【Fate】雪は空に高く詠う
HFの記憶もったアーチャーが、第四次のアインツベルンに召喚されました。よ! スタックでネタぽそっとしたら、まさかの月鉈さんがフィッシュ出来たので書いてみた。勝手ながら、月鉈さんに捧げます。ぎぅぎぅ。 ちなみに、ぽぽいしたネタつ【四次にHF後弓が召喚→「アーチャーは、わたしを懐かしい目でみるのね」「イリヤスフィール……」「ねぇ、名前をおしえて。本当は思い出してるの、私知ってるんだから」「……士郎、シロウだよ、イリヤ」「そう。シロウ、っていうの」「嗚呼(そうだよ、姉さん。血は繋がらないけど、きみの弟だ)」】 表紙素材はこちら(illust/24776573)よりお借りいたしました。 文章力ないので言うと、あたまぎゅーってアレです、Zero二期EDでアイリが切嗣にベッドでしてあげてたry
- 1,229
- 1,530
- 36,215
そこに奇跡など介在しない。
在るのは純然たる事実のみ。
第四次聖杯戦争を控えた、ドイツ。アインツベルの城にて、コーンウォールから発掘された鞘を媒介に召喚されたのは錬鉄の英霊であった。
摩耗しつくしたと公言して憚らない男は、真名さえマスターには告げず。
マスターの妻たるアイリスフィールに、誠心誠意を尽くせばそれだけマスターに警戒されるとしても彼は構わなかった。
そして。
「……またそいつなのかい、イリヤ」
納得いかない。渋面を広げる男を前に、アイリスフィールは微笑む。
彼女と夫の先には、愛娘たるイリヤスフィールの姿があった。妻とそっくりなのは当然だろう、彼女と母親は実質一年しか離れていないのだから。
「そいつ、なんて言っちゃだめよキリツグ。アーチャーはキリツグを守ってくれるんでしょう?」
ね? 仰ぐように見てくる少女に膝をつき、視線を合わせてしかと頷く男の瞳は少しだけ常より柔らかい。
無論だと応える男に、満足そうな様子を返すイリヤスフィール。
「イリヤ、イリヤはもうレディだろう? レディは一人でも寝れるものじゃないのかな?」
「むぅ! なによ、キリツグだって、お母様と一緒に寝てるくせに!」
私知ってるんだから! 高らかに主張してくる娘にたじろぐ姿に、アーチャーが静かに首を振るう。
少しだけ拗ねた表情の彼女は、仕方なさそうに男に向かって両腕を伸ばした。
するりと回される腕は、慣れている人間の動きである。
彼女を抱き上げれば、物珍しい高い視界にきゃらきゃら可愛らしい笑い声があがった。
「さぁ出発よ、アーチャー! 明日は胡桃の芽をおしえてあげる! いっぱい、いーっぱい、知ってるんだから!」
「それはわかったから、イリヤスフィール。母上とマスターに就寝の挨拶を」
「わかってるわ。おやすみなさい、お母様、キリツグ!」
「えぇ、おやすみなさい、イリヤ。任せてしまって悪いけれど、アーチャー。イリヤを頼むわね」
「承知した。マスター、彼女が寝たら私は周辺の警戒に回る」
だからそう、ふてくされないでくれ。
僅かばかりに滲む戸惑いに返答を返されなければ、仕方がない。行こう、と少女を抱き上げて去っていく姿を光の消えた目が見つめていた。
しん、と静まり返る廊下を歩く。
城は寒いが、彼がそばにいるなら寒くないと思う。
もうすぐアーチャーもキリツグも母もいなくなってしまうけれど、必ず帰ってきてくれると約束してくれた。
必ず守ってくれると、約束してくれた。
少女はだから、その約束を無邪気に、当たり前に、信じた。
約束は守られるものだと、なんの疑いもなく、信じた。
ランプの消された部屋は、広くて、宝石や呪具や玩具が綺麗に整頓されて並んでいる。
ひとりきりのベッドではない。
自分の髪を撫で続けてくれる、アーチャーの乾いた指先が気持ち良い。まどろむような、まだ起きていたいような、そんな気分にしてくれる。
だから、彼女は微笑んだ。
うっすらと開く赤い瞳は、男と似ても似つかない。
けれど共通する白い髪は、どこかお互いを似通わせることになるだろうか。
