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混乱しやすい, ヘンリーの法則について

7月は気体の溶解度(ヘンリーの法則)について授業することが多かった。その中で感じたことをいくつか。

ヘンリーの法則の複数の表現による混乱

ヘンリーの法則
 水に溶けにくい気体について, 水に溶解する気体のmolは, その気体の圧力および水の体積に比例
→ 与えられる基準のデータの何倍になっているか?を考える

表現(A)

上の表現(A)を軸に考えるようにさせている。
(*液体は水で考える。また, 温度が低いほど溶解度は大きいことも炭酸飲料を例に説明している)

ここでポイントなのはmolで考えよう, ということ。molのまま考えている間は正直そこまで難しいと思っている生徒は多くない印象。なぜかというと, 「(本来水の中に入りにくい気体の粒は, )押せば押すほど水の中に入っていく粒の数が増える」のはイメージに反しないからである。

もちろん, いちいちmolに変換するのは面倒であり, 例えば気体のgも実際にはその気体の圧力および水の体積に比例するので, 必ずしもmolで考えなくてもいいかもしれない。しかし, 体積について聞かれているときはかなり注意が必要。
というのも, 

気体の体積は, 温度および圧力によって変化する
→ PV=nRTの式に従う

からである。

実は, 教科書および幾つかの問題集には以下に紹介するヘンリーの法則の別表現(B)が紹介されており, この表現がこの単元を混乱させている。

 一定体積の水に溶解する気体の体積は, 溶かすときの圧力のもとで測定すると, 圧力にかかわらず一定である。

表現(B)

この表現(B)が最初の表現(A)と同値なのかどうかが分からず混乱する人は多かった。また, さらにいうと, 「溶かすときの圧力のもとで測定すると」という言葉が重要で, 

 一定体積の水に溶解する気体の体積は, 標準状態(あるいは同じ圧力・温度)で測定する場合は, 溶かすときの圧力および水の体積に比例する

表現(C)

と表現(C)もあるので, 尚更混乱しやすい。あまりしっくりこない人, すっと頭に入らずそれなりに考えないと分からない人が多い印象。

だから, 結局, おすすめは, 

表現(A)のようにmolで考える →  mol以外が問われているときはPV=nRTで変換

という方針。あくまでも結果的に体積についての法則が成り立っていると考える方が無難。

ヘンリーの法則の歴史的経緯

ではなぜ体積で考えることが多いかというと, 歴史的経緯が反映されているからだと思う。ヘンリーの法則のウィリアム・ヘンリー(1775-1836)は1803年にリンクに貼った論文を出版している。その時の実験では圧力を変動させたときの気体の体積(正確には同じ断面積の容器の高さを測定することで体積の違いを考えている)がどう変動するかという実験をしており, 圧力を変えても気体の解ける体積(高さ)はあまり変動しなかった旨の結論, つまり表現(B)を記述している。そもそもmolは19世紀末からの概念であり, ヘンリーの時代にはmolでは考えていない。圧力と体積が反比例の関係(ボイルの法則: 1662年)はすでに知られているので, ヘンリーは論文において実験結果とボイルの法則より, 表現(C)には言及している。

溶ける体積が一定になることを利用して解くと解きやすい問題の例

温度25℃, 圧力1.00×10^5 Paで行った次の実験に関する記述を読み, 下の問いに答えよ。
 
実験    空気(体積百分率で窒素: 80.0%, 酸素: 20.0%)で溶解平衡にある水がある。この 水1.00 Lを自由に可動するピストンのついた容器に注入し, 容器内を水で満たした。このとき, 容器内の水にV0 [mL]の酸素が溶けていた。
           溶解平衡を保ちながらアルゴンをゆっくり注入し, 容器内の気体部分の体積を  0.120 Lとした(操作1回目)。このとき, 容器内の水にV1 [mL]の酸素が溶けていた。
               ピストンを押して容器内から気体部分だけを追い出し, 上と同様に再びアルゴンを注入して, 気体部分の体積を0.120 Lとした(操作2回目)。このとき, 容器内の水にV2 [mL]の酸素が溶けていた。同様の操作を繰り返したところ, 操作n回目 で容器内の水にVn [mL]の酸素が溶けていた。
 
