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【Fate】いずこの夢【槍弓】/Novel by 戚

【Fate】いずこの夢【槍弓】

6,203 character(s)12 mins

コレは多分サイトに上げてなかったんじゃないかなーという過去のものをサルベージ。
槍弓です。かつ、生前エミヤの話です。
生前のエミヤさんが何かの折で第5次ランサーを召喚していたらという話になります。

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「オレを呼んだお前がその口で言うのか」
「理解できないのなら何度でも言ってやろう。ランサー」


 荒れた大地に二人、男がにらみ合いながら立っている。
 一人は白皙の肌と美貌を誇る長身痩躯の男。
 いま一人はがっしりと実用的な筋肉の鎧を着込んだ無骨な男。
「私はお前を必要としていない。召喚したのはそうする他なく、更に呼ぶのならばお前が一番可も不可もないと判断したからだ」
「テメェ……オレを物扱いするな!」
 犬歯をむき出しに唸った男を、もう一人は嫌味なほど固まった表情のまま切り捨てる。
「貴様は物だ。召還に応じた時点で、魔術師の駒以上のものにはなれん。何故それをわかっていながら、召還に応じた」
 まるで召還に応えた事を責めるかのように吐き捨てた男に、蒼い髪を風に嬲られながら男は目を剥いた。
「お前がそれを言うのか! オレを呼んだ、必要だから召還したお前が!」
「……ああ、私に言う権利はないな。だがそれでもあえて言おう。ランサー、いやクー・フーリン。私はお前ほど憎い英霊を知らない。お前など」
 呼ばなければ良かった。
 そう吐き捨てて、ぼろぼろの外套を翻しエミヤは荒野を歩いていく。
 たった一人で、傷ついた足を引きずりながら。
 その背中を歯軋りしながら見送るランサーは、エミヤに与えられた幾ばくかの金銭と身を守るための外套と武器を握り締め、一度強く地面を蹴ると、覚悟を決めたかのように駆け出した。
 足の向かった先は、この荒野で他にたった一つしかない影が差す方向。
「オレだって! お前になんか呼ばれたくなかった!!」
 叫びながらいつしかランサーは走っていた。
 置いていかれたくなかった。
 いいやそれよりも、ひとりになりたくなかった。
 こんな寂しい場所でひとり旅をするなんて、発狂しろと言うようなものだ。
 だからランサーは追いかけた。
 ――――自分を呼んだ男を発狂させないために。
「でも、呼ばれちまったもんは仕方ねえだろ! 諦めて面倒みろ!!」
「……いやだ」
 子供じみた拒絶。思わず顔が緩みそうになるが、ぐっと堪える。
 相手の拒絶にも構わず、手を伸ばして肩を掴んだ。
 無理矢理振り返らせた顔が苦しみに歪んでいる。
「ひとりに、するな」
 お前自身を、ひとりきりにするな。
 ランサーは力強く、そう吐き捨てた。



