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My little boy/Novel by キューイ

My little boy

8,160 character(s)16 mins

大人槍×ボディガードショタ弓
跡取り四兄弟次男槍ととある事情から彼のボディガードになった三兄弟次男弓の話。

元少年兵が武器商人と旅をするあのアニメを見てて思いついたネタです。
・妄想設定供養
・槍→弓っぽい
・ちょろっと広義。

私はキャスターをなんだと思ってるんだ。

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2018/10/28
誤字脱字と改行の修正をしました。
予想以上の閲覧、評価、ブクマ、スタンプまでありがとうございます。
拙い文章ですが、少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。

もし、ご存知でない方いらっしゃいましたら
ヨルムンガンド、是非ご覧になってください。

1
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horizontal

 木造で出来上がった店や家が立ち並ぶ街。
 その中で、周りの風景など関係ないと不自然に高層ビルが並ぶ一角。
 改革だ、革新だ、成長だと色々な言葉を並べて作られたこの場所の地面は一面の寂しい灰色のコンクリート。
 昨日の雨で本来より暗い色になったそこからは都会の香りがする。
 ごった返しみんな口々に笑い叫び活気に溢れる街中とは、まるで違う国のようにこの場所では口を結び睨むように歩く輩や作った笑顔を貼り付けて人と話すスーツ姿ばかりで人の数も圧倒的に少ない。

パン パン パン

 どこかのおもちゃ屋で聞いたような軽い音と共に古びたスーツの男が倒れこむ。
 倒れ込んだ弾みで男の手を離れた拳銃がコンクリートを滑り、黒い細身のスーツに蒼い髪短く刈り上げた青年のすぐ前で止まった。
 青年の隣ではこの一角には似合わない一回り大きいシャツとカーゴパンツにミリタローブーツを身につけた浅黒い肌に白い髪をした少年がまっすぐ倒れた男を見据えている。
 手に握られているのはおもちゃ屋にある軽いプラスチックモデルガンではなく、重みのある黒い本物の拳銃で、黒い筒がはめられている銃口は真っ直ぐに倒れた男に向けられていた。
 男は呻きながら血が滲む脚に手を当てながら立ち上がろうとするがすぐにまた倒れこみ、すぐに黒い男達に囲まれてしまう。
 青年は冷たい紅い瞳で暫く何やら叫ぶ男を見つめていたが、声が聞こえなくなると足元の拳銃を拾い上げ、安全装置のレバーを下げると隣にやってきた黒い男に手渡し、向きを変えた。
「行くぞ」
 少年は彼の言葉に拳銃を下ろし、懐へとしまい込んだ。
 タイミングよく目の前へやって来た黒塗りの車の扉を少年が開くと男が乗り込み少年も続いた。
 パタンと扉の閉じる音確認すると車は動き始める。
 先程までいた場所を横目で見送ると、青年は革張りの椅子隣に座る少年の頭をわしゃわしゃと撫でた。
「お手柄だったな。アーチャー」
 青年はさきほどまで冷え切っていた表情が嘘の様に歯をみせて晴れやかに笑う。
 少年は特に抵抗するでもなく、少し不機嫌そうな顔をして撫でられるがままに頭を揺らしている。
「君だって気づいていただろう。無防備にも程がある」
「まあ、お前がいるからな」
 青年の言葉が嬉しかったらしく少年はまんざらでもない顔をした。

