My best daddy
大人キャスニキ×養子影弓
跡取り四兄弟長男術と拾われて養子になった三兄弟末っ子影弓の話。
My little boy(novel/10286099)を主軸としています。
合わせて読んでいただくことオススメします。
前作を主軸としているので、槍弓タグ使わせていただいております。
・妄想設定供養
・ちょろっと広義
・影弓くんがちょろい、幼い
剣ディルと槍ディルの名前分けが思いつきませんでした。
前作、いいね、ブクマスタンプありがとうございました。
とても嬉しいです。
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青々とした木々。規則正しく整えられた色とりどりの花々。
整い過ぎず、雑過ぎない味のある積み上げ方をされた落ち着いた白いレンガ達。
高級な革張りの座席から、白い眼帯を付けていない右眼でもう何百回と見た景色をシャドウはぼんやり見つめていた。
徒歩でも十分に歩いて行けるこの距離を、輝くシルバーのエンブレムが印象的な黒塗りの車で往復することにも慣れてしまった。双子の兄よりも早かった足は、だいぶ甘やかされてしまって、あの頃のように素早くは動かせないだろう。
「今日の学校は如何でしたか」
シャドウの右から話しかけてくるのは、漆黒の髪と泣きぼくろが印象的な青年。三つ編みにした左横髪とオールバックにした中で、一筋垂らした前髪を揺らしながら爽やかに笑う相手に、シャドウも頬を綻ばせる。
「今日はテストの返却日だったんだ。満点を取ったぞ」
「それはすごいですね。きっと御子殿も喜ばれます」
青年の言葉に、シャドウはふふんと更に笑顔を深めた。
いつもと変わらない風景ではあるが、今日はシャドウにとって特別な日である。
何かの記念日や、行事があるわけでもない。それでも、数ヶ月に一度の嬉しい日。
学友であるアルトリアに褒められた日に、負けす劣らず良い日である。
高い壁に囲まれた重厚な鉄の門の前が開き、車を向かい入れると、シャドウは窓にへばりついて立派なバラが咲く庭の先にある玄関に目を向ける。
もう、彼は中にいるだろうか。
今回はどれぐらい一緒にいられるだろうか。
期待に胸躍らせるシャドウの姿に、隣の青年はクスリと優しく笑った。
車が玄関前に止まると、シャドウはすぐ扉を開き、いつもは自分で持つと青年に譲らない学校指定の上品な茶色い革のリュックを座席においたまま勢いよく飛び出す。
虹彩認証で見事な模様が掘られた玄関戸を開き、シャンデリアが輝くエントランスを抜け、柔らかいワインレッドの階段をかけていく。
いつもは、静まり返っている目的の部屋からはカタカタと微かに音が聞こえている。
髪を手で梳き、服を軽く払ってから、深呼吸をする。
よし、と小さく息を吐いてから、金色のドアノブを回して、扉を開いた。
「おかえり、キャスター」
シャドウは今日一番、元気良い声を出した。
ヴィンテージものの赤茶色の机でパソコンの画面を睨んでいた人物が顔を上げ、眼鏡を外してシャドウに微笑む。
待ちに待った瞬間にシャドウは嬉しさを抑えきれず、口角をめいっぱいあげて駆け寄る。
立ち上がり、シャドウを受け止めたのは、淡い青い長髪に赤い瞳と陶器のように美しい白い肌。絵画から出てきたような整った容姿を持つ青年、キャスター。シャドウの養父である。
キャスターとシャドウが家族になったのは約一年前。
家族になった。とはいっても、仕事で忙しく世界を飛び回る養父と過ごしたのは実質半年ちょっとだろう。
一般的な養子と養父が絆を結ぶには不十分な時間ではあるだろうが、シャドウはキャスターのことをとても好いていた。
出会いが特殊だったこともあるが、彼と対照的な浅黒い肌に老人のような白髪、普段は眼帯の下に隠している濁った瞳と頬に傷をもつ自分を彼は十分に可愛がってくれる。こんなにも美しい人が自分に愛情を注いでくれているだけで、シャドウは幸せだった。
