高市首相のブログ全削除と「ありのままの資料は歴史を正しく残せる」 ―歴史修正主義は「ワイマール憲法骨抜き」状況を日本にもたらす
高市首相が自身のブログを全削除した。過去に消費増税の立場に理解を示した文章があるためだと見られている。プレジデントオンラインが高市氏のブログの記事1000本を検証し「『消費減税は私の悲願』は真っ赤なウソ」と題する記事を配信して、過去の立場との矛盾を追及されるのを避けるためだと考えられている。共産党の山添拓議員は、「高市氏の言葉は、今後も行き当たりばったりで不都合とみるや抹消するのだろうか。政治家として最低限の資質とは。」と✕(旧ツイッター)に投稿した。
高市氏の行動は彼女の歴史修正主義的な考えにも通じるのものがあると思う。正確な歴史を抹消し、自らの主張に都合が良いように歴史を捏造するのが歴史修正主義だが、ブログを全削除することによって過去の主張を隠蔽するというのは正確な歴史を伝えないのと本質的に同様の行為だ。
反戦を貫きながら1944年にフィリピン沖で戦死した東大生・中村徳郎(とくろう)氏(1918~44年)の手紙や日記などの資料47点について、2019年3月27日、同氏の出身地である山梨県甲州市教育委員会は市の文化財に指定することを正式決定した。甲州市の保坂一仁(かずひと)市教育長は「ありのままの資料がないと、歴史が変わって伝わる恐れがある。文化財指定により、記録を正しく残せる」と語っている。
「ありのまま」の過去の主張や考えを抹殺し、国民に検証する機会を与えない高市氏とは真逆の考えだ。
中村徳郎氏の弟、中村克郎氏(1925~2012年)は山梨県甲州市の医師でありながら、「きけわだつみの声」の編集を行った。『天皇陛下の為のためなり』(1989年発売)では「一人一人の生命の尊さ、重さは日本以外の国々の人でも同じです。そのことを考えないで、『国難に殉じた英霊のみたまを国がまつるのがなぜ悪い』と開き直る人たちは、みな今の日本の軍隊をもっともっとふやし、『ソ連が攻めてくるぞう、来たらどうする』と言って、国民の血税をとめどなく軍事費にまわそうしてふやそうという人々とイコールになっています。」と語っている。
中村克郎氏の危機感は高市政権になっていままた深刻になっていることに容易に気づく。20日、高市首相は姿勢方針演説で、日本周辺の安全保障環境について次のように述べた。
「我が国は、戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面しています。中国は、東シナ海・南シナ海での力又は威圧による一方的な現状変更の試みを強化するとともに、我が国周辺での軍事活動を拡大・活発化させています。北朝鮮は、核・ミサイル能力の向上を引き続き追求しています。」
「戦後最も厳しく複雑な安全保障環境」はまったく正確ではない。冷戦時代、ソ連の核ミサイルは日本の米軍基地に向けられ、米ソの戦争になれば日本は一瞬にして灰燼に帰すと考えられた。キューバ危機に世界がおののいたように、核兵器の威力を考えると、東西冷戦構造は本当に恐ろしく、安保反対闘争が盛り上がったのも核兵器への恐怖が一つの背景にあった。
高市首相は、中村克郎氏の表現「ソ連が攻めてくるぞう、来たらどうする」に代わって「中国が攻めてくるそう、来たらどうする」と「中国の脅威」の脅威を訴え続けている。しかし、「中国の脅威」は外交で十分克服できる。中国経済にとって日本との貿易高は第4位なほど不可欠だし(昨年1月~10月)、また日本にとって中国は最大の貿易相手国で、「日本の中国依存は依然として高水準」(対中貿易に精通する田代尚機氏による)という表現もあるほどだ。コロナ前の2019年の訪日観光客のランキングでは中国は1,000万人近くで、2位の韓国の550万人を大きく引き離して1位だった。それほど中国人は日本に親近感、あるいは親日感情をもっているということだろう。政治家の手腕一つで中国は官民ともに親日国になる可能性があるが、この国を仮想敵国とする必要など見当たらない。
高市首相が進めようとする「安保3文書の改正」などは私たち国民が十分に関知することもなく、また議論することもなく、国民の関心がないままに決められている。食品価格消費税などがゼロになっても、防衛費増によって国民の税負担が増えることは国民に知らされることも、説明されることもない。高市氏は施政方針演説で防衛費GDP比2%に増加するために所得増税を行うことにまったく触れなかった。
日本の安全保障政策は安倍政権以降、閣議決定という独裁的手法に近いやり方で決められ続けている。メディアはこの民主主義の原理に背き、国会を形骸化している「閣議決定」をもっと問題視すべきだろう。
ドイツのワイマール市には「ワイマール共和国の家」という史料館があり、ナチス・ドイツによってワイマール憲法が骨抜きにされていく過程が解説され、また「(現在は)失業率増加や右翼の過激化、ポピュリズムなど、ナチズムという自民族中心のナショナリズムを招いた諸条件が揃っている」という指摘も展示の中にはある。
安倍政権以降、憲法が骨抜きにされ、日本の防衛力強化という軍国化が進み、ナショナリズムが強調されるのは政治家たちが歴史への省察を怠り、政府による権力の乱用を許しているからだ。高市氏の全ブログ削除は歴史の記憶の抹殺にも通じるものがあり、自民党が唱える緊急事態条項などはナチズムの台頭をもたらしたワイマール共和政下の全権委任法を彷彿させる。
※表紙の画像は「ワイマール共和国の家(Haus der Weimarer Republik)」
https://www.thueringen-entdecken.de/w/haus-der-weimarer-republik


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