何を血迷ったのか、突然家の掃除をすると宣言した遠坂に俺とアーチャーが捕まってから早1週間。貴重な春休みの1週間をフルで働かされた俺は、もうなりふり構わず布団にダイブしたいくらいヘトヘトだった。しかし、そんなに疲れているにも関わらずやっぱりエッチなことはしたいし、好きな奴からお誘いを受ければしっかりと勃つ。あぁ、若さってコワイ。
やっとのことで掃除を全て終わらせ、寝るだけの為に帰っていた我が家に足を引きずらせながら辿りつく。いつのまにか目の前のアーチャーはいつまでたっても見慣れなかった黒のジャージからいつもの黒のシャツに戻っていた。疲れと眠気に襲われ指一本動かすことさえ億劫になっている俺に対し、風呂も着替えも無しに一瞬で清潔な姿になりまだ力が有り余っているアーチャーに、思わず舌打ちしそうになった。それに加えて物言いたそうな顔でチラチラとこちらを見てくるので、「何だよ」と不機嫌丸出しの声で出しながら靴を脱ぐ。
「今日はもう用事はないか?」
「ああ」
「明日は?」
「無い」
話している最中に一瞬立ったまま寝そうになった自分に危機感を覚える。らしくもなくはっきりとしないアーチャーに、「なに」ともう一度急かすように問うと、前に立っていたアーチャーはくるりと振り向いた。
「これから一緒に寝ないか?」
これは俺達の間で決めた魔力供給の合図。つまり
『これからセックスしませんか』
ということだ。魔力供給のペースから考えるにアーチャーの魔力はまだ切れてないはずで、今だってピンピンしている。自惚れじゃないのならアーチャーは魔力関係無く俺とヤりたいと思っているということで。自分より背の高い男の顔を見上げると、羞恥心を耐えるようにぎゅっと唇を噛みしめていた。その様にさっきの苛立ちも忘れてあっさり浮かれる。口元が緩みそうになるのを抑えようとして噛みしめた奥歯が軋んだ。
俺もお前とヤりたい。もう限界まで腰振って終わったらお前のことぎゅーっと抱きしめながら寝たい。普段なら暑苦しくて嫌だけど、今ならすげー癒されそう。
「疲れてるんだけどな」
でも、俺から出てきたのは素っ気無い返答だった。これは半分本音で、半分嘘。確かに疲れているけどエッチなことには勝てません。それでも浮かれてる俺は止めておけばいいのにいつもはしない妙な駆け引きをして、もうちょっとだけアーチャーから自分を求める言葉を引き出そうとしていた。
「そうか………」
アーチャーが呟く。それから何か考えるように顎に手を当てる。先に風呂に入ろうか、それとも自室に連れ込もうかと悶々とアーチャーの言葉を待っていると、その思考に急ブレーキをかけられた。
「なら私は出かけるとしよう」
「は?」
俺の言葉に引き下がるアーチャーは想像していなかったので動揺する。
「この1週間、お互い自分の時間を取れていなかったからな。良い機会だろ」
「……………どこ行くんだ?」
「ん?公園で散歩でもするかな」
いつだったか忘れたが仏頂面で猫に餌をやっていたアーチャーを公園で見かけたことを思い出し、一瞬で察する。こいつ、俺より猫を取りやがった。
「ふーん。サーヴァントだから必要ないだろうけど、一応お前もちゃんと寝とけよ」
「ああ」
一度脱いだ靴をまた履き直し、何の未練もなく外へ出て行ったアーチャーに「いってらっしゃい」と声を掛けた。いやいや、「いってらっしゃい」って何だ!?いつもはそんなこと言わないくせに、つい声を掛けてしまったことを後悔する。高ぶった心に従うのなら今すぐ追いかけて何としてでも自室に引きずり込むべきなのだが、今更俺から『セックスしよう』とは恰好悪くて言えなかった。