今回も、二週間の滞在のうち学校のない週末は一日中共に過ごした。
学友が親と行ったと話していた美術館に連れて行ってもらったし、シャドウの好物で有名なレストランで食事もした。ブティックで新しい服や靴をたくさん買い与えられた。
正直、衣服についてはもうクローゼットはパンパンなので遠慮しようとしたが、普段構ってやれないからと寂しそうな笑顔を向けられると断り切ることが出来なかった。
案の定、帰宅した二人の荷物を見た胡桃色の髪を持つシャドウの世話係の美女は「どうしましょうかね」と眉を下げて、困ったように笑っていた。
学校の宿題のために、自室の勉強机へ向かうシャドウの後ろには、今、彼女がなんとか選定したシャドウの部屋から衣装部屋に移動させる予定の服がこんもりと積み上がっている。また、どこかの施設に寄付でもするのか、頑張ればシャドウが入れそうな大きさのダンボールも隅に積まれている。
少し困った部分もある養父であるが、キャスターと過ごす日々シャドウにとっては夢のような時間だ。
明日は湖畔近くの別荘に朝早くからいく予定なのだから、課題を早く終わらせて寝よう。学校から支給されたタブレットをスワイプしたところで、シャドウは眉をひそめる。
『紛争地についての討論資料作成』
大きく映し出された太い文字に、写真。
写真に写し出されているのは、鉄骨が丸見えになった建物に、瓦礫の山。ペシャンコになった車。
学友や課題を与えた教師、たまにすれ違う近隣住民にとってはおそらく遠い世界の風景。
しかし、シャドウはつい一年前までこの風景の中にいた。
思い出される埃っぽい空気に硝煙の匂い。聞こえてくる銃声や怒声。
その中を何年も兄達と過ごしていたのだ。
元々観光で訪れた国で、シャドウ一家はテロに巻き込まれた。
美しい建物は原型をなくし、穏やかな鳥の鳴き声は消えて銃声が鳴り響き、笑い声が悲鳴に変わる。
年の離れた兄と手を繋いでいたシャドウと双子の片割れははぐれることがなかったが、粉塵と人の雪崩で気がつけば三人を後ろから見守っていた両親の姿は消えてしまっていた。
なんとか両親を探そうと立ち上がってすぐに視界が真っ暗になり、気がつけば何処とも知らない廃墟にいた。
最近、知ったのだが、テロリストの資金源の一つに人身売買があるらしい。今思えばあそこにいた子供たちはその為に集められたのだろう。
自分たちは死んだことになっているのか、助けがくる気配はなかった。衛生的に良いとは言えない場所で何日も過ごし、兄弟と同じ白髪はどんどん汚れで黒ずんでいった。頭がおかしくなりそうだった中で、何度も、年の離れた兄が必死にシャドウと双子の片割れを抱きしめてくれたのを覚えている。
ある日、シャドウが叫び声に目を覚ますと、普段決めきられた南京錠が二つ付いた分厚い鉄の扉が開いていた。
それが開くのは何日かに一度。部屋にいる子どもが男達に連れていかれる日だ。
今日も誰かが連れていかれるのかと、隣で寝ている片割れの手を握ろうとしたが、じゃりっと砂を掴むだけだった。血の気が引き、冷めた頭で必死に辺りを見回すと、双子の片割れが大声を上げながら男二人に引きずられている。
「アーチャー!」
満足に食事も出来ず弱り切った体を必死にバタつかせている片割れの名前をシャドウは必死に叫んだ。目障りに思ったのだろう。男の一人がシャドウに近づいて手を挙げた。
ドゴッ
反射的に目を閉じたシャドウの耳に鈍い音が聞こえてくる。
しかし、シャドウはどこにも痛みを感じない。
恐る恐る目を開くと、視界から男は消えて代わりに兄の背中が現れた。
状況を理解できないまま唖然とするシャドウの耳に、怒声が聞こえてくると兄の前に先ほどまで片割れを引きずっていた体格の良い男がドスドスとやってきて拳を振り下ろす。表情の見えない兄は男に向かって、すっと片手を上げた。
パンッパンッ