 呼び出したのは事故のような物だったと男は言い、確かにそうなのだろうとランサーも理解していた。
 足元に幾人もの血で描かれた魔法陣。供物として捧げられたらしき、今はもう物言わぬ数多くの乙女達。
 そして生々しく血と肉片をこびりつかせたままの刃物を握り締めて、男はランサーの前に立っていた。
 その足元にはたった今事切れたばかりの男の死体が転がっている。
 一体何が目的で呼んだのかと彼が問えば、返り血で白い髪を赤く染めた、どこかで見覚えのあるような男は、薄く笑ってランサーを睨み据えた。
「お前を呼び出したのは、単なる魔力消費のためだ。召還の際にそれが無事成された以上、残ったお前に用はない」
 酷薄に言い切り、男は軽く刃を振って血と肉片を払った。べちゃりとランサーの足元にそれが飛び散る。
 とてつもなく不快だった。どうしてこんな男の召還に応じたのか、システム上仕方のないこととはいえ、ランサーは真剣に後悔した。
「用がないのなら、オレは自由にしていいってことだな?」
「それは少し違う」
 どこかに刃を仕舞い込み、男はランサーに背中を向けて歩き出した。ついて来いというわけではなさそうだが、一体何を考えているのか。
「私はお前に存在の基点を貸し与える。その代わりに要求するものは、悪を成すな、という一点だけだ」
「悪?」
 漠然とした指示に、ランサーは顔をしかめて問い返す。
「そう、悪だ。弱きをくじくな、強きに媚びるな。それを行わない限りは、自由に動いて構わない。私自身の魔力はそう貯蔵がないから貸し与えることは出来ないが、基点だけならば問題ないだろう」
 魔力は自分で調達しろと、無茶苦茶なことを男は言う。
 呼び出したものが魔力を提供しない限り、使い魔は己でどうにか調達する他ないが、それも先に出された提案と照らし合わせれば他者から奪うことは許されないようだ。
 だとすると後は自分で精製するか、自然から享受するか。
 どちらも微々たる量しか補給が出来ないというのに、男は平然とそんな劣悪な環境を投げ与えたわけだ。
 どうやら自分は最悪な召還主にかち当たってしまったらしい。
 頭を抱えて唸ったランサーを一瞥すると、男は黙って立ち去ってしまった。
 その足音を聞きながら、ランサーは考える。どうして自分はここに来てしまったのか。
 システム上仕方がないと先ほどは諦めたが、そもそも縁がなければこんな場所に居るはずのない存在だ
 この場所自体には、ランサーという存在と通じるものは何もないのだ。
 ふと気になってその背中を見送れば、何故かその背の中心、ちょうど前から見たら心臓に当たる部分に引っかかるような何かを感じた。
 己の腕に痛みを感じる。正確には痛みというにもおこがましいほど些細な違和感だ。硬いものを長時間握り締めすぎたときに感じるような、痺れ。
 不意にめまいのようなものを感じて、一瞬だけ、男の背中が真っ赤に染まる。
 ちょうど、心臓を射抜かれたかのように、穴が開いてそこから真っ赤な雫が噴き出すイメージが脳裏を塗り替える。
「っ……」
 息が止まるような衝撃を受けた自分に驚いて、更に息が詰まる。
 倒れ伏す小さな身体。まだ育ちきらない、若枝のような四肢が力なく地面に落ちる。広がる赤い海。濁っていく目。そしてそれを冷酷な眼で見下ろす、その顔は。
「待ちやがれ!」
 叫んで駆け出す。頭の中をよぎった全てが無視できない。そしてそれらに関する鍵が、きっとあの男なのだ。
 追いついて呼び止めた後、酷い言葉を言われることも知らずに、ランサーは追い駆けた。
 ただ、あれを行かせてしまってはいけないと、その言葉だけが頭の中で生れ落ちていた。