 一際大きなビルから商談を終えて出てきたところ、青年は男に銃口を向けられた。
 通り魔でも、何かの威嚇でもない、見ず知らずの彼は青年を明確に殺しにやってきたのだ。
 初めこそ驚き、「なぜ自分なのか」と考え込んでしまったものだが、もうこういった出来事にも慣れきっていた。
 青年の名前は、クー・ランサー・フーリン。
 貿易関連の事業を手がけるアルスター商事を経営するフーリン家の次男で、現在では若いながらも役職を持ち働いている。
 将来の社長候補である彼は『表向き』の資源売買の仕事と同時に『裏向き』の武器売買の仕事も行なっている。
 『裏向き』の仕事は恨みを買うこともあるし、同業者や平和を訴える抑止力との小競り合いもある。
 それに加えて、最近四人いる兄弟の跡取りの話を外部が口出しする様になりそれらが雇った人間が彼を狙ってやって来ることもある。
 日常的にというまで頻繁ではないが、常に無防備にで歩けるほど珍しいことでもない。
 発展途上国にできた『特区』という名の無法地帯へ出向くならば、予測できた事態だった。
 そんな彼を守るのは信頼の厚い黒服達と今隣で屋台の通りを興味津々に見つめている少年、アーチャーだ。
 車は『特区』を抜け出し、今までより大きく車体を揺らしながら進んでいく。
「なんか気になるもんでもあるのか」
「どれも見たことないもので興味深い」
 キラキラと目を輝かせるアーチャーにランサーはクスリと笑うと右手をあげる。
 車が静かに泊まると助手席に座る大柄の男へとランサーは声をかけた。
「弁慶。アーチャーを屋台に連れて行ってやれ」
「しかし、アーチャー殿も拙者もランサー殿の近くを離れては……」
 信頼出来るボディーガードの一人、弁慶が主人の言葉に困惑していると、隣の運転席から高い声が聞こえてくる。
「私のことを忘れていないか。この牛若丸、運転だけではないのだぞ」
 ふふんと鼻高らかに言うのは黒いパンツスーツがあまり似合わない童顔の女性、牛若丸。
 自信満々の相棒の言葉に弁慶は更に顔を曇らせる。
「ほら、アーチャー。これでなんか買ってこい。急がなくていいからな」
 ランサーは目で不安を訴えてくる弁慶を無視してアーチャーに革のポーチを渡す。
 アーチャーが中を覗くと、中には屋台の食事ならば十分すぎるほどの現地紙幣が入っていた。
「いいのか。しかし弁慶殿のいう通り私たちが離れては意味が」
「天才剣士牛若丸がいるから大丈夫だって。なあ?」
 はい!!と忠犬が主人に返事をするように力強い返事が聞こえて来る。
 弁慶は観念した様に困惑するアーチャーに笑いかけると扉を開いた。
 アーチャーもそれに続く。
 大きな弁慶の後ろをちょこちょこ付いていく姿は、拳銃やナイフを日頃から身につけ自由に扱うようには見えない。
「彼もだいぶ柔らかくなりましたね。」
「そうだなあ」
 屋台につくまでこちらを何度か見るのでその度に手を振ってやる。

 車を何十時間と乗り、飛行機乗り継ぎ降り立った中立国。
 更に牛若丸が運転する車で移動したどり着いたのは、高い塀と手入れが行き届いた青々とした木々に囲まれた洋館。
 一年になかで人がいる日の方が少ないこの建物はフーリン家の所有する別荘の一つでありランサーにとって心休まる少ない場所の一つだ。
 分厚さと大きさから周辺住民に何の施設かと不思議がられる扉を抜け、数々の監視カメラに見つめられながら不機嫌そうな顔をした獅子のノッカーをつけた大きい扉に手をかける。
 古びた見た目に反して、ランサーの指紋を確認した賢い扉からはカチッとロックが外れる音を鳴らす。
 弁慶が扉を開くと広がるのは外の優しい緑とは対照的な赤で彩られたエントランス。
 いつ来ても綺麗に整頓された壺や絵画。
 光り輝くシャンデリア。
 もう何十年動き続けている柱時計は今も正確な時間を刻んでいる。
 いつも通りの景色に一つ予想外のものを見つけてランサーは眉をひそめる。
 ランサーが制止の言葉をつむぐ前に、アーチャーは動き出した。
 彼が目指すのは、ランサーより淡い蒼の長い髪を揺らすスリーピーススーツを着た青年。
 花台を利用し大きく飛び上がったアーチャーは、太もものナイフホルダーから抜いたナイフを彼の方へと向けたまま重力に身を任せて落ちていく。
 鬼の形相で自分へと刃物を向けて来る少年を青年はなんのことはない顔で口の弧を保ったまま見上げていた。
 キンッ
 少年のナイフは目当てに刺さる前に金属同士がぶつかり合う音を立てた。
「いけませんよ。アーチャー君。周りも見ないと」
 アーチャーのナイフは黒髪に目元の黒子が特徴的なタレ目の青年に握られている槍に受け止められた。
 地面に着地したアーチャーは青年を睨むように見上げると、青年は垂らした前髪を揺らして柔らかい笑顔を作り、槍を持っていない方の手を差し伸べてくる。
 アーチャーは黙ったままそれにつかまり立つとナイフホルダーに黙ってナイフを仕舞い込む。
「残念だったな、アーチャー。今回も兄弟に会わせる約束はなしだ」
 先程までアーチャーに本気で殺されかけそうになっていた青年はランサーと同じ紅い瞳を細めてやらしく笑いかける。
 その声はランサーと瓜二つ。
 声と瞳の色だけではない。
 青のパーツも肌の白さもランサーとそっくりな彼はフーリン家の長男。
 クー・キャスター・フーリン
 ランサーの兄である。

