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カルデアの食堂であったいくつかの話/Novel by りょーこ

カルデアの食堂であったいくつかの話

14,315 character(s)28 mins

カルデアの食堂では、日々色々あるだろうと思って、いくつか食べ物をテーマに気軽な感じで書いてみた槍弓です。

あと、書いてる途中に正月イベントが始まって可愛かったので少し取り入れたりしてたりします。

ご飯の話は楽しいです。自己満足!!(笑)

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いろんなおにぎり


「あー腹減ったわー!」
 本日、弓の修練場周りをしていたランサークラスの者たちがカルデアに帰還する。
 いつもサーヴァントを強化する為などに使う素材が常に枯渇気味で、定期的に回収に出なければならないのだが、今日は思いのほか捗ってしまったようで、既に時間は20:00過ぎとなっていた。その中にはランサーのクー・フーリンもいて、彼の声が通路で響き渡ったのであった。
 それにつられてマスターが腹を抑えながら唸るように言う。
「アニキ、俺もお腹すいた!回収率が良かったからって、ちょっと今日は深追いしすぎたね」
 更に釣られるように、本日のメンバーの一員であるパールヴァティーも困り眉をさらに下げて頷いた。
「私もお腹が空きました…食堂は開いているでしょうか?」
「今日の当番はアーチャーだし大丈夫だろ。あいつは全員が帰ってくるまで、絶対待つような奴だかんな」
 このカルデアにはあらゆるクラスのサーヴァントが在籍しているが、その中でもランサーのクー・フーリンとアーチャーのエミヤはクラス名で呼び合うのがお決まりだ。クー・フーリンはクラスも多く、エミヤがランサー、キャスター、プロト、オルタと呼ぶものは全てクー・フーリンである。慣れるまではややこしい事この上ない。
 だが、そんな事にも慣れきった本日のメンバーの脳内にはエミヤの美味しいご飯の事がリアルに浮かび、腹の虫を鳴かせる者まで現れた為、足早に食堂へと歩く。
「アーチャー、たでーまー!」
 ランサーが大きな声で声をかければ白髪がチラリとキッチンの間口から見え、すぐに顔を覗かせた。
(ほーら居た)
 思わずニヤリと笑ってしまったランサーに気づいたのか、エミヤはふいと彼からは視線を逸らし、マスターの方へと視線を投げる。
「みんなお疲れさま。ちょうど君たち用の食事の用意ができたところだ」
「やったー!今日は何?」
 既に食堂の中には良い匂いが漂っている。口腔内の体液分泌が過剰になるのも仕方のない事だ。
「おにぎりと豚汁だ。他にも色々出せるが、メインはおにぎりだな。中身は鮭、おかか、明太子、筋子にエビマヨ、それから昆布に、照り焼きチキン、あとは梅干しだ」
「すごい!!どれも美味しそうで選べないよぉ!」
 アジアの島国である日本出身のマスターは非常に嬉しそうな声を上げた。このおにぎりという食べ物は、日本のソウルフードらしい。エミヤも同じ国の出身だからか、こういうメニューは特に得意のようだ。
「ふふ、たくさん食べていいぞ、追加も作れるから心配無用だ」
「なあアーチャー、鮭どれ?」
 マスターには緩い顔を見せるエミヤに眉根を少し寄せた後聞けば、彼は直ぐに眉根を寄せ、ため息をついて指をさした。
「皿に書いているだろう、しっかり目をこじ開けて見たまえ。君の目は節穴か?」
 言われてみればマスキングテープのようなものが貼られており、分かりやすく具材が書かれていたが、そんなところ見るわけが無いだろうと唇を尖らせる。
「なんだよ、気づかねーわ」
 恨めしげにそう呟くも、パールヴァティーが目を丸くして梅干しのおにぎりを持ち上げながら言った。
