米・イスラエルがイラン攻撃、生徒ら死亡 イラン反撃、周辺国に拡大
米国とイスラエルは28日、イランに大規模な軍事攻撃を始めた。両国がイランを直接攻撃するのは昨年6月の「12日間戦争」以来。イラン側も米軍が拠点を置く湾岸諸国や、イスラエルに向けて反撃に出ており、中東全域を巻き込んだ戦争に拡大している。
イスラエルが単独でイランを先制攻撃した「12日間戦争」と異なり、今回は米国とイスラエルが共同作戦で攻撃に踏み切った。米政権は国連安全保障理事会の決議も米議会の承認も経ておらず、国際法上の正当性が疑われる。国際世論のみならず、米国民への説明も不十分なまま、大規模な戦争につながりうる軍事行動に突き進んだ。
イラン攻撃の理由は
トランプ大統領はSNSに投稿した動画の中で軍事作戦の開始を発表し、イランの核やミサイルの開発阻止を攻撃の理由に挙げた。イラン国民に対し「我々(の攻撃)が終わった時、政権を奪い取れ」と体制転換を促した。
イスラエルのカッツ国防相はイスラエルにとっての脅威を取り除くとして、先制攻撃を実施したと発表。報復に備えるため国内に国家非常事態を宣言した。ネタニヤフ首相も「イランのテロ政権の脅威を取り除くため、米国と共同作戦を実施した」との声明を出した。
「数百の目標を爆撃」 ハメネイ師らを標的か
イスラエル軍はミサイル発射機などを含む数百の軍事目標を爆撃したと発表。「数カ月にわたり(イランに対する)作戦計画を策定していた」と明かし、軍情報部のアマンを中心にイランの政権高官が集まるタイミングの特定も進め、政権高官も標的にしたとしている。「夜間ではなく午前中に攻撃を実施したことで、奇襲を成功させることができた」とも訴えた。
イスラエルメディア「チャンネル12」などは、最高指導者ハメネイ師やペゼシュキアン大統領らも狙ったと報道。殺害に至ったか確認しているという。一方、イランのアラグチ外相は米NBCに「私の知る限り、(2人は)生きている」と述べた。
米国防総省は米側の作戦について「壮大な怒り」と名付けたと発表した。米紙ニューヨーク・タイムズは、昨年6月よりもはるかに大規模な攻撃になると米当局者が予測している、と伝えた。タイムズ・オブ・イスラエルは、共同作戦は「初期段階」として4日間続く、とする安全保障関係者の見方を伝えている。
学校で「57人死亡」報道
イランメディアによると、爆発は大統領府や国家安全保障最高評議会、最高指導者事務所など、イランの中枢施設が集まる首都テヘラン中心部で確認された。中部イスファハンや宗教都市コムなども狙われた模様だ。国営放送によると、ホルムズ海峡近くにある南部ミナブで学校が爆撃され、生徒57人が死亡したという。政府系メヘル通信は、イランの航空当局がイラン全土の空域を閉鎖したと報じた。
テヘランの住民によると、28日午前、中心部で複数の爆発音が聞こえた。政府系のイラン学生通信が配信した、現場近くで撮影されたとみられる動画には、市街地から灰色の巨大な煙が二つ立ち上っている様子が映っている。その後、テヘランの北部や東部でも爆発音が聞こえたという。
イラクメディアによると、バグダッド近郊にあるイラクの親イラン武装組織「人民動員隊」の本部も攻撃を受け、死傷者が出た。
イラン報復 バーレーンやカタールなどに広がる
イランの精鋭部隊「イスラム革命防衛隊」は28日、イスラエルに対して1回目の報復攻撃をしたと発表。その後、バーレーンの米海軍第5艦隊司令部、カタールとアラブ首長国連邦(UAE)の米軍基地、イスラエルの軍施設を攻撃したと明らかにした。このほかにもサウジアラビアやクウェート、ヨルダンでもイランの攻撃を迎撃しており、戦闘は地域全体に広がっている。
UAEの国営通信は、首都アブダビでミサイル迎撃の際の破片で、1人が死亡したと報じた。
日本経済への影響は
米エネルギー情報局によると、世界の石油消費量の約2割がイランに面したホルムズ海峡を通過する。紛争は原油・天然ガスの高騰につながり、世界や日本の経済にも悪影響を及ぼす可能性がある。
経緯
トランプ氏は第1次政権の2018年、米国も参加国だった15年の「イラン核合意」から一方的に離脱し、イランに強い経済制裁を加えた。25年に大統領に復権すると、イランに核開発を断念させるため「最大限の圧力」をかけるよう命じ、6月にはイランとの外交交渉を打ち切って核施設を爆撃した。
