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【妄想】マスターになった紅茶の話【Fate/EXTRA】/Novel by なおこ

【妄想】マスターになった紅茶の話【Fate/EXTRA】

14,704 character(s)29 mins

妄想乙!バグってマスターにされてしまったアーチャー、という誰得な話です。俺得だ!ちょう楽しかった!本戦前の、サーヴァント召喚までとなります。一応、ゲームの流れをなぞってはいます。当時、勢いに任せて書き殴った代物ですので、少々おかしな部分があっても目を瞑ってやって下さいませ。【4/28追記】評価・ブクマありがとうございます!デイリー4位とか何それ!((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル 凛の鯖は、既存の鯖の内の誰か…一応これ、って思ってるのはいます。ていうか私まだ、ゲームで槍弓対決見てないんだ…!楽しみは後にとっておこう、と最初は凛ルートでプレイしたんですよね。ちょう見たい!【5/16追記】おまけの腐部分は削除させて頂きましたー。悪しからずご了承下さいませ。また会う日まで!

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気付けば、見慣れぬ廊下にひとり立ち尽くしていた。
唐突な意識の覚醒だったと思う。思う、というのは、それ以前の記憶がないからだ。その瞬間、そこに生まれ出でたかのような、それまでの記憶の断絶。だから、ここがどこかもわからない。
身に沁みついた習性で、その場の解析を行う。――少なくとも、危険は、ない。ただの廊下であり、建物である。一応は。危険はないが尋常ではない。建物を構成する材質が、通常とは異なっていた。木材、石材、コンクリート諸々――それらのものに限りなく似せてはいるが、物質の構造把握や内部解析を得手とする己を騙せはしない。魔術で編まれたものに似てはいるが、それだけでもない。馴染みのない、それは―――。
ツキン、と頭が痛んだ。大きくはないが鋭い痛み。
思わず頭に手を触れると同時に、朧げに脳裏に流れ込む力――知識があった。
霊子エネルギー。聖杯戦争。マスター。月海原学園。サーヴァント。SE.RA.PH―――。
断片的ながら、この世界を構成する知識。それはさながら、あらゆる時代から召喚された英霊が聖杯より与えられる召喚地の時代の知識にも似ていて。
馴染みのある感覚に、すぐさま事態を把握した。
そう、これは聖杯戦争。マスターとなる魔術師と、それに召喚されたサーヴァントが、聖杯を求めて他の主従と死闘を繰り広げる、まさに戦争。ここは、その為に用意された舞台、Serial Phantasm…通称SE.RA.PH。ここは全てのモノがデータ化した霊子体によって構成されている、仮想空間。それこそヒトも英霊もシステムも無機物さえ。先程感じた、知っていて知らないような違和感はこれか。
思い出してみれば、それまで忘れていたことが信じられないような、当たり前の知識だった。
だが、思い出せたのはそこまでだった。世界の成り立ちや、この世界の目的といった広義的なことはわかった。だが、例えばここはどこの廊下なのか、自分は何故ここに立っているのかといった、限定的かつ具体的なことはわからないままだった。
見る限り、見知らぬ廊下ではあるが、識ってはいる廊下だった。リノリウムの床に廊下の端から端まで並んだ窓ガラス、その逆側には一定間隔で引き戸のドア。ドアとドアの間の壁に貼られた様々な掲示物。どこぞの学校――否、学校の廊下を模している、のか? 最早摩耗しほとんど思い出せもしない記憶の彼方で、ここと似たようなところに己も通っていた。馴染みのあるような、ないようなこの場所は、微妙に居心地が悪い。
窓から見下ろせば、やはりどこかで見たような校庭が広がっている。
取り敢えず、ここは学校、らしい。ご丁寧に校庭まであるのだから、昇降口から屋上まで、通常の学校は模しているのだろう。
さてどうしたものか、と廊下を見渡した瞬間、重大なことに気が付いた。今の今まで気にしていなかったなど、盛大にボケていたとしか思えない。思わず頭を抱えたくなる。
これは聖杯戦争。己はサーヴァント。現界している以上、マスターがいる筈だ。だが、この場には己ひとり。マスターが、いない。
いつぞやの召喚のように、マスターから離れた場に召喚されたのとも違う。何故ならレイラインが感じられない。誰ともパスが繋がっていない。
流石に愕然とした。
間違いなくこれは異常事態だ。既にマスターが斃されているということもない。誰かと繋がっていた痕跡がないのだから。かといって、何らかのアクシデントによってマスターなしで現界したということも有り得ない。英霊召喚はそんなに生易しいものではない。己には、魔力供給をしている何者も存在していないのだ。
マスターあってのサーヴァントである。一体全体、どうしたものか。
ともかく、ここで突っ立っていても仕方がない。この擬似的な校内を巡れば何かわかることもあるだろう。
そうして、彼―――エミヤは、適当な方向に歩き出したのだった。