 そもそも、アーチャー少年とランサーが出会うきっかけを作ったのはこの男だ。
 まだ、ランサーが『裏の仕事』を覚え始めた頃、『お前に見せたいものがある』と呼び出されたのは、荒野にポツンとある廃墟。
 少し車を走らせれば、隣国兵士同士が睨み合う戦場があるその場所は埃っぽさと鼻に付く嫌な臭いが印象的だった。
 案内するキャスターはブランド物のスーツと革靴を身に纏う廃墟にミスマッチな存在であるはずなのに、違和感がないのが不思議だった。
 家業のみに専念するランサーとは違い、キャスターは他に色々な副業をしている。
 本人曰く『兄弟に会社を追い出された時のための保険』だそうだ。
 その一つが傭兵ビジネスで、敵対する組織や国のどちらに貸し出す方が優位かを測るためこういった戦場を視察に来るのだそうだ。
「うちの部隊が半分やられてよ。その犯人二人組が面白くてな」
 呑気な口調で話すキャスターだったが、彼が採用する傭兵がどれほどの手練れ達か理解していたランサーは内心驚いた。
 どれほど修羅場をくぐり抜けた兵士なのか、はたまた殺し屋か。
「こいつらが犯人だ」
 想像を巡らせたランサーの目に入ってきたのは予想とは違いまだ若い青年と少年。
 青年は短い剃り込みが入った白髪に黒褐色の肌、その肌がこちらを見た瞳の金を目立たせていた。
 どうやら怪我をしているらしく、腕には血が滲んだ布が巻かれており、よく見ると頬にも鬱血の跡がある。
 足首と手首を縛られた状態で座り込んでおり、こちらを見上げる様に静かに睨みつけていた。
 念のためとついてきた傭兵は彼と目が合うと小さく身体を震わせていた。
 例えるならば高貴な黒豹のような彼の前にひざ立ちで陣取る少年はキャスターを見るなり声を荒げ始めた。
「貴様、シャドウは、弟はどうした!!!」
 白髪に浅黒い肌をもつ少年は鉛色の瞳を憎悪で歪ませ、眉間に子供が刻むには多すぎる皺を作ってキャスターを睨みつけていた。
 髪は青年より長く、前髪は鬱陶しいぐらいの長さ。
 肌も青年がダークチョコレートならば少年はミルクチョコレートといったところだろう。
 青年はおそらくランサーと同世代、少年は10歳程度といったところか。
 キャスターは座り込み少年と目線を合わせると吠える躾がなっていないしょうがない小型犬を見るように優しく笑いかける。
「無事だって言ってるだろう。まあ、お前らの態度次第でどうなるか分からんがな」
 そのままキャスターが頭を軽く撫でると、少年は言葉を飲み込み歯を食いしばったが目はキャスターへの殺意をあらわにしたままだった。
 吠えなくなった事に満足したのか、えらいえらいと少年の頭を撫でおえるとキャスターは立ち上がりランサーを見る。
「小さい方をお前にくれてやる。まあ、仲良くしろや」
 キャスターの言葉のその場にいた全員が驚いた表情をする。
 ただただ静かにこちらを見ていた青年までもが一瞬目を丸くし、口を開いた。
「おい、貴様。どういうことだ。」
「大丈夫だって、お前にも就職先見つけてあっから。」
 青年が欲しい回答とは的外れなことをいうと兄は器用にウィンクして見せた。

