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やさしいおやすみ/Novel by いちまる

やさしいおやすみ

12,925 character(s)25 mins

ぼくのかんがえたすていないとほんぺん(アニメ)下地の凛ちゃんと五次弓/具体的に言うと1話〜5話辺り(だけど結構序盤無茶苦茶)/著者知識:アニメ2作と劇場版、CP、ウィキペディア/アーチャー幸せになってえ!をアニメ沿いにするんだったらあの短期間で凛ちゃんといちゃいちゃするしかないと思いました。だがしかしカップリングまでは至ってない。こうだったらいいのになあを思いっきり詰め込んでます。

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じとりと睨(ね)めつける少女と、埃まみれの豪奢なソファ、暗い部屋に出迎えられながら男は言った。
「やれやれ……これはとんだマスターに引き当てられたようだな」
露骨に不満そうに腕を組む少女にお世辞にも綺麗とは言えない空間。最悪な出迎え。それを深紅の外套を纏った男は毛程も気にする事なく享受するのであった。

クラスはアーチャー、真名は思い出せない。
そんな事ってあるのかしら?
疑問を抱きつつも少女——凛はアーチャークラスだと名乗る英霊を迎え入れた。正直最強と謳われるセイバーのクラスでは無いと知り、自分の魔術の不甲斐なさを嘆くと同時にそれを思い切り呼び出した英霊にぶちまけていたが、アーチャーは意にも介さずさらりと言った。
「私は最強のサーヴァントだ。凛、君の魔術師としての魔力、パス、総合的にとても優秀だ。一位二位を争うと言っても良い。そんな君が呼び出したのだからね」
まさかそんな返しをされるとは想像もしておらず、凛は少なからず驚いた。
そんなストレートに自分の魔術を褒められるのは覚えている限り十年前以来だ。
「…さっそく外を見てきて頂戴、アーチャー。貴方確か単独行動と鷹の目のスキルを持っているのよね?他に誰か呼び出したのか…今回の戦いの参加者を把握したいわ」
「了解だ、凛。直ぐに外を見てこよう」
アーチャーは言うが早いが音も立てずに窓から夜の街へ飛び出して行く。凛が追って窓辺から外を見降ろした時にはもう、闇夜に溶けたかの如く彼の姿はどこにも見当たらなかった。

凛の召喚に応えたアーチャーは確かに優秀な様で、彼は数十分もすると彼女の下に戻り、複数体サーヴァントは召喚されてはいる様だがまだどこも表立って動こうとはしていない様だ、が、多少気になる動きはある、そして何人か既に一般人が犠牲になっていると見られると伝えた。
「そう、やっぱり…もう、始まっているのね…」
バスタイムを終えた直後だった凛は、濡れた髪をタオルドライしながらアーチャーの報告を聞き終える。
「今日はもう休みましょう。アーチャー、周囲に気を配っておいて。明日から積極的に索敵開始よ」
「了解した、凛」
そう一言残すとアーチャーは音も無く消えた。霊体化したのだ。
機敏に動き、尚且つ一伝えれば十以上に働くアーチャーに凛は内心舌を巻いた。どうしてどうしていいサーヴァントを引き当てたではありませんか。
心残りは彼女の望んだ最強と謳われるサーヴァント、セイバークラスでは無い事だけだけれど、それでもまあ三騎士クラスを引いたのだから良しとしよう。
聖杯戦争は文字通り弱肉強食、最後の一組になるまでの殺し合い。
聖杯戦争の概要を思い出し、凛はふるりと身体を震わせるが、間髪入れずキッと前を見据えた。
泣き言言ってる場合じゃないのよ、凛。
自分に言い聞かせ、凛は寝室へ入った。

