劇場版HFを語ろう!─第1回『月姫』から『Fate/Stay Night』までに何があったのか─
はじめに
奈須 (前略)『Fate/stay nigt』は当時、自分のマックスを出した作品だったし、当時は20代最後だったので思い入れがものすごかったんですよ。でも、肌に合う合わないはあるにせよ、批判されることがあるとは思ってもいなかったんですね。いま『Fate/Grand Order』を分かりやすく一般向けに作って、多くのユーザーから支持されたとしても、『Fate/stay night』とは違う魂で作っているものです。でも15年が経ったとしても、全力を出したものに、全力で返してくれる人がいるんだなと。これが作品の輪廻転生なんですな。この『Fate/stay night』の映像化完結編を大変満足に味わせて頂きました。
今回の記事は劇場版『Fate/stay night Heaven's Feel』三部作を紐解いていくための第一回の記事になります。本作は奈須きのこ氏が制作過程になるべく関わらないというスタンスの元に制作された作品ですが、そんな本作が『Fate/stay night』という物語に最も寄り添った作品であることは、原作とアニメの両方に触れられた方ならば、ご納得いただける事かと思います。しかし、本作をきちんと語っていくには以前私が書いた記事の様な作品単体にフォーカスしたものでは全く足りません。そのため、何回かに分けて劇場版『Fate/stay night Heaven's Feel』という作品について語っていこうと思います。特に今回は劇場版の原作であり、後の型月作品の原点でもある『Fate/stay night』が、どの様な流れの中で誕生したのかを簡単に振り返っていく記事になります。
基本的には過去のインタビュー記事を振り返っていくものとなっているため、型月に最近ハマった方などにはオススメの内容となっています。
※私自身は絶賛、過去のインタビューを収集中のため、よさげなインタビュー等を見つけたら本記事を随時更新していきます。また、「この雑誌おすすめ!」というのがあれば、教えていただけると幸いです。
小説とノベルゲーム
奈須 (前略)『空の境界』はそうでもないんですけど、『月姫』と『Fate』に関して言うと、あれはゲームですから。ユーザーを喜ばせるのが最優先。(中略)ゲームはあくまでユーザーを喜ばせてなんぼです。でも、小説に関しては多少の趣味が入ってもいい。だから、『空の境界』の不親切なところとか、『DDD』にある”ついて来れない人はついて来なくていいよ”って感じはそこから出てると思うんですよ。
きのこ氏は2007年のインタビューで上記の様に述べています。ここで重要なのは小説という形式を取っている『空の境界』や『DDD』と、ノベルゲームという形式を取っている『月姫』や『Fate/stay night』はスタンスが違う点です。
この視点に関して、きのこ氏は同インタビュー内で以下の様にも述べています。
奈須 というか『月姫』と『Fate』については、さっきも話したようにまったく方法論が違うんです。完全ご奉仕。ユーザーに対して100パーセント奉仕する。だから、削ぎ落すというよりも、付け足す。まあ、TYPE-MOONの方針としてそれがあるんですけど──とにかくご馳走責めにしよう、と。考えられるサービスは全部やろう、というのが武内の方針なんです。
きのこ氏はここでユーザに対して、完全にご奉仕した作品が『月姫』や『Fate/stay night』だと述べています。この小説とゲームに対する制作スタンスの落差の理由については、次のインタビュー内容から読み取ることができます。
奈須 (前略)ゲームは大人数で作るし、自分だけで完結しないんですよ。絵描きさんがいて、塗る人がいて、演出家がいて、音楽がいて、プログラマがいる。だから大変なのは大変なんですが、共同作業なんで、自分だけが大変じゃない。みんな大変なんだ。で、この10人前後のまったく違う人間が、1個の話を作ろうと頑張っている。そう思うと、たいていは我慢できるんです。そこで自分のエゴを殺せる。「だってこれ俺だけのゲームじゃないんだもの」と。ユーザーが求めているきのこ節とか、自分が活かせる部分は活かしながら、作っていく。だから実際に上げたシナリオと、スクリプトが終わって演出が入ったシナリオって、別物なんですと。演出で剣戟シーンを表現しているならテキストなんてバッサリ消すものです。脱稿したときに5メガだったシナリオが、ゲームになったら4メガに減っていることもある。実際『Fate』はそうなんですけど。
