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The Works "オレの心俺知らず" is tagged "士弓".
オレの心俺知らず/Novel by さく

オレの心俺知らず

5,131 character(s)10 mins

女々しい士郎さん

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私達の仲は初めて会った時から今まで良かった試しが無い。聖杯戦争が終わった後は顔も合わせなくなったのでこれ以上良くなりようもない。別にそれを不満に思う気なんてさらさらなく、この関係性は私が消えるまで、もしくはあいつが死ぬまで変わらなくてもいいとさえ思っていた。それだというのに、いつの間にかあいつだけ。

「昨日、商店街で士郎と一緒に居たでしょ?随分と仲が良くなったわね」

遠坂家のリビングにある古くて高そうな家具の埃を慎重に払っていると、遠坂家当主兼私のマスターの遠坂凛が意地の悪い笑みで私の腕を肘でこづいてきた。凛の隠しきれない機嫌の良さとは反対に私は「そうか?」なんて素っ気無くハタキを動かす手を止めずに返す。この頃会う人会う人に台詞は違えども同じような事を言われる。そして、その理由ははっきりしていた。

衛宮士郎

過去を振り返っても私はあいつに好意を示したことはないし、あいつも私に不用意に近づいてくることはなかった。ただ最近おかしいのは、商店街・港・柳洞寺などで偶然私の姿を見つける度に衛宮士郎が何故か話しかけてくることだ。この前なんか、セイバーに強請られて作ったクッキーが余ったからとご丁寧にリボンまでつけてきれいにラッピングされた袋をおしつけてきた。それを乱暴に開け、その場で甘さがしつこいとかとか食感が悪いとか酷評してやれば、噛みついてくるのは変わらないが最後に「……次は気をつける」なんて小さい声で言われることが増えた。そんな時、私はどうしたらいいのか分からず、あれこれ理由をつけて衛宮士郎から離れることしかできなかった。

お前は私のことを嫌っているんじゃないのか?

そう聞きたくても、いざ会うと聞けない自分に腹が立つ。いや、「YES」という回答しか返ってこないことは分かっている。何度でも言うが、自惚れられるほど私達は仲がいいわけではない。だが、ちょこんと商店街の隅に立ち、前と同じく赤いリボンで飾られたクッキーの包みを大事そうに手のひらにのせて誰かを待っている衛宮士郎の姿を見たら、やはり何も言えず、平然とあいつの前を通り過ぎることしかできなかった。凛が未だにニヤニヤと私を見ているのは、案の定私宛てだったクッキーを貰う場面を見られていたからだろう。

あぁ、全く意味が分からない


今日は遠坂家で女性陣がパジャマパーティーをするらしい。夕暮れ時から集まって朝まで遊ぶのだとイリヤが楽しそうにくるくる回りながら教えてくれた。私としては邪魔する気もないし、一晩と言わず何日でも気が済むまで楽しんでくれたらいいと思っていたのだが、凛は私を追い出すことに後ろめたさを感じていたのか、ただ面白がっていただけなのかは知らないが「今日は衛宮くんの家に泊まってちょうだい」なんて話を申し訳なさそうに持ち掛けてきた。当然、その申し出は丁重にお断りしたかったのだが、もう既に衛宮士郎に頼み込んでおりお礼も渡してしまったからと言われてしまい、最終的に「泊まってちょうだい」から「泊まりなさい」と命令されてしまえば大人しく頷くしかなかった。

ついに夕方を迎えてしまい、菓子の準備もお茶の準備も完璧に整えてしまった私は渋々と遠坂家を後にした。気を抜くと溜息をついてしまいそうになるのを何とかこらえながら、セイバーも間桐桜もいなくなった衛宮邸に1人残された衛宮士郎ことを考える。あいつはどんな顔で今回の件を受け入れたんだろうかとかいったい何を考えているんだろうかなんて考えたって仕方のないことを思い悩んでいれば、不意に視界に映り込んだ赤みがかった髪にどきっと心臓が大きく跳ねた。衛宮士郎だ。

「誰かに用事でもあったのか?」

驚きを気取られぬよう平然を装って聞く。私達が居るのは遠坂家に繋がる道。衛宮士郎が遠坂家に行く以外でこの道を使用しないことは知っていたのでてっきり凛に話があるのかセイバーの忘れ物を届けに来たのかだろうと思っていたのだが、衛宮士郎は押し黙ったまま首を横に振った。よく見るとなんだか疲れたような眠そうな顔をしている。

