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弄月の夜/Novel by ちくわぶ

弄月の夜

2,985 character(s)5 mins

版権元:Fateシリーズ
注意:腐向け(セタンタ×弓) パロディ(ファンタジー) ねつ造

前書いたセタ弓『呪いの男と神の子ども』(novel/5824890の3つ目)と同じ設定です。2時間クオリティ。

2016/6/11
コメント欄にてブクマコメに返信いたしました。

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 自分の庭としている森で、薄汚れた男を拾った。泥と血に塗れ今にも死にそうな――というよりも、これ以上生きる気がどこにもない男だった。だが、こんな呪いだらけのやつを置いていたら森が枯れちまう、と嫌がる精霊達を説得して泉に放り込んだところ、洗われた素地は想像よりもずっと澄んでいたのにとても驚いたのを覚えている。初め確かに人と思ったが、はてこれは呪いを引き受ける贄の人形が意思でも持ったものだったかと疑うくらいにはちぐはぐな男だった。
 当時を思えば随分小綺麗になったものだ、と胡座の内股に置かせた頭を梳いてやりながら満足する。寝心地が良いようにと自分で整えた寝台に俺が許可をやって横たわっているというのに終始身を強張らせている男は、俺の手から怯えて逃げ出したいのを健気にも堪えているようだった。横向いてこちらに後頭部を晒して寝る彼の大きく逞しい手足は、今は胎児のように丸められ縋るように小さくシーツを引っ張りシワを作っている。なんともいじらしいことだ。
 纏わり付く呪いを剥ぎ取って、結界の中で大事に守ってやれば男は他にないほどに希少な透明の魂を有していた。この状態で穢れだらけの外を出歩けば一日と経たず出会った当初の様子にもなろう。そんな様でこんなでかくなるまで育ってしまった男は、自身の体質を鑑みて己をこの世の何よりも汚らわしい忌むべきものと判じたようで、殊更に他者との接触と穢れを移すことを恐れているようだった。
 言葉では何度かその勘違いを正してやったが、何十年と信じて生きてきた人の子の思い込みはそう簡単には揺らがない。まあ、こいつの本来の美しさは俺が知っているのだからそれでいいかと今は好きにさせている。歪んだこいつの価値観では俺は一等に美しく侵しがたいものとして見えているらしく、そんな俺に触れられる度に恐れと遠慮とを感じながらも美しい生き物と触れ合える喜びを隠しきれていない彼の様子は傍から見ていても愉快だった。
「なあ、髪伸びたな」
 サラサラと手から零れる白絹の感触を繰り返し楽しみながら言うと、手の下の男が何か言いたげに身じろぎした。言葉を促す代わりに頭を撫でていた手を一時外してやると、横向いていた姿勢を仰向ける形で俺の脚の上の頭が転がった。上向いた灰の瞳が見下ろす俺の赤とかち合う。上下さかさまに一瞬だけ見つめあったが、男は眩しそうに目を眇めてすぐに逸らしてしまった。日は落ちたのだから眩しいはずなどあるまいに、大袈裟なやつである。宥めるように額から指を差し入れて毛並みに沿って撫で上げてやるが、困ったように眉を寄せるばかりで外した視線を戻そうとしない。このままでは言いかけた言葉すら仕舞い込みかねないかと惜しみつつ一度手を止めた。俺を見ようとしない両の目を覆い隠すように掌を置く。一度息を詰めた男は、暗闇の世界に安心したのかややもすると意を決したように息を吸った。
「その、我々はいい加減、共にいることをやめた方がいいと思う」
 ずっと前から考えてはいたんだ、と言い訳のようによく口を回す男の言い分を黙って聞く。滲みかけた怒気をうまく殺せたのは我ながら上出来だった。ただ血の色を透かす瞳まで誤魔化せた自信はなく、こいつの目を塞いでいてよかったと心から思う。
 静かに一呼吸分待って、「なんでそう思う?」と優しく聞いた。殊の外俺が優しいのに安堵したのか、男はずっと考えていたという言葉の通り、思いの数々を流暢に語りだす。