いつだったか、誕生日会で聞いたことのあるような破裂音が聞こえたかと思うと、男がドサリと床に倒れこみ、シャドウに手を挙げた男と重なる。硝煙の匂いが漂う中、向こうでは片割れが大きな目を皿にして尻餅をついたまま、微かに震えているのが見えた。
手に持った銃をカチリと鳴らせ、雑にズボンと尻の間に挟むと、兄は片割れを抱き寄せ宥めてからシャドウの隣に座らせた。何が起こったのか理解できないシャドウに少し落ち着いたらしい片割れは体を寄せて手を握った。そのとき初めてシャドウは自分も先ほどの片割れのように震えていたのだと気づく。
何か会話を交わす時間もなく、すぐに足音が聞こえて、男が部屋に入ってくる。
髭面の男は、最初部屋の状況に顔を強張らせていたが、シャドウ達を庇うように立っている兄のほうを見ると、ニヤリと笑った。
シャドウと片割れは他の子供を残し、別の部屋へ移された。
一枚ではあるが、薄い布団が与えられ、日に一度だった食事も二度になり、体を拭くことも許された。以前より良い環境ではあったが、髭面の男と共に消えた兄を思うとその日は眠れなかった。
翌日、姿を見せた兄はカーキ色のミリタリージャケットにカーゴパンツ、古びたブーツを履いていた。
それから、兄は何度も姿を消したが、必ず二人の元へ帰ってきた。
ただでさえ少ない食事が減り、怒声が頻繁に増え始めると、兄は二人を連れて廃墟を去った。
行った先にはまた似たようなカーキ色のジャケットに身を包んだガタイの良い男達がいて、兄は同じように建物の一室にシャドウ達を置いて何度も出かけた。
たまに、自分を守るためにと、兄はシャドウ達に銃やナイフの扱いを教えてくれた。
生まれつき片目が変色し、視界が狭いシャドウはなかなか思うように扱うことが出来なかったが、片割れはみるみるうちに腕をあげた。気づけばシャドウを残し、兄と出てしまうようになり、静かな部屋でシャドウはただただ蹲りながら一人、兄達の帰りを待つ日が続いた。
暗くなった誰もいない部屋はどれだけ防寒が整っていようと、分厚い扉に内鍵がついていようとどこか不安でシャドウは兄達が戻ってくるまで一睡もできずにいた。
戻ってくる度にクマを作っているシャドウに、最初片割れは駄目じゃないかと説教してきたが、どうこうできるものでないと理解してからは黙って一緒に横になると背中を優しくさすって寝かしつけてくれた。
「これが終わったら、帰れるからな。」
あの日、片割れが体に似合わない本来大人の兵士が持つようなサブマシンガンを手に微笑んでいたのを思い出す。
気難しい表情をしていることが多い上の兄も、強すぎる力でシャドウの頭をわしゃわしゃ撫でながら頷いて微笑んでいた。
最後に見た二人の姿は今でもシャドウの中で鮮明に残っている。
金のドアノブに手をかけ、数日前は勢いよく開いた扉を今度はそっと押す。
窓に取り付けられたカーテンは締め切られ、スタンドライトの暖かい光が一人掛けのソファで穏やかに本を読む部屋の主を照らしている。整った顔が後ろから照らされる光でより一層養父は神秘的に見えた。見惚れたまま立ち尽くすシャドウに気づくとキャスターは目を細めて笑うと本を閉じて手招きしてくる。
何度も出入りしている部屋がなんだか神聖な場所に感じられ、躊躇いながらゆっくりとシャドウは足を進めた。次に、ポンポンとキャスターが自分の膝を叩くので、意図を汲み取って腰を下ろす。
「でかくなったか?」
「昨日も言っただろう。背も伸びたし足だって大きくなった」
子どもの成長ははえぇなあ。と、会うたびに聞く言葉を呟きながらキャスターは腰に手を回して、頬をシャドウの頭に擦り寄せてくる。
基本的には、穏やかながらも格好良い大人の男性を思わせるキャスターだが、二人きりになるとこうして甘えた仕草をしてくる。くすぐったさにシャドウの顔も綻ぶ。
「あぁ、そうそう見せたいもんだあるんだ」
「見せたいもの?」