「そうか。不躾に聞いて悪かったな」

そんな顔をしていることだけは気にかかったが、深く聞くことはせず立ち去ろうと一歩踏み出した時に衛宮士郎が私を呼びとめた。予想していなかった展開にまたもやどきっと心臓が大きく跳ねる。

「…………俺の家に来ないのか?」
「用を済ませてから行く。凛に頼まれたかもしれないが私のことは気にしなくていい。夕食を準備する必要もない。お前はいつも通り過ごしていろ」

今度こそ逃げるように私は歩き出した。私から片時も目を離さない衛宮士郎が有りもしない用事をでっちあげたことを見透かしているみたいで気まずさが残る。すれ違う時、衛宮士郎の手と私の手がぶつかる。触れたのは一瞬だったというのに私の手が熱を持つほど衛宮士郎の手は熱かった。「後でな」と衛宮士郎が小さな声で言うのを聞きながら私は振り返ることなく姿を消した。


あれからすることもなかった私はぶらぶらと街を歩き回り、車の前に飛び出した子供の手を引き、道に迷っていたサラリーマンを目的地まで案内し、荷物を抱えた老人を家まで送り届け、ついでに港で釣りをしていたランサーをからかうことで衛宮邸に泊まるのをだらだらと引き延ばしていた。

時刻は深夜1時、衛宮邸前。この時間だったら衛宮士郎だってあんなに疲れた顔をしていたのだから寝ているに違いない。長かったなと深い溜息をついて音を立てないようにこっそり家の中に入る。家の中で朝まで大人しく過ごしていれば、凛も納得せざるをえないだろう。

人気ない通りに面しているここは車の走る音も人の声もせず、ただただ静かだ。部屋はどこでも良かったが何となく導かれるようにキッチンへ向かい中を覗き込む。そして、規則的な寝息を立て机につっぷしている男とラップがかけられた夕食らしきものが目に入った時、覗き込んだことをすぐさま後悔した。

正直に言えば、こういう事態は予想していなかったわけじゃない。最近、よく目にする衛宮士郎を思い出してみれば、こいつが私の帰りを待つという行為は簡単に想像がつくことだ。だから夕方に会った時、咄嗟に嘘をついたというのに。もしかして夕方にあの道に居たのは、商店街の時のように私を待っていたからなのだろうか。いくら自問自答しようとも答えは本人に聞かなければわからない。私ができるのは衛宮士郎の最近の様子から行動を読むところまでだ。その真意まで図ることは出来ない。

面倒臭いことになった。全て見ないふりをして、この場を立ち去ることは簡単だ。寒い冬の夜、衛宮士郎がこのまま朝までここで眠りこけて風邪をひこうが私は一向に構わない。…………しかし、女性陣から受けることになるだろう冷たい視線を想像するとそれは得策ではない気がした。衛宮士郎を再度横目で眺めて、もう一度深く溜息をつく。

手間を掛けたくはなかったが、乱暴に扱って起こしてしまうのは躊躇われる。というより起こした方が逆に手間がかかりそうだ。つまらない意地は一旦どこかへ置いておき、衛宮士郎を自室へ運ぶため背中に手を伸ばした。その手が衛宮士郎に触れる直前、今まで呼吸以外ではぴくりとも動かなかった体が急に起き上がる。眠りこけていると勘違いしていた私は反応が遅れ、伸ばされた腕は何の障害もなく首に絡みつき容赦ない力で引き寄せられた。バランスを崩した私の頭は机の角に思いっきり打ちつけられる。人の身であったらぶち割られていたことだろう。

痛みは然程感じなかったが、目の前がチカチカと白く点滅する。その隙に衛宮士郎が私の体の上に乗っかってきた。

「殺す気か!」
「もう死んでるだろ!」

思わず近所迷惑も考えず怒鳴れば、もっともなことを怒鳴り返された。とりあえず、上に乗っている馬鹿をどかそうとするが、この馬鹿も振り落とされまいと私に懸命にしがみつく。無理やりひっぺ返すこともできたのだが、こんなにも暴れているこいつを無傷で押しのける自信は無い。最悪、傷をつけてしまえば訳を話す前にセイバーに殺されかねない。闇雲に暴れていたのを止めて見上げると、衛宮士郎は相変わらず疲労困憊な顔、いや、もっと言えば思い詰めたような顔しているので、それに怯んだ私は強張っていた体の力を抜いた。