「ここに来てもう一年経つ。あの日死に掛けていた私を救ってくれたことも、今に至るまで共に過ごしてくれたことも嬉しく思うが、私は別に年端のいかぬ子供ではない。拾いものをした義理と言うならば私は過分なほどよくしてもらっている。だから、そろそろ別れるべきだ。……君はやはり、太陽のもとにいるのが似合うよ」
 は、と笑い飛ばしかけた名残で呼気が僅かに乱れたが幸い男は気づかなかったようだ。彼の幻想は俺がここで大声立てて笑ったところで早々崩れはしないだろうが、向けられる敬愛を切り捨ててしまうのはあまりに惜しい。
 こういうところが本当に馬鹿だと思うし、最高に面白いと思う。俺を説得したいのならば、せめて一言本音で語ればいいのだ。『君を縛るのは心苦しい』と。
 だがまあ最後に付け加えられた一言は本心だった。それで手打ちとしてやろうか、と塞いでいた手を外す。生きた年齢を全く反映しない、俺はあまり好きではない小さな四肢であったが、男が心底からこの柔らかなばかりの手指を愛しているのを知ってからはそう嫌いなものでもなくなったように思う。
 隠されていた瞳は手を退かしても閉じた瞼によって遮られたままだった。睫毛までも白く抜けていて俺の形の影が落ちる暗い肌の中でも眩い。気に入りの瞳を見れず少し残念に思ったが、今はそれよりこいつの提案を蹴ってやるのが先だったので、見ていないなら逃げられなくて都合がいいと男を内股に乗せたまま身を屈めた。
 急な接近に只でさえ強張った体を男が更に固くした。今ならば戸惑いに閉じた目も開いていたかも知れないが、近づいた分視野の下側へと消えてしまい確認できない。上体を折りたたみほとんど口づけと変わらないくらいに近づいて、晒された骨ばった喉に五指を順に置いていく。震える男の唇の中へ息を吹き込むようにして告げた。
「俺はお前と過ごすこの時間を気にいっているんだ。お前はそれを取り上げるのか?」
 ひくり、と捉えた喉が上下する。従順な様子に満足して傾けていた体を戻すと、予想通り男の目は開かれていた。息をするのも忘れたようなので、米神へ指を滑らせて親指だけで目尻を撫でて落ち着かせる。今度こそ絡みあう視線が外れないのを確認して、男の名前を舌に乗せた。
「夜も遅い。今は一度眠れ、エミヤ。朝起きても同じように考えられるんだったら、その時にまた改めて話そう」
 呪詛にも言祝ぎにも素直な性質だ。それでも何かを紡ごうと眼下の男の唇が開かれたが、落ちるように眠りにつく方が早かった。見る間に弛緩し重く腿に圧し掛かる重みをゆっくりと撫でて慈しむ真似事をした。
 男が頭を委ねた側の膝に肘を置いて頬杖をつき、内に囲った逞しい体と不釣り合いに幼い顔を見る。人は善性ばかりではないと知ってなお他人の幸を祈れる男は俺などよりよほど神々の国に近い精神を有している。それでもその身に巣食う呪いがある以上、彼がそこに決して至れないのも事実だった。
 俺は神の血を引くが、聖人などでは断じてない。だから今は、彼をここに繋ぎ止める汚れた呪詛も、染められた濃い色の肌も愛しく思った。どれだけ見ていても飽きないが、このままで男が目を覚ませば一晩中頭蓋を預けていたことに恐縮するに決まっているので、頃合いを見て俺も横に寝てやらねばならない。
 手触りのいい絹の上掛けを手繰り寄せて冷えないように男の体にかけてやると、甘えるように頬を俺の手に摺り寄せてきた。苦笑して指先で頬も撫でてやる。
 髪が伸びたのは本当だ。一年は人の子には長いだろう、いつまでもこうしてはいられない。今後のことを考えなければいけないなと思いつつ、あまりに見事な月夜であるので今は一夜の安らぎに甘んじる自分を許してやることにした。

Comments

  • ちくわぶAuthor

    >saramoria様(ブクマコメ) わー気づかずすみません。ありがとうございます、楽しんでいただけているのなら本当に嬉しいです。 続きのようなものをちまちまと書いてみてはいるのでのんびりお待ちいただければ……がんばります!

    June 11, 2016
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