「えっ?気づいてましたけど?」
 その声に続くように、皆が口々に「俺も!」「私も!」「私も気づきました」と続き「…分かっていないのは君だけじゃないか?」
 最後に駄目押しのように孔明に言われてグッタリと肩を落としてしまう。皆、エミヤに胃袋を掴まれているからかなんなのか、彼の味方は多い。
(ちぇっ、まあいいけどよ…)
 大盛りに盛られた魔猪肉と野菜たっぷりの、こっくりとした豚汁に一味唐辛子を多めに振ってから啜りつつ、目の前の皿に乗せたおにぎりを見つめる。
 おにぎりとは、ご飯を手のひらで握って綺麗な三角形に形作り、最後に海苔を巻くという一見単純に見える料理だが、エミヤのそれは絶妙な力加減で握られており、齧るとホロリとご飯が解け、中の具材と絡み合う。一度食べたらやめられない、皆が大好きな逸品である。
 いよいよ手に取り、あーんと大きく口を開けて齧りついてみれば、口腔内で渾然一体となった米と鮭、しっとりとした海苔が混ざり合い、ランサーを幸せに誘う。
(たまんねぇーー!!!)
 鮭は好物だ。素晴らしい塩加減で焼かれたそれは、ホロリと柔らかくご飯と混ざり合い、海苔の香ばしさと相まって先ほどまで少し臍を曲げていた気持ちが解れて行く。
 直ぐに一個食べてしまい、次のおにぎりに手を伸ばした。
 筋子だ。筋子は鮭の卵巣を塩漬けにしたものである。塩漬けにせず調味料に漬け込んだイクラも好きだが筋子もたまらない。ネットリとした旨味と塩気が最高に米と合う。
「……飲むのだろう?」
 知らぬうちにランサーの横に来ていて、すっと熱燗を出してきたエミヤを見上げるが、すぐに女性陣の方へとお茶を持って行ってしまった為に顔はよくみれなかったのが残念だ。  
 だがまずは、彼のご厚意に甘えることとする。
「たまらんな…!」
 グビリと飲み干した酒は甘めだがスッキリと喉越しが爽やかで、このおにぎりによく合う。エミヤは下戸だが、酒の選び方は最高だ。きっと舌が良いのだろう。料理と酒は相性があるものだと知ったのは彼のおかげだ。
 その後ろ姿を眺めつつ今度は…と、手を伸ばした最後の1つの照り焼きチキンを、マスターが寸での所で攫って行ってしまった。
「あっ!」「んっ!!」
 思わずお見合いよろしく同時にあげた声に、マスターが眉尻を下げておにぎりを掲げた。
「アニキごめん、食べたかった?」
 そうだと言えば、きっと彼はその手のおにぎりをこちらに寄越すだろう。そういう男だ。けれどもそんな優しさが多くのサーヴァントを従えられているのだと微笑む。
「いーぜ、坊主が食えよ、まだ他のもあるんだ」
「じゃ、遠慮なく」
 嬉しそうにパクリと齧る姿を微笑ましく眺め、ならばとおかかに手を伸ばしていると、小皿がいくつか乗った盆を、エミヤが差し出してくる。
「…君にはこれをやろう」
 少しずつ乗せられたものは明らかに酒の肴らしいもので、他の者たちに供されたもとは少し趣きの違うラインナップだ。
「もしかして俺のために用意してくれていたのか?」
「……残り物だ」
 声色で分かる。これは別に作っていてくれた物だろう。だがそれをあえて指摘せず、軽く笑って彼を見上げた。
「そうかい、だが嬉しいぜ」
 言った瞬間に僅かに顔を赤らめたエミヤが可愛い。黙ったままで暫くキッチンに引っ込んだかと思えば、追加のおにぎりを皿に乗せて戻ってきて、まずその中から1つランサーの皿へと乗せてから、皆の前へ皿を置く。
 そのツヤツヤのおにぎりを齧ると、中からは刻まれた照り焼きチキンが出てきて、その肉汁とタレの甘じょっぱさも米との相性が抜群だと感動して思わず仰け反る。
 ランサーはそのおにぎりをじっくりと堪能しながら酒を飲み、また食べる。供された酒の肴にも時折箸をつけ、やはり酒を飲む。その美味さにだけではない、別の喜びに対する笑みがこぼれるのを、暫く抑える事が出来なかった。