 逃げ続ける男を追いかけ、ランサーは様々なものを見た。
 裏切られる男を見た。裏切る誰かを見た。殺されかける男を助けて、殺す男をただ見ていた。
 見続けていて思ったのは、いつまで続くのだろうということだけだった。
 いつまでエミヤはこんな意味のないことを続けるのだろう。
 誰かを助けて、そして裏切られて、時には殺されかけて、それでも懲りずに手を伸ばし、その手で殺す。
 意味のないことだ。助けるのなら助ける、殺すのならば殺すだけで、どちらか割り切ればよかったのだ。……きっと。
 両方ともを行って、また出来たから。
 相反する事象がついて回る男を、いつしか誰もが疑い、信じないようになっていた。
 だから誰も男を助けないし、利用はしても背中をあずけもしない。
 悲惨な人生だなと嘲笑えば、そう捨てたものでもないと嘯いた。
 嘘つきめ。だったらどうしてそんな乾いた目をしているのだ。
「なーエミヤ」
 だからランサーは思うのだ。召還されたものとして、呼び出した仮の主についていこうと。
 助けることはしない。ただしその足を妨げることもしない。
 ただついていこうと思った。この地獄を目指す男に。
「お前がオレを置いていっても、生きている限りオレはお前を探すだろうよ」
「迷惑だな」
「勝手に呼び出しといて、放任しすぎの誰かさんのほうがもっと迷惑だろうよ」
「確かに。否定できん」
 そうして何でも受け止めて、非難すら受け容れるから。
「だから歩いとけ。絶対に逃がさないからな」
 絶対に一人になどしない。その背中の隙間を埋めるくらいは、してやるのが従僕の務めたるもの。
「なあ、マスター」
「いっぱしに犬気取りか? 私はペットを飼う余裕などない」
「わかってるさ」
 お前が自分で手一杯なことくらい。きっとこの世の誰より知っている。
「だから一緒にいくんだ」
「……酔狂な奴」
 吐き捨てながら、目で笑う。
 そんな矛盾したあり方が歪なくせにどうしようもなく愛らしくて、ああ、人間を愛すとはこんなことだったな、とランサーに思い出させた。
 思い出させたからには責任を取るのが飼い主の勤めだろう?
「置いていけるもんならやってみろ。食いついてやる」




 結論から先に言うと、ランサーはエミヤを救うことが出来なかった。
 最初から救おうとしていなかったのだから当たり前だ。
 ランサーはエミヤの意思を無視してまで助ける気はさらさらなかったのだ。
「よお、どうだ」
「……思ったより怖いな」
 掠れた声は、ここ数日水すら絶たれているからか。
 こけた頬を掌で撫でてやれば、がさがさと荒れた感じがとてもよくわかる。
「処刑は、明日だとよ」
「そうか」
 自分が殺される日だというのに、こんなときまでこの男は淡白だ。
 もう少し足掻けばいいのに、何でもかんでもそのまま放り出して。
「お前なあ、面倒くさがりもいい加減にしろよ」
「何の話だ」
 縦のものを横にするのも、自分のためであれば忌み嫌う。
 馬鹿じゃないかと頭を叩きたくなったのは、これで10万とんで300何回目かだ。全く不毛なことで。
「お前が一言言えばオレは助けてやるのにさ」
「いらん」
 一言で可能性を切り捨てて、そんな暇があれば他の誰かの所に行けと優しくランサーを追放する。
 お前は自分以外の場所が全て楽園だとでも思っているのかと、殴りつけ、問いただしたい気持ちに駆られる。
「言えよ」
「言わん」
 死に体寸前の男に、ランサーは手を伸ばす。
 この男がいなくなればランサーも存在し続けられない。
 だから他の誰かを探せと、必死になって男が急き立てているのだとわかっている。
「お前が死んだら、オレも消えるんだぜ」
「既に死んだ身だろう。今更消えたところで何も問題あるまい」
 だったらどうして焦ったような目をするのか。
 そこのところが、自分で分かっていないのだ。この駄目男は。
「うん、まあ、そうなんだけどな」
 ランサーは嗤った。あーもう仕方ねえな、と覚悟を決めた。
「おいエミヤ」
「なんだ、さっさと帰……」
「悔しいからお前と心中してやる」
 にっこりと嗤って脅迫する。
 そうだ、この言葉ですらこの男には脅迫にしかならない。
 留めたいから吐かれる言葉なのに、この男相手では留めるどころか背中を押す言葉だ。
 その行き先は13階段の向こう。何も足の裏にない空間。
「なにを、ばかなことを」
 そんな絶望的な目をするんだったら、もっと最初の頃にランサーを捨てればよかったのだ。
 あるいはマスターとして「捨てて」しまえばよかったのに。
 そうすれば使い魔であるランサーには拒絶できなかった。
 それをしなかったのは。
「物扱いって口では言うくせに、お前行動が優しいから」
 掌で頬を撫でる。ざらりと乾いた肌。潤してやりたい。
「だから最後に仕返しだ。一人で死なせてなんぞやるものか」
 嗤う。笑う。その顔を見て、エミヤは今にも死にそうな顔をした。信じられないと、絶望したかのような顔をした。
「可哀想にな」
 喜ぶところで喜べない、その在り方が。とてもとても可哀想で。
「んで、オレも可哀想」
 こんなのと一緒に歩いちまって。だって置いていけなかったし、置いていかれなかったのだ。
 これはもう逃げられないだろう。
「馬鹿め」
 からからに渇いた声が叫んだ。囁きのようにしかもう声が出なかったけど。
「馬鹿め」
 繰り返し単純な言葉を言い続ける男は、他にどうしたらいいかもわからぬ子供のような顔をしている。
 死なせてくれ。一人で死なせてくれ。声なき叫びが割れ鐘のように頭の中で響いている。
 だが他の命令は聞いてやっても、その願いだけは聞いてやらない。
 何故ならそれは、ランサーの願いだからだ。
「お前が一番馬鹿だって自覚しろ」
 オレを呼んだ時点で。お前は既に破滅していたのだ。


