成人間の売買春において「買う側(買春)」 を処罰対象とすることを視野に入れた売春防止法の改正に向けた検討が始まった。その背景にあるのは、搾取されていく「売る側」の悲痛な実態だ。なかでも、ホストが女性客に多額の「売掛金(ツケ)」を背負わせ、返済のために性風俗や売春などに追い込むケースは各地で喫緊の問題として表面化している。
【写真】娘がホストクラブにはまり、売掛金1200万円を支払った母親
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娘(25)がホストにハマり、多額の借金を抱えていると知ったのは2022年2月だった。
「青天の霹靂(へきれき)でした」
都内に住む母親(63)は、当時の心境をこう打ち明ける。
優しくて素直な娘だった。
20年4月、志望する大学に入学し、「留学したい」と夢を語った。翌21年、2年生になると、実習が多いので勉強時間を確保したいと大学近くで一人暮らしを始めた。
状況が変わったのは、この頃からだった。
娘は、SNSのマッチングアプリで知り合った1歳年上の男性と交際を始めた。男性は娘に、「本業は学生で、学費を稼ぐためにホストとしてアルバイトをしている」と話していたという。のちに分かったことだが、男性は専門学校を中退し、ホストになったという。
娘は男性に誘われるままホストクラブに足を運んだ。だが、その男性が「担当」(指名するホスト)になると、状況は一変した。店での支払いが雪だるま式に膨らんでいったのだ。
ホストが、女性客に多額の「売掛金(ツケ)」を背負わせ、返済のために性風俗や売春などに追い込むケースが各地で問題化している。若い女性の恋愛感情につけ込み、経済的に拘束する、「恋愛商法」に近い手口だと指摘されている。
実際、ホストクラブの売掛金制度は「底なし」といわれる。
例えば、担当ホストの誕生日にシャンパンタワーを頼むと、一晩で200万円以上請求されることがある。当然、支払えないので、売掛金となる。売掛金返済のため、ホストは女性客を性風俗へ追い込む。この構図の先には、「買う側(買春)」の需要がある。
出てきたのは手書きの売掛伝票(青伝)だけ
こうした実態を受け、政府も対応に乗り出した。売春防止法の改正に向けた検討が始まり、これまで罰則のなかった「買う側」を処罰対象とする法改正も視野に、年度内にも有識者検討会の初会合が開かれる見通しだ。
この問題のただ中にいたのが、冒頭の母親と娘だった。
22年2月、娘から突然、「大学を辞める」「1週間以内に1200万円払わないとまずい」とLINEが来た。
母親は、訳がわからないまま、理由を問いただすと、ようやくホストクラブに通っていて、そこでの借金だと打ち明けた。最近、娘の元気がなく、うつっぽくなっていたのが気になっていたが、まさかホストクラブに通っていたとは夢にも思わなかった。
警察にも弁護士にも相談したが、当事者間の金銭トラブルだとして取り合ってくれない。
娘は「死ぬ」と口にした。
命を絶たれるくらいなら――。
夫と相談して、1200万円をホストクラブに支払った。店に請求書を求めたが、出てきたのは、「青伝」と呼ばれる、明細のない手書きの売掛伝票だけだった。なかには、日付も明細の記載もなく「234万300円」と金額だけ書かれた青伝もあった。シャンパンタワーの代金として、一晩でかかったという。
ただ、娘にはホストと別れると約束させた。これで問題は解決したと信じた。
しかし、娘は再び家を出て、同じホストのもとに向かった。
娘との連絡は途絶え、LINEはブロックされた。母親は探偵を雇い居場所を突き止めると、ホストと同居していたことがわかった。連れ戻しても、また出ていった。
しかも、新たに600万円の借金をホストクラブでこしらえていた。
ただ、やがて担当ホストはうつ状態になり働けなくなった。これまで支えられる側だった娘が、支える側に回った。好きだったはずの彼が、家で何もせず過ごすだけの存在になり、娘の中にあった愛情は冷めていった。