クリスマスケーキの試作


「うむ」
 既に夕食も終わり、誰もいなくなった食堂のキッチン内。
 エミヤは業務用のオーブンの前でジェノワーズの焼き上がりを待っていた。クリスマスケーキの試作に使う為である。焼き上がりの軽快な音がキッチンに響き、既に漂っていた甘い良い香りが、オーブンを開けることにより更に強まる。
「良い焼き上がりだ」
 丸い型の中で綺麗に膨らみ、ムラもなく焼きあがったジェノワーズを手早く型から出してケーキクーラーの上に乗せ、濡れ布巾を被せて冷ましにかかる。冷めればラップで包み、冷蔵庫で保存するのだ。一晩寝かせたほうがしっとりとしたスポンジ台となるからである。
(あとは大人向けのものも作らねば)
 大人向けと言えばやはり、ビターなチョコレートを使ったムースケーキなどはどうだろうかなどと考える。しっかり焼いたジョコンドに、ラム酒を効かせたガナッシュとショコラムースを重ねて…などと考えている時が一番楽しい。
 トップのグラサージュの上には砕いたピスタチオなどのナッツなどを散らしてシンプルに。プラリネを乗せてもいいだろう。そういう方が好きだったなと、ある男の顔を思い浮かべてしまった。
(いかん、彼の為に作るのではない)
 クリスマスケーキは皆でシェアして食べるのが楽しいのだ。1人だけの好みを優先してはならない。
(だが酒飲み達には良いのかもしれん)
 想像した男の他にもケルトの男達は皆酒豪で、甘いものと酒を合わせることも多々あるし、考えているケーキならば喜ばれそうだとエミヤは考えた。
(そうだ、それならば大丈夫だ)
 そんな事を考えながら冷蔵庫を開ける。考え始めたら直ぐやりたい質だし、すっかり特技的なものになってしまった投影のおかげで機材には困らない。明日はチームにも入れられていないし、朝食の担当はブーディカとキャットだから、遅くまでやっても問題はない。
 お菓子作りの基本は計量だ。料理は今や目分量でもだいたいのものは作れると自負しているが、お菓子は別だ。キッチリと計らねば思った通りのふわふわやサクサク、トロトロは再現できない。温度管理や時間も大事だ。何かと手間がかかるけれど、出来た時の達成感は半端無い。
 何にしても無心で集中してやれるのが楽しい。その間の時間は一瞬で過ぎて、気がつけばキラキラと輝くチョコレートケーキが出来上がっているのであった。
「ふぅ…」
 デコレーションも完璧だ。つい興が乗ってチョコ細工まで作ってしまった。
「…よぉ、こんな時間に何してんだよ」
 不意に声をかけられてビクリと肩を揺らしてしまった。聞き覚えのある声。けれども多分。
「キャスターこそ何だね、こんな時間に食堂へなどと。なにかご所望かな」
「…まあ小腹が減ってなぁ。そしたら甘めぇ匂いがするもんだから、何かと思ったぜ」
 カウンターから覗き込んでくるキャスターに、見えやすいように向きを変えてやる。
「クリスマスが近いから試作をしている」
「ふーん。チョコか?」
「ああ、これは大人向きにラム酒を効かせてみたんだ」
「いいね、味見させ…、ってえ、何すんだよ!」
 いきなり膝カックンをされたのかキャスターの身体がガクンと下がった後ろから、ランサーの顔が覗いた。
「危なく先を越されるとこだったぜ…」
 ふうと額の汗を拭うような仕草を見せたランサーに思わず目を見開いた。
(どういうことだ?)
「さっき通りがかったとき何かしてっから、出来たくらいに声かけよーと思ってたんだよ。集中してる時に邪魔されたくねぇだろって思ってな」
(そういうことか)
 あまりに作ることに集中していて気づかなかった。
 いつの間に覗かれていたのだろうかと記憶を巡らせるが、やはり思い当たらない。
「お前にしては殊勝じゃねーか」
「俺だってそれくらいの気遣いはすんだよ!で、出来たのか?」
「あ、ああ…これだが」
 2人の軽口に気を取られているうちに話を振られ、慌ててランサーの方にもケーキを向ける。
「うまそう!キラッキラだな…星空みたいだ」
「そのつもりでデコレーションしたのだが、伝わって良かったよ。では切り分けよう。少し待ちたまえ」
 言えば2人は仲良くカウンターの席に腰かけた。同位体とはいえ個性の違いがある2人ではあるが、どちらもクー・フーリンということは間違いない。その不思議な違和感は今でもあるが、兄弟のようなものだと思えば問題はない。
 そんな事を考えながら湯を沸かしつつ問う。
「ああ、飲み物はコーヒーか紅茶か、それとも……ブランデーコーヒーはいかがかな?」
 夜も更けていてお茶では無粋かと提案すると、すぐに嬉しげに2人ともが口角を上げた。
「いいね!それ頼むわ」
「俺も!」
 その想像通りの様子に思わず微笑してしまい、すぐに顔を背けた。彼らにはあまりそういう顔を見せたくないのだ。照れなのか、今までの間柄からそうしてしまうのかは分からないが、おおよそ素直にはなれない相手である。
 エミヤはコーヒーをドリップしながら、少し温めたナイフでケーキをカットした。グラサージュも垂れてこないし、完璧な断面だ。さすが私と自分を褒め称えながら皿へと乗せ、コーヒーをカップに注いで2人の目の前へと運ぶ。
「普通のコーヒーに見えるが?」
「まあ待て、これからだ」
