今年は時間ギリギリで公開初日に観賞することができたものの、期待していた部分が肩透かしされたかと思えば、原作の穴を意外な角度でつぶしていて、空気投げをくらった気分になった。
『映画ドラえもん 新・のび太の海底鬼岩城』公式サイト
相互確証破壊の危険性を風刺した原作を選びながら、最近の『映画ドラえもん』としては現代社会への訴えは控えめ。海底人たちが争いばかりの地上人を危険視する台詞は残しながら、現実の現代の戦争を示唆する描写はいっさいない。沈没船のニュースの前後に国際紛争のニュースを入れたりして現代文明の危うさを示唆したりもできただろうに。鬼角弾を核兵器のようなものと考える台詞は削られ、地球を破壊するような架空性の高い超兵器と設定された。
逆に大幅にふくらませているのが、前半の海底冒険。初リメイクにしてスタッフリニューアル後の初映画だった『恐竜2006』からして、前半の旅は挿入歌に短いカットを重ねてエモーションを優先していた*1。続く2作目の『新魔界大冒険』も移動経路からして原作からショートカットされ、冒険感が薄かった*2。リニューアル後で冒険部分が長いのは、原作以上にふくらませたリメイクの『新・のび太の大魔境』や*3、導入をOPで終わらせてタイトルのように冒険に時間をさいた『南極カチコチ大冒険』くらいだ*4。今回の『新・のび太の海底鬼岩城』は本筋の伏線となる小規模な宝探しをしたり、ムーからの脱出描写をふくらませて海底文明の描写もたっぷりとった。海底人の言葉は海中らしい言い回しに変えられている。さまざまな海中生物も3DCGを活用して次々に登場させ、海底の山でキャンプを楽しむ物語としては充実している。それが後半の地球の危機を解決するパートを食ってしまい、あっさりした印象の決戦になったわけだが。
原作やリニューアル前の旧映画も、しばしば冒険劇に力を入れるあまり敵との戦いが物語を閉じる役割りで終わってしまう配分に難点をかかえていて、たとえば『キネマ旬報』のレビューでは低評価の理由にされていた。しかし社会派テーマにあわせた敵を設定し、切迫感をもって描写することで、出番が少ないなりに存在感はあった。社会派テーマを後退させた今作は、アクションシーンで華々しいアニメーションは楽しめたものの、よくあるTVアニメの娯楽優先の劇場版のような印象になってしまった。
原作や旧映画の誤解をまねいたり説明不足なところをおぎなえている部分はある。ただ、そこまで補完するならもう一息がんばってほしかったと思うところが多い。
たとえば、しずちゃんが囮となってポセイドンに生きたまま拉致されるクライマックス以前に、数十年前に同じように拉致された若い女性がいたというエピソードを足して、生きたまま拉致される勝算を出す。現在は老女となったその女性に手助けしてもらったり敵の情報をえることで、現在のドラマにも活用される。しかし自動機械のポセイドンが女性を拉致したのは、ただ女性というものの情報が不足していたので補いたかったというだけだった。見ながら考えたのは、海底火山の震動だけでは鬼角弾を発射すべきか決定できず、その機械にとってもストレスがかかる状態を打破するため、あえて異分子を基地に入れて危険度を高めて決定しやすくする一種の自作自演だった、といった真相。
また、中盤のムーからの脱出や、後半の敵地までの移動でどこでもドアをまったく使わない問題を、巨大イカに攻撃された時に破壊された描写で説明。海への移動にどこでもドアが登場するだけでなく、ジャイアンとスネ夫の救出にどこでもドアが必要になる局面があるので、思えばどこでもドアの使用は思いつくべきだった。ただ、そこまで描写しているのに最後にどこでもドアがまた登場したのは、小説版にのみ説明があるという*5。くわえて、とりよせバッグが名前しか語られず、原作のようなイメージも出てこないのは、単独作品としては良くない。たとえば宿題を手伝う時に、しずちゃんが家からノートをとりよせるのに使う描写なんかがあっても良かった。
そして、良くも悪くもバギーのネジをしずちゃんが直して、ついでに星の模様をつけてあげるのは、良くも悪くもインターネットの悪い大人を意識しているのではないかと思った。結末で映るネジがバギーではなくポセイドンのものだという与太話が昔からあり、その解釈をつぶしておきたかったのかもしれないが、そもそもネジなんて規格が厳密に決められているのだから異文明の兵器のものと区別できてもおかしくないはずだ。
映像は先述のように特に海中が明るく華やかで良い。浜辺は3DCGでリアルに見せたかと思えば、バギーの複雑な動きは背景動画で表現したりする。
序盤の夏休みの日常も自然。二階のジャイアンと道路のスネ夫が会話する難しいコンテを、破綻のないレイアウトで描けている。シンエイ動画の技術力。
冒頭のJAMSTECの協力をえただろう海底調査船の描写も精緻なメカニック作画が楽しめる。ムーとアトランティスの兵器は3DCG主体だが動きは良いし、破壊エフェクトは手描き作画で見ごたえがある。
完全に映画オリジナルのムーの街も、華やかでいて官憲が聞きこみを執拗におこなうような、統制された国家として描かれつつ、牡蠣を養殖する「畑」のような面白い情景で生活感がある。
*1:『映画ドラえもん のび太の恐竜2006』 - 法華狼の日記
*2:『映画ドラえもん のび太の新魔界大冒険 七人の魔法使い』TV放映版 - 法華狼の日記
*3:『ドラえもん クレヨンしんちゃん 春だ!映画だ!3時間アニメ祭り』ミッチー&ヨシりんとリアルおままごとだゾ/若い二人はこうして家を買ったゾ/「映画ドラえもん 新・のび太の大魔境〜ペコと5人の探検隊〜」 - 法華狼の日記
*4:『映画ドラえもん のび太の南極カチコチ大冒険』 - 法華狼の日記
*5:こちらのブログエントリによると、タイムふろしきで直しているらしい。しかし手持ちの道具で直せるのであれば、やはり使用するべきだったことになってしまう…… 『映画ドラえもん 新・のび太の海底鬼岩城』感想│ドラのもとのもと