きのこ氏はゲーム制作とは大人数で作業するが故に、きちんと身を引くべき所は引き、ユーザーの事を一番に考えて作る媒体であると認識しているのです。実際に、このスタンスは『月姫』の制作の裏側を知ることで確認できます。
『月姫』が発売2000年12月に行われたイベント、つまりコミックマーケット59においてです。しかし、その同年の8月に開催されたコミックマーケット58で『月姫 半月版』を発売しました。これは、所謂「月の表側」の話、つまりはアルクェイド√とシエル√のみが収録されたものになります。実はこの時点では秋葉√、翡翠√、琥珀√及びエピローグに当たる月蝕という所謂『月の裏側』の話の中に、琥珀√が存在しない構想となっていました。
では、何故琥珀√は完成版である『月姫』に追加されたのでしょうか。それは、『月姫 半月版』を手に取った人たちの反応が大きく関係しています。
──武:『半月版』発売後、琥珀のシナリオを加えるかが問題になりました。HPでユーザーの反応を見ると、琥珀の人気が高いんですよ。最初は翡翠と琥珀は一つのシナリオで翡翠エンドしかなかったんですけど、こうなると琥珀エンドも必要だと思ったんですが、奈須の方は反対で。
──奈:琥珀は表に出てこないことに意義があるキャラだと思うんです。それを1ヒロインとして扱うというのはダメだろうと。ただ、このテのゲームでは隠れキャラ的な存在があると嬉しいですし、好きなキャラでもありましたから、まあ、幸せにしてあげてもいいのかなと。
つまり、プレイヤーに対するサービスとして琥珀√が追加されたのです。(隠しシナリオのはずが、初回版ではルート制限のミスにより最初から攻略可能となっており、「きのこ、キレた!!」となった話があります。)
また、『Fate/stay night』については制作過程の中で様々なヒロインのルートが検討されました。その中でも大きな存在感を示し、本編のシナリオに大きく影響を与えた、イリヤ√というものがあります。本編をプレイされた方やインターネット上で型月関連の話を見る方はご存じかもしれませんが、イリヤ√は桜√に吸収される形になりました。(イリヤ√の存在は、実際に『Fate/complet material』という設定資料集内でイリヤのエロシーンで使われる予定だった差分等からも確認することができます。)
では、何故イリヤ√は消え、桜√に吸収されたのでしょうか。きのこ氏は以下の様に述べています。
奈須:(中略)初めはイリヤルートの案もあったんですが、それも入れるとゲームとしてはものすごく膨大になってしまう。じゃあセイバールートと凜ルートで「Fate/stay night」、イリヤルートと桜ルートで「Fate/other night」として出そうかという案もあったんです。でも8800円という価格を考えたときに、やっぱり桜ルートまで入れるべきだろうという想いもあって、結局、イリヤルートと桜ルートを合体して1本にしようと決めました。
つまり、イリヤ√が桜√に吸収されたのは商品価格という、ある意味で避けがたく重大な問題に直面したからでした。(この決断が、桜√の賛否が大きく分かれさせ、後々に響く問題を生み出した原因とも言えるのですが、それはまた別の記事ということで。)
『月姫』を作った理由
先ほどまでは奈須きのこの媒体における制作スタンスに関して確認していきました。では、きのこ氏がエンタメと呼び、彼らがその名を轟かせるに至った原因である『月姫』はどの様に誕生したのか、ここからはその流れを簡単に振り返っていきます。
──奈須:元ネタそのものは学生時代から考えていたものです。ゲームを作ろうという話になった時に昔考えていた吸血鬼と殺人鬼の話はどうかと武内君に相談してプロットを立てたところ、これならイケるかなと。