 カップの上に専用のスプーンを置き、角砂糖を置いてブランデーを注ぐ。更にそこにライターで火をつけて室内のライトのボリュームを下げると、青く美しい炎が上がっているのが見えた。成功だ。
「おお!」「綺麗だな!」
 などと素直な声を上げた2人に思わずまた笑ってしまって口元を手のひらで押さえる。
 火が消えた頃に残った液体をコーヒーに混ぜれば、カフェロワイヤルの完成だ。
 すぐにそれを美味しそうに飲む2人を眺めながらケーキの乗った皿を持ち上げる。
「ケーキもどうぞ」
 無意識にプラリネが多めに乗った方をランサーへ渡せば、キャスターが苦笑してフォークを持ち上げた。
「俺にもそのカリカリしたやついっぱい乗せてくれよ」
「ああ、すまない、君も好きだったかな?残っているから乗せよう」
 バットの中の残りを摘んでケーキの上に乗せようとすればサッと奪い取られてしまった。
 そのままプラリネはキャスターの口の中へと吸い込まれて噛み砕かれていく音が聞こえ、キャラメリゼされたナッツの香ばしい匂いが辺りに漂う。
「全く扱いに差があり過ぎじゃね?」
 そのままケーキを口に含んだキャスターが、少し不満そうに唇を尖らせた。
「そんなつもりはないが」
 と言いつつも、本当は自覚している。
 確かに意図的にランサーを優遇してしまっているが、周りに気づかれない程度に留めているつもりだったのだ。
 キャスターへの更なる言い訳を考えているうちに、能天気なランサーがクーーッと声を上げた。
「アーチャー!このケーキめちゃくちゃ美味い!口の中ですぐ蕩ける〜!」
「ラム酒も絶妙な加減だよな。これより多けりゃチョコが負けちまう」
 小さくため息をついたキャスターが、ランサーの言葉に続けて褒めてくるのに少し眉尻を落とす。
「それは良かった。じゃあ当日に自信を持って用意できるな」
 言えばランサーが隣の席を軽く叩いて視線を絡ませてきた。
「お前もここで食えよ。いつもそこばっかじゃねーか」
「……いや、私は」
「だから、こいって」
 思わず視線をそらせるも、少し強めの声で促されては拒絶できない。仕方なくエプロンを外して小さめに切ったケーキを皿に乗せ、ランサーの隣に腰を下ろせば満足そうに見つめられて困ってしまう。
「…強引だな」
 呟くように言って顔を上げればいつのまにかキャスターがキッチンへと移動していて、エミヤの気に入りの紅茶の缶を開けていた。
「じゃあ俺がお前に茶を入れてやろう。疲れが取れるまじないでもかけてな」
 フッと美しい笑みを向けられて、思わず照れてしまい反射的に断っていた。2人は基本同じ顔であるのに、趣きがちがう。キャスターには妙な美しさがあるから困ってしまう。
「…そ…れは、結構だ」
「いや、人の好意は受け取れよ?」
「ドルイド殿は何入れてくるか分んねぇから怖いよなぁ」
 グイとランサーに肩を抱き寄せられて言われた言葉に眉根が寄る。そういう意味ではない事だけは主張しなければなるまい。
「む、そういう訳では。特に疲れてはいないというだけだ」
 適当な理由をつけていると目の前にティーカップが差し出された。
「じゃあいいだろ、ほれ」
 思わず受け取るとまた笑みを向けられて、やむなくソーサーからカップを持ち上げる。
「…ではありがたく頂こう」
 紅茶に口をつけると甘さを感じ、飲み込めば紅茶の香りに混じって蜂蜜の香りが鼻を抜けてゆく。美味しさに思わず目を細めた。
「おいしい…蜂蜜を入れたのかね?」
「…いや、ミードだ。美味いだろ」
「お前、こいつ酒は…、ってあーあ」
 本当に美味しくて、すぐに全部飲んでしまうと、あっという間に身体が熱くなり、ふわふわとした心地になった。そうか、ミードとは確か蜂蜜酒だったか。初めて飲んだが想像通りの味だったなどと思いながら、ゆらりとランサーに凭れかかった。
「大丈夫か?」
 ランサーが心配そうな声を出してエミヤの頭を撫でた。
「ん…大丈夫だ…」
 そのヒンヤリとした手が気持ちよくて、思わず無意識に頭を擦り付けてしまうと、キャスターが何かランサーに言ったが、酔っているからか意味がわからなくて瞬きしてしまう。
「まあ俺からの早めのクリスマスプレゼントってこった。じゃあ後は仲良くな」
(クリスマスがなんだって?)
「テメェ………まあ、サンキュー」
「おう」
 ヒラヒラと手を振りながら食堂を出て行くキャスターをアルコールで半開きになっている目で追いかけていると、ランサーに引き寄せられてその顔が近づく。
「アーチャー…」
「ん?」
「ケーキ美味かったぞ。すっげー俺好み」
 囁き声で言われて眉根を下げてしまう。一番言って欲しかった彼に喜んでもらえるのは嬉しい事だ。
「当然だ。君好みに作ったんだからな」
 さらに顔を近づけ、額をペタリと合わせてしたり顔で言うと、パッとランサーの顔に朱が散る。
 それがなんだか可愛いなと思い不躾に見つめていると、彼は困ったように眉を歪めた。
「この無自覚め…」
 そう言ったランサーはそのままエミヤに音を立てて口付けた。何度か戯れるように唇を吸われた後、唇のあわいを割られて舌が絡む。
(甘い…)
 まだ自身の口腔内にほのかに残るミードの味と、ランサーの食べたチョコレートケーキの味、それと彼の神性の魔力が混ざって、その堪らない甘さにウットリとしてしまう。
(美味しい…やはり私の作るスイーツは最高だ)
 などと思いながら、彼の背中に腕を回す。