長かった冬も終わり、桜が咲いて暖かくなってきたはずなのに家の中はひんやりと肌寒い。さっきまで隣にあった体温を思い出す。せめてキスくらいしとけばよかった。
自分を殴ってやりたい気持ちでいっぱいだったが、いつまでも玄関に立っているわけにもいかず仕方なく洗面所に向かう。「色黒鈍感野郎め。少しは気づけ、馬鹿」と悪態付きながら廊下を歩いてたら、いつのまにか洗面所を通りすぎていて慌てて後戻りをした。ごめんなさい、馬鹿は俺です。
そう認めたら途端にアーチャーが恋しくなる。変な駆け引きなんてしなきゃよかった。そしたら今頃は……、と前回の魔力供給のことを思い出す。そういえばアーチャー初めて騎乗位してくれたっけ。もう二度とやるかって思ったくらい重かったけど。
逃した獲物は大きい。そして、未練たらしくアーチャーのことなんて思い出さなきゃよかった。下を見るとしっかりと勃ち上がってしまった自分自身が目に入る。うん、ごめんな。お前を慰めてくれる奴は今頃猫とイチャイチャしてるんだ。お前を撫でてくれた手で猫を撫でてるんだぞ。はははっ、と乾いた笑いを漏らし虚しくなって溜息をつく。自分でヌいてもいいが、そしたらなんか負けな気がする。いや、廊下で自分自身に話しかけてる時点で負け確定なんだけどさ。
これじゃいけないと頭をぶんぶん振って何も思い出さないように洗面所のドアを開けた。大丈夫、冷たい水でも被れば治まるだろ。あー、でも目を瞑ってれば余計に鮮明に、…………駄目だ、考えるな。今度こそ煩悩を振り払うおうと洗面所のドアを勢いよく閉め、洗濯機に汚れたジャージを突っ込もうとジャージを脱ごうとしたが、うまく抜けない。ジャージすら脱げないって動揺し過ぎだろ。しばらく悪戦苦闘し、やっと上二枚が脱げた頃にはもう風呂に入る気力もなくなっていた。
もう諦めよう。体中埃まみれだけど、勃ったままだけど、自分の部屋に戻ろう。早く眠りたい。
早く
早く
早……「士郎」
疲れていたくせに俺の反応は早かった。パッとドアの方を向けば、アーチャーが顔をのぞかせている。
「すまない、風呂に入るところだったのか?」
「お前、なんで…………?」
アーチャー恋しさのあまり幻覚を見ているのか、俺は。
「まあ、なんだ。何となく帰ってきた」
「なんとなく?」
「そう、何となく。お前の様子もおかしかったしな」
「おれのようす?」
アーチャーの言葉を繰り返す俺におかしくなったのか、アーチャーはふっと軽く笑った。しかし、俺は笑い返す余裕もない。「風呂場で寝るなよ」なんて言ってドアを閉めようとしたアーチャーより素早く動き、閉められないようドアに手を掛けた。その勢いのままアーチャーの手を掴み、指でなぞる。本物だ。幻覚じゃない。
「脱げ」
「は?」
「脱げ」
「私がか?」
「風呂入る」
「えっ、……一緒に?」
おかしなものを見る目で見下ろしてくるのを無視して、ジャージを脱ぐ。先ほど苦戦したのが嘘のように簡単に脱げた。困惑しているが大人しく洗面所に入りボタンに手を掛けているアーチャーを見て、満足して先に浴室に入る。シャワーから勢いよく出てくるお湯を頭からかぶって、アーチャーが入ってくるのをワクワクしながら待つ。悪かったなアーチャー、お前は鈍感野郎なんかじゃなかったよ。
とりあえず一発目はアーチャーの手でヌいてもらおう。
アーチャーからもっと言葉を引き出したくて駆け引きしたのに失敗して取り返しが付かなくなってもだもだしている士郎さん最高に可愛かったです。二度目のチャンスを逃がさないところも素敵です。アーチャーがとても柔らかいのも見てて嬉しくなりました。ありがとうございます。