「わかった……、わかったから」
「何がわかったんだよ!お前にわかるわけないだろ!」

落ち着かせようと声を掛けたのだが、反対に逆鱗に触れてしまったのかさらに私の上で衛宮士郎が暴れる。なんだかとてつもなく遣る瀬無い気持ちなるのを必死に抑えながら、半ば自棄となって衛宮士郎の手を引き、暴れる体を思いっきり抱き締めた。文句を叫ぼうとする衛宮士郎の頭を押さえこんでさらに頭を胸元に引き寄せる。力を強めれば強める程、衛宮士郎が私を引き離そうと服をぐいぐいと引っ張る。

さっきとは逆の立場になっていることに気付いて、もう何度目かもわからない溜息をついた。面倒臭い。まったくもって面倒臭い!なんでこんな深夜に衛宮士郎を抱き締めなければならんのだ!怪我をさせないように且つ暴れる体を自由にしないよう気を遣っていれば当然、こちらも無駄な体力を使うわけで。衛宮士郎が大人しくなる頃にはこちらもへとへとに疲れ果てていた。上に乗っかっている馬鹿の重さを受けとめながら、「私がいったい何をしたというのか………」と誰でもいいから愚痴をこぼしたくなる。ふと、またもごもごと衛宮士郎と何かしゃべりたそうにしているのでそっと腕の力緩めた。

「言いたいことがあるならはっきりと言え」
「それじゃあ言わせてもらうけどさ。なんで、…………なんで俺のこと避けるんだよ!」

言っている意味が分からず、眉間に皺を寄せれば服の上から肩口に噛みつかれる。何故、そこを噛んだんだ!?お前は犬か!?

「お前、俺と顔を会わせたくなくて、わざと用事があるなんて嘘ついただろ!」
「!? 気付いていたのか?」
「やっぱ嘘じゃねーか!」

分かりやすい誘導尋問にまんまと引っ掛かり、頭を抱えたくなった。馬鹿か、私は!

「確かに嘘はついた。だが、私が自分の時間をどう過ごそうがお前には関係のないことだろう!」
「関係ないだと?てめぇ………!ふざけんな!!!お、俺が、今までどんな思いして………。遠坂から話聞いた時、自分でも………どう処理していいかわかんなくて。何話そうかとか、夕食に何を作ったら美味しいって言ってくれるんだろって考えてたら………、夜も眠れないし。話したくて、街の中探しても、お前は最近俺のこと避けるし。嫌われないように好かれたくて、俺は………、色々、やってんのに」

まるで堰を切ったかのように、衛宮士郎の口から次々と言葉が溢れ出てくる。ちょっと待て。待ってくれ。私だってお前の話を聞いてどう処理していいかわからない。

「お前は私のことを嫌っているんじゃないのか?」

前から感じていた疑問をやっと衛宮士郎にぶつけると怒気を孕んだ目は、途端に泣く一歩手前のような目に変わった。

「嫌いなわけねーだろ!今日だって、手がぶつかっただけであんなに熱くなんのに!!!」

しかし、衛宮士郎の目から涙は溢れなかった。叫んだ後、そのままぐっと私に顔を近づける。近い。近過ぎて焦点が合わない。

「朝まででいい」
「は?」
「朝まででいいから俺の言うことを全部聞け」
「なんで……」
「なんでもだ。諦めるから。それで全部、全部諦める」

有無を言わさない声だった。同時に懇願するような情けない声だった。ゆっくりと衛宮士郎の顔が近づいてきて唇の端にキスを落とされる。相変わらず私の上に衛宮士郎が乗っかったままだが、今だったら簡単に引き離すことができるだろう。きっとこいつは追いすがることはしない。

ただ、ここで拒否したら今度こそ泣くのだろうか?

自分でもどうかしていると思う。おかしいということは私が1番よくわかっている。しかし、どうやら腐っても私は正義の味方らしい。助けを求める人の手を拒むことはできない。

「朝まででいいんだな?」
「あーちゃー………?」

私とよく似た顔で間抜け面をさらしている男の首に腕を絡める。何か言いたげに歪む口を無視して今度はこちらからキスをしてやった。

Comments

  • 悠香
    April 15, 2016
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