弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

労働者からの反論にまともに取り合わず、説明もなく職権行使を示唆として部下を従わせようとしたことが違法だとされた例

1.上司と部下との関係

 労働者とは「使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者」であるとされています(労働契約法2条1項)。「使用されて」という言葉から分かるとおり、労働者は使用者に従属し、その指揮命令に従う義務を負います。

 しかし、義務の根拠は飽くまでも契約に基づいています。そうであれば、契約上従うことに疑義がある命令に労働者が反論を示した場合、上司(使用者から労働者への指揮命令権限をの行使を委ねられた者)としては、労働契約の内容について、労働者の理解を深めるような対応をとって然るべきであるように思われます(労働契約法4条1項)。近時公刊された判例集にも、労働者からの反論にまともに取り合わず、説明もなく職権行使を示唆して部下を従わせようとしたことが違法だと判示された裁判例が掲載されていました。ここ数日ご紹介している、鳥取地判令7.9.25労働判例ジャーナル166-38 国立大学法人鳥取大学事件です。

2.国立大学法人鳥取大学事件

 本件で被告になったのは、鳥取大学医学部附属病院を開設している国立大学法人です。

 原告になったのは、被告と有期労働契約を交わし、被告病院内に設置された次世代高度医療推進センター(本件センター)で産官学連携コーディネーター働いていた方です。在職中に上司の教授、准教授らから数々のパワーハラスメントを受けたと主張して、不法行為(使用者責任)に基づく損害賠償を請求したのが本件です。

 原告が問題にした行為は多岐に渡りますが、その中の一つに、原告の主張する手続が誤りであるといえる根拠も示さないまま、上司(P5准教授)において、重ねて注意を行い、外部講演に行かせないかのような言動をとったことの適否がありました。

 この問題について、裁判所は、次のとおり述べて、不法行為の成立を認めました。

(裁判所の判断)

・講演〔4〕の手続に関するP5准教授の対応

「原告は、平成28年10月3日、P31協議会から平成29年1月頃の外部講演の依頼を受け、その旨を認定事実・・・のP8病院長及びP5准教授宛てのメールに併せて記載した・・・。」

「P31協議会は、同年11月30日、原告宛ての講演依頼の書面を提出した・・・。」

「講演〔4〕に関する被告総務課への届出のために、監督者の確認印を求める同年12月5日付けの書面には、本件センター長、部門長及び担当者の承認印欄や、部門長の承認日や本件センター長への送付日を補佐員が記載する欄が設けられており、承認印については、担当者としてのP32補佐員及び本件センター長としてのP8病院長の押印はあるが、部門長の押印欄は空欄となっていた・・・。」

「P5准教授は、同年12月19日、原告に対し、講演〔4〕について、講演依頼等の手続が進められる前にP5准教授が当該依頼を了解していないとして、従前にも同様の注意をしているように、上長であるP5准教授の了解を取った上で手続を進めるべきである旨注意した。この注意に係るやりとりの中で、原告は従前同様の注意を聞いたことはない、P4教授が上司であった時期には上長の許可が必要とはされていなかったなどと反論したところ、P5准教授は、従前の運用は知らないなどと述べた上、『じゃ、これは、断っていいの?』、『そんな態度だと、あなた、これ、僕は、認められないよ。』、『今、お願いしたいと言って来たけど、これまで、ずっと反抗的な態度をとって』と発言した。・・・」

(中略)

・講演〔4〕に関するP5准教授の対応

「P5准教授は、講演〔4〕に関して原告が事前にP5准教授の承認を得ることなく、手続を進めようとしており、講演〔3〕に関しても同様の注意をしたことがあったことから、再度原告に対して、P5准教授の事前の承認が必要である旨注意したものと認められる・・・。」

「確かに、原告はP5准教授から講演〔3〕に関して一度注意を受けたのに、自らが正しいと認識する手続の正当性について、先例があると主張する以上には具体的な根拠を示しておらず・・・、また、P5准教授の事前の承認が不要であるという根拠を示すこともなかったと窺われ、P5准教授の指摘を受入れることなく自己の見解に固執し、同様の行動を繰り返した原告の対応にも問題はある。また、根拠が不明確とはいえ、運用Bが現に存在し、外部講演に当たって原告にP5准教授の事前の承認を求めること自体は正当な指導といえることも踏まえれば、原告に対してP5准教授の事前承認を求めて改めて注意することが当然に問題となるわけではない。」

「もっとも、原告は講演〔3〕の手続に関してP5准教授から注意を受けた際に、P8病院長及びP5准教授に宛てて正しい手続を確認するためのメールを送信している上・・・、同メールにおいて平成29年1月に別の講演(講演〔4〕)が予定されていることも記載してあったのだから・・・、このメールを踏まえて原告とP5准教授との間で外部講演に関するルールを確認し、認識を共通化するべきであったにもかかわらず、そのような措置がとられたことは窺われない。講演〔4〕に関する注意の具体的なやりとりを見ても、P5准教授は、特段根拠を示すことなくP5准教授の事前承認が必要であることを繰り返し、原告がP4教授の下で業務を行っていた頃の手続に基づいて反論しても、それについては知らないと述べるばかりでまともに取り合わず、原告の主張が誤りであることを具体的な根拠に基づいて説明しようとはしていない。その上、原告が自らの立場を変えずにP5准教授の事前の承認は不要である旨の主張を繰り返すことに対して、「断っていいの?」、「そんな態度だと…認められないよ」などと、原告がP5准教授に従わないことを理由に外部講演を認めないかのような発言もしている(認定事実・・・。」

「このように、P5准教授は、講演〔3〕の際から原告の外部講演に係る手続の適否が問題となっており、この点について原告から説明を求められていたのに適切に対応せず、自らが拠って立つ運用Bの明確な根拠も、原告が主張する手続が誤りであるといえる根拠も示さないまま原告に重ねて注意を与えた上、原告が従わなければ外部講演に行かせないかのような威圧的発言をしたものである。当該発言は、講演〔3〕の手続に際して、P5准教授は原告に対してメールでP5准教授の承認(文面上は許可)が必要なのではないかと明確に伝えているにもかかわらず・・・、原告がそのような注意は受けたことがない旨述べたことに端を発するものであり・・・、P5准教授が原告の態度に苛立ったとしてもやむを得ない面はあるものの、その発言内容は、自らが原告の外部講演への出講の可否を左右できることを前提に、指導に従わなければ出講を拒否して不利益を課すことを示唆するものと理解するほかない。」

「そうすると、原告の言動を踏まえてもなお、P5准教授の一連の対応は、上司の部下に対する優越的な地位を利用して部下を従わせようとするものであって正当な業務上の指導の範囲を逸脱した部分があるといわざるを得ず、不法行為を構成する。」

3.説明せず強権的に言うことを聞かせることが問題視された

 以上のとおり、裁判所は説明もせず強権的に服従を強いようとしたことを違法だと判示しました。

 説明ができないのか/説明して主張が固定化されるのが嫌なのか/説明が面倒なのか様々な可能性はありますが、上司が部下からの反論に対して碌な説明もせず、強権的に言うことを聞かせようとしているケースは少なくありません。そうした事件に取り組むにあたり、裁判所の判断は実務上参考になります。