『月姫』の原案は上記のインタビューで語られているように、きのこ氏が学生時代(大学生の時)に構想していたものです。そして、その様な作品の制作を試みた理由は、きのこ氏が初めて世に発表した作品である『空の境界』の挫折と彼の親友である武内崇氏の存在が大きく関係してきます。
そもそも、『空の境界』自体が、武内氏の勧めによりきのこ氏が書いたものでした。
──武内:(前略)昔からの付き合いで奈須がいいものを作ることを知っていたんですよ。それなのに仲間内で見せるものばかりではもったいない。外に発表しようと一緒に同人活動を始めたんです。
奈須 今でもね、武内くんの台詞で忘れられないものがあるんですよ。『空の境界』執筆前に友人の家でTRPGをやっていた時、武内くんは夕方くらいに遅れてやってきたんですね。それで他のみんなが一階で遊んでいる中、僕は二階に連れ出されたんです。そうしたら、夕日を見ながら彼が言うんですよ。いつまでも仲間内で満足していないで、そろそろ始めてみたらどうだい、と。これを聞いて、ああ、やるしかないな、書くしかないなよいう気持ちになった。その時の夕焼け、黄金色で本当に綺麗で、頭の中に今でも残っている風景ですね。
ここまで理想的とも言えるような口説き方をされたきのこ氏は、武内氏の誘いに乗り、彼のHPで月1話ずつで『空の境界』の連載を始めました。これまで、友人間のみで公開されていた作品が、ようやく世間に解き放たれたのです。(学生時代に2人が学園祭で本を出していたという話を聞いたことがありますが、私には真偽は不明なため、知ってる方がいましたら教えていただけると有難いです。)
しかし、web連載という性質が大きな壁となり、彼の作品はほとんどの人の目に留まることはありませんでした。また、同人即売会等に参加して頒布するも数冊程度しか売れず、二人にとってかなり苦し状況が続きます。この現状に対して奈須きのこの最大の理解者である武内氏は以下の様に感じており、彼にある提案をしました。
奈須 武内はそのときの僕の頑張りを見てたんで、余計に「なんとかしたい」と思ったみたいで。当時のコミティアとかコミケでは、オリジナルの小説はとにかく弱いんですよ。むしろ5部売るほうが奇跡だっていうくらい。でも、武内は悔しかったらしくて「誰も見てくれないなら、じゃあゲームにすれば見てくれるよね」と彼は思ったらしい。当時、ビジュアルノベルはPCゲームの中でもひとつのジャンルになってたんで、そこでやれば、とりあえず見てくれる人間は増えるはずだ、と。で、見てくれたら面白いと思う人もいる。
──武:それで一年ほど頑張ってみたんですけど、あまり読んでもらえないんですよ。そこで、どうすれば読んでもらえるか、ということを考えた時にHゲームのことを思いついたんです。
では、彼らは何故、ビジュアルノベルという世界を選んだのでしょうか。
奈須 本当にこの業界(同人界)、文章だけっていうのは弱いんです。で、いかに文章を読んでもらうか考えたらできるだけ切り札は多い方がいい。それだったらビジュアルノベルゲーム、かつエロだったら誰か、まあ10人に1人は見てくれるんじゃないかなぁという考えはありました。
彼らがTYPE-MOONを結成した1999年あたりは、ちょうどビジュアルノベルの黄金期と呼べる時期に当たりました。例えば、所謂泣きゲーと名高い『Kanon』や『加奈 〜いもうと〜』は同年に発売されています。ちなみに、『Kanon』は『月姫』の制作に少し関わっています。
──奈:(前略)加えて『Kanon』の舞シナリオをやった時、「ここまでやっていいのか」と凄く衝撃を受けたんです。自分は面白いと思ったんですけど、ユーザー間では賛否両論、しかも否の方が強いだろうと思っていたら、ユーザーさんの受け皿が広がったのか、意外にも受け入れられていて、それだったら、自分の芸風でもいけるのかなあと思いました。
その様な情勢と武内氏が元々ゲーム会社に勤めていた事、その中でサウンドとグラフィックを作れる知り合いができたことがマッチし、彼らはビジュアルノベルという世界に足を踏み込む事を決意しました。
武内 (前略)プログラマーとサウンドの友人がいたんで(自分たちが)シナリオとグラフィックという感じで、ちょうどゲームを作れる人材が揃っていたというのもあるんですよ。その当時はサウンドもプログラマーも職が無くて時間もあるということだったんで、じゃあちょっと一緒にやろうかなと。
