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「なにか言うことがあるのでは」
大変ご立腹な様子で、イブはぼくとワグにそう言った。モニタの中の彼女は、仁王立ちで、わざわざ怒りを強調するためか獄炎のごときエフェクトまでつけている。
「おれたちが生きていることを喜んでくれよ」
「あなた達が生きて帰ることなど織り込み済みです。そんなこと計算などしなくとも――。いえ、無事で何よりです、マスター・ライス、ミスター・ヴァーグナー」
獄炎のバックグラウンドを消し去り、イブはそう言って、胸を撫で下ろす。
「しかし、思い切りましたね。いきなり傭兵になって返ってくるとは思いもしませんでした」
晩餐会の翌日。ぼくらは、入院中に整備をしてもらっていた愛機ナイトシェードに乗り込んで、所属先となる高速駆逐艦スピアヘッドに向かっていた。
先行するソリチュード少尉のシャトルを追いかけている。
操縦桿を握るのもかれこれ数日ぶり。久しぶりだが、ぼくの航法野は操縦桿を握りしめると、すぐに刺激され、励起する。
航法野が発達した人間は、傍目には高度な計算やら複雑な操縦をしているように見える一連の技術を、体感的に行っている――そんな、一種の超感覚的な状態に到達していることが多い。
ぼくもその一人だ。
「しかし以外でしたね、ワグにAM適性があるとは」
イブが、ワグが話したことの中でそれに一番驚いていることは確かである。
「おれもびっくりしたよ。宇宙船を飛ばせるだけの技術があるっつったって、ヴォルフみたいに体感的じゃあないからな」
ぼくはフットペダルを小刻みに踏んだり離したりしながら、「航法野っていっても、分野がことなる方向に発達するんだってね。ぼくは宇宙船に、ワグはAMの方に」
「では、ワグはこれから機甲科に?」
「そうなる。いちおうおれたちはアイアンバレッツ宇宙軍惑星降下部隊っていう立ち位置らしい。宇宙船等と、陸上戦闘の両方ができてやっと一人前だと」
「新兵の訓練期間は三ヶ月。でも、その間に実戦に同行して兵站、物資運搬、その護衛なんかを行う。訓練期間でも給金は出るんだって」
イブは、少し心配そうだった。
「そんな顔しないでくれ。頭金が払えれば、イブのボディを作れる。イブも、ぼくらと同じように肉体が手に入る」
「やっと、三人で触れ合える」
「それはとても嬉しいです。けれど……そのために、二人だけを危険な目にあわすなど……」
「じゃあ、イブがアンドロイドになったら、そのときはぼくらを支えてくれよ」
「頼むぜ」
イブは嬉しそうに、それから少し恥ずかしそうにはにかんだ。
ぼくは先方のシャトルからの通信を受け、スピアヘッドからのアプローチ許可を取るよう促される。
そうして、ぼくらは所属先の駆逐艦、その離着甲板へと降り立つのだった。
かぞえればほんの三年前。
たったの三年――三八ヶ月前。
ぼくたちは辺境のソル太陽系の第四惑星、マーズの田舎者だった。
穀物を育て、それを都市に献上し、なんとか日々をしのいでいるような。
閉鎖的、閉塞的。若者が出ていかぬように、頭でっかちの連中は洗脳に近い言い聞かせと教育を徹底していた。
しかしぼくとワグは、異端だった。正確には、ぼくの親父・ヴォルフリックと、AIイブニングが。
ぼくらは外の世界に触れる機会が――映像媒体や、伝聞系とはいえ――とても多く、郷の洗脳教育を跳ね除けていた。
だからぼくらは、郷の二〇〇〇名あまりを見殺しにすることに抵抗がなかった。
ぼくは右手足と右目を失い、それでも、ワグと――その時まだ行動をともにしていた親父に助けられながら、ナイトシェードに乗り込んだ。
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