餃子を作ろう


 昼過ぎた頃に食堂を覗くと、いつもながらにキッチンの中に立つ人影を発見して中へと入った。さらにカウンターの中へと顔を覗かせると、なにやらエミヤが真剣な顔をして、白い皮に何かを包むという作業を高速でこなしているのが見える。
 そのスピードが早すぎて、動体視力が追いつかないほどだ。
「何してんだ?」
「…ッ!!!?!!」
 ビクリと身体を揺らしたエミヤが驚いたように顔を上げて、眉根をこれ以上ないくらいに寄せた。
「急に声をかけてくるな!驚くだろう!」
 エミヤは反射的だろうが、声を張って顔を歪める。その様子に思わず目を見開いてしまう。
「俺がきたの気づいてなかったのかよ」
「集中していたんだ!物凄く!ああ皮が破れてしまったではないか…」
 先ほど高速で包んでいたものが破けて中身が出てしまっているのが見えた。
(なんか勿体ねぇ事させたな)
 その中身を他の皮で包みなおしたエミヤに素直に頭を下げる。
「悪りぃ」
 そのおかげか、エミヤはまた作業を再開しながら軽くかぶりを振った。
「……いや、これしきの事で失敗する私の方が悪い。気にするな。怒鳴って悪かったな」
 視線を反らせて言ったエミヤが、その後は黙ったままで作業の続きを黙々と続けるのを暫くは眺めていたが、不意に問うた。
「で、それ何」
 今度は様子を伺いながらの言葉に、エミヤは手を動かす事をやめないで、軽く片目を閉じた。
「餃子だ。食べたことあるだろう?薄い皮の中にひき肉と野菜をこねたものを包んで焼く、ビールに合うアレだ」
「あーーあれか!皮はサクッとしてて中から肉汁がじゅわって出てきてサイコーのやつ!」
 説明を受けた瞬間にビジュアルと味が記憶の中で再現されて、口腔内に唾液が溢れ出した。そんなランサーに気づいたのか、エミヤが苦笑して軽く口角を上げる。
「そうだ。今日は楽しみにしておいてくれ」
 これは今日は機嫌が良さそうだな。そう思えば勝手に言葉が口をついて出た。
「……俺もそれ、やりたい!」
「は?」
「包むやつ、楽しそうじゃねーか」
 こういう作業もの、しかもそんなに難しそうでないものなら、自分でも出来るのではないか、しかもエミヤと2人で肩を並べて作業などと、なかなか出来ないことであろうと思ったのである。
 だが突然のランサーの提案に、エミヤは明らかに戸惑を見せる。
「……いや、しかし」
「まだ夕方まで時間あるだろ?やらして?な?」
 おねだりするように彼を見上げれば、心底困ったように眉尻を下げ、少し目尻を赤くして唇を真一文字に結び、暫く考えていたようだが、諦めたように息を吐いた。
「…ッ…、仕方ないな、手をしっかり洗いたまえ」
「やった!洗う!」
 エミヤの気が変わらないうちにと急いでハンドソープで手を洗い、タオルで拭いていると、後ろからフワリと何かを身体に纏わされて瞬きをしているうちに、キュッとその布が腰のあたりで引き絞られて固定された。
 これはエプロンだ。
「即席に投影したのだが、私のサイズになってしまったから、少し大きかったな」
「大丈夫だ。心地いいぜ」
 青色のシンプルなエプロンは、エミヤのものと色違いだ。なんだか嬉しくてクルッと一回転して見せると、彼はまた少し顔を赤くして視線を逸らしてしまった。
「なら良いが」
 呟いて作業台に戻ったエミヤの横に立つ。先程エミヤがやっていた様子を思い出しながら、餃子の皮を1枚手のひらに乗せた。
「で?どうすりゃいい?」
 するとエミヤが小さなスプーンを取り出して目の前の餡から少し掬ってみせる。
「この餡…中身を、このティースプーン山盛り1杯取って真ん中に乗せたら、こう、半分に水を塗って半分に折るだけでいい」
 確かに包めてはいるが、エミヤの包み方からは随分と簡素化されたものとなっている事に、思わず唇を尖らせてしまう。自分も同じようにやりたいのだ。
「なんか違う。お前はなんかヒラヒラ折ってるじゃねーか」
「最初からは難しいぞ」
「チャレンジしてぇから、ゆっくりやって見せてくれって」
 お願いすれば、エミヤが少しため息をついてから了承してくれたのが嬉しい。
「…よかろう」
 改めてエミヤの手のひらに乗せられた皮には、ヘラのようなもので餡が掬われ盛られたかと思うと、あっという間に襞が作られ包まれていく。流石にそれでは真似できない。
「もうちっとゆっくり!」
「ああ、すまない。よく見ていたまえ」
 今度こそゆっくりと形作られていくそれに、成る程と見よう見まねで皮に襞を作ってみるも、中々どうして難しい。
 少しでも欲張ると、餡が横からはみ出してしまったりするから手強いのだ。
「だから無理はするなと」
 思わず手を出そうとしてくるエミヤを制して、ランサーは新しい皮を持ち上げた。
「いーや、やる!俺はやる!」
 更なるエミヤのため息を聞きながらも手元に集中する。餡の量は分かってきたし、なんとなく皮の包み方のコツも理解した。あとは最後までやりきるのみだ。
「よっし、できた!!」