※ここでサウンドとプログラマーというのは何を隠そう、清兵衛とKATEの事です。
本項の冒頭で述べたように、『月姫』はきのこ氏が学生時代に構想していたものを原点としています。しかし、この時点での構想では恋愛ゲームとして成立しておらず、18禁のビジュアルノベルで売り出すのは無理がありました。
奈須 (前略)でもはじめ武内君が「殺人鬼と吸血鬼」の話をやろうといったときに、やるのはいいけど、あれはとても恋愛ゲームにはならないよって答えたんです。このプロットはそもそも、「死の線」が見える殺人快楽症の中年親父が主人公で、殺した女が実は吸血鬼という、菊池秀行さんばりの・・・・・・まさに「駆け抜けるような」伝奇物だったんですよ。
そこで、彼らは様々な要素を追加していく事になります。
奈須 だからどうやったら恋愛ゲームになるんだとふたりで話しあって。まず正ヒロインは吸血鬼。次に妹が必要だろうということになり、それから先輩キャラが欲しい。この三要素を押さえようとなりまして、武内君がチャチャッとデザインしたんですよ。それをもらって一週間後にはプロットを提出。この段階で彼が「メイドさんが欲しい」とかいいはじめまして、メイドも組みこんだ基本プロットが90パーセント固まりました。
こうして、彼は『月姫』の制作をスタートさせます。その後、1999年の夏に開催されたコミックマーケットC56で『月姫』の無料告知フロッピーを配布し、同年の12月のコミックマーケットC57で体験版を公開します。その後は既に述べたように、『月姫 半月版』を出し、ついに『月姫』が世に解き放たれたのです。
※ちなみに、当初の予定では『月姫』の完成は2000年の夏コミ、つまりは『月姫 半月版』が発売したタイミングを予定していたそうです。この頃からかTYPE-MOONは作品作りに時間がかかっていることが伺えます。(無論、それがきちんとクオリティに反映されていることは明確な事実であり、この制作期間の伸びが琥珀√を生み出したという点は何を議論するにしても踏まえるべきでしょう。)
同人から商業への転換、『Fate/stay night』
きのこ氏は同人で作品を作ることに関して2002年のインタビューで以下の様に述べいます。
奈須 同人は企画に捕らわれないというか、会社の利潤に捕らわれない。まあ、言ってしまえば、やりたいことが出来る‥‥‥ですかね。後は表現的なもので、ソフ倫が入っても許されないものがあるじゃないですか。まぁその辺りは多少‥‥‥言ってしまえば、ぶっ飛んだ話を作れるって事ですね。後は技術の問題、販売面での問題、その辺りになってくるともう、同人とは違ってくるんですが後、同人と商業の違いだと思うんですが、同人の場合は趣味で買ってますって感じなので、多少緩い作品を出しても許されてしまうところがある。そこが、同人だと楽というか、まさに同人って感じですよね。
つまり、同人は商業に比べて良くも悪くも自由に作品を作れる、言い換えれば責任の様なものは商業と比較して軽いということを述べられているのです。
では、何故、同人集団であるTYPE-MOONは商業集団になったのでしょうか。そもそも、彼らは『月姫』完成後に解散する予定でした。実際に2005年のインタービューで、個人活動について聞かれた武内氏に続けて以下の様なことを述べています。
奈須 いや、確かに「月姫」を作った時は、これで自分たちを知ってもらって、武内くんは漫画に、僕は小説の道へ戻ろう、とは考えていたんです。でも、「Fate/stay night」を作った時点で自分はゲーム会社の道を選んだと思っていて、講談社さんから「空の境界」をノベルスで出版するお話をいただいた時は大きく悩みました。
同様の内容は2003年に発売された『ファウスト vol.1』や『漢話月姫』というまんだらけが2001年に行ったインタビューでも語られています。
奈須:制作当初、『月姫』はTYPE-MOONの最初で最後の作品になるはずでした。自分たちが最大限に力を発揮できるもので力を合わせて勝負しよう、それで自分たちの力を問うた後に、各々のジャンルに戻ろうと考えていました。『月姫』を気に入ってくれたユーザーさんに、僕なら小説、武内君ならマンガのほうを見てもらおうと。