校内は、実に単純な造りをしていた。3階建ての建物の中央に階段があり、その階段に向かって各階の左に普通教室が並び、右には保健室や図書室、視聴覚室等の特別教室が配置されている。屋上があり、地下には食堂と購買。
だが、どの教室にも入ることができなかった。何故か、扉が頑として開かないのだ。明らかに室内に人の気配がする部屋も、である。何らかの魔術制限がかかっているのか。無理矢理抉じ開けることもできなくはないだろうが、取り敢えずは、やめておいた。他の場所すべてを回っても何も進展がなければそれも視野に入れなければならないだろうが。
サーヴァントとしてあるまじきことだが、事情が全くわからなかった。
通常、サーヴァントは聖杯から知識、情報が与えられている。様々な時代、場所から喚ばれている彼らが喚び出された地にすぐさま適応できるよう与えられるその時代の情報だったり、聖杯戦争についての基本的知識やルールだったりがそれだ。マスターの剣であり従者であるサーヴァントが、聖杯戦争のルールブックを知らないではお話にならない。だからサーヴァントは、己の役割、どういった場所で行われているのか、仕組みや状況等、ゲーム盤とルールについては全て把握しているのだ。無論、それは基本的なものに限られているから、自ら探索したり調べなければわからない事柄も当然あるし、与えられるのはあくまで基礎的な知識である以上、己の足で確認することは必要ではあるのだが。
だが、今己がしているような地形の確認などは、本来であればそれこそマスターと共にすべきことだ。
現状もわからず取り敢えずうろついてみるなど、どう考えても、現状の己はサーヴァントとして欠けていると言わざるを得ない。もっとも、その己が力を貸すべきマスターがいないのだから、支障はないのかもしれないが。
誰にも遭遇せず、また何の進展もなく上から下へ降りて行き、1階に降り立ったその時である。
「ほう。既に己を取り戻しているとは。君はなかなか優秀なようだ」
低い声が語りかけてきた。
ばっと振り返り、目を見開く。昇降口脇の、用具室と掲げられた扉の前に男が立っていた。肩近くまで伸びた髪に陰鬱な表情。感情の見えない瞳。纏っている黒のカソックが男を神父だと知らしめていたが、とても隣人への愛を説くに相応しい人物には見えないその男を、エミヤはよく見知っていた。
「……!」
言峰、と男の名を口にしかけ、寸前で止まる。これは奴当人ではない、と気付いたからだ。その姿も声も、エミヤの知る言峰に酷似していたが、この世界は霊子をデータ化し再構成した仮想空間。エミヤに与えられている僅かな知識によれば、この世界での人間達およびシステムを擬人化した存在であるNPCは、アバターという仮の身体を使用し活動しているとのことである。遠隔操作のリモコンのような、仮初の肉体だ。ということは、この世界での外見は現実世界とは何ら関係がないということになる。ましてやNPCはセラフでの己と対になる現実世界の自分がいないのだ。最も、これだけ酷似しているのだから、適当に作った外見ではなく、現実世界の人間から姿形を借りているのだろうが、その人物とセラフのNPCは全くの別物と見るべきで、偶々エミヤの知人の姿を借りていた、というだけのことだ。ちなみにサーヴァントは、そもそもが肉体がないのだから、アバターも何も関係ない。その形態は通常の召喚と何ら変わらないので、エミヤの姿も、いつも通りの20代半ば、白髪に褐色の肌の赤い外套姿である。
知人、と言うにはあまりに因縁深い相手ではあるが、ここはあの冬木の聖杯戦争とは全くの別物だ。エミヤは息ひとつで意識を切り替える。
「…どういうことだろうか」
外見だけでも忌避感を感じはするが、やっと見つけた手掛かりである。個人的な感情に左右される程愚かではない。
「全てを思い出しているわけではないのか?」
神父が眉を寄せて不審そうに言う。
何を思い出すというのだろう。摩耗した記憶のことを言っているのであれば、エミヤには思い出せないことなど山ほどあるが、サーヴァントとしてなら思い出せていないことなど何もない。というより、忘れている何かなどない筈なのだが。
「…ふむ。思い出せていないにも関わらず自我は取り戻している、か。これは面白い」
神父は無表情ではあるが、口元が微妙に歪んでいる。胡散臭いことこの上ない。
外見だけを真似た別人――ヒトではなくNPCなのだが――にしては件の神父に喋り方から雰囲気まで似過ぎていて、もしこの聖杯戦争に裏があるのなら、NPCと見せかけて実は黒幕なのではないかと疑いたくなる。