広い屋敷の中で自分の寝室だけが暖かく感じる。自分の領域に入ったのだと心地良い安堵感に身を包まれる。まるで一種の固有結界だ、と凛は常々思っていた。
実際に生活をしている部屋はその部屋とキッチン、父の書斎くらいなのだから当然と言えば当然である。一人で暮らすには遠坂の屋敷は広すぎた。
ずっしりとする寝具の中に潜り込み、凛はもぞりと身じろぎ、寝具の中から手を延ばし、サイドボードのスタンドの灯りをかちりと消す。スイッチをオフにすると、今日一日のスイッチもオフだ。いつも通りの小さな儀式。明日からは、聖杯戦争参加者に気を配らなければ。凛はきゅっと口を結び寝具に身体を沈める。
夜はあまり好きではなかった。ただでさえ広く寒々しい屋敷が、闇に侵され余計寂しくただっぴろく感じるのだ。
こんなに広いのにたった一人。十年前は尊敬する父と母とそして可愛いたった一人の妹の笑い声が聞こえていたと言うのに。
一人という事実を無情にも再確認させられる、夜が凛は嫌いだった。怖かった。
頭(かぶり)を振り、枕に顔を埋める。目を閉じれば朝が来る。朝日が差せば、この寂しい屋敷も色付いて、少しは心が晴れる。凛は微睡む。次に目を開く時は、新しい一日。
「…寂しくなんて無い…センチメンタルになんか、ひたってる、ばあいじゃないんだから…」
心の中の小さな呟きは、いつしか口に紡がれていた。凛は微睡む。その一言を近くで彼女の良き従者が耳にしていた事も気付かずに。

「おやすみ、凛」
囁かれる甘く低い声が優しく耳朶を打つ。大きく暖かい温度が優しく瞼を覆う。
おとうさま…?
凛は微睡む。

ぱちりと目を覚まし、凛はふらふらとベッドから降りた。少し眠気が残っているが、存外すっきりとした気分である。何かが違う。何か心が踊る。逡巡していると、ふわりと肉の焼かれた匂いが凛の鼻を擽り、ああわくわくの正体はこれか、と凛は納得した。
朝ごはんの匂いだわ。
久し振りに香る食欲そそる匂い。ほっこりと顔を綻ばせ、そして。凛は真顔になり、廊下を、階段を駆け抜けた。父が残した遠坂の家訓は一切合切凛の脳内から消え去っていた。ダダダダダとお世辞にも優雅とは言えない音を響かせ凛が台所に駆け込むと、そこにはつい昨夜初めて顔を合わせた男がフライパンを振るっていた。
「おはよう、凛。9時から学校だろう?少し寝坊だな。時間が押している。早く朝食を食べたまえ。…君今起きたのか。早く支度もしたまえ」
振り返った男はそう言うと、フライパンに乗ったベーコンエッグを皿に盛り付けた。昨夜着ていた深紅の外套ではなく、黒のシャツにパンツスタイルの男は慣れた手付きで給仕をする。
「ああああああアーチャー?貴方なに、して、いるの?」
見れば分かる事だと言うのに、凛はそう口に出さずにはいられなかった。間髪入れずに男——アーチャーは
「何って見れば分かるだろう。凛の食事を用意している。マスターに体調を崩されたらこの戦争、勝てるものも勝てなくなるからな」
と返した。
「そっ、そうね、有難うアーチャー…でも私毎朝朝食は摂っていない——」
「それは駄目だ、凛。朝食を摂らずに一日を始めるなんて健康的では無い。早く支度をしてきたまえ」
有無を言わさぬアーチャーの物言いに凛はぐうと言葉を飲み込み、駆け足で自室に戻った。
階上から聞こえる派手な物音と悲鳴に、アーチャーはやれやれと首を振り
「遠坂たるもの優雅たれ、とは一体何だったのだ?凛」
と口元に笑みを浮かべた。