武内 「月姫」を作るためだけに集まったサークルなので、明確なコンセプトというものは無いんですよ。
しかし、彼らは解散することはありませんでした。それは、彼らがゲーム制作に魅了を感じたというのもありますが、最も大きな要因は武内氏のある提案でした。
奈須 (前略)当時、ちょうど「月姫」を出したばっかりで在庫がけっこう残っているときに、武内くんが「ねーねー、『fate』やろうよ」とか言ってて、俺的には「何言ってんだ!そんな場合かよ!!」ってな感じでね(一同爆笑)。
同様の内容は『Fate/stay night』の制作が発表された『Colorful PUREGIRL』というアダルトゲーム雑誌の中で、新作ゲームのイメージを聞かれた際にも述べています。
武内 (前略)『月姫』の制作が終わった直後にリメイクを提案して、奈須は当時それほど乗り気じゃなかったんですけど。
※ここで述べられているリメイクが何を指しているのかというと、きのこ氏が高校時代に書き上げた『Fate/stay night』の原型を指しています。所謂『旧Fate』のことです。
いざ武内氏の提案を聞いたきのこ氏は上記インタビューからわかるように、最初は反対していました。では、何故きのこ氏は『Fate/stay night』の制作を受け入れたのでしょうか。
奈 これもどっかのインタビューで言ったんですけど、原作の「Fate」の主人公は女の子で、セイバーは男性だったんですよ。で、恋愛ゲームをやるってことは主人公は絶対男の子だろうって事で、セイバーは女の子になる。その時点で、自分的には絶対無理だってシャッターが下がりました。「月姫」の時と違い、「Fate」は出来上がっている事もあって、性別反転はやりたくなかった。でも武内君が残念そうに「だめなのぉ~?」って言うから、「まぁ考えてみるよ」と。で、「月姫」で遣り残した‥‥いや、「月姫」で膨らんだことが一個だけあって、次のゲームをやるときはそれをテーマ、ギミックにしたモノが良いかなあと思っていたんです。それを考えてみたら綺麗に「Fate」に嵌まっちゃって、ああ、コレだったら出来るなあ、と。後は武内君の、「セイバーを女の子にしてしまいなさい」ってのを真剣に考えてみたら、なんとか形になりそうだったんです。それなら本腰入れて考えてみよう、とプロットを起こしました。
しかし、この話が持ち上がったのは2001年の1月頃であり、『月姫』がお披露目された直後でした。その直後に『月姫』の爆発的なヒットが発生したため、そこから『月姫』のファンディスクである『歌月十夜』の制作にシフトします。そのため、『Fate/stay night』の制作は一時凍結となり、同年の10月からスタートすることになりました。
当初、『Fate/stay night』は『月姫』と同様に、商業の世界でやる予定ではありませんでした。
武内:「Fate」を作り始めた段階では商業で出すか同人で出すかという点は決めずに動いていました。
では、彼らは何故、商業化に踏み切ったのでしょうか。
そもそも、『月姫』がヒットした際に周囲の方から「商業化したらどうか」という旨の発言をよくされていたようです。
武内:「月姫」がヒットしたときから、周囲には早く商業化しなよということを言われてましたが、それは他人の意見で決めるべきことじゃないという気持ちがありました。
この同人から商業へのシフトに関して、当時のインタビューでも述べられています。
武内 (前略)『月姫』を商業化しないのか、「TYPE-MOON」をソフト会社化しないのかと聞かれても、管理面がどうしてもピントこなくて。はじまからソフト会社になりたかったわけじゃないですから。自分たちが好きなことをやって受け入れられた状況なのに、あえていまある型にはまらないといけないのかどうか、よくわからなくて。そこでどうしても同人という形態を選択してしまうんです。
つまり、彼は何かきっかけが無ければ商業にシフトすることはありませんでした。
彼らが商業化の決断に至ったのは、『月姫』以上の熱量で『Fate/stay night』を制作し始めたことが大きく関係しています。武内氏は2002年のインタビューで新作のクオリティに関して聞かれた際に、以下の様に答えています。