「これが聖杯戦争だということは?」
「それは認識している」
「では、今が予選中であるということは」
「……予選?」
聞き慣れない言葉に眉を寄せる。無論、予選という言葉の意味がわからないわけではない。そんなものが聖杯戦争にどう関わるのかがわからないのだ。
「そこからわかっていないのか」
神父の瞳が不審そうに細められる。
ややして、神父が再び口を開いた。
「いいかね。現在は、聖杯戦争の予選中だ。尤も、始まったばかりでそうと認識している者はまだほとんどいないがね。ああ、どういうことかは訊かないように。君はその段階は既に抜けているとはいえ、いまだ予選中なのだからな。そして、この予選を潜り抜けた者が本戦へと進める。つまり、これは聖杯戦争であり、君は聖杯戦争の参加者ではあるが、それはいまだ仮であるということだ。マスター候補である君達は、本戦に進んで初めて正規のマスターとなる」
「ちょっと待て」
聞き捨てならない言葉を聞いた。エミヤは、強い調子で神父の言葉を遮った。
「マスター、と言ったか?」
「正確には、今の君はマスターではなくマスター候補だが」
「そんなことはどうでもいい。マスターだと? この予選とやらに参加しているのはマスターしかいないのか?」
おかしなことを訊く、と神父は首を傾げる。
「無論だ。君の言っているのはサーヴァントのことか? サーヴァントは正規のマスターとなって初めて与えられる。第一、予選の段階で戦いはないのだ、サーヴァントは不要だろう。そもそも、予選参加者は999人からなる。その全てにサーヴァントを宛がえる筈がない」
「―――」
エミヤは絶句するしかない。999人という膨大な人数にも驚きはしたが、それは最早些末な驚きだ。
サーヴァントとしての召喚だと思っていた。当然だ。この身は英霊。それは間違いない。であるにも関わらず、マスターとして現界したなど、誰が想像する!
だが、そうであれば理解できる。サーヴァントとして欠陥としか言いようがない知識の欠落。マスターの不在と感じられないパス。
そして、本来有り得る筈のない、英霊がマスターとなってしまうというイレギュラーは、この聖杯戦争の特殊性に因るところが大きいだろう。この世界は、ヒトも英霊も一度霊子データ化され、再構成された仮想空間だ。恐らくはその際、サーヴァントとして召喚される筈だったのが、何を間違ったか混線したか、マスター候補としてのデータに書き換えられてしまったのだとしか思えない。半端に知識があるのはサーヴァントとして召喚されかけた名残と思われる。
元が英雄でもなければ信仰もない、唯人に過ぎなかった身であったことが、一介の人間と英霊のデータを取り違えられた一因だろうか。それにしたって、これは異常事態に過ぎる。
どうやら管理者――監督者に近い役割を負っているらしいこの神父に事情を打ち明けてみるか、と一瞬考え、すぐさま却下した。この顔はどうにも信用できない。告げたら最後、どうなるかわからない。
「予選の勝ち抜きについて特に説明はない。相応しければ、自ずと解るだろう。――健闘を祈る」
形ばかりの祈りの言葉を受けて、エミヤは背を向ける。
自然と、神父の立つ側の廊下とは逆の、左に伸びた廊下に向かっていた。とにかく、今はひとりになって落ち着いて考えたかった。
誰もいない、ガラス窓と教室に挟まれた廊下をゆっくりと歩く。
マスター。この自分が、マスターだという。この予選とやらをもし突破してしまったら、正規のマスターになってしまうという。本来であれば、サーヴァントである筈の己に、サーヴァントが与えられると!
それはぞっとしない事態だった。
別段、聖杯に願いたい願いなどない。マスターなどになるつもりもない。
このままこの校舎のどこかで動かずじっとしていれば、その内予選とやらが終わって、このイレギュラーから解放されるのだろうか。
進んだ廊下の先は行き止まりだった。突き当たりを曲がってすぐ。曲げる必要があるのか、というくらいすぐに突き当たる壁。不自然といえば不自然だった。
そのまま何となくその壁に触れると、違和感を感じた。
「解析開始」
解析の魔術で探ってみると、巧妙に隠されてはいるが、扉が在ることがわかった。
開こうと思えば開ける。
エミヤは開けることを躊躇った。恐らくは、これが先へ進む扉。以後、ここに近付かなければ、このおかしな事態は終わる。