 テテーン!と効果音が鳴りそうな勢いで完成品をエミヤに差し出せば、おお!と驚いた顔をして、彼がその餃子をつまみ上げた。
「ほう、君は存外器用なのだな」
 存外は余計だと思ったが、出来たという達成感の方が大きくて胸を張ってしまうのであった。
「へへー!やればできんだよ!よーし、いっぱい包むぞー!」
「……飽きたら教えてくれ」
「飽きねーって」
「いーや。飽きるぞ」
「んなことねーよ!」
───数十分後、飽きた。
 それに薄々気づいたエミヤが、ほら、言わんこっちゃない、と言いたげにこちらに視線をチラリと向けたてきたから眉尻を落としてしまう。元々細かい作業を続けるという事は得意ではないのだ。分かっているくせに調子に乗ってしまった自分を珍しく反省する。
 この作業を延々と高速でやり続けられる彼を尊敬しつつ視線が揺らいだ。
(ギブアップするか…?)
 しかしそれも悔しいしと思い、ダラダラと手を動かしていると、突然後ろから小さいものに抱きつかれたのである。
「おじさま達何してらっしゃるの?楽しそう!」
 すぐさま聞こえた声は、あまりにも可愛らしく耳をくすぐるような声であった。
「おかあさん、私もそれやりたい!」
「私も…やってみていいかしら…?」
 ランサーに抱きついてきたのはナーサリーライムで、エミヤにペッタリとくっついたのはジャック、そして伺うように後ろから来たのはアビゲイルである。
 この子達を絶対に拒絶出来るわけがないエミヤの顔が、絶対に自分には向けられないタイプの笑みを作る。
「ではお手伝いをお願いしよう。みんな手は洗ったかな?」
 エミヤのまるで幼稚園だか小学校の先生のような話し方で、しかも膝をついて視線を合わせる姿を見ているだけで微笑ましい。
「はーい!」
「今から洗うね!」
「わかったわ!」
 チビッコ達はエミヤに言われた通りに楽しそうに手を洗い、彼の投影した長い踏み台の上に乗せられ、可愛らしいエプロンをエミヤによって纏わされ、きゃいきゃいと嬉しそうに教えられた通りに餃子を形作っていく。
 小さな手ではサイズが一回りほど小さくなってしまうが、それもご愛嬌である。
「はい、ハートの形〜!」
「私はお花!」
「みんな可愛い〜わたしはお星さまね!」
 などとフリーダムな面も見せてくるから、3人の目の前の皿には色々な形に成形された餃子が所狭しと並ぶこととなった。その様子を楽しげに見ているエミヤの表情が慈愛に満ちていて眼福だ。
 そんな姿を見ながら手を動かしていたら、先程までの飽きは何処へやら。また作業のエンジンがかかって、目の前の餃子がどんどん増えていく。
 気づけば全ての餡を、みんなで包み終えていた。
「よし、終わったぞ。みんなありがとう」
 エミヤが声をかければ可愛い3人が嬉しそうにはしゃぐ。
「やったー!!おかあさん、わたしお腹空いた!」
「わたしも!」
「わたしもお腹がすいたわ…」
 三者三様におねだりをする可愛い姿に顔も緩んでしまうというものだ。ランサーは目の前のボウルなどをシンクに運びながら横目でやり取りを眺める。
「お手伝いのお礼にお菓子をあげよう。粉だらけの手を洗ってから、食堂の机に座って待っていなさい」
「「「はーい!」」」
 チビッコの元気のいい声がこだまするのは、聞いていてほっこりしてしまうものだ。それにエミヤが加われば余計に効果がマシマシで、ランサーは思わず口角が上がった。
「君は子ども好きだったかね?」
 その笑顔を見て驚いたように目を見開いたエミヤに、ランサーはさらに笑顔を乗せて言ってやると、困ったように瞬きをしてみせた。
「お前ほどじゃあねえが、好きだぜ」
「…そうか」
「なあ、俺のお菓子は?」
 折角だと強請るように言えば、エミヤはいつものように皮肉る言葉を言うこともなく、手をタオルで拭きながら瞼を伏せた。
「…用意しよう。君にも手伝いの礼をしなければな」
 礼と言われると胸元がこそばゆくなるような気持ちだ。無理矢理に手伝っただけで作業の邪魔をしてしまったかもしれない。
 それに自分はただ単に彼の作ったものが食べたいというだけなのだ。
「俺ァお前の菓子が食べたいだけだぜ、礼なんか、」
「いや、君とこうするのも、悪く…は、なかったからな…」
 言いづらそうに顔を赤くしていうエミヤに、頭のどこかが焼き切れた気がした。
 どんだけこいつは可愛いやつなんだと、今すぐに抱きしめたくなった、のだが。
「っ、おい、ア」
 それを察知したのかどうなのか、するりとランサーから距離をとったエミヤはヤカンに水を入れて沸かしはじめ、ドリッパーを用意する。
「コーヒーでいいな?君もそのドロドロの手を洗いたまえ」
 指示されてそう言えばそうだったと己の手を眺め見る。粉や餡で、ベタベタのまま抱きしめたらきっと、エミヤとの喧嘩は免れない。
「…へいへい」
 ランサーは菓子とジュースを持って厨房を出て行ったエミヤの背中を眺めつつ、今日の夜は彼を部屋に連れ込む事を心に決めて、ハンドソープのポンプを押すのであった。