「12日間戦争」では、イスラエルがイランの防空網や核関連施設、ミサイル発射施設などを破壊。米国は地中貫通弾を使った爆撃に参加し、トランプ氏は核開発能力を「完全に破壊」したと説明してきた。しかし、昨年末から今年1月にかけて経済の苦境などからイランで反政府デモが広がると、米国が「救助」に向かうなどと述べ、軍事介入への意欲を改めて示すようになった。
2月に入ると、仲介国オマーンを介し核開発などをめぐるイランとの高官協議を進める一方、二つ目の空母打撃群を中東方面へ派遣。03年のイラク戦争以降、中東で最大規模とされる軍事力の展開を進めた。
トランプ氏は長く、過去の米政権の中東への軍事介入を「終わりのない戦争」として批判してきた。トランプ氏としては昨年6月にイラン、今年1月にベネズエラを攻撃した際のような短期的作戦を想定している可能性がある。ただ、米軍の長期的な関与や経済の混乱につながれば、米国内の支持層からも異論が強まる可能性が高い。
日本外務省によると、イラン国内にいる邦人は約200人で、28日午後7時ごろの時点では被害報告はないという。
日本政府の対応
米国とイスラエルがイランを攻撃したことを受け、高市早苗首相は28日午後10時過ぎ、首相官邸で記者団の取材に応じ、「関係省庁に対し、情報収集の徹底、今も現地に残る邦人の安全確保に向けた万全の措置を指示した」と述べ、周辺のバーレーン、カタール、アラブ首長国連邦(UAE)でも邦人の安否確認と安全確保を指示したと説明した。「現時点において邦人被害の情報には接していない」と述べた。また、原油の高騰などを念頭に「今後予想される経済的影響の洗い出しについても指示をした」とも語った。
首相はその後、関係閣僚らと国家安全保障会議(NSC)を開いて対応を協議。会議後、木原稔官房長官は記者会見で「イラン周辺国を含む地域全体の邦人保護および、海路、空路の状況把握と関係者への情報提供に引き続き万全を期していく」と述べた。一方、具体的な邦人退避の方法については「想定される退避ルートは邦人の安全確保の観点から差し控える」と述べるにとどめた。
木原氏は会見で、今回のイラン攻撃について「国際的な核不拡散体制の維持のためにも、イランによる核兵器開発は決して許されない」とし、「米イラン間の協議はイランの核問題の解決のために極めて重要であり、我が国としてこれを強く支持してきた。イランは核兵器開発および地域を不安定化させる行動を辞めるべきだ」と強調。「事態の早期沈静化に向けて国際社会とも連携し、引き続き必要なあらゆる外交努力を行っていく」と述べた。
日本政府は同日午後4時、首相官邸の危機管理センターにイラン情勢に関する情報連絡室を設置した。
航空便にも影響
航空便にも影響が出ている。日本航空(JAL)は、中東情勢を理由に、28日午後11時30分に羽田空港を出発し、カタールの首都ドーハへ向かう便の欠航を決めた。3月1日午前9時10分にドーハから羽田に折り返す便も欠航する。それ以降のドーハ行きの便については欠航するかどうかは検討中という。全日本空輸(ANA)は中東行きの便を運航しておらず、「影響はない」としている。
アラブ首長国連邦(UAE)の航空当局は28日、当面の間、国際的なハブ空港で日本人の利用も多いドバイ国際空港を発着する全便を停止すると発表した。利用者には、運航状況を各航空会社に確認するよう求めている。中東方面の便を見合わせる動きが各航空会社で相次いでいる。
- 【解説】
想定していた最悪のシナリオ。アメリカが空母二隻を派遣して、イランへの攻撃はアメリカがやるからイスラエルは控えておけ、というメッセージを発していたにもかかわらず、イスラエルは米イランの交渉が大筋合意に至り、技術的な交渉のフェーズに入ったということで、その合意が成立する前に交渉を止めようとして攻撃に踏み切ったものと思われる。これでイランが報復する可能性は高い。イスラエルの防空能力、特にアローシステムと言われる弾道ミサイルに対する迎撃システムがどの程度回復しているかで、今後の状況は変わっていくだろう。
…続きを読む - 【視点】
28日のイスラエルに寄るイラン攻撃は、米軍との共同だという報道がイスラエルや米メディアからでている。イスラエルメディアは、イスラエルは数か月にわたってイラン攻撃について米国と協議していたとし、今回の攻撃は「初期段階で4日間続く」としている。
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