だが、エミヤは躊躇った。マスターになるつもりなどない。サーヴァントとしてならともかく、マスターとして聖杯戦争に参加するなどとんでもない。だが。
この現界が終わり、座に戻されてしまえばまた、殺戮と磨耗の日々が続く。こうして、自分という意識のある召喚は滅多にあるものではない。
エミヤは揺れた。浅ましくも躊躇ってしまった。
そして、知らず隠された扉へと触れていた。
けれどその手は、そのまま壁を擦り抜ける。抵抗なくそのまま通り抜けてしまう。
「あっ…」
引っ張られる感覚がしたと思った時はもう手遅れだった。
視界が一変していた。
内装自体は、普通の室内と変わりない。どこかの用具室のような、不要な椅子やら机やらが積み上げられて、丸められた大紙が立てられ、古ぼけた引き戸のついた棚が置かれている、何の変哲もない部屋。けれど、明らかに普通でないのは、部屋が全体的に薄く青味がかっていること。内装自体は変哲のないものだけに、通常有り得ない色彩に染まる部屋が殊更異様に見える。壁や床や棚の一部に透けて見える、薄青い亀甲模様が現実感を失わせている。何より異様なのが、ぽっかりと空いた壁際に立つ、顔のない人形。
“これは、この先で君の剣となり、盾となるもの……”
どこからともなく、そんな声が聞こえてきた。
剣となり、盾……つまり、サーヴァントということだろうか。
これが?とエミヤはその人形をまじまじと見つめる。何の気配もなければ魔力も感じられない。ただの人形だ。
この先で、と言っていた。つまり、これはまだサーヴァントではないのだろう。この先で何か試験のようなものか、召喚の儀式のようなものがあって、そこで初めてこれがサーヴァントになるのではないか。依代のようなものか。
振り返り、潜り抜けてきた扉に手をかける。びくともしなかった。どうやら、後戻りはできないらしい。
ふう、とエミヤは息をつくと、先へ足を進めた。人形が、無言で後をついてくる。
部屋の奥にぽっかりと開いた黒い穴。まさに穴としか言い様がなかった。潜り抜けた先も、黒い洞穴。足元にはぼんやりと光る板が延々と続いている。電子の世界だけあって近未来的だな、とエミヤは思う。
迷宮のようなっていないだけマシか。思いながら、エミヤは先へ進んだ。
どれだけ進んだだろう。ずっと直進するだけのその回廊は、進むにつれて周囲の様子が変化していった。最初は暗闇だけ、次いで明滅する光が現れ、やがて透ける壁と床で構成された通路になった。
エミヤと、その後を付いてくる人形以外誰もおらず、音もない。時間すら止まっているかのようなこの空間。もっとも、そんなものはエミヤにとっては慣れたものだったが。
やがて、開けた場所に出た。だが、幅が広がったというだけで、特に何があるわけでもない。
“ようこそ、新たなマスター候補よ”
どこからか声が響いてきた。人影もなければ気配もない。
マスター候補、と呼ばれ、エミヤの眉間に皺が寄る。
“君が答えを知りたいのなら、まずはゴールを目指すがいい。さあ、足を進めたまえ”
別段知りたくはないのだが、と思いつつ、エミヤは更に先に進んだ。
すると、何かがあった。遠目にも光って見える、宙に浮いた四角い…何か。
それに近付くと、また先程の声がした。
“目の前に光の箱があるだろう? それはアイテムフォルダと呼ばれるものだ。試練を受ける者達への餞別として、君に贈ろう。触れて、開けてみたまえ”
よもや開けた途端に危険物が飛び出してくるということはないだろう、とは思いつつ、幾分警戒しながら触れてみると、箱がひとりでに割れた。確かに、危険物ではなかった。中身を手に取る。小さい、何かの欠片のようなもの。
「これは…エーテルか?」
あまりに身に馴染んだ気配のするそれは、エーテル――魔力の塊だった。ほんの小さな欠片であるから、構成された魔力量は微々たるものだが、自ら魔力を生成することが出来ずマスターからの供給に頼るしかないサーヴァントにとっては有用なアイテムであることは間違いない。
「ふむ。なるほど」
更に先へ進む。いつからか、周囲の様子は変化していた。構造に変わりはない。だが、先程まではただ闇だった壁の向こうに、巨大な骨が浮いているのだ。骨だけではない。ゆらゆらと、何か魚のようなものが泳いでいる。まるで、そう―――ここは海の底だった。しかも、頭上も足元も、透けてその向こうが丸見えなのだ。足元を魚の群れが横切り、壁のすぐ脇に触れそうな程近くを骨が浮いている。海の中に浮かんでいるようなそこを、何となく眺めながら、エミヤは更に進んだ。
そうしてやっと―――辿り着いた。
