「牛は何も悪いことしていない」被ばく牛の殺処分を拒み、ともに生きる畜産農家の15年 #知り続ける
体に白い斑点が現れた牛 たまみ
震災の半年前に生まれた雌牛・たまみ。町をさまよっていたところを美喜子さんが牧場につれかえってきた。 「おお、たま!って言って抱き合ったんだ。」 しばらくして、たまみの体に白い斑点が現れた。真っ黒な毛の中にぽつぽつと、体中に広がった斑点は、放射線の影響なのではないかと美喜子さんは心配を募らせる。 岩手大学などの大学教授らで作る研究チームができ、池田牧場の被ばく牛から血液や皮膚などを採取して被ばくの影響を調べることになった。 被ばく牛の研究は世界で初めて。汚染され、家畜としての価値を失った牛たちが、畜産を再開する手がかりをくれるかもしれない。 一方で、牛たちを生かし続けるために、苦悩していた。 牧場と避難先を行き来し、限られた時間で牛の世話をする毎日。最大の悩みがエサの確保で、その費用は多い月で60万円ほど。殺処分を拒んだ農家に行政からの支援はなく、生活費や賠償金を切り崩してエサを買った。 時にはネズミがかじった固いかぼちゃをスコップで砕いて…枯れ枝を刈り取って…牛が食べられそうなものは何でも与え、必死に命をつないだ。 「財産がなくなるか、牛の命がなくなるか。それは競争。」
被ばく牛の存在が営農再開の障害に
2016年、町では、避難指示の解除と住民の帰還に向けて話し合いが始まった。 「営農をやっていいのかどうか、道筋をはっきりつけて欲しい。作ったはいいが、売れません食べられませんでは、意味がない」 ずっと気がかりだったのは、被ばく牛を飼いながら、営農を再開できるのかということ。 町職員に詰め寄る光秀さんの口調も強くなる。 しかし、町の返答は… 「風評被害が問題。営農の再開ができるとははっきりと言えない」 被ばく牛の存在が、障害になっていると感じた。 池田牧場の周りでは、放射性物質を環境から取り除く、除染が少しずつ始まっていた。 本来であれば喜ばしいはずの復興への道のりを、美喜子さんは複雑な思いで見つめる。 除染が進み、住民が戻るために土地の活用が本格化すると、牛のために借りている土地を返さなければならない。自分たちの土地だけでは今の頭数を世話することができず、多くの牛が行き場を失ってしまう…