武内 同人ソフトという形でやっている以上、クォリティ―はどこまで上げるべきなのか、というのは悩みどころでした、いまは外部の方の力は借りないで、自分たちでできることだけをやろう、と考える時期もありました。でも『ほしのこえ』があったじゃないですか。あの作品を観て、同人だから、みたいな考えは捨てようと考えるようになりまして。ですから今回は自分たちとしては可能な限りマックスのクォリティーを目指しています。
ここからわかる様に、彼らは自分たちの限界を突き詰めて『Fate/stay night』の制作に邁進していくことになります。しかし、当然ながら同人でやっていく以上、追及できるクォリティには限界があります。それをきのこ氏も感じ取ったのか、武内氏に「商業化しないか」という提案を持ちかけました。
奈須 個人的に1人目のヒロインのシナリオを書き上げた時に、自分なりに手応えがありまして、この作品は商業で出してあげたい、そうしなくちゃこの作品が可哀想だ・・・・・・と思ったんです。それなら美少女ゲームの市場に出すことで、より多くの人たちに見てもらえるだろうと。
商業化の決断に至ったもう少し詳しい理由について、上記の話に続けて以下の様に武内氏ときのこ氏は述べています。
武内 元々TYPE-MOONは『月姫』を作ることが目的だったので、自分たちの規模が大きくなったからといって「商業にした方がいいよ、しなければダメだよ」と言われてもピンとこなかったんです。とりあえず、商業化に関することは『Fate』が完成してから考えようと先送りにしたんです。でも『Fate』という作品が色々と見えてきて「あ、このタイミングだな」という感触が、まさに奈須が言ったように、自分も感じられたんですね。『Fate』のために商業にならなくてはいけないんだなって。
奈須 『Fate』の構想が持ち上がった時に結構自分のわがままを通したんですよ。普通この予算で作るとしたらCGは何枚、背景は何枚という制約が出てくるんですけど、あまり考えずにやりたいことをやろうと。それでシナリオを書く上での規模的な許容量が『月姫』の二倍くらいになってしまい、完成に必要な費用や人材がすでに"同人"と呼べるものではなくなってしまった、という点も大きいです。
こうして彼らは同人から商業へと舞台を変えました。この決断が彼らにとって大きな決断であった事は、ここまでの流れを見ればよく感じ取れると思います。
では、商業に舞台を移した事で『月姫』の頃と比較して何が変わったのでしょうか。本記事の冒頭で、彼らにとってゲームという媒体は同人か商業かを問わずにプレイヤーの事を考えて作っている事を確認していきました。しかし、『月姫』と『Fate/stay night』の間にも、明確な意識の差が存在しています。
奈須:制作スタンスだけで言えば、自分もずいぶん変わりました。「月姫」の時はまず自分たちがおもしろくて、それを同じくおもしろいと感じてくれる方々が楽しんでくれたらいい、という感覚だったんです。ですが、多くのスタッフを抱えて動くとなると、単に自分たちがおもしろい、というだけで作品を作るわけにはいかなくなった。商業作品である以上、自分たちではなくプレイしてくれる人たちがおもしろいと思うことを意識せざるを得ないというか。
──それは、新たに客観性という目線を獲得したということではないでしょうか
奈須:そうですね。もの作りとしての個人の、たとえば変質的なこだわりみたいなものを完全に殺す、ということではなくて、それとは別に、ゲーム作りは団体作業であり、エンターテイメントである、ということを再認識しました。そういう意味で「Fate/stay night」はより王道というか、意図的に多くの人に楽しんでもらおう、という目線が入った作品になったと思います。
また、上記のインタビューに続けて以下の様にも述べています。
奈須:(前略)個人の世界観みたいなものはすでにノベルスで発表の場を与えていただいているので、TYPE-MOONとしてはやはりエンターテイメント性に徹したいなあ・・・・・・と言いつつ、どろどろなワタシのトラウマを見て!みたいなゲームも創りたいですが、それをTYPE-MOONでやるのは少し違うよな、と。それが自分にとっての線引きですし、対外的なことを含めてすべてを任せている武内くんへの、自分なりの責任の取り方だと思っています。