 十三階段を登り、その前に縄が揺れる。
 見届け人すらいない処刑に、男は文句一つ言わずに従う。
 恭しく輪の中に首を差し出し、祈りを捧げるかのようにそっと瞼を下ろした。
 その姿、まさに殉教者。
 違うところといえばこの男がクリスチャンではないことと、罪が冤罪でないというあたりか。
 がこん、と床板が外れる音がして、その後で耳に引っかかるような繊維の軋む音が続く。
 男は突き飛ばされた。
 ぶらりとその長身が首を支えに垂れ、体重の全てを掛けて命が断ち切られる。
 抵抗は一切なかった。静かに、その命は終わる。生まれたときに比べたら何て静寂の中なのだろう。
 ここ何日も水と食物を絶たれていた体は、その生命の終わりを台無しにしないように汚物を少しも出さずに垂れ下がる。
 どれだけ飢えに苦しんだだろう。どんなに水が欲しかっただろう。
 だが男だった体は、その肉体の欲求を全て耐え続けた。
 そしてその結末がこれか。我慢して、耐えて、歯を食いしばって、その後に迎えた結末がこれか。
 存外人生とはくだらないものだな、と彼はぼやく。
 ぼやきにつられて、動かさないで置こうと思っていた手が動いてしまったではないか。
 まったく、くだらないにもほどがある。
 首を吊っていた縄が千切れて、処刑者の体が落ちてくる。
 それを難なく両手で抱きとめ、重みを増した物体を肩に担ぐようにして歩き出した。
 背後で何やらお偉い方々がわめいているが、そんなことは彼にはどうでもいい。
 己は男のサーヴァントだったのだ。いや、サーヴァントなのだ。
 だからほんの少し、この結末を変える権利があるだろう。
 物騒な気配が集まってくる。知ったことか。みんな穴にでも落ちちまえ。
「全く、くだらねぇ」
 ずるずると滑り落ちていく物体を肩に担ぎなおす。
 くだらないと自覚しながら、今にも消えそうな体で頑張ってしまう自分が、一番くだらない。
 足が消えるか。腕が消えるか。それでも離さないし、止まらない。
「死体くらい、自由にさせろよなぁ」
 残った体くらい寂しさから逃げられなければ、あまりに無情だと思うので。
 ランサーは往く。ひとりとひとつ、あてのない、残り時間もない旅へ。


 そして彼らがどこまで行けたか。あの世のものは誰も知らない。
 全てはこの世で終わった話。人間たちが紡ぐ歌。
「少しは安らげてりゃいいんだがなあ、あの馬鹿」
「無理だな」
 人間たちが、眠る夢。


Comments

  • わんわんお
    May 12, 2025
  • そー
    October 12, 2017
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