定刻通りに学校へ向かい、定刻通りに授業は終了し、凛はふうと小さく息を吐(つ)いた。これで本日の「学生」の領分は終了だ。そしてこの後は。
「…魔術師の領分、いや本分発揮ね」
小さく呟いて勉学の道具を鞄に仕舞う。そして制服に仕込んだ宝石を確認する。
緊張しているのを自覚しながら、凛は人気が静まるのを待った。早ければ今日、日が落ちたら戦況が動く。
「凛、来るぞ」
小さく、しかし厳しいアーチャーの声音が囁く。開始の合図。今この時をもって聖杯戦争が動き始める。既に屋上という校内随一見晴らしのいい場所で待機していた凛はゆるりと立ち上がる。相手も日が落ちるのを待っていた様だ。隠そうともしない突き刺す様な殺気。そして。
鮮やかな蒼が音も無く佇んでいた。
にやありと弧を描く口元に、瞳孔の開いた赤い瞳はまるで肉食動物が獲物を狩る瞬間の表情に見える。
「アーチャー!」
声をかけるが早いが凛は屋上のフェンスをひらりと飛び越え、空に身を投げ出した。
「着地、まかせた!」
ふわりと優しく下肢が包み込まれ安定した感覚を得て、凛はアーチャーが肩を貸してくれた事を悟り、地に足をつけた。
校庭がいつもより広大に見える。凛はすくりと背筋を伸ばした。
取り敢えずアーチャーのスキルを活かせる場所に行かねば。敵の土俵ではなくこちらの土俵で戦わねば。そう考えアーチャーにその旨伝えながら凛は駆ける。と。やはり音も無く蒼躯の男が凛の目の前に不気味に現れた。ひゅっと凛の喉が鳴る。
「アーチャー!」
その一言で忠実なる凛の従者はゆらりと姿を現した。互いの獲物が空間を歪ませ、現われる。
ひゅんと唸る紅色を視界に捉えたと同時に凛は数歩、二人の戦士の間合いの外に飛び出す。
得物は長武器。相手はランサーのサーヴァントか。
金属の重い音が校庭に鳴り響く非日常な空間に凛は震えた。恐ろしさからではない。凛は今、少し、否かなり興奮していた。きいんとした耳鳴りさえも、心地よく感じる。今凛は魔術師として、その戦場に立っているのだ——この十年間、どれ程この日を切望していた事か!
緊迫した、それでいて光さえも追い付けぬ程の時の駆け抜けを感じているその時。
じゃり、と不釣り合いな音がこれ以上ない程に響いた。
「見られたか」
蒼躯の男が口を開く。
凛はこれ以上無い程に戦慄した。
まさか、
誰か、
未だ、
校内に、
一つの駆ける足音が生々しく響く。
居たのだ、未だ生徒が残っていたのだ。
小さく舌打ちをして蒼躯の男が跳ねる。そのしなやかな動きはまるで野生の狩猟豹の動きを想像させた。
男の視線が確実にアーチャーではなく、駆け抜けて行ったであろう足音の先を捉えている——と認識した時には男は既に戦場から離脱していた。
何て事なの…!
凛は焦るがままに男を追い、アーチャーもそれに従った。

逃げた生徒を見つけた時既に遅く、彼は事きれているようだった。
心臓をひとつき、綺麗に貫かれていてそれはもう鮮やかな手口だった。ひやりと氷が心臓を撫でたかの様に、胸の奥底が冷えていく。苦虫を噛み潰した様に凛は顔を歪めた。
私のせいで、死なせてしまった——。
聖杯戦争には犠牲が付き物と言えど、凛は可能な限り一般人を巻き込みたくない、そう考えていた。だから今日だって放課後の校舎をアーチャーも使い、隈なく見て、人が居ない事を確認したつもりだったのだ。
まだ傷を負ってから時間は経っていない。蘇生する事は可能だがしかし。
「…アーチャーはランサーを追って。せめてあいつのマスターの顔くらい把握しなくちゃ…」
「了解した」
固いアーチャーの声が聞こえたかと思うとあっという間に彼の気配は無くなった。
「…ごめんなさいお父様」
代々遠坂家に受け継がれて来たこの宝石を、私は私欲の為に使います。
シルバーチェーンの付いたとろりと輝く苺の様な宝石をぎゅうと握りしめ、祈るように凛は蘇生の呪(まじな)いを唱え出しす。その宝石を事きれた生徒の元に残し、凛は努めて音を立てずにその場を去った。

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