選集「花とみつばち」2巻あとがき『長沢チャンという女』
安野モヨコ選集第三弾『花とみつばち』2巻末に収録されたあとがきをnoteに再掲載いたします。(スタッフ)
「長沢チャン」という女
長沢チャンというキャラクターを初めて登場させた際に驚いたのは、ヤンマガの男性編集者から大人気だったことでした。
「あの子は……良い!」とビール片手に力説する編集者に、本気で「アホなんか……?」と思ったものです。
こちらとしてはかわいこぶっている女子の内幕を見てくれ、という意図で描いていたのですが、そのあざとさが良いと言うのです。
ちなみに漫画に出てくる「ニコラス刑事」のエピソードは、当時のアシスタントさんが本気で間違えていたのが面白かったので使わせてもらっただけで、男性に向けての天然ボケというものではありません。
でも、長沢チャンが意識的に天然ボケを連発してくところなども「本当にかわいい」と言っていて、女性達との反応の違いに改めて感心させられました。
そう、女性の反応はそれとは真逆で、かなりの確率で嫌われていたのです。
「クラスに同じような子がいた」「その子のかわいさ演出のために利用された」など、それぞれ理由は違えど誰もが見覚えのある女の子。
長沢チャンとは、そういう女子の集合体であり象徴のようなキャラクターなのです。
そんな感じで多少悪意のある描き方をしたせいか、読者から「作者は長沢チャンに恨みでもあるのか」というようなことを言われたことがありましたが、うん……そうですね。
という感じかもしれません笑。
まあ実際にそこまで嫌いというわけではないのですが、どちらかというとああいった子によく怒られたり非難されたりしてきたという感じでしょうか。
むしろ嫌われてきた側です。
まじめでしっかりしていてルールを守り、自分は絶対に悪くない!という信念を持って生きている人の中には、なぜか「自分は正しいので他者を糾弾したりジャッジする権利がある」と思っている人が時折います。
そういう女子が、絶対的正義である自分を基準に、友人や交際相手をコントロールしまくり、断罪するという蛮行がまかり通るのも、十代という全員が若い環境だからこそなのですが、大人になって改めて見回すと、結構そのまま大人になっている人もいるなと思います。
学校に遅刻してきた挙句2時間だけで帰ったりするなどフラフラしていた私は、そういうしっかり者の女子から糾弾されてきました。
掃除当番などをサボれば怒られても当然なのですが、私は割とそういうことはまじめにやるタイプだったので、そこで迷惑をかけた覚えはありません。
遅刻して授業を遅らせた、などの実害があればそれも仕方ありませんが、休み時間に登校し次の時間から静かに出席して、大人しく先に帰るだけでまったく関係なく過ごしているのに、なぜなんだ?と当時、非常に不思議でした。
学校から全員を出席させる役を任されているとかでもないのに。
と、まあこれは私の個人的な思い出ですが、主義思想が異なるグループなのだから距離を置いて無視すればお互い平和なのに、とにかく他者を糾弾し断罪してくる人、というものも長沢チャンのキャラクター内には含まれています。
そのほかの部分では、「漫画を読まない女子」というキャラクターでもあります。
何を隠そう長沢チャンだけでなく『花とみつばち』に登場するメインの女子キャラは、全員漫画を読まない子という設定です笑。
長沢チャンは、流行っていたりドラマ化したりした漫画は読んでいますが、作者の名前までは憶えていないタイプです。
そして自分で漫画を買うことはなく、家にもコミックスはない。
有名な作品や映画化した作品の小説やエッセイを本棚に並べています。
でもそこで選ぶのは、江國香織ではなく宮部みゆきや浅田次郎だったりすると思います。
一方サクラをはじめとするギャル達は、漫画を「読む」ではなくて「見る」と言ってしまう子達ですが、一作品だけ命のように大切にしている漫画があったりします。
おそらく『NANA』とかですね。
私の世代だと『ホットロード』がそれに当たります。
でもギャルの中には、突然彼氏の家で読んだ『ホムンクルス』とか『ドロヘドロ』が好きだとか言い出す子もいたりするので面白いです(漫画のセレクトは、連載当時の人気作品です)。
彼女達の専門分野はファッションと美容全般、あとは音楽やダンス系も詳しい。
自分自身が芸能関係に進むことも考えている子も多く、芸能事務所やモデル事務所の所属タレントが誰とか、事務所同士の力関係などにも精通していたりします。
でも、漫画を読まないことは共通している。
とはいえそういったタイプ別のパターンも、この作品の連載当時と今とでは、だいぶ変わっていると思います。
現在ではゴリゴリにタトゥーを入れクラブで遊んでいる漫画読み、アニメファンや、かわいらしいおしゃれな女の子だが筋金入りのBL好きといった人種が普通にいますから、こういったカテゴライズは、平成ならではという感じもします。
長沢チャンが今現在高校生だったら、K-POPが好きそうですね。
課金はせず、なんなら本気で付き合えるとか思ってそうです。
あ、これはまた長沢チャンへの私怨があると思われそうなことを言ってしまいました笑。
でも、なんかそういう謎に不敵なところがある子のイメージなのです。
協力 門倉紫麻
初出 安野モヨコ選集『花とみつばち』2巻
3巻「青年誌で美容について描いたこと」に続く
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ロンパースルーム DX
安野モヨコ&庵野秀明夫婦のディープな日常を綴ったエッセイ漫画「監督不行届」の文章版である『還暦不行届』、「後ハッピーマニア」の裏話『後ハピ…
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購入者のコメント
2今を思えばは恋愛の掟の名の下に自分の注文を大声で語るのは男も女も魂の無いタスクをこなしすぎて恋愛童貞抜け出せないタイプだったな。
『「あの子は……良い!」とビール片手に力説する編集者に』,,,.
長沢チャン!!!男女で評価が真逆になるタイプの女子の解像度が高くて、連載当時「いるよね〜こういう子」と思ったものです。意外だったのはオタサーの姫のような風貌ながら漫画は読まないんですね!
私の高校〜大学頃はギャルとヤンキーの境界が曖昧な感じで、私ももれなく彼氏の家にある漫画を読破したりしていましたが「ぶっこみの拓」や「クローズ」でした笑
花みつ読み返したくなりましたが1週間ほど外泊中なのでKindleで買おうかな…こうして「現物あるのにKindleライブラリにもある本」が増えていく…
ハッピーマニアや後ハピなども既にKindleにもあります笑
2〜3年前に大掃除兼ねて30年分の漫画本を処分したのですが、安野さんの本と他にいくつか厳選した本はやっぱり現物を手元に置きたくて変わらず寝室の本棚にあります💕