ただし, 気体は全て理想気体として振る舞い, 気体の水への溶解はヘンリーの法則に従う。また, V0, V1, V2, …, Vn は25℃, 1.00×10^5 Paにおける体積である。25℃, 1.00×10^5 Paの窒素, 酸素, アルゴンは水1.00 Lに, それぞれ15.0 mL, 30.0 mL, 32.0 mL溶ける。また, 容器内の圧力は常に1.00×10^5 Paに保たれており, 水の蒸気圧と体積変化は無視できる。
 
問1       V1はいくらか。解答は小数点以下第2位を四捨五入して答えよ。
 
問2       VnがはじめてV0の1/1000以下となるのはnがいくらのときか。

2020東工大

近年ヘンリーの法則に関する問題の中で, 難易度が高めの問題である。表現(A)や(C)を用いて解くこともできるが, 表現(B)を利用した別解の方が幾分ラクかもしれない。解答は以下の通り(図を使うともう少しわかりやすく説明できるでしょうけどここでは割愛)。

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実際にはこのような表を使って整理すると良いかもしれない。

解答
(1) 以下温度, 水の体積は全て25℃, 1.00 Lで同じなので, 温度, 水の体積は考慮に入れる必要はない。

V0, V1, V2, …, Vn は25℃, 1.00×10^5 Paにおける体積であるので, 圧力に比例する(表現(C))。
V0について, 酸素は体積百分率で20.0%なので, 分圧は全圧の20.0%(0.200)倍。全圧は1.00×10^5 Paに保たれており, したがって, 溶解mLも基準の0.200倍となるので, V0=30.0×0.200=6.00 mLとなる。これをmolに直すと, 測定しているのが25℃, 1.00×10^5 Paであることに注意して状態方程式より, 
(1.00×10^5)×6.00=n0×R×(25+273)
∴n0=(6.00×10^5)/(298R)   [mol]
これが1.00 Lの水に溶けている酸素の量であり, このmolの酸素が入っている水を以下の操作で使う。
操作のとき, アルゴンの注入量が増えていくにしたがって酸素の分圧は減るため, 溶解する酸素の量は減っていき, 溶けない分は気相に含まれることに注意する。

操作1回目のときの酸素の分圧をP1 [×10^5 Pa]とすると, ヘンリーの法則より, V1=30.0 P1 [mL]. これをmolに直すと, 測定しているのが25℃, 1.00×10^5 Paであることに注意して状態方程式より, 
(1.00×10^5)×(30.0P1)=n0×R×(25+273)
∴n1水相=(30.0P1×10^5)/(298R)   [mol]
また, 状態方程式より, 気相の酸素について, 
P1×10^5×(0.120×10^3)=n1×R×(25+273)
∴n1気相= (120P1×10^5)/(298R)   [mol]

操作によって, 気相あるいは水相に存在するようになるので, 
n0=n1水相+n1気相
(6.00×10^5)/(298R)=(30.0P1×10^5)/(298R)+(120P1×10^5)/(298R)
6.00=30.0P1+120P1
∴ P1 =0.04
よって, V1=30.0×0.04=1.2 [mL]

(2) (1)において, V0としていたところをV1に, P1としていたところをP2に変えれば良いので, 
V2=30.0P2= 30×(V1/150)=0.200V1=0.200(30.0P1)=0.200{30×V0/150}=(0.200)^2 V0と表せる(注 V0=6.00 なのでV2=0.24 [mL])。
帰納的にVn=(0.200)^n V0と考えられるので, (0.200)^n≦1/1000になるような自然数nのうち最小のものを考えればよい。
(0.200)^n≦1/1000 ⇔ 5^n≧1000
であり, n=4のとき5^n=625, n=5のとき5^n=3125となる。5^nは単調増加なので初めて条件を満たすn=5が答え。

<(1) 別解>
V0, V1, V2, …, Vn は25℃, 1.00×10^5 Paにおける体積であるので, 圧力に比例する(表現(C))。
V0について, 酸素は体積百分率で20.0%なので, 分圧は全圧の20.0%(0.200)倍。全圧は1.00×10^5 Paに保たれており, したがって, 溶解mLも基準の0.200倍となるので, V0=30.0×0.200=6.00 mLとなる。」ここまで一緒で, 式が複雑化するmolは求めないで考えることにする。