「ねぇ、アーチャー」
彼女は、父親の従者を優しく呼んだ。
「どうしたかね? イリヤスフィール」
ベッドの縁に腰かけて、子守唄を、あるいは遠い国の物語をいくつも語り聞かせてくれた神秘の存在が柔らかく問い返してくれる。
彼の物語は、どんな本にも載っていないがどんな物語より素敵だった。
少女として生きられず、王として立ち、迷い、苦しみ、それでも答えを得た青銀の騎士王の物語。
時に優雅に、時に躓き、凛と顔を上げ煌く宝石の剣を手に世界中を幸せに変えたあかい魔女の物語。
ただ幸せになりたくて、ただ幸せになりたくて、間違ってしまったけれど、救われた花の物語。
そんな物語、どの本にも載っていなかったわ。
イリヤが言えば、とても秘密の物語だからと微笑まれた。
特に少女が気に入ったのは、巌の男と少女の物語だ。
少女はとても壊れやすく、だからずっと守ってくれる巌の男が傍にいた。彼女を狙う悪趣味な王様からも、どんなにボロボロにされてもどんな泥に飲み込まれても、男は黙って少女を守り続けた。
物語を語るアーチャーの瞳は優しくて、彼女は物語も、それを語ってくれる彼も、好きだった。
父親といる時の瞳は、どこか寂しそうだったから余計に。
「ねぇ、アーチャー。わたし、知ってるんだから」
「……なにをかね?」
髪を撫でる手は、止まらない。そっとそっと、壊れ物を扱うように。
彼が触れてくる指は優しい。
まるで、物語に出てくる少女のような扱いで。
「アーチャー、あなたはまるで、わたしを懐かしいものを見るように見つめるのね」
空気がやわらかく、固まった。
動揺の空気を、ここまで晒すのは自分だからだろうか。それを思えば、少しおかしい。
未だ動揺で動けぬ青年へ、彼女はそっとわらいかけた。
「ねぇ。名前を教えて。本当はもう思い出しているの、わたし、わかっているんだから」
キリツグやお母様には教えないであげるから、教えて頂戴。
少しだけ眠くなってぽかぽかとしてきた体温のぬるさそのままに、イリヤスフィールが誘う。
少女はローレライ。
美しい歌声で、引き寄せる。
ねぇ。誘いかける声音に、はじめから抗う気などないような素直さで。
少しだけ開いた瞳を瞬かせると、幼い彼女には広すぎるベッドだがそれでも少しだけアーチャーがいるのとは反対側へ身を寄せた。
不思議そうにしている彼に目もくれず、ぽんぽん、とベッドを示す。
横になってちょうだい。無言の意思表示は、僅かにあっけに取られたけれど叶わないと知っているせいか、おとなしくベッドが少しだけ揺れた。
前髪が少しだけ崩れたアーチャーの表情は、常の皮肉屋が嘘のような幼さ。
「……士郎、シロウ、だ。イリヤスフィール」
「シロウ?」
「……嗚呼。シロウ、オレは、シロウ、っていうんだよ。イリヤ」
きみの、
続いた言葉は、イリヤスフィールには届かなかった。
でも、アーチャーが、シロウが、泣きそうだと思ったから。彼女は幼い両腕を目一杯伸ばして、彼の頭を抱きしめる。
「そう、シロウ、っていうのね。やっとわかったわ。呼んであげられないのが、残念だけど」
「……イリヤ?」
「泣いちゃだめよ、シロウ。私が守ってあげるから」
「………いりや?」
「だって、私がお城に先にいたんだもの。私のほうがお姉ちゃんでしょう?」
短い白髪をそっと撫でて、摩耗しきった”弟”へ彼女は優しく微笑んで告げる。
「……ええ。わたしはお姉ちゃんだもん。なら、弟を守らなくっちゃ」
言葉のなにが、シロウを溢れさせたのかは知らない。
けれど、イリヤスフィールの明かりが落とされた寝室には、噛み殺しきれない嗚咽を零すシロウがいて。
そんな彼を、慈しむように抱きしめる冬の妖精がいたことは変わらぬ事実で。
少女の表情は、いつか、大聖杯の向こう側で弟の魂を抱きしめる の表情とまったく変わらなかった。
まもれなくて、ごめん、ねえさん。
鋼の瞳から、はらはらと流される涙の美しさと尊さと切なさは、だから、イリヤスフィールだけが知っていれば良いことだ。