おにぎりふたたび


「ここがカルデアの厨房でちか?」
 見たことのない女の子が厨房へ声をかけてきたのを、夕食の仕込みをしていたエミヤは顔を上げて少しだけ思案した。そう言えばこの間から新しい仲間が増えたのだと、マスターが言っていた事を思い出した。
 その子が料理旅館の女将さんである事も聞いている。マスターは多分彼女が厨房の一員になる事を見越してエミヤに伝えていたのだろう。
 思っていたよりもずっと小さくて可愛い、けれども落ち着きのある女将さんがきたものだと、エミヤは思わず顔を緩めた。
「ああ、そうだよ。ああ君は新入りの」
 言えば紅閻魔は唇を尖らせて眉根を寄せた。
「新入りでちが、見くびらないで欲しいでち。お前様がここの料理人でちか?お手並み拝見といきまちょう」
 料理人かと言われれば趣味の延長であるからプロではないのだが、ここでは確かにそう言われればそうなのかもしれないと思わないこともないので、特に否定はしないこととした。
「…料理人というか、まあ、そのようなものだが、私は君のお眼鏡に叶うだろうか?」
「随分と謙虚なのでちね。ではおにぎりを作って欲しいでち。味はそう…塩だけで」
 その頼みに思わず背筋が伸びた。シンプルなものは誤魔化しが効かないものだ。米は俵藤太がいつも調達してきてくれるものだから間違いはないし、塩もおにぎりの時にはこだわりの藻塩を使用している。後は米の炊き方だけだが、日本出身の自分は米の炊き方には自信はある。それでも少しの緊張感に軽く息を吐いた。
「相わかった、塩むすびを作ればいいのだね。ご飯を炊くところからになるから、そこに座って待っていて貰えるかな?」
「ちゅちゅん!では出来るまで見学させてもらうでち」
 紅閻魔は最初こそ座ってエミヤの作業を見ていたが、すぐに座っていられなくなったのか、厨房の中をちょこちょこと見て回り始めた。
 その様子が本当に可愛くてチラ見しながら、夕飯の仕込みも続けつつ、米の給水が終わったのを確認して土鍋にセットし、水の量を測って火を掛ける。じわじわと沸騰し始めたのを見ながら弱火にし、米が沸騰して踊っている様子に耳を傾けつつ時間を計り、紅閻魔の様子を眺めた。
「ここは気に入って貰えただろうか?」
 業務用の冷蔵庫を覗いてみたり、調理器具を確認したりしていた紅閻魔が、満足気に微笑んでエミヤを見上げてくる。
「綺麗に磨かれていて良い厨房でちゅね。器具も揃っているし、動きやすそうでち。これはお前様が作ったものでちゅか?」
 泡立て器を持ち上げて聞かれた言葉に頷いてみせる。自分が使いやすいように少し形を変えているから気づいたのだろうか。その観察眼に感嘆しながら、ナイフを投影してみせた。
「そうだよ、私の特技はこういうのなんだ」
「わあ、すごいすごい!じゃあ紅の欲しいものも作ってもらえるでちね!」
 おお!と嬉しそうに声をあげた紅閻魔に眉尻が下がってしまう。こうも素直に喜ばれては、こちらも投影しがいがあるというものだ。
「分かるものなら大体できるさ。なんなりと。ん、火を消さなければ」
 一瞬火を強めてからコンロの火を切った。あとは蓋には触れずに黙って待つのみだ。
「ふふ、もう蒸らしまできまちたか。手際がいいでちね。たのしみでち」
 またちょこりと椅子に座った紅閻魔を眺めているうちに、蒸らしも終えた。蓋を開ければほわりと湯気が立つ。米はいつも通り綺麗にふっくらと炊きあがっていた。全体を優しく混ぜてから蓋に布巾を噛ませる。
「ではお待たせした。塩むすびを握ろう」
