一水会代表・木村三浩氏に聞く、「原発」に反対する理由…人間の尊厳と暮らしを一瞬で壊した原発事故「国を愛する者として肯定できない」 #知り続ける
世界最悪レベルの東京電力福島第1原発事故が起きた日本で、原発回帰が止まらない。政府は脱炭素推進や電気料金の低廉化などを理由に原発推進にかじを切り、東電柏崎刈羽原発も再稼働した。原発を抱える地方の将来、日本のエネルギー政策の問題点はどこにあるのか。科学万能の考え方に疑問を抱き、対米自立の観点で脱原発を説く民族派団体「一水会」。事故からまもなく15年となるのを前に、「原子力ムラ」とは一線を画す論客に原発との向き合い方を聞いた。(論説編集委員・仲屋淳) 【年表】柏崎刈羽原発の歴史 -今年3月で発生から15年となる福島原発事故をどう考えていますか。 「原発は安全と言われてきたが、とてつもない事故を東電は起こした。国土を放射性物質で汚し、今も住民が自宅に戻れない状況を生み出した。精神的な負担を住民に負わせ、金銭補償で済む問題ではない。地域コミュニティーの喪失も大きい。国は2045年3月までに、事故に伴い発生した除染土を福島県外に搬出し最終処分する方針だが、どこに出すのか」 -一水会が原発に反対する理由を教えてください。 「一水会は1972年に発足した。福島県郡山市生まれで初代代表の鈴木邦男さん(故人)の存在が大きい。戦後日本社会は、米国の占領政策の下で動いてきた。企業の営利至上主義が基本にあり、地方を解体していくような形で発展を目指してきた。札束で住民の頬がたたかれ、自然を顧みずに原発が建設されていくことに、鈴木さんは抵抗感を抱いていた。自然と地域共同体を大切にする戦前からの運動を引き継いでいる」 -事故前は原発の安全神話が広がっていました。 「科学は社会と人間に貢献する一方で、人間の尊厳と暮らしを一瞬にして壊すことを原発事故は示した。科学万能の考え方への懐疑がある。科学が生み出す危険な技術は原発と兵器だ」 -日本の核燃料サイクル政策推進の根拠となる日米原子力協定を問題視しています。日本の『核燃料サイクルを基本とする原子力政策』は決して、自国の意思で自由になるものではないということですね。 「米国の意向次第で核燃料サイクルはできなくなる可能性があることを、理解しておいた方がいい。米国主導の原発政策を見直し、原発に関しても『対米自立』を果たすべきだ。その観点で、原発をゼロにするのは一つの選択だ」 -東電柏崎刈羽原発は再稼働しました。 「何のために再稼働するのかという根本的な疑問がある。東電は経営の論理を優先させている。電力は必要だが、原発が安全というのは本当なのか。再稼働後、福島と同様の事故があったらどうするのか。福島事故で人間は原発を制御できたと言えるのだろうか。原発は人知を超えるものになっている。国を愛する者として肯定できない」 -ネットでは再稼働の是非に関する発言を揶揄(やゆ)するような書き込みもあります。健全な言論空間の構築に向けて必要なことは。 「新潟県が実施した県民意識調査では『再稼働の条件が現状では整っていない』という回答が約6割だった。その数字を見ても再稼働容認は拙速だった。批判は相互に気づきをもたらすが、誹謗(ひぼう)中傷に意味はない。原発問題や安全保障に絡む問題は大きく意見が分かれる。メディアは自主規制することなく、踏ん張ってほしい。でないと、本当に言論が壊れる」 -日本でのポピュリズムの台頭を感じますか。 「思考停止の状況になっていると感じる。戦前の歴史を読むと、威勢のいい意見によって誤った世論が形成され、本当に大切な少数意見が消え、国が判断を誤ったことが分かる。良心的な人たちが分断されないように、連帯して良質な言論を構築する覚悟が必要だ。思考停止は国力を低下させ、国益を損失することになる」 -ネット上では一水会が「左翼」と言われたことがあるそうですね。 「分かっていないですね。本や新聞を読まない人が増えており、勉強不足なのだと思う。一水会への匿名の誹謗中傷はある。われわれは対話を重視している。健全な話し合いならば、きちんと場を設けている」 「ネットでは、相手をレッテル貼りし、手っ取り早く自分の意見を発信できる。他人を誹謗中傷することでストレスを解消し、自己欲求を満足させている人がいるならば、言論の堕落だ。そのような行為には価値がないということが社会の共通認識になれば、誹謗中傷の書き込みは自然に淘汰されていくだろう」 -高市早苗政権も原発再稼働を推進しています。 「国の政策がすべて国益や国民の幸せに合致するとは限らない。政府の政策で足りない部分、間違っていることは批判していく」 ◎木村三浩(きむら・みつひろ)1956年、東京都生まれ。慶大卒。92年に一水会書記長、2000年1月に代表に就任。日本ペンクラブ会員。75年発刊の「月刊レコンキスタ」の発行人。著書に「お手軽愛国主義を斬る〜新右翼の論理と行動」(彩流社)、前田朗氏との共著、「領土とナショナリズム」(三一書房)、大西広氏との共著「反米自立論」(あけび書房)ほか著書、寄稿など多数。