後ろの机に長い手を伸ばすと、キャスターはタブレット端末を手に取った。
主がいない時でも埃かぶることなく整頓されていた机には今は書類の山や何故か複数台あるパソコンやスマートフォンが無造作に置かれている。
「ほれ。テストで頑張ったご褒美だ」
『ご褒美』と言われて渡されたタブレットの画面にシャドウは顔を輝かせた。
すぐにキャスターの方を見ると、彼はニコニコと笑いながら頭を撫でてくる。
画面に映し出されているのは、シャドウと同じ白髪に褐色の少年。
双子の片割れであるアーチャーだった。
半袖の白いシャツに、クローゼットで見たことがあるものと色違いのセーター。黒い半ズボンを着た少年はどこか気恥ずかしそうにそっぽを向いている。露出している肌は最後に見た時より膨よかだ。
スワイプしていくと、パンツスーツの女性が後ろから必死に人差し指でアーチャーの口の端を引っ張っている写真や、大柄の男性に抱き上げられている写真が出てくる。
写真の中の表情は堅いながらも、楽しそうな姿にシャドウは自然と笑みがこぼれた。
何週間か前に学内テストで上位を取ったことをキャスターに電話口で報告したところ、彼は優しい声でシャドウを褒めた。それだけでも十分なのに彼は「ご褒美やらないとなあ。何か叶えたい事あるか?」と言ってきたので、シャドウは思わず言葉を零した。
「アーチャーと兄さんに会いたい」
無茶な要求に慌てて冗談だと付け加えたのだが、彼はちゃんと覚えていたらしい。
「会うのは難しいからな。兄さんの方はまた今度。悪いな」
「十分だ。嬉しい」
シャドウの肩に顎を乗せて謝ってくるキャスターに明るい声でシャドウは答える。
きっと優しいキャスターのことだから自分に負けず劣らずの環境を用意してくれているだろうとは思いつつも、片割れがどんな生活を送っているのか不安であったが、どうやら楽しく過ごせているようだ。
また画像をスワイプしたところで、シャドウは手を止める。
「これは……」
またも映し出されているのはアーチャーだ。
アーチャーは照れ臭そうに口を歪めながらも珍しく視線をこちらへ向けていた。
その体を預けて座っているのは、白い肌に刈り上げた青い髪と赤い瞳、キャスターにそっくりな青年の膝の上だ。
青年はアーチャーの両肩に手を置いて満足そうに整った顔をこちらに向けている。
その青年にシャドウは眉間に皺を寄せた。
「ああ、それは俺の弟だ。ってお前さん会ったことあったろ。」
こくりとシャドウは頷く。
キャスターの言葉通り、シャドウは彼に一度会ったことがある。
兄弟で何か話しをしなければいけないとのことで、彼とあと二人の少年がこの屋敷に訪れた事がある。
兄弟の末っ子でシャドウより幼い少年は、シャドウを目にするとに愛想良く手を振り笑ってくれた。一方、彼の隣を歩いていた三男はムスッとした表情でこちらを睨んでいた。事前にキャスターから兄は三男の暮らす屋敷で仕事をしていると聞かされており、あの日、兄に会えるのではと期待したのだが、屋敷に兄は姿を現さなかった。
仲良くなれるなら兄の近況でも聞けないかと思っていた三男の反応に少しばかり残念な気持ちはあったが、「まだ、餓鬼なのに気難しいやつなんだ」とキャスターから聞いていたので予想の範囲内の反応だった。
遅れてやって来た次男を見たとき、まずシャドウはキャスターと瓜二つの彼に驚いた。髪の色は少しキャスターより少し濃いようだが、肌も瞳もそっくりだ。
あまりにも、養父に似た人物をじーっと見つめるシャドウに気づくと、相手は驚いた顔をしたあと、不快そうに顔をしかめ、キャスターを一瞥すると舌打ちしその場を去った。
キャスターと同じ顔が気味悪そうに自分を見たこと。舌打ちされたこと。それらはシャドウの心の中に負の記憶としてずっとある。
「お前らが頑張れば、そのうち会えるからな」
暗くなっていくシャドウに何かを察したのかタブレットの電源を消して、机へ戻すとキャスターはシャドウの頭を撫でた。