厳かな聖堂を思わせる伽藍である。正面に聳え立つ3つの美しい――ステンドグラスのような何か。美しい文様を描く床。
その、中央よりやや外れた所に、1体の人形がぽつんと立っていた。
エミヤが連れているのと同じそれ。
他に何もないその空間で、人形を見つめていると、ぎしり、と動いた。
だらりと両腕を下げて、前傾姿勢でふらりとエミヤ達に近付いてくる。
あまり、いい予感はしないエミヤが構えかけるが、その前に庇うようにエミヤの連れていた人形が立ちはだかった。
近付いてきた人形が、腕を振りかぶる。明らかな攻撃行為。
それを迎え撃ったエミヤの人形と、そのまま戦闘に突入した。
取り敢えずのところ、エミヤはマスター候補ということになっている。そして、恐らくこの人形達はサーヴァントもどき。となれば、聖杯戦争の形式に則って、人形対人形、エミヤはマスターとして後方待機しているべきだろうか、とエミヤは取り敢えず人形同士の戦いを見守ることにした。
けれど。
互いに先端が鋭くなっている手足で殴ったり蹴ったりのかなり荒っぽい戦いが繰り広げられていたが、最初は互角と見えた両者だったが徐々にエミヤの人形が圧され始め、蹴り倒された次の一撃が致命傷となった。
崩れ落ちた人形はそのままぴくりとも動かなくなる。勝者となった人形がふらりとエミヤに向かって更に一歩踏み出し――たと思ったら思いがけない瞬発力で一気に間合いを縮めると、片腕を振りかぶる。
鋭く振り下ろされる人形の腕に、けれどエミヤは動じることなくその手に馴染んだ愛剣、干将莫邪を投影し、干将で人形の腕を薙ぎ払うと、莫耶で人形に斬り付けた。返す刀でもう一撃。それで仕舞いだった。
人形はガシャガシャと音を立てながら崩れ落ちる。
当然のような顔であっさり人形を倒してしまったエミヤは、干将莫邪を消してぐるりと辺りを見回した。
“……素晴らしい”
そこに聞こえてきたのは、先程から何度も聞こえてきた姿なき声。
“よもや、マスター候補の身で人形(ドール)を倒してしまう者がいようとはな。いやはや全く以て素晴らしい”
声は感嘆した様子を隠しもしない。
何者かが監視していることは気付いていた。だから、あまり力を見せないようにと、大分力をセーブしていた。確かに、一介の魔術師であれば厳しい相手だったかもしれないが、こちらは仮にも英霊。あの程度の木偶、倒せずしてどうする。
本来は英霊である、知られることは恐らくまずい。ここまで来た以上、強制的に消去される事は勘弁願いたい。
だが、想像以上に驚かれて、多少やられた振りでもすべきだったか、と思いかけたが、声はそれ以上を追及することはなく、言葉を続けた。
“マスターとして、申し分ない。さて、君に相応しいのはどのようなサーヴァントか…”
相応しいサーヴァント。そんなものがいる筈がない。須く、サーヴァント――死した英雄は、その誰もが己より優れた者達ばかりだ。
エミヤは唇の端に自嘲を浮かべる。
ああ全く馬鹿馬鹿しい。成り行きとはいえ、やはりこのような馬鹿げたことからは、早々に退散しておくべきだったのだ。
いざサーヴァントが召び出されるという段になって、そのあまりの現実感のなさと滑稽さに、エミヤは己の愚かさを大声を上げて笑いたくなった。
“……聖杯の選定により。君に縁深いサーヴァントが選ばれた。―――活躍を期待している”
縁深い?
咄嗟に浮かんだのは、青い衣に金の髪の―――。
カッと頭上から光が降り注ぐ。その中に収束する膨大な魔力と共に形作られ顕現する英霊―――サーヴァント。
エミヤはそれをじっと見つめていた。
じり、と焼けつくような熱さを左手に感じた。もはや遠い遠い昔となってしまった遥かな過去に感じたことのある、懐かしい痛み。
こうなっては、最早逃れられない。
たとえ、何が、誰が現れようとも。
輪郭がはっきりと浮かび上がり、質量を持ち、色彩を得て。
光の中に浮かび上がったのは、青く、青い――――。

Comments

  • うさ@本誌派
    January 28, 2019
  • そー
    January 8, 2018
  • アルシオン

    これは強い組み合わせだ! マスターが劣化してるとはいえ宝具使うし弓に関しては最強クラス サーヴァントに関しては最速で燃費のいいランサー 今回のランサーの宝具は当たるな!

    June 2, 2015
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