「待ってたでち!」
 わあ、と笑顔全開にしてきた紅閻魔に笑顔を返し、まだ炊きたて故に氷水で冷やした手を軽く拭いて塩をなじませ、ご飯を手のひらに乗せたら軽く形を作り、優しく2、3度握って皿に置く。それをもう一度繰り返して2個目をつくり、紅閻魔の目の前へ差し出した。
「どうぞ。試してみてほしい」
 優しく握られているということを心得ているのか、そっと小さな両手で持ち上げ、ぱくりと齧り付く姿が可愛い。
「では遠慮なく…む!美味しい!ご飯の炊き具合も握り加減も塩加減も全部最高でち!」
「気に入って貰えただろうか?」
「勿論!さすがカルデアの料理人、間違いないでちね!」
 思っていたよりもずっと褒められて、思わずさらに眉を下げてしまった瞬間に、厨房のカウンターから声がかかってドキリとしてしまう。
 勿論、見知った声だ。
「おーーおにぎりか、俺も食べたい!」
 基本的にエミヤが厨房担当の時に来なかったことはない男が、いつものように間食をねだりにきただけの話である。全く口卑しい事だと思いながら腕を組んだ。
「君は鼻が効きすぎではないかな?まだ少しはあるから作ってやろう、座って待ちたまえ」
「おう!」
 いい笑顔でテーブルの方へと行ってしまったランサーに小さく溜息をついてから踵を返すと、待っていたかのように紅閻魔が楽し気に顔を覗き込んできたのである。
「……このおにぎり、好きな人にはもーっと美味しく出来るものでちよ」
 思わぬ発言に息が止まりそうになり、思わず深呼吸してしまう。
「…?!な、何を言って、」
「あちきの目は誤魔化せまちぇん。お前様はあの御仁に惚れてまちね。見たところ凄くいい男とみえまちゅ。早くおにぎり、作ってあげるでち」
 しゃもじをポンと渡されて眉尻が落ちてしまう。そう言えば彼女は閻魔大王の養女らしいと聞いた。地獄で嘘を見抜く者の娘に隠し事はできないという事だ。
 エミヤは諦めて冷蔵庫を開け、焼き鮭を解したものを取り出した。
「鮭が好きなのでちね、ほうほう」
「…彼は基本的に何でも美味しく食べてくれるんだ。ありがたいよ」
 言いながら土鍋を開け、先ほどよりは少し冷めたご飯を手のひらに乗せ、真ん中に鮭を大目に置いて包み込む。最後にパリパリの海苔で包んで皿の上に置いた瞬間。
「お前様もペロリと食べられてるようでちが?」
 姿に似合わぬ紅閻魔の更なる問題発言に思わず目を見開き、声を張ってしまった。
「────っ!!な、何を!!」
 けれども彼女は全く動じることなく、澄まし顔でエミヤをじっと見つめ、おにぎりをまたパクリと食べた。
「紅の前では隠し事は1つもできまちぇんよ!何しろ閻魔様の娘でちからね。なーんて、ただの受け売りで、ホントはそんなの分からないただの獄卒でちけどね」
「……」
「ふふ、エミヤ殿は料理もできて、素直で可愛い子でち。紅は気に入りまちた。いいこいいこ」
(全く敵わないようだな…)
 椅子の上に上がった小さな少女に頭を撫でられながら、エミヤは眉根を下げて目を閉じた。

Comments

  • orangeshade
    October 24, 2023
  • こういう日常話大好きです! ご馳走様でした…☺

    April 14, 2022
  • とまとす

    おにぎりが食べたくなる、いいお話ですね…

    March 7, 2021
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