コクリとシャドウが頷くと、キャスターの口が弧を描いた。
「さあて、じゃあ今日は一緒に寝るか」
「いいのか」
確かめる為に振り向けば、キャスターはニッコリと笑顔で応えてくれる。
クイーンサイズのベッドの上、向き合うキャスターは優しくシャドウを抱きしめる。
顔いっぱいに広がる養父の香りと、全体で感じる暖かさにシャドウはうっとりとする。
この屋敷に来てからすぐは、毎日シャドウはこうしてキャスターのベッドで一緒に眠っていた。
ーというのも、当時、シャドウは人の温もりがないと一睡も出来なくなってしまっていた。
兄もアーチャーもいない日は不安で眠れず、彼らがいる時だけ睡眠をとる日々が続いたのがおそらく原因だったのだろう。どれだけ、暖かい布団でも、どれだけふかふかな枕でも、シャドウの眠りを誘うことはなかった。
見兼ねたキャスターが一緒に寝るかと優しく毎晩抱きしめてくれたおかげで、十分な睡眠がとれるようになり、環境にすっかり慣れた今では自室の抱き枕があれば問題なく一人で眠れるようになった。
しかし、今晩はどうもそれだけでは眠れそうにない。
そもそもこの部屋を訪れたのは、今の状態を望んでのことだった。
シャドウがやりたいことや、不安に思っていることをいつだってキャスターは察して良い方向へ導いてくれる。
彼に最初に出会った時、兄たちが何日も戻ってこない事に不安と疲労がピークに達していたあの日。彼は見窄らしい自分を優しく包み込んで「頑張ったな」と兄達から欲しかった言葉を囁いてくれた。
「早く君に恩返しがしたいよ」
「じゃあ、勉強頑張って会社継いでもらわないとな」
キャスターはいくつもの仕事を掛け持ちしているらしく、どれかをシャドウに継いでほしいとよく話している。彼がそうして欲しいならと、シャドウは一生懸命勉強し、何年かのブランクを取り戻すだけでなく見事今では学年上位の常連となっている。最近では分からない言葉は調べながら経済誌も読んでいる。
キャスターの期待通り、会社を継ぎたい。更に会社を継げば、兄達ともまた暮らせるのではないかと淡い期待もシャドウの体を机に毎日向かわせている。
「今度、ディルムッドに剣術も学ぼうと思ってるんだ」
シャドウの発言にキャスターは腕の力を弱めて、顔を覗き込んでくる。
あまり見ない驚いた顔にシャドウはなんだか恥ずかしくなった。
「どうしたんだ。急に」
「その、二人がいつも君を狙ってくる輩の話をしていて。私も君を守れたらと」
シャドウの世話役の青年、ディルムッドには良く似た兄弟がいる。
キャスターの護衛を務めるその兄弟と彼の会話をシャドウは耳にしていた。
ーー彼はまた腕を上げた。これではいつ隙をつかれて御子殿を傷つけるかわからないーー
危険な仕事もしている事は知っていたし、その為に護衛もいる。理解していてもその言葉を聞いた時に、身体が強張った。兄弟達が戻ってこない夜が脳裏によぎり、頭をふるりと振って考えた。
同じ事を繰り返してはいけない。今度は自分で大事な人を守ろう。
ディルムッドに相談してみると、嬉しそうに顔を輝かせたが、すぐに難しい顔をして「御子殿の了承が得られたら教えましょう」と答えた。どうやら彼は、キャスターがシャドウが剣術を学ぶことを許してくれるか自信がないようだった。
「駄目か」
「勿論だ。嬉しいなあ。頑張れよ」
首を傾げて尋ねてみると、予想に反して色よい返事が返ってくる。
キャスターはふわりと顔を緩めてふふと笑って、シャドウの鼻梁にキスしてくる。くすぐったさにシャドウもふふと笑って今度はこちらから彼に頬にキスする。
「おやすみ、シャドウ」
「おやすみ、キャスター」
アーチャーや兄もそろそろ眠りについた頃だろうか。
ベッドの中で感じる久しぶりの暖かさにシャドウは穏やかに瞼を閉じた。
Comments
- ツキ影November 30, 2018