【本体話】五次槍が五次弓の座におじゃましました2
兄貴が赤弓の座に凸。「暇だしZEROでも見ようぜ」、「」、「つーことで。BDプレイヤーとTV出せ」、「私はドラ〇もんじゃない!!」、てな感じのあたまがわるいはなし、になるはずなんですが、そこまでたどり着かなかったのでもう一回切ります。今回はただ兄貴が赤弓にお家訪問のマナーについて説教される話。【追記】閲覧、評価、タグありがとうございます。
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「よう、久しぶり」
背後から放たれた声は、こちらの気も抜けるようなお気楽なものだった。その上、気安げに肩まで叩いてくれたわけだが。
あいにく、その声にはさっぱり聞き覚えはなかった。
……いや、微かに覚えがあるような気がしないでもないのだが、どうもはっきりと思い出せない。
生前に出会った相手なのか? それとも英霊になってから召喚された聖杯戦争で分霊同士戦った相手か?
生前の話なら、よっぽど心に強く焼きついた人々について以外の記憶は擦り切れて掠れ果ててしまっている。召喚されて以降の話でも、分霊が送ってくる記録は気になるところ以外は基本流し読みなので詳細を把握していない。
守護者使いの荒い上司のお蔭でなにぶん半端なく忙しい上に、ともすると平行世界で戦った聖杯戦争の複数の記録がどんどん溜まっていく。とても一つ一つを隅から隅まで熟読している暇がない。
まぁ、それはさておく。
百歩譲ってこちらは記憶が無いにしろ、先方は自分を知っているようなので、一応知人だった、と仮定してみよう。
しかし仮に知人だとして。
ひとつ、ひとの座(うち)の天頂(てんじょう)に穴を開け、
ふたつ、歯車(かぐ)を叩き落とし、
みっつ、その他諸々剣とか剣とか散らかし放題に散らかした挙句、
よっつ、無断侵入
いつつめで、その上詫びもせずに開口一番で「よう、久しぶり」と来たもんだ。
この所業、仏の顔も三度を楽勝で越え、麻雀でいえば既に満貫だ。
これはもう、キれてしまってもかまわんのではないか。
と。
声を掛けられ肩を叩かれて一瞬で、エミヤ氏の脳裏を上記のようなことが過った。
が、エミヤ氏修羅場明けである。疲れていた。ここでキれられたら案外すっきりするかもしれないが、そんな後で疲れることは可能な限りしたくなかった。
とりあえず事情を聞こう。もしかしたら1から3については過失による事故かもしれん。そうであるなら情状酌量の余地も…
そう思って背後の知人(仮)に振り向きかけて。
ぐにっ
引き締まった浅黒い頬に、節立ってはいるものの白く長い指。ハタから見れば色的には中々映える取り合わせではあった。だが、もちろん、そんなことは被害者にとっては何の慰めにもならなかった。
「…………」
エミヤ氏は、自分の頬に人差し指をめり込ませている男を、肩越しに冷ややかに見た。
その視線の冷ややかさときたら、ハムスターの尻尾ほどでもエア・リーティング能力を持っていればその場で瞬間冷凍されるか即座に土下座謝罪を始めてもおかしくないレベルの絶対零度の-273℃、ゼロケルビンだった。
しかし、男は笑っている。ヘラヘラと呑気に笑っている。
空気が読めないのか、それともあえて空気を読まないのか。
どちらにしても全くもって腹立たしい。
ムカつく男は青髪赤目だった。
派手な取り合わせだが、声を聴いて思った通り見覚えはなかった。いや、これも幽かに覚えがあるような気がしないでもないが、まったくさっぱり思い出せない。
そして、白人系の英霊と思しく肌は白いのだが、目尻や瞼のあたりがほんのり赤い。
この空気の読めなさ(もしくは読まなさ)も併せて考えると、どうやら酔っているようだ。
むっつ、お前はどこの小学生かレベルの悪戯
ななつ、飲酒凸
ハネた。
これ以上我慢する言われも、ないな。
しつこく頬にめり込んでいる男の人差し指を、エミヤ氏は無言でむんずと掴み取って外した。
そのまま思わずうっかり指ぽきしてしまわないように力を加減したせいで、腕から肩に掛けてわなわなと震えてしまった。
「なんだよノーリアクションかよ。相変わらずノリ悪りい奴だな」
男は、もうコレ絶対わざとやってるだろうレベルに空気を読まなかった。
やっつ
「つうか、なんだお前wwwwなんで生まれたての小鹿みてえにフルえてんだよwww」
ここのつ、
「え? まさか震えちゃうぐらい再会が嬉しいとか? いやーまいったな」
…とお。
(遠坂、オレ、もうゴールしてもいいよな?)
心の奥底でそっと呟く。
(いいわよ衛宮くん、やっちゃいなさい)
心の中のあくま(あかい)が、満面の笑みで頷いた。
「こっのっ、わたけがああああああああああぁぁぁぁぁぁあああっっ」
エミヤ氏渾身の一撃は、男をゆうに9メートルは軽く吹っ飛ばした。
走り幅跳びなら世界新だ。
とりあえず一発殴ってちょっとすっきりしたので、殴り飛ばした相手が時を置かず身を起こし
「ちょ、テメ、いきなりなにしやがる!」
悪態をついてきたときも、冷静だった。
冷静に、体を起こしかけていた男の額を、腰の入った掌底で突く。男の後頭部が派手な音を立てて地面とキスをした。
「い、てっ、クソがっ」
一度目殴り飛ばされた際はとっさに肩から落ちて衝撃を散らしていたようだが、二度目にノーガードで喰らった後頭部への一撃はそれなりに効いたらしい。重ねて悪態を尽きつつも男の目が少々泳いでいる。
この機会を逃さず、額を突いた掌底から五指を曲げ、そのまま青い前髪をザリッと掴んで引き起こす。
「待て落ちつけ髪痛いハゲるハゲるハゲちゃう」
相手の前髪をつかんでホールド状態のまま、エミヤ氏も身を屈めて男に顔を近づけた。相対すその距離わずか10cm。
至近距離からバナナで釘が打てそうなほど冷え切った視線を浴びせながら、地を這うような声でエミヤ氏は言った。
「ひとつ、言わせてもらってもいいかね」
「お……おう」
初戦を制されそのまま勢いに呑まれたのか、それとも超至近距離の冷凍視線が効いたのか、思わず男は頷いてしまった。ようやく酔いも醒めてきたようだった。
そしてもちろん、エミヤ氏の説教がひとつ、で済むはずもなかった。