘もなく、医務室は現在一人の患者もいない。もう一晩ここで勉強をしたいと訴える彼女に、スタッフたちは何かあれば呼ぶようにと指示を置いていった。人でない目にこの明るさはもったいない。節電のため最低限に絞られた明りの下には、端末を操る僅かな音だけ。
戦時中の夜はロウソクだけが頼りで、傷病兵のうめき声が響いていた。なんて明るく、清潔で平和な夜だろう。はやく、早く、世界を人を、蝕む腫瘍を取り除きに行きたい。理性と狂気がせめぎ合う中、不規則な足音の近づくのがフローレンスの耳に聞こえてきた。そう、あの頃に彼女が助け続けた音の一つである。
利用者の訪れに明りを点ければ、白髪に赤い礼装を纏った褐色肌の、青年サーヴァントが照らされた。
「患者ですね? さあ診察台へ」
「君は……ああ、マスターが召喚に成功したと喜んでいたな」
突然の明るさにか見慣れぬ顔に驚いたのか、目を見開いた表情は幼くも見えたが二十代後半といったところだろうか。
入口から動く気配がないが、怪我人で間違いはないだろう。フローレンスはここのマニュアルに従って続けた。
「カルテに記入します、名前と症状を。左足を損傷しているようですが」
「参ったな、予備の包帯をもらいに来ただけなのだが」
「だけかどうかを決めるのは私です」
「君に診てもらえるのは光栄だが、いやなに、朝には替えのものが乾くだろう」
彼は呼び止める間もなく身を翻し、早足に廊下の先へ消えた。

「ということが昨晩あったのですが、彼は一体?」
「あー、エミヤさんだきっと」
朝、出勤してきた職員曰く。近現代の出自を持つ英霊らしく、カルデア内の機材管理の補助や食堂の運営、果ては施設内の清掃まで難なくこなしているという。
「魔力供給のシステムに不備があったなんて報告は上がってないし、彼がレイシフトの戦闘に出たのは一週間は前だと思ったけど……」
職員が立ち上げたカルテをのぞき込んで、フローレンスは英霊の管理を担う管制室に向かっていた。
ただでさえ職員の少ない廊下は、機密を扱う場所へ向かうにつれ人気が失せていく。高く靴を鳴らすフローレンスの腕をとったのは。
「君、行動力がありすぎやしないか」
「貴方のことを知るためです、ミスターエミヤ」
「ミスターはやめてくれ。あと、ドクターのところへ行くのも」
「待ち伏せまでして、何か知られたくないことでも?」
「私より戦闘力の高い弓兵クラスの英霊が再臨を終えた。しばらく私にレイシフトは回ってこない予定だ」
「その怪我の放置はそれで?」
「ここでは発電による魔力がすべてだ。無駄遣いはできない」
「貴方の身の安全はどうなります?」
「問題ない……っ!?」
突如フローレンスは緩く腕に置かれていたエミヤの手を思い切り引いて、床に叩きつけた。
「立てないでしょう。左足首の外転骨折、靭帯の損傷。医療チームに自己生成の魔力も回して回復に専念すると告げておきながら一週間、何をしていたのですか」
「……時間とともに回復し」
「腫れてますね」
「いっ……」
掴んでいた手首を離し負傷箇所へ触れれば、明らかに熱をもって腫れている。
「よくもまあ、医務室から口八丁手八丁でもらい受けた湿布と包帯でここまで保たせていたものです」
「本当だ、アラヤの抑止力とはいえ英霊の端くれ、治癒能力に問題は」
「おや、私のクラスをご存じではありませんでしたか。殺してでも治しますよ」
「……え、ちょ……待っ」
フローレンスの筋力ステータスはB+である。

二日後、明りの落ちた医務室の夜。
入院措置という名のベッドの住人となったエミヤに、勤務のシフトに入ったフローレンスが就寝前のバイタルチェックを行っていた。
「大げさだ」
「今までの生活を振り返って頂ければわかりませんか?」
足首の負傷とレイシフトメンバーの更新が重なり、カルデア待機となってからの彼の一週間をさらってみれば。
最低限にすぎる治療のあとは勝手に魔力供給を絞るは全館の掃除と整理整頓に精をだすは食堂で翌日の食事のために夜を明かすは、それでいてとことん人目につかないように立ち回っていたという。
素材集めのレイシフトから帰還したマスターの雷が先ほど落ちたところだった。
「確かに我々は無茶の利く存在ですが、身体を労わらない行動は慎むべきです」
「私は……」
「たとえ正規の英霊でなかったとしても、です」
エミヤは、脈をとり終え、カルテへ記入するフローレンスを見上げた。
「君がどこまで知っているかはわからないが。私は人類の守護者であり、抑止力であり、ひとの意思だ」
彼女は、近代の英霊、しかも此度がアメリカを含め初めての召喚だったという。星の仕組みを知らずとも無理はないかもしれない。
だが、看護に掛ける情熱を、その激しさを、エミヤは知っている。伝記という物語で、また、生前その身でもって彼女の偉業を知っている。人生を捧げたその生き方を知っている。
「君がそうあったのとは違うし、足元にも及ばないとは思うがね。私のこの身はひとの為にある。私はそう生まれたし、そうあれと理想を生きた」
告白は間も置かずに赤い目が射た。
「貴方の人としての病はそこにある。私はそれを看過しない。切り取ってでも、治します」
「これを切除してでも治すというのなら、人類史の焼却でもない限り不可能だ。それを推すのなら、私は君を排除しなければならないな」
「何を心にもないことを。少しの間ですが見ていればわかります。方法はどうあれ、私は必ずやり遂げる」
「君はほんとうに……」

「白衣の天使などどいうのならその口を縫いましょう。私は、苦悩する者のためにこそ存在するのです」

Comments

  • 透明猫
    July 25, 2020
  • ぷよん
    January 27, 2017
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