上記のインタビュー内できのこ氏から出てきた”エンターテインメント”という単語は、本作に対する制作スタンスを非常によく表したものであり、同様の単語は武内氏の口からも述べられています。
武 商業化するに際し、一番気が重かったのはそれに付随する様々な手間の部分ですね。いまの体制で誰がその手間をやるんだって言ったら自分か清兵衛しかいないんですよ。そこまでの覚悟は出来てなかったんですが、奈須のシナリオを読んでいくと、確かに作品としてこれは同人じゃないと思いました。感覚的なことなので上手く言葉に出来ないのですが、「ただ好きだから」と突っ走って作った「月姫」とは違う、高い完成度とエンターテインメント性を感じ取ったんです。
また、武内氏はエンターテインメントという単語の意味を以下の様に述べています。
武内 奈須は奈須でいろいろと思うところはあるでしょうけど、僕にとっては「エンターテインメントとはサービスである」ということです。ものすごい背景やものすごいストーリーがあっても、それを見る人が喜ばなければ意味がない。自己満足ですごい作品を作るのでなく、やっぱり誰かに喜んでもらうための作品を作りたいと思っています。
つまり、『月姫』と比較して『Fate/stay night』はより多くの人を対象にした作品だったのです。(ここで出てきたエンターテインメントという単語は『Fate/stay night』という作品の中身を紐解くうえでも重要なキーワードになってきますが、それは次の記事で書こうと思います。)
しかし、彼らは何も”商業化したからエンターテインメントを意識した”のではないのです。彼らがその様な制作スタンスに至った背景には、上記で確認してきたような商業化だけでなく、『月姫』の存在が大きく関係しており、それが彼らがクオリティを追及し、商業化まで至らせた、そもそもの要因なのです。
──今までのお話をうかがっていると「月姫」から「Fate/stay night」の間で、奈須さんの中で制作の姿勢、なかでもエンターテイメント性に対しての意識変革があったと感じますが、具体的にそれはいつごろ芽生えたものでしょうか。
奈須:たぶん「月姫」後ですね。初めて作品として多くの人の目に触れて、いただく意見も目にする評価もとにかく多かったんです。もちろん、それまで武内くんに指摘されていたことはいろいろあったのですが、それは武内くんの趣味だから話半分で、と逃れていた部分をはじめ、漠然と自分で弱点だと思っていたことや思いもよらなかったこと、ありとあらゆるところに集中砲火を受けて、「・・・・・・ああ、自分は今まで間違っていたのか・・・・・・」と一度墜落してしちゃったんです(笑)。初めて対価をいただき、作品が商品として世に出ることの意味を思い知ったというか。
なので、次に出す以上は自分も楽しむけれど、ユーザーの皆さんにも楽しんでもらわなければならない、という気持ちがむくむくと生まれて。それがゲームとしての「Fate/stay night」のエンターテイメント性、制作姿勢を決めた。
この様に、彼らは『月姫』という作品を経たからこそ、大ヒットを記録している『Fate/stay night』という作品を作り上げることができたのです。
さいごに
今回の記事では主に奈須きのこと武内崇のインタビューをもとに、初期の彼らの思想や同人から商業への流れを見ていきました。記事内で述べられている内容自体は、恐らくwiki等で確認できるとは思いますが、本稿ではなるべく多くの文献を掲載しているため、より深い内容になっていると思います。また、類似の記事をいくつか引用しているのは、彼らの想いを知ってもらいたいというのもありますし、何よりも既に中古で探すしかない当時のインタビュー達を私の手元に残しておくだけは勿体ないと思い、このような形式となりました。読んでくださった方が少しでも周囲に自慢できる型月豆知識を身に着けていただけたのなら幸いです笑。
次回は『Fate/stay night』の中身に関して、あることないこと述べた記事になる予定です。(2025年冬公開予定)


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