操作のとき, アルゴンの注入量が増えていくにしたがって酸素の分圧は減るため, 溶解する酸素の量は減っていき, 溶けない分は気相に含まれることに注意する。
操作1回目のときの酸素の分圧をP1 [×10^5 Pa]とすると, ヘンリーの法則より, V1=30.0 P1 [mL]. 
※ 表現(B)より, 溶かすときの分圧で測定すると, 体積は変わらないので, 25℃, P1×10^5 Paで測定すると, 30.0 mLだが, 1.00×10^5 Paで測定する場合, 圧力は1/P1倍になっているので, ボイルの法則より, 体積はP1倍。すなわち, V1=30.0 P1 [mL], と考えて良い。

気相では,  25℃, P1×10^5 Paになっており, そのときの体積が0.120 L =120 mLとなっているので, 上と同じように 1.00×10^5 Paで測定する場合の体積はボイルの法則より, 120 P1 [mL]となる。

以上より, 全て25℃, 1.00×10^5 Paで測定したときの体積で表され, 操作によって, 気相あるいは水相に存在するようになるので, 
6.00 = 30.0 P1 +120P1
∴ P1= 0.04
よって, V1=30.0×0.04=1.2 [mL]  

混合気体の溶解度の問題

この記事を書くきっかけとなった問題があり, その問題は某所の個別指導の際に質問があった以下のような問題である(塾内のテキストの問題なので, 実際の問題と少し変えている)。

問題  空気(体積百分率で窒素: 80%, 酸素: 20%)を25℃, 3.0×10^5 Paで水10 Lに溶かすことを考える。ただし, 25℃, 1.0×10^5 Paの窒素, 酸素は水1.0 Lに, それぞれ15 mL, 30 mL溶ける。
(1) 溶解した酸素は25℃, 3.0×10^5 Paで何mLか。
(2) 溶解した酸素は25℃, 1.0×10^5 Paに換算すると何mLか。
(3) 溶解した酸素は何molか。

解答は以下のような感じで書かれていた。

解答(?) 
(1)  溶ける気体の体積は圧力に依らず, 水の体積に比例するので, 30×10= 300 mL
(2) (3) 略

だが, その生徒には表現(B), (C)は教えていなかったため,  (A)で教えようとして以下の感じで解いて説明したが, 解答と食い違っていた。

解答
ここでは, (3) → (2) → (1)で解く。
(3) 基準の圧力, 温度において, 酸素は0.030 L溶けるので, 酸素のmolはPV=nRTより, 
(1.0×10^5)×0.030= n×(8.3×10^3)×298    ∴ n≒1.2×10^(-3) mol
いま酸素の分圧は3.0×10^5×0.20=0.60×10^5 Paであるから, 圧力は基準の0.60倍となっている。水の体積は基準の10倍になっている。よって, 1.2×10^(-3)×0.60×10=7.2×10^(-3) mol
(2) 測定しているのが基準と同じであり, PV=nRTにおいて, P, R, Tは同じなので残るVはnに比例。
すなわち, nが6倍だからVも6倍で, 30 mL×6=180 mL
(3) PV=nRTにおいて, 同じ物質量の酸素を測定している(単に測定して圧力が違う)ので, n, R, Tは同じより, PV=一定。すなわち, 測定しているPは3倍なのでVは1/3倍より, 180×1/3=60 mL

結局, 間違いだろうということで問い合わせて, 一応解決することになった。間違えの原因も以下のような感じだろう。

  • 溶かしている圧力と同じ圧力で測定すると体積が一定になる, という前提条件を十分に把握していない

  • 気体を溶かしているときは, 水に接している気体は混合気体になっているが, 測定するときは仮想的に気体ごとに別々にとり出すことを把握していない (気体に限らず, 溶解度について考えるときは別の物質には影響されず独立に考える)

体積を使うと解きやすいのもあるのは事実だが, 適用の際は気をつけたい。


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混乱しやすい, ヘンリーの法則について|西園寺
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