 こうしてアーチャーはランサーのボディーガードになったのだ。
 そして、キャスターはアーチャーと離れる際に約束をした
「俺を傷つけることができたら、弟と兄に会う機会をやろう。ただしチャンスは1日1回な」
 兄弟達に会いたいが一心で神出鬼没、且つ完璧なボディガードをつけたキャスターを彼は狙い続けているのだ。
 彼の兄弟達はというと、アーチャーと共に傭兵達を仕留めた兄、デミヤはまだ幼いフーリン家の三男のボディガード兼家庭教師として平和な国で暮らしている。
 弟達の面倒を見ていたこともあったのか、三男はかなり彼に懐いており、キャスターやランサーが言うことより彼が言ったことをよく聞く様になってきたのが最近の悩みのタネだ。
 ちなみに当初、自分と変わらぬ歳かと思っていた彼はまだ未成年だったことにランサーは心底驚いた。
 濁った片目と頬の傷以外アーチャーと瓜二つの双子の弟であるシャドウはキャスターが養子として迎え、大事に育てている。
 以前、キャスターの住まいに出向いた時にランサーも会ったのだが、キャスターキャスターととても養父に懐いていた。
 国の有名進学校の制服を着た彼は、アーチャーより段違いに良い生活をしているのだろう。
 たまに意味もなくブランドものの服を着せた写真が自慢げに送られて来ることからキャスターも彼を溺愛していることは明らかだ。
 しかし、これらの事はアーチャーへは口止めされており、彼は兄弟が劣悪な環境に苦しんでいるのではないかと心配しているらしかった。
「一度会わせちまえば、アーチャーもあんなことしなくなるだろうに」
 洋館の二階に設けられた応接間。
 柔らかい絨毯の上にある年代物の革張りのソファに体を預け、ティーカップ片手にランサーは呟いた。
 キャスターは窓から見える庭で自分のボディーガードとアーチャーが手合わせをしているのをにこやかに見つめていた。
 彼がアーチャーを見る目は養子と接する時と同じようで、おそらく彼のことも同様に愛おしく思っている。
 そんな相手にわざわざ恨まれるような言葉をかけ、本気で傷つけにこさせるように仕向けているのだから訳がわからない。
「あんなことしてくるのがいいんじゃねえか。可愛い可愛いシャドウと同じ顔で本気で殺意を向けられるのがたまらん。」
「悪趣味だな」
 幼い頃から双子と見間違えられ、今でも並べば髪の色以外で見分けがつかない兄だが、昔からその考えはランサーに理解出来ないものばかりだった。
 考えるより体が先に動くタイプのランサーは考えること事態彼に劣るので、昔はきっと頭のいいやつはそうなんだと思っていたが、最近では多くのことに対して「ただの変態なのでは」と感じている。
「それにしても未だにあんなボロ切れみたいな服着てんのかあいつ」
「まあ、防弾チョッキとの関係もあるし本人はあれが落ち着くらしいぜ」
「勿体ねえな。今度シャドウと揃いの服送ってやるから着せて写真送ってくれよ」
「ほんと、溺愛してんのな」
 人の事は言えないが、どちらかというと飽きっぽく男女取っ替え引っ替えしていた兄が一人の人間に対して意気揚揚と語るのは珍しい。
 呆れたように笑って見せれば、向こうもニヤニヤと表情を変えた。
「なんだよ、気持ち悪い」
「いんや、お前だって人の事言えねえだろ。それ、あいつのためだろ?」
 指さされた先にあるのはランサーの頭もとい、髪である。
 短く刈り上げられた深い蒼は数ヶ月前までキャスターと同じ長さのものを一つに結っており、尾のようにゆれるその髪は長い間ランサーの特徴でもあった。
 そういえば、髪を切ってから初めて兄弟に会う。
「ただ鬱陶しかっただけだって。」
「ほーん」
 否定の言葉にキャスターは更にニタニタとこちらを見てくる。
 正直、半分は図星だった。
 長い髪がそろそろ邪魔になってきたのは本当だったのだが、決定打はアーチャーだった。
 最初はかなり警戒されていたが、共に日々を過ごすに連れて頭を撫でても文句を言わなくなった彼がどうしてもランサーに身構える時があった。
 朝の身支度前と夜の風呂あがり後だ。
 髪を垂らした姿はどうしてもキャスターを連想してしまうらしく、アーチャーは出会い頭には必ずこちらを睨む。
『目の前にいるのは君だと分かるまでどうしても身構えてしまうんだ。すまない、君とキャスターは違うのに』
 眉をハの字にして謝る姿は、ランサーの先送りにしていた予定を実行させた。
 支度が楽になった事には満足しているが、一番大きな変化はアーチャーが朝晩ランサーに笑顔を見せるようになった事だった。
 指摘されて、兄弟はやはり兄弟でこの男ほどでなくても彼に執着しているのだろうかと眉間にシワがよる。
「自覚ないんだろうが、俺がアーチャーの話する時お前さん結構な顔してんぜ?」
 こちらを指差し、考えていた事を見抜くような言葉に舌打ちするとキャスターは肩をすくめて立ち上がった。
 そのまま扉の方へと向かうので声をかける。
「なんだよ、用事があったんじゃねえのか」
「いんや、近くに用があったから可愛い弟とプレゼントしたボディガードの様子を見に来ただけだ。」
 キャスターはヒラヒラと手を振りながら部屋を出て行く。
 パタンと扉の閉まると防音が施された部屋には静寂が訪れる。
 立ち上がり窓の外を見ると、兄のボディーガードに別れを告げているアーチャーが見えた。
 身体を思いきり動かせたのか、その顔は晴れやかで年相応の友人と遊び終えた少年のものだった。

「風邪ですね」
 赤い服に赤い瞳、灰色の髪を三つ編みにし邪魔にならないよう輪のように結った女医が凛とした声で診断を下す。
 洋館の一室、元は子供部屋として使われていた部屋のベッドに横たわるのはアーチャーだ。
 キャスターの訪問を終え、夕食をとっている時、ランサーは彼の異変に気付いた。
 テーブルの上で両の手で作った拳には異様に多い汗が滲み、顔を青くしていた。
 どうしたのだと尋ねると腹が少し痛いだけだと無理やり笑う彼を弁慶に運ばせ、ランサーの主治医でもある彼女を呼び出した。
 大丈夫だと戯言のようにつぶやいていた彼の熱は39度。
 首筋を冷やし、女医の解熱剤などでやっと寝付いたところだ。
「こいつ風邪なんてひいたことなかったのにな」
 分厚い布団を被り、小さく寝息をたてるアーチャーの汗を拭いてやりながらランサーが呟く。
「緊張が解けたのかもしれませんね。ここは安全だとよく分かっているでしょうし」
 女医は先程打った栄養剤の注射を仕舞い、代わりに錠剤をいくつか取り出す。
「しばらくはここに滞在すると聞きました。しっかり身体を休め、薬も置いていきますが出来るだけ食事で治すようにしてください。何かあれば直ぐに連絡を入れること。よろしいですね」
「おう」
 固い表情をしていた女医はランサーの返事に顔の力を抜いてゆるく微笑む。
 サイドテーブルに薬とメモを置くと静かに彼女は出て行った。
 普段入りっぱなしの力が完全に抜けた顔をしばらく見つめる。
 アーチャーがランサーの元へとやってきてしばらくはベッドで横になる事さえ抵抗を示し、壁に座って眠っていた。
 女医に子供の睡眠は大事なのだと何故かランサーが叱られ、無理矢理に抱き上げベッドへ連れ込んで横にさせた頃が懐かしい。
 最初は抵抗していたものの、何度も何度も行えば観念したのか横に寝ることを覚えたがそれでもどこか力が入っており、いくら弁慶や牛若丸がいるので心配ないと説明しても出先のホテルでは物音がたてばすぐに目を覚ます始末だ。
 世界にいくつかあるこういった別荘ではある程度熟睡出来ているようだが、触れれば直ぐに目を覚ます。
 今はどれだけ彼の額に触れようが身体を起こすことはなく、どれぐらいかぶりにかなり深い眠りについているのだろう。
「……ぃ…」
 ふと小さい声がアーチャーの口から漏れる。
 赤ん坊が泣き出す前のように顔をしかめて寝返りをうつ。
 綺麗に天井向いていた身体はこてんととランサーの方へとむき、放り出された手がランサーの白い腕に当たる。
 そのまま腕を軽く掴んできた。
「どうした。悪い夢でも見てんのか」
 見慣れた眉間のシワをぐいぐい押してやるとアーチャーは小さく唸り声をあげる。
 そして、掠れた声ではあるが今度ははっきりと言葉を口にする。
「にいさ……あつい」
「兄さん……な」
 チクリと胸のどこかに小さな痛みが走る。
 腕を弱く握っていた手を解き、手を差し出すと今度は少し強い力で握ってきた。
 額からはまた力が抜け、アーチャーは口元を綻ばせた。
 出会ってからもう一年になるが彼のこんな表情は初めて見る。
「いつかその顔俺に向けてくれや」
 額に軽くキスをすると、またアーチャーの眉間にシワが寄った。

Comments

  